Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム 3

 輸送されている間、今回の敵について考える。

 

「今度の敵はケルト、か」

「そうだね。フィン・マックールとディルムッド・オディナがいたということはそういうことだ。今回はケルトサーヴァントたちが大集合ってことかぁ」

 

 そうなるとスカサハ師匠や叔父貴も……。

 

「伝説を紐解く限り、どいつもこいつも頭のネジが吹っ飛んだような天然バーサーカー連中だぞ」

「やっぱり魔力波がもう一つあるわね。もう一人いるの? ポケットの中に小人でも飼っているとか? もしかしてグラハム・ベル? でもあんなのいたら、王様今度こそ本気でキレちゃうしなぁ……」

「違うよ。あいにくと通信でもこちらは数段上だ。挨拶が遅れたねブラヴァツキー女史。ボクは彼らのナビゲーターだ。ドクター・ロマン。そう覚えておいてもらえるといいかな」

「うわぁ、やっぱり聞くだけで軽率な男とわかる声ね。ろくなことしてないでしょ。あなた」

「なんで、初対面でボクをみんなディスるんだい!?」

 

 それは、まあ、うん……。

 

「まあいいわ。参謀がいるってことでしょ。なら、わかっているわね。この戦いはどちらかに与しなければ勝てない。両方に戦いを挑んでも勝てないことは子供でもわかるはず。あたしたちが戦っていなかったらこの世界はとっくに滅んでいたわ」

「両方戦いが好きなだけでは」

「聞く耳持たないって感じね」

「いきなり失神させられたし」

「……殺さなかっただけ有情だと思えないかしら」

「いいえ」

「頑固っていわれたことない? でも、やっぱりあなたも一度は王様に会ってみるべきよ。……面白いから」

 

 面白い? どういう風に面白いのやら。嫌な予感はしないから大丈夫とは思うが、一応警戒はしておこう。

 

「この究極の民主主義国家で王を名乗る以上、面白いのは当然でしょう。ああ、自称でいいのでしたら皇帝もいたコトもあるらしいですが」

 

 アメリカって面白い国だなぁ。

 

「さ、到着」

 

 そんなこんなしていると到着したらしい。

 そこに広がっていたのはアメリカにあるまじき城塞だった。堅牢そうな城塞。ここは普通大統領がいる場所としてはホワイトハウスではないのかと思っていたら、どうやらそこは奪われてしまったらしい。

 だからってなぜこんな城塞なのか。まあ、戦争中だということを考えれば当然の帰結なのかもしれないが。

 

「一から作ったの、これ」

「もちろんよ。ケルトにはケルトへの対策を施さないとね」

「ブラヴァツキー夫人、カルナ様」

 

 機械化歩兵がオレたちを呼びに来る。大統領ならぬ大統王がお待ちかね。

 聞き間違いじゃないだけに凄まじい響きだな大統王。すごく、短絡的です……。

 全員そんな呆れたような――。

 

「めっちゃかっこいいのう!」

 

 違った約一名センスが同じのがいた。

 

「わし、第六天魔王とかじゃなくてそんなの名乗れば反逆されなかったんじゃなかろうか」

 

 本能寺の変起きた理由が下手したら変なあだ名の可能性があるから、多分きっとそれはない。というか、下手したらもっと反乱とか起きていたんじゃなかろうか。

 

「こほん。彼女は置いておくとして、短絡的。そうよね。でも、そこが良いのよ。私たちからは出ない発想だから。さあ、行きましょう。王様はあれで結構短気だから」

「この先に、あなた方の雇い主がいるのですね」

 

 ナイチンゲールが銃の撃鉄を起こしていた。

 

「ちょ!? ナイチンゲール待った待った!」

 

 

 けれど、彼女は聞く耳を持たない。そんな彼女を、

 

「待て。それは悪手だナイチンゲール」

 

 カルナが止めにはいる。

 

「――――っ!」

 

 彼の姿を見ただけで一瞬呼吸が止まりかけた。英雄じゃなくても、ただの素人でもわかる圧倒的な覇気。黄金に輝くまばゆい魔力の波動。

 インドの叙事詩マハーバーラタに登場する不死身の英雄。太陽神の子。

 

 彼の力の片鱗。ただそれだけで、オレたちは負けた。本気であったのなら、今頃オレたちどころか、あの辺一帯は蒸発しているだろう。

 足が震える。身体が震える。呼吸が止まりそうになる。

 

 知っている。この感情は――恐怖。

 

 圧倒的な英雄を前に、ただただ恐怖を感じることしかできない。

 

「先輩、大丈夫です」

「マシュ……」

「先輩はわたしが守ります」

「ええ、マスター。わたくしも守ります」

「――ありがとう……」

 

 戦うわけじゃない。そう言い聞かせる。けれど、最悪は想定しなければ。

 

「ノッブ……」

「わかっておるわ。任せておくのじゃ。神性持った騎乗。相性ゲーならわしの勝ちじゃ」

 

 もしもの時は信長に任せる。

 

「その撃鉄は今しばらく休ませておけ。世界の兵士を癒すのだろう。それならばまずすべきことは病巣を把握することではないのか。それとも、そんなことすらわからぬほどに短絡的なのか」

「…………その間に、兵士たちが死んでいく。それに耐えろというのですか?」

「そうだ。慣れることなく耐えてくれ。おまえには難しいだろうが、これも試練だ。それとも長期的な治療は主義にもとるのか? だとすれば――手の施しようがないのはどちらだ? おまえの方か、この大地の方か?」

「なんですって? 私の医療が、間違いだとでも?」

「そうではない。間違いは誰にでもある、ということだ。自身の考えだけが絶対だと信じた時、人間は破滅する」

 

 カルナの言っていることはもっともだった。正論だった。まさしく大英雄の掲げる論だ。

 それにナイチンゲールですら銃を下ろしたほどだ。だが、それでも彼女はカルナが監視するらしい。

 

「では、我らが王様に拝謁してもらいますか!」

 

 エレナについて城塞の中へ。

 この時から、なんだか嫌な予感がしていた。敵が来る時とは違うまた微妙にいやな予感だった。違うようで違わない。

 この場合、なんというべきなのだろうか。

 

「大丈夫かい、マスター」

 

 落ち着かない風を見かねてジキル博士が心配して声をかけてくる。

 

「ああ、大丈夫。ただ、嫌な予感が――」

「おおおおおお!」

「!?」

 

 大統王が来る。そう聞いた瞬間、唸り声というか歓喜の声が響いてきた。

 

「ついにあの天使と対面する時が来たのだな! この瞬間をどれほど待ち焦がれたことか! ケルトどもを駆逐した後に招く予定だったが、早まったのならそれはそれでよし! うむ、予定が早まるのは良いことだ! 納期の延期に比べればたいへん良い!」

 

 そんな大声。

 

「……はあ。歩きながらの独り言は治らないのよねぇ」

「あれ、独り言なの?」

 

 独り言にしては大声過ぎるというかなんというか。人間の声量をはるかに超えていた。英霊だからというのだろうか。

 そして、それは現れた。

 

「――――率直に言って大義である! みんな、はじめまして、おめでとう!」

 

 ――アメコミにいそうなヒーローっぽいライオンが。

 

「…………」

 

 マシュが目を大きく見開いている。

 

「あら、あら……」

 

 さすがの清姫も笑顔が凍り付いた。

 

「えっと、ごめん……」

 

 ブーディカさんも匙を投げた。

 

「うははは、獅子じゃ、獅子じゃ。獅子舞か? 負けたわ! わしもこうやって登場すればよかったかのう」

 

 ノッブはいつも通り。

 

「ねえ、綺麗な女性はいないかい?」

 

 ダビデは見なかったことにして機械化歩兵に話しかけていた。

 

「…………」

 

 サンタさんは、とりあえず無言で睨んでいたオレを。やめてよ、オレのせいじゃないよ!? っておもむろに袋から獅子の被り物出さなくていいから。対抗しなくていいから!?

 

「え、ええと……い、いい、鬣、かな」

 

 ジキル博士は無理に感想を言おうと頑張っていた。

 

「………………(突然のライオンの登場に呆然としている)」

 

 式はとりあえず絶句しているようだった。

 

「…………」

 

 あのナイチンゲールですら沈黙。ドクターに至っては現実逃避の真っ最中だ。

 だが、目の前の大統王(クリーチャー)は現実逃避も許してくれないようだった。

 

「もう一度言おう! 諸君、大義である、と!」

「ね、驚いたでしょ。ね、ね、ね?」

 

 こちらの驚愕のリアクションを見てブラヴァツキー女史はひたすらいい笑顔だった。それはもうニコニコと。いたずらが成功した子供のような笑顔。

 

「……それは、まあ、驚くだろうな」

 

 カルナですらこれだ。

 

「はっ!? い、いえ、確かに驚きましたが……大丈夫。こういうのにはわりと慣れてきましたので。ね、先輩!?」

 

 ――マシュ、全然大丈夫じゃないよね君。

 ――でもマシュが期待するなら、頑張るさ。

 

「ああ、慣れてきた。ダイジョブだ、問題ない!」

 

 ――あ、なんかこのセリフ駄目だ。

 

「と、とりあえず、あなたがアメリカ西部を支配する王で、よろしいのですか?」

「いかにもその通りだ。此度のマスター。我こそはあの野蛮なるケルトを粉砕する役割を背負った、このアメリカを統べる王。サーヴァントにしてサーヴァントを養うジェントルマン! 大統王トーマス・アルバ・エジソンである!!」

 

 雷電が爆ぜる。

 彼が名乗った瞬間、彼の背から輝く雷電が爆ぜた。

 それこそが彼の証。

 いつかどこかの誰か、偉大なりし雷電の王が人類にもたらした雷を遍く世界に広げた発明の王。

 彼こそ、人類史に名を刻まれし偉大な碩学。大碩学トーマス・エジソン。

 

「うそ、だろ。じ、ジキル博士?」

「これはちょっと予想外どころか。バベッジ卿があんなだから、予想すべきだったのか? い、いや、でもさすがに、これは。あなたは本当に発明王なのですか?」

「いかにも。今は発明王ではなく大統王であるが」

 

 全員が絶句する。

 

 いや、絶句しない方がおかしい。誰がこんなライオンが出てくると思う。思わない。

 

「人間じゃなかったとは……」

「何を言う。私はまごうことなき人間である」

 

 いやいやいや。

 

「どこからどう見てもネコ科的なあれですよ」

「人間だとも。人間とは理性と知性を持つ獣の上位存在であり、それは肌の色や顔の形で区別されるものではない。私が獅子の頭になっていたところで、それが変わるわけでもない」

 

 私は知性ある人間、エジソン。それだけのことである。

 

 彼はそう言い切った。なんというポジティブ。

 つまるところ生前は人間であったが、召喚されたら獅子の頭になっていた。特に知性が劣化したわけでもないから問題ない! ということらしい。

 

 ドクターはそれを合理主義の化身と称した。

 

「凄いよ、このライオン」

「ドクター、誰もが言わなかったことを」

「まあ、仕方ないわよね。だって、ライオンだもん」

「雷音……良い響きだ。そして、今のは魔術による遠隔通信かね? 電話で事足りる時代に生きているだろうに、そのような不便なものに搦めとられているとは。やはり生粋の魔術師とは非合理的であるな。せっかくの霊界チャンネルの使いどころを間違っている」

 

 なんたる哀れとか憐憫の視線をエジソン氏はドクターに向けるわけなのだが。

 

「え、あのですね。電話回線はあれでしょ? 同一空間にしか届きませんよね? こっちはより多機能で、時間と空間をわりとこう、ふわーっと泳ぐ超空間航法的な通信なんですが……」

 

 ドクター! すごいふわっとしてるから! もっと頑張って!!

 

「ほうほう。では、君はこの時代にいないのか! むう。異なる時代へと通信を送ることができるのは、確かに便利なものだが……ふむ。魔術と科学は近しいもの。キミにできて私にできない道理はない」

 

 ――ぇ?

 

「電話通信でも同じことができるか試してみたいな。いや、そのまえに霊フォンの開発をだな」

 

 ――あ、わかった。この人変人なんだ。

 ――雷電王閣下もそうだったけど、碩学って大概アレな人なんだ。

 

「ちょっと待って、そこで僕を見るのはやめてくれるかな!?」

 

 ジキル博士もハイド飼ってるし。うん、碩学はアレってことで覚えておこう。

 

「マスター、頼むから他人を使って現実逃避はやめて!?」

「はいはい、そっちのマスターもミスタ・エジソンも。そこまでね。話を進めましょう」

 

 ブラヴァツキー夫人によってどうにかこうにか本題へと入っていく。

 

「では、単刀直入に言おう。唯一のマスター。四つの時代を修正したその力を活かして、我々とともにケルトを駆逐せぬか?」

「…………ケルトを駆逐する理由は?」

「いうまでもなく。ケルト人どもは時代を逆行している。アメリカ合衆国は資本と合理が生み出した最先端の国家だ。この国は我々のものであり、知性ある者たちの住処だ。だが、ヤツらめ。プラナリアの如く増え続けその兵力差でアメリカ軍は敗れ去った」

 

 確かに、それは問題だろう。けれど、その先も問題だった。

 

「私が発明した新国家体制、新軍事体制によって、戦線は回復し、戦況は互角となった。ヤツラ大量生産において私と覇を競い合うなど愚の骨頂だと気が付かぬらしい。いずれ我が機械化兵団は地を埋め尽くし、にっくきケルトどもを殲滅するだろう」

 

 それが出来ているのなら今頃勝っているのではないか。そう思うが、足りないものがあると彼は言った。

 それはサーヴァント。つまり将が足りないのだ。統率された軍隊はあれど、一騎当千のエースがいない。将棋に例えれば歩はあれど飛車角金銀、桂馬、香車がいないとかそんな状態。

 

「相手にはケルトの名高き英霊たちが列をなしている」

 

 それによって取り戻した拠点もサーヴァントたったひとりに取り戻されてしまう。サーヴァントを倒せるのはサーヴァントだけ。

 それは良く知っている。ただの人間が、機械化しただけの人間が、サーヴァントに勝てる道理などないのだ。わかっているさ。

 

 ――わかっているさ……。

 

「先輩……」

「マスター……」

 

 ――大丈夫だよ、マシュ、清姫。

 ――自分らしくさ。わかってる。わかってる。

 ――けれど、やっぱり思わずにはいられないのが人間という生き物なのだ。

 

 ――力が、ほしい。

 

「こちらには私を含めて三騎。他の召喚されたサーヴァントは散り散りでこちらにつくそぶりも見せぬ。私に理性がなければまさに絶叫している状況といえるだろう。アメリカを救うべき英霊たちが、敵を恐れて戦いを拒否するなど怠慢にもほどがあると……!」

 

 そして絶叫するエジソン氏。

 本当に理性あるんだよねこの人……。

 

「お、落ち着いてくださいミスタ・プレジデント! そ、その、世界を救うというのであれば、我々も協力するにやぶさかではありませんので……」

「おお! キミは話が分かる!」

 

 うんうん、さすがマシュ。

 

「実にいい、食いつきたくなるボディだ!」

 

 ――あ?

 

「よし、帰ろう」

「ちょ!? 待って待って――」

 

 帰ろうとしたオレをエレナが止めてくる。

 

「止めるな、オレは帰る。行くぞ、マシュ、こんな理性爆発本能に忠実そうなライオンがいるばしょにいられるか、オレはカルデアに帰らせてもらう!」

「だあー、ちょっと、エジソン、早く誤解を解いて、じゃないとマスター帰っちゃう!」

「む? なんだ? 率直な素直な感想なのだが――」

「そうか――」

火に油(レムリア)ぁあ!? ちょっとおおお! カルナでもいいから!」

 

 そんなオレたちを止めたのは、ナイチンゲール女史だった。

 

「二つほど質問よろしいですか」

 

 彼女の言葉が会議室に響き渡った――。

 




大統王エジソン登場。
本当、この人も良いキャラしてる。

というか、アメリカ三人組は本当好き。良い関係だし、来てほしいのに一人も来てくれないというか高レア五章鯖はラーマ君しかきてくれてないんじゃ。
だから、エレナ、カルナ、エジソン来てくれ。頼むよぉ。特にエレナ。マジ来て……。

三蔵イベ、酒呑童子大活躍中。酒呑童子のバスターの踵落とし好きなんじゃが。

まあ、それはいいとして。五章終わったらブリュンヒルデイベやります。
なぜかって? マシュが倒れたところにマシュのフリするブリュンヒルデという爆弾入れたいからだよ(愉悦)!

その後に、回想というカタチでブリュンヒルデがいるなかで美術館デートやら酔っ払いマシュと酔っ払いきよひーとかやります。
三蔵イベはなんかぐだ子イベな気がするんで三蔵イベはぐだ子編で。

追記
0時01分に次話更新します。

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