「で、そのオレたちと一緒に戦ってほしいんだけど――」
戦力は多い方が良い。魔術王は強い。特異点を全て修正しなければ襲ってこないとはいうけれど、その配下がどれだけの強さかわからない。
今まではどうにかなった。今回もそうとは限らない。今回はなにせ広い。アメリカという広大な大陸を動くのだ。手は多い方が良い。
「いいえ」
そんなことを説明したというのに一瞬で断られた。
「えっと、なぜに」
「私は看護師です。治療することが仕事です。患者がいる限り、私はここを離れるわけにはいきません」
――ど、どうする。
「やあやあ、麗しい癒しの天使。僕たちについてくると良いことがあるんだけど」
「此処に患者がいる限り――」
「僕たちについてくると、ここにいる患者どころか、これから生まれる患者全てを救えるんだけど、そっかー、来ないかのかー、残念。それじゃあ、マスター、残念だけど行こうか」
ダビデの合図。合せてくれというもの。
とりあえず、このまじめな時はひどく頼りになるけど、落差が大きい王様のやることに乗っかる。
「あ、ああ、そうだな」
「――待ってください」
ほら、食いついたといわんばかりのダビデ。
「どうしたんだい?」
「すべての患者を救えるといいましたね」
「うん、言ったよ。なにせ、これから患者は大いに増える。それをいくら治しても治してもとどまるところは知らないだろうね。それをどうにかするには、根本からどうにかしないといけない。つまり、この戦争の原因を突き止め、引き起こしている元凶を倒す」
「そうすれば、全てを救える」
「そういうこと」
「わかりました。何をしているのです、早く行きましょう」
なるほどと納得する。彼女の目的は救うこと。なら、全てを救える道を提示してやれば、彼女はついてくる選択を取る。
相変わらずこういうことには頭が回るダビデは頼りになる。
「さすがだな詐欺師全裸」
「だから、なんで君は僕を全裸呼びなの!?」
「治療現場で私語は慎んでください。さあ、行きますよ」
一抹の不安はあるものの、とりあえず彼女について行こうとして――。
「敵襲だ―!!」
「敵か!」
「行きましょう。このままでは患者が危険です」
ナイチンゲール女史が飛び出して行った。敵の大軍の前に。
「ああ、嘘!? みんなも! まずはノッブが一斉射撃で数を減らして!」
「任せるのじゃ。あやつらいい感じに神性持っているみたいじゃしのぅ。鴨じゃ鴨」
ノッブの火縄=カタがさく裂し、三千世界にとどろく魔王の三段撃ちが敵軍の第一波を壊滅に追い込む。
「次、来ます!」
「清姫! 宝具強化――よし。燃やせ」
「ありがとうございます、マスター!! 転身火生三昧!!」
礼装で強化した清姫の宝具によって第二波も消し飛ぶ。
まだまだいるぞとばかりに、というかこれだけやってもまったく敵の勢いは衰える気配がない。
「サンタさん!」
「行くぞ、
漆黒の光が最後の軍団を超えてやってきていた軍団全てを吹き飛ばした。
それと同意にドクターが警告を告げる。
「敵性サーヴァントの反応だ。二騎!」
「見えてる! ダビデ!」
「はいはい!
しかし、ダビデの宝具は二本の槍を持っている男に防がれた。
「く、やはり必中宝具は外れる定め!」
「そこ、そんなに悔しがらないでよ」
やはり迎撃はならず目の前までやってくる。
「王よ、やはり彼らがサーヴァントです。手ひどくやられた様子。今こそ我らの出番です」
「ディルムッド……」
かつて夢の中とはいえどともに戦った男がそこにいた。
そして、そんな彼を率いる男が遅れてやってくる。
流麗に優美な風貌の男。
「さすがは我が配下ディルムッド・オディナ。君の眼はアレだな。そう、例えるなら隼のようだ」
「……滅相もありません。貴方、フィン・マックールの知恵に比べれば私如きは」
「ハハハ。謙遜はよしこさん。君の審美眼は確かだ。グラニアを選んだのもそれを証明しているとも」
「いや、それは……ええと……」
何やらよくわからないが、気まずい雰囲気だ。
かつてともに戦った味方と戦う。辛い。サーヴァントだから仕方ないとはわかっているけれど、やっぱりなれることができない。
でも、決断しなければならない。
「マシュと式でフィン・マックールを。ナイチンゲールさんは――」
「その死をもって病原を取り除きます」
「――なんかディルムッドに向かっていったから、ジキル博士はその援護を!」
「はい、マシュ・キリエライト、行きます!」
「了解――」
「わかったよマスター!」
「さて、遊んでいる余裕はなさそうだディルムッド」
「御意に」
「行くぞ、我らフィオナ騎士団の力を示そう――」
マシュが防ぎ、式が攻め。
ナイチンゲールが攻め、ハイドが攻め。
「配役、間違えたかな……」
なんか、バーサーカーがバーサーカーみたいなハイドと組んで、もう大変なことになってるんだけど。
それでもどうにかこうにか勝利することができた。
指示聞いてくれない組はもう、うん、放置したら勝ってた。
「ふむ。我々二人でも手に余るとは。歴戦の勇士だったか」
「く、マスター、すみません。攻め切れませんでした」
それでも、二人を倒すには至らなかった。攻めきれなかった。
「いやいや、悲観することはない。まさか四騎のサーヴァントだけで我々を相手取り、ほかのサーヴァントを全て防衛に回したマスターの手腕は称賛するべきだろう。君たちは任務を全うした。おかげで、こちらは損ばかりだ」
「王よ」
「ふむ、そうだな。これ以上は厳しかろう。それに、伏兵までいるとは」
その瞬間、更に一騎のサーヴァントとそれに続く軍団が現れた。
褐色のサーヴァント。
「加勢はいらぬだろうが、私が来れば彼のサーヴァントをこちらに回せるのでな。右翼、左翼、敵を包み込め! 我々は中央突破を謀る」
「これ以上、サーヴァントが増えるのはさすがにまずい。引くぞ、ディルムッド」
「は! しかし、戦士たちは」
「なに、連中は女王を母体とする無限の怪物。ここで数千失ったからと言って、困るものではないさ」
「……そうでしたな。では、撤退を」
「おっと、そのまえに大事を忘れていた。麗しきデミ・サーヴァントよ」
フィンが無防備にマシュに近づいていく。
――なんだ? フィン、何をするつもりだ?
「な、なんでしょう」
「君は、我々と戦うことを決めているのかな?」
「……はい。マスターとともにあなたたちを討ちます」
「良い眼差しだ。誠実さに満ち溢れている。それに何より強い意志を感じる。王に刃を向ける不心得はその眼に免じて許そう。その代わり――君たちが敗北したら、君の心を戴こう」
――は?
こいつは、何を言った?
君の心を戴く?
「うん、要するに、君を嫁にする」
「…………はい?」
マシュはわかっていないようだが、はっきりとわかった。プロポーズ。求婚。結婚を求められた。
つまり、
――オレの敵だ!
「ちょ、マスター!?」
ダビデの静止を振り切って前へ。
「待て!! フィン・マックール!!」
「せ、先輩!?」
「ん? 何かな」
「マシュは渡さない。何があっても、絶対にな!!」
「ほう、なるほどなるほど。であれば、どうする」
「おまえに勝つ」
左手の義手を隠すために嵌めていた手袋をフィンに投げつける。
「決闘の約束だ! オレは戦えないから、オレのサーヴァントたちで戦う。今度会った時に、必ずおまえを倒すって約束だ」
「ははははは。よかろう少年。この私は逃げも隠れもしない。再びまみえたその時こそ、麗しのデミ・サーヴァントを賭けて戦おうではないか」
「勝つのはオレだ」
「今度は負けぬよ――」
フィン・マックールとディルムッドは去っていった。
「あ、あの先輩? 最後のアレは?」
「…………」
「あの……」
「マスターは機嫌が悪いみたいだから、僕が説明するけど、マシュ、君は結婚を申し込まれたんだよ」
その言葉にマシュが赤くなる。
「そ、そうなんですか。それは、ちょっと……驚きですね。あ、あの、あの方については何も思わないのですが、その、言葉にはインパクトがありますし、なにより、その先輩が……あ、あの、すみません。ちょっと深呼吸をさせてください」
スー、ハー。
スー、ハー。
「うん、眼福眼福――っていたー!?」
「落ち着きました。すみません。ダビデ王?」
「ダビデは大丈夫だって。ちょっと目にゴミが入ったみたいだよ」
「そうですか。あの、先輩……」
「ん? なに」
「あ、い、いえ。とりあえず、ナイチンゲールさんと合流しましょう」
陣営にいる医師に治療について説いているナイチンゲール。少なからずけが人が出てしまったとはいえ、どうにかなったので陣内の雰囲気は明るい。
「それにしてもあれはいったい」
最後のレジスタンスだったか。アレはなんなのだろうか。
「さあ、終わりました。行きましょう」
準備も整い早速出発しようとしたところ――。
「お待ちなさいなフローレンス。何処へいくつもりなの? 軍隊において勝手な行動はそれだけで銃殺ものって知っていて? 今すぐ治療に戻りなさい」
さもないと手荒い懲罰も辞さない。さっさと職場に戻れ。
と言った少女がヘルター・スケルター的なアレを引き連れてやってきた。
「貴女こそ自分の職場に戻りなさい。私の仕事は何一つ変わらない」
兵士全ての治療。あらゆる全ての救済。
そのための根治療法があるから行くのだ。
何人たりとも止めること能わず。
「そう、もっともな理由をありがとう。でも、王様は認めないと思うし、バーサーカーのあなたを行かせるとでも?」
ばちばちと火花が散る。
「うわぁぁ、どうして行動派女性サーヴァントが揃うとこんな過激なことになるんだ」
「ドクター、ということは彼女もサーヴァントなの? いや、まあ明らかにそれっぽいんだけどさ」
「反応によればね。見たところキャスターだと思うだけど」
「とりあえず仲介した方が良いよね。マシュ、ジキル博士、お願いできるかな?」
「マスターの為なら、自信はありませんが全力を尽くします!」
「うん、わかった、行ってくるよマスター」
マシュとジキル博士を行かせると、少女の方が驚いたようだった。
「あら、あらあら、よくってよ! サーヴァントがこんなに。これは王様にとってグッドニュース」
――お、なんか感触は良さそうだ。どうやら、人理を崩壊させようとする側じゃなさそうだ。
「しかし、王様?」
「あら、貴方、今のアメリカの現状を知らないの? まあ、見ての通りだとは思うけど、絶賛国を二分して戦争中なの。一つがただ滅ぼすしかない野蛮人。つまり向こう側で、もう一つがあたしたちの王様が率いるアメリカ西部合衆国」
そう少女は言った。
「ドクター、アメリカで西部と東部で戦ってましたっけ?」
「ないない。どうやら南北戦争の勝敗どころの話じゃなさそうだぞ。なにせ、未知の軍勢のぶつかり合いだ」
「なんかなよっとした声が聞こえるわね」
「あ、あの、失礼ですが、レディ。あなたのお名前はいったい?」
「あら。フローレンスは一目でわかって、あたしはわからないの?」
意地悪げな表情でマシュをからかう少女。
なんで、悪くないのにマシュが謝ってるんですかねぇ。というか、フィンもフィンだし、こいつもこいつだ――。
――死ぬか。うん、死にたいのか。
――マシュをからかうとか、殴るぞ、ダビデが!
「ちょっと、マスター、なんか嫌な思念を感じたんだけど」
「…………気のせいだ」
「絶対、気のせいじゃないよね」
「良いだろ、そんなこと。そんなことより、あのマシュをいじめてる女を殴ってきてくれ」
オレがやるのはいいけど、他人がマシュをいじめるとか我慢ならない。
「いやだよ!? なんで、僕が。自分で行きなよ。マシュがいじめられて怒るのはわかるけどさ」
「では、マスター! ここはわたくしが!」
「頼んだ、きよひー」
「はい!!」
「やめろトナカイと蛇女。話が余計こじれるだろうが」
袋で清姫諸共殴られた。
「でも……」
「でもじゃない。まったく。トナカイはわかりやすすぎるが、もう少し自重しろ。見ていて不愉快だ」
「……ごめん」
「ふん」
そんな騒ぎを見た少女はというと。
「あー、ごめん。なんかあたしのせいで大変なことになったみたいね。それじゃあ、自己紹介を。あたしはエレナ・ペトロヴナ・ブラヴァツキー。世間的にはブラヴァツキー夫人って言った方がわかりやすいかしら」
エレナ・ブラヴァツキー。十九世紀を代表する女性オカルティストだとドクターは言う。魔術協会と関わらず、独自のスタンス、独自の力だけで神秘学を編纂した才女。
彼女もサーヴァントなら、
「一緒に――」
「そういうってことは、此度のマスターなのかしら。でも、残念。あたしたちは既にあるじを定めているの。それが王様。彼が世界を制覇すれば、それはそれで問題ないわ」
「王様……まさか、魔術王!」
「いいえ、違うわ。それは向こう側。こっちの王様は違うわよ。勝てばおそらく、どこの次元からも分離した
「思わない」
そんなものは、救いのある結末じゃない。何も救えていない。
「そうです。そんなもの、治療とは認めません。悪い部分を切断してそれで済まそうなど、言語道断です」
「――!?」
さっきまで、オレの足とか切断しようとしていた人の言葉ですか!?
「あら、そう。じゃあ、あなたたちはフローレンスを連れて、どこへいくの?」
「この世界の崩壊を防ぐため、その原因を取り除きに行こうと思っているところです」
「そう。それじゃ、あなたたちはあたしの敵ということになるかしら」
「待って欲しいです、どうしてそうなるのです!」
「目的は同じ。少なくとも君たちに反することはないと思うし、味方として離れるだけのはず」
マシュとジキル博士が説得しようとするが。
「そういうわけにもいかないのよ。だから、こちらも虎の子を出すわ」
量産型バベッジが現れる。
「蒸気よりも電気の方が良いに決まっているだろっていうのがあたしたちの王様の言葉でね。まあ、科学で量産したからこうなったわけなんだけど」
「で、電気式!」
「ああ、先輩の眼が輝いています!」
「一機くらいもらえないかなぁ」
あれに乗れれば戦えそうだし。
「わかりました、先輩の為一機捕獲します!」
「いや、ちょっと待ってマシュにマスター! それは無理だよ」
「止めないでくださいジキル博士! 先輩の為、わたしは!」
「おい、そこの三人漫才はそこまでにしておけよ、これでも壊せば死ぬみたいだ――」
「なにその魔眼。機械も殺すって半端じゃないわね。それとそこの一人軍団」
「わしじゃ!」
「ますます行かせるわけにはいかなくなったわね。じゃ、
その言葉に、全員が凍り付いた。
「いま、なんと……?」
「…………出番か、心得た」
「サーヴァント反応!? 君たちの直上! しかも、なんだこれ!? 霊基数値、トップクラスのサーヴァントだ!」
「下がれ、トナカイ!」
「これは――」
「…………」
「悪いけど、捕まえちゃってくれないかしらー? 一応ほら、敵に回るみたいだし」
「その不誠実な憶測に従おう」
一騎のサーヴァントが降り立つ。ただそれだけで、心臓を鷲掴みにされたかのような感覚を感じた。知らず胸を抑える。
「はっ――」
ただそこにいるだけで、ありえないほどの圧力を感じる。
「――にげろ!!」
だから、叫んでいた。
「良い判断だが、悪く思うな――
爆光が爆ぜ、一瞬にして意識が刈り取られた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「先輩、先輩!!!」
「ま、シュ……」
「良かった、起きました!」
「一体何が……」
「宝具の一撃をあなたのサーヴァントが防ぎました。が、その余波だけで全員が見事に失神。私たちは殺されることもなく、彼らに引き回されているようです」
ナイチンゲールが状況を説明してくれる。
拘束されてないが、全ての銃口がオレに向いている。一瞬でも変なことをすれば即座にマスターを殺せるといっている。
だから、全員が従っている。
「…………」
――また、オレか……。
足手まといにしかなってないぞ。
「くそ……」
血が出そうになるくらい拳を握る。悔しい。何もできない自分が。足手まといになっている自分が。
わかっているさ。何もできないくらい。だけど、何とかしようとしている矢先に、次から次へと。
そして、明確に足手まとい。
「あら、起きたの」
「エレナ・ブラヴァツキー」
「怖い顔ね。ま、当然だけど。逃げないでね。逃げればあなたの頭が吹っ飛ぶから」
「わかってるよ。で? これからどこに向かっている。何が目的だ」
「まずは、あたしたちの王様に会ってもらうわ。その上で、どちらの味方になるか決めなさい。あなたを説得できれば話は簡単でしょ。みんな、あなたに従うんだから」
「…………どうしてそこまで、その王様ってのに肩入れするんだ」
「そうね。まあ、いいわ。王様に肩入れするいちばんの理由はね。生前、彼と因縁があったから。あとは、ケルト側はケルト人しか認めない。あちらに降伏しても殺されるだけだからね」
「わかった、王様に会う」
全てはそれから決める。
そして、王に会った――。
このシナリオを初めて読んだととき、オレのマシュに求婚とか、フィン殺すってリアルになったマスターです。
みなさんはどうでした?
なわけで、マシュに対するあらゆることに殺意高めなぐだ男君でした。
ゆえに、五章の最後が非常に、愉しみですね。
あ、贋作イベ、鬼イベは回想という形でこの後やるので安心を。
それぞれ感想から着想を得て、美術館デートイベ。男どもとサンタ、式たちは裏でマスターたちの美術館巡りを成功させるため先回りして敵を倒していくという裏方。
鬼イベ。わかっているな。酔っ払いマシュマロが書きたいんじゃ。