眼帯に義手のぐだ男。段ボール礼装装備。
北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム 1
――今日も、同じ時間に目が覚めた。
「先輩、おはようございます」
――確認する。
誰かが確認を行っている。五感の確認をする。客観性の確認のために、名を口にする。聞こえない名前。誰の名前かわからない。
覚醒。その事実を客観的に把握し、多少の慣れと嬉しさが感じられるような気がした。
なぜならば、その目覚めは、薄氷の上を歩くようなものであったからだ。まったくもって安定せず、手探りの暗闇の中。
そんな目覚めであった。だが、今ではそうではない。
もうすぐ外に出ることがで来る。小さな部屋ではなく、このカルデアの中に。だが、それは望みではない。望みは、外へ出ること。外の世界を見ること。
それは不可能だった。出られない。出ることができない。なぜなら、問題があるから。身体は外で生きるようにはできていないから。
でも、でも。
――わたしはとても幸せだ。
「先輩、あの、左腕の調子は……」
なぜ、そんなことが言えるのだろう。
ただ生きていられるだけで幸せ。穏やかであるだけで幸せ。
どうして、幸せだといえるのだろう。
「先輩? あ、あの、涙が、やっぱり、左腕が……!!」
「あ、ああ、違うよマシュ。全然違うんだ」
「いけません、先輩。ここはやはりドクターに見てもらうことにしましょう」
マシュに強引にドクターのところへ連れていかれる。
「ああ、ちょうどよかった。マシュ、君を呼ぼうと思っていたところなんだ」
「わたし、ですか?」
「ああ最近、前線で戦いすぎてる。この前みたいにあんな悪霊にとりつかれたばかりだし、ここは休息をとるべきだと思ってね」
「必要ありません。連続任務は先輩も同じです。先輩が戦いに出る以上、わたしが休んで良い理由にはなりません」
「でもね……君からも何か言ってくれよ」
オレにそうドクターが困った風に言う。
「マシュ、大丈夫かい?」
「はい、体調管理はしっかりしています。いけます」
「わかった、きついとか無理そうなら言ってくれ」
「それは先輩もです。先輩に何かあったら、わたしは……」
「…………」
「あー、はいはい。管制室からだ。次の特異点が見つかったらしい。行こう」
次の特異点。第五の特異点。聖杯探索も折り返し。
――今度こそ、オレは負けない。
――みんなで勝つんだ。
「行こう!」
1783年、アメリカ合衆国へと成長途上の名もなき大地へと、オレたちはレイシフトした。
そこは、二つの勢力がぶつかり合う戦場だった。
「あれ、クー・フーリンとエリちゃんがいない?」
「そういえば、カルデアでもみませんでした。いったいどこに――」
「マシュ、どうやらそういう話は後みたいだよ」
ブーディカさんの言葉とともに駆動音が響き渡る。そこにいたのは、ロンドンで見たあの機械だった――。
いや、いいや違う。似ているが違うものだ。似て非なるものだ。
「さあ、マスターはおさがりくださいなわたくしの後ろに、さあさあ」
「んー、あのメカっぽいのってロンドンでもいたよねぇ。どう思うジキル博士?」
「確かに、バベッジ卿のヘルター・スケルターだねダビデ王。でも、あれとは違う。どうやらバベッジ卿の蒸気機関式じゃなくて電気式、みたいだ」
「おお、さすが眼鏡碩学! ついに活躍の時が来たんじゃな! 今まで影薄かったから頑張ってよネ!」
「なんだ、アレ、アメリカってあんなの野蛮人の国だっけ? どうみても時代に合わないぞ。まあ、それはオレらにも言えることなんだけど」
さらにえらく古風な、言ってしまえば蛮族のような戦士たちもいる。明らかにこの時代には合わない。
「アメリカ――行くぞトナカイ、まずは緒戦だ。切り抜けて見せろ!」
「ああ、頼むよみんな!」
『応――!!』
どうにかこうにか戦いを切り抜けたその時、
「ダメ、逃げてください――!!」
マシュの悲鳴のような声が響く。
「マスター!」
清姫が駆けだすのが見えた。
「ああ、僕としたことが――」
ダビデのしまったという表情。
「――――!」
ブーディカさんの悲痛な表情。
「ノブ!?」
ノッブのふざけた顔。デフォルメされてね。なんで片目なの?
「チッ――!」
式が走る。
「トナカイ!!」
サンタの袋が飛ぶ。
「駄目だ、もう僕は――!!」
「オラ、諦めてんじゃねぇぞ、クソマスター!!」
ジキル博士が、ハイドになってまで救おうとしてくれる。
だが、だが――。
連続する戦い。いつの間にか、オレは孤立していたらしい。なにせ、終わりの見えない戦い。広範囲に広がる戦場。
今までとは勝手が違いすぎる。広いのだ。広い。
戦場が広く、重火器が存在する。まさしく近代戦に、古風な戦士たちの時代錯誤な戦い方。
全てが入り混じり、あらゆる判断を困難にしている。
だからこそ、見誤った。
しまったと思った瞬間にはもう遅い。
「フォーーーーウ!!!」
「――――」
そして、オレは宙を舞った――。
「先輩! 先輩しっかりしてください!」
マシュの泣きそうな、顔を見ながら、オレの意識は――闇へと沈んだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「患者ナンバー99、重傷」
声が響く。
「右腕の負傷は激しく、切断が望ましい」
声が響く。切断が望ましいという声が。
――せつ、だん……
「ここも……駄目でしょうね」
声が響く。どこかで、いつかどこかで、あの監獄で聞いたような声が。
「左大腿部損壊。生きているのが奇跡的です。やはり切断しかないでしょう」
声が響く。慈悲深い声が。誰かに語り掛けているのではなく、自分に語り掛ける声が。
慈悲深く無慈悲に自らに患者の状態を語る声が。
感覚のない闇の中。その声が、身体を形作る。
即ち、損傷し、損壊し、生きているのが奇跡の身体を。
「右わき腹が抉れていますが、これは負傷した臓器を摘出して、縫合すれば問題ないはず。左腕は義手。こちらはえらく出来がいいので問題はないでしょう。大丈夫。生きられます。少なくとも、ほかの負傷者よりははるかにマシです。では、切断の時間です」
――せつ、だん。
思い出す。それは、あのマンションの惨劇。左腕がねじり切られた、あの時を。
その瞬間、全ての痛みが脳髄を貫いた。
「あ、ああああああああああ――――」
「鎮痛剤が切れましたか。いえ、これは、フラッシュバック。なるほど、戦場。トラウマが蘇りましたか。ともかく抑えなければ切断もままなりません」
痛い痛い痛い。痛い痛い痛い痛い!!??!
灼熱。激痛。もはや痛み以外に何も感じない。
「落ち着きなさい。ここには怖いものなどありません! 私を見なさい! 私は看護師です、あなたを害する者ではありません!!」
そんな中で強い言葉が響く。鋼のように強い言葉。何よりも強い、何よりも硬い。それは聖女の如き声。
強引に両手が頭を包みしっかりと目の前の顔を認識させる。
意志の強い瞳。献身的に僕を支えてくれた彼女の――。
「メル、せ、です――」
そこにいたのは彼女だった。監獄で、あのシャトー・ディフにて別れた。
その姿に、痛みすら忘れた。支えてもらった、あのひとが、そこにいる。その事実に全てを忘れた。
「あ、ああ……、僕は、あなたに――」
「落ち着きましたか。ええ、大丈夫。すぐに済みます。あなたなら耐えられます。いえ、なんとしても耐えなさい」
「ま、待ってください!!!」
「マスターは、大丈夫ですので、その手を放してください、ええ、今すぐ。即座に、刹那の内に、でないと燃やします。さあ、さあ、さあ」
「こらこらこら! 二人とも急ぎすぎ、そりゃマスターが心配なのはわかるけど、まずは落ち着いて」
マシュと清姫が踏み込んできた。遅れてそれを止めるようにブーディカさんが入ってくる。
「やー、美人さんだ。すごいねー、これは結構好みかも。しかも、看護師。いいよね、看護師ってなんだかエロい響きだよね」
「おまえ、いい加減にした方がいいんじゃないか全裸」
「全裸じゃないからね!?」
いつも通りのダビデがメルセデス(仮)を見ていつも通りのナンパを開始。それを見て式が呆れていた。
「おうい、マスター無事か? いやー、キリモミ回転したときは、もうだめかと思ったんじゃが、案外元気そうじゃのう」
「どこが元気そうだ信長。重傷だ。待っていろトナカイ。さすがの私も引くくらいの重傷だが、ジキル博士が治療用のスクロールを持っている」
「ああ、すぐに治る。待っててくれ」
「全員、動かないでください!」
そう全員が動こうとして、一発の銃声に動きを止める。
「これ以上、不衛生なあなたたちがここにいるのなら、もう一発撃ちます。良いですね。重傷患者の治療中です。不衛生な状態で割り込まないでください!」
「で、ですが、その方は違うんで――」
「いいえ、何も違いなどありません。患者は平等です。二等兵だろうが、大佐だろうが、敵だろうが味方だろうが、負傷者は負傷者。私にとって全員等しく患者です。救うべき命です。可能な限り救います。そのためには、衛生観念を正すことが必要なのです」
だから、そこから入るなと彼女は銃を向ける。銃身が回転するペッパーボックスピストルを向けて。そのあまりの剣幕、いや静かな覇気に誰もが動けなかった。
「この方は、砲弾と榴弾の直撃を喰らいました」
「ああ、オレってそんなの喰らってたんだ」
「先輩! ああ、よかった、意識が!」
「何が良いものですか!。手足がつながっているだけでも、即死しなかっただけでも奇跡なのですよ。本来ならば切断して余分なところに血がめぐるのを防ぎたいのです。清潔にしていれば感染症は防げます」
彼女は言い切る。
「安心してください。私は、殺してでも、貴方を治療します。
――私は、何をしても命を救う。たとえ、貴方の命を奪ってでも!」
無茶苦茶だった。だが、それが彼女の在り方なのだと理解する。
記憶を失っていた彼女。その片鱗は確かに感じられていたのだから。
献身的に、誰かを救おうとするその鋼の意思。
「サーヴァント、なの、か」
「はい、そうです。ですが、関係などありません。召喚された。その事実だけで、私の役割はわかります。全てを救え。つまりはそういうこと。ここで、全力を尽くし、救ってみせます。それが、私が召喚された意義にして意味」
圧倒的な意志がそこにあった。
それはまぶしく、そして、オレもまた抱くもの。
全てを救う。そう彼女は先達だ。
だからこそ、ああ、そうだからこそ、僕は彼女に救われたのだ。彼に救われたのと同じに。
「はい、いいえ。確かにあなたの信念はわかりました。しかし、わたしにも譲れないものがあります」
マシュが踏み込む。
「わたしは、先輩のサーヴァントです。先輩を守り、先輩の為に戦う。それだけは、誰にも、譲れません。貴女が先輩を害するのなら、わたしは、戦います」
「…………あなた、その身体……。わかりました、治療は一時保留します」
どうにか切断されなくて済んだらしい。
「よかった。ジキル博士、お願いします」
「うん、治療用術式のスクロールだ。すぐに治るよ」
ジキル博士によって治療用術式のスクロールが使用され、身体は一瞬で治る。
「ふぅ、死ぬかと思った――!?」
その瞬間、マシュがオレの身体を探ってくる。
「先輩、大丈夫ですか?! 傷は、ありませんか? どこか痛いところは? 大丈夫ですか? なでなでしますか? さすりますか? 完璧ですか? もし、何かあれば、わたしは――」
「だ、大丈夫、大丈夫だから!!」
「くぅうぅぅうぅう」
なんだか、盛大に清姫が悔しがっているのが怖いから、離れて離れて!!
「……ふぅ、よかったです、本当に……」
「さあ、終わったらどきなさい! 次の患者が来ます!」
メルセデス(仮)に追い出されるように治療用のテントから放り出された。
「いたた――」
「いやー、苛烈な人だったね」
露骨に殴られた痕のあるダビデが隣に座ってくる。
「自業自得でしょ。えっと、ここは?」
「アメリカ独立軍の後方基地だよ。うんうん、大丈夫そうだね。ごめんね。本当、あたしっていつも大事なときに」
「ブーディカさんのせいじゃないですよ。でも、なんでここに?」
「それはじゃな。マスターが運ばれてしまったから、わしらもこっちに来たというわけじゃ!」
「さっきの戦い、アメリカ軍の負けで前線が後退したんだと。相手の正体も不明だ。どうやら英国と独立戦争って感じじゃねえな」
式が言うにはあとアメリカの国旗も本来のものではないらしい。
相手もわからない。わからない尽くし。
「だが、やるべきことは変わらない」
「そうだ、トナカイ。ようはいつも通りマスターがあの手この手でサーヴァントを篭絡していけばいいのだ」
「篭絡って……」
いや、間違いじゃないけど、もっと言い方ってものが。
「さしあたっては、彼女でしょうか」
「そうだね、それがいい。彼女はタヨリニナリソウデスヨ」
ドクターが通信してきて目を泳がせている。
「バーサーカーだとは思う、たぶん真名はナイチンゲールだろう」
ドクターがそういう。
「ナイチンゲール」
彼女の名前。ようやく知れた。
「そう、なんというか苛烈な人だよ。僕の苦手なタイプ」
しかもそれがバーサーカーだから話が通じない。
けれど、僕は言わなければいけない。
「ナイチンゲールさん」
「患者ですか――」
「あ、いえ、ちがい、ます」
「では、用もないのに呼ばないでください」
「いえ、用はあります」
「では手短に。患者は待ってはくれません」
「ありがとう、ございました」
きっと彼女にはわからない。それはきっと
僕だけがわかること。
「
ようやく言えた。言いたかったことが――。
イベントって、楽しいよね。
FGOイベやらやってました。いやー、茨木童子は強敵でしたね(棒)
やりがいがあった。楽しかったですわ。酒呑童子も来てくれましたしね。
三蔵イベは、いいねお師さんほしぃ。なんで、私好みのキャラは全員師匠とか統治者なんだろう……。
でもいずれ追加されるなら二十連爆死したし、もう石ないから今回はこれで終了。
お師さん、いつか必ずお迎えしてやる。
でも、玄奘三蔵で聞くと私は、もうね、煙草にリボルバー持ってバギーに乗って旅してる生臭坊主しか思い浮かばんのじゃ。
あとはモンキーマジック。三蔵ほど女になっても違和感ないキャラはいないよネ!
Fate/Last Master IF
キャットのエロが最新話です。
次は、エレナのエロ書きたいなぁとか思っている。シチュエーションは特に思いついていない。でも、エレナっていいよね。
では、また次回。