あとで第二書きます。
なんども言おう。ぐだ子に理論なんて求めたらだめです。
ちなみに鋼の英雄じゃなくてやっていることはエクスカリバーの応用です。
世界最古の海賊船。アルゴー船。アルゴノーツ。数多の英雄を束ね、金羊の毛皮を求めて旅立った人類最古の海賊団。
ああ、まさしく正しくそこにあるは――。
「■■■■――」
世界に覇を唱える最強の英霊――。
「ヘラクレス――」
誰かが言った。誰かが呼んだ。ゆえに、彼の英霊はその名のとおりに、英雄である。
「える……りゃ……れ……まもる!」
立ち向かいは怪物なりし優しい雷光。
我らを逃がすべく戦う優しい化け物。
「さあて、おじさんの出番かな――」
それを狙うはトロイアの英雄。
その名ヘクトール。
その投擲は、あらゆるものを指し穿つ。
組み合ったヘラクレスごと撃ち抜こう。
なに、安心するが良い。彼の大英雄がその程度で死ぬものかよ。
おまえたちの死は確実だ。
定められた運命である。
「僕のヘラクレスは最強なんだ――!」
全てが終わる。ここで。
誰もが絶望する。
「無理よ、ヘラクレスだなんて、勝てるはずがない」
オルガマリーが絶望する。
「そんな、無茶ですアステリオスさん!」
「アステリオス! 何してるの、早く――」
マシュと女神の悲鳴があがる。
だって、そうだろう。彼は死んでしまう。
怪物は英雄に倒される運命なのだから。
いかに自分たちが彼を英雄だと思っていても。
「くそ、あいつをどうにかしないと逃げられないね!」
ドレイクですらどうしようもできない。
されど――。
「やらせるものか。女神がその雷光を所望だ。持っていくのなら、私の雷光を喰らっていけ――」
「なっ――」
竜牙兵の大軍を押しのけその女はヘクトールへと一直線に走っていた。並みいる英雄、魔術師を無視して彼女はまっすぐに彼へと向かう。
「チッ――」
投擲姿勢を解除。迎撃する。
なぜならば、アレはまずい。
その手にある爆光。魔力を収束回転させて異常なエネルギーを生み出す。それは彼の聖剣が行うものとほとんど同一である。
つまるところ、この女は人間でありながら、宝具クラスの一撃を作り出しているということだ。
まずありえない。
だが、気合いと根性。
ただそれだけ。必要だからと彼女が判断し、作り上げた一つの形。
全てを滅する救済の光だ。
「敵を殺してはい、平和、ってか」
「ああ、そうだ。私にはこれ以外にできん。何より今必要なのはこれだろう」
絶望を切り払う大いなる光。それが必要だ。
「そのために、自滅する気かよ」
ヘクトールの見立てではあんな無茶がまかり通るはずがない。
それ相応の無茶をしているのは間違いない。
「それがどうした。私の身一つで世界が救えるのなら安いものだろう?」
世界を救う。
そのためならば自らの身などどうなっても良い。自らよりもはるかに価値のある世界だ。そんなものを価値のない己が守れたのであれば、重畳。
「そりゃぁ」
――ああ、いけねえや。
納得しちまった。
トロイアを守るために戦った。そう、同じだ。この身一つ。それで勝ちが拾えるのなら。なによりもあのアキレウスを倒せるのであればと戦った己と何が違う。
この身一つ。それで勝てるのであれば躊躇うことなし。
――まあ、負けてしまったおじさんが言うことではないか。
「やれやれ、おじさんの負けだね、こりゃ。はいはい、こうさーん。おじさんはこうさんするよ」
「そうか」
彼女はそう言って手を挙げたヘクトールに背を向ける。
そのまま刺せば終わる。
――まあ、それをさせちゃくれないんでしょうがね。
そのつもりであったがやめだ。
どうにも刺し貫く未来は見えない。こんなのはあのアキレウス一人で十分だというのに。
「やれやれ、おじさんもやきが回ったかね」
ヘラクレスへと向かう彼女を見送る。
人間が勝てるはずがないが、
「さて、おじさん、少しは期待しちゃうよ」
もしかしたらそんな未来が見られるかもしれない。
どのみち、そんな奴と戦えば疲弊する。
そこがねらい目だ。
「さあて、それじゃ、おじさんはゆっくり機を待たせてもらいますか」
目の前で繰り広げられる新たなる英雄譚を観戦し、終わりを刺し穿つのだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ヘラクレスと彼女の戦い。
それが幕を開ける。
アステリオスを押しのけて眼前へと立ちふさがる彼女の姿。
無茶無謀。ありえない光景であったが、不思議と誰も心配には思わなかった。
「行くぞ」
言葉なき咆哮が返る。
両雄の激突は単純に一撃の激突から始まった。
砕ける二刀。
内包した神秘の差もそうであるが、何よりにおいてヘラクレスの膂力が違う。
天地を持ち上げるとすら言われる彼の膂力に耐えられる武具などそうない。
それが人が作り上げたものならだ。
だが、彼女はそれで諦める人間ではない。
耐えられないのならば耐えられるようにするまで。
工程など破棄する。重要なのはただ折れず、曲がらず極限まで斬れる武器だ。
それを投影する。
全身を苛む激痛は気合いと根性で耐える。
魔力が足りないのなら命すら削ろう。
文字通りの全力。
自らの身体も何よりも強化を重ね掛け、英雄に相対する。
互いに譲らず一歩も引かず、全力にて互いの獲物を振るう。
斧剣と二刀。
鋼が舞い、火花が散る。
綺羅綺羅しくされど何よりも激しい防風。
アルゴー船が軋み、海が荒れる。
むろん、武具の激突だけが戦いではない。
己の権能全て、己の武技全てを扱ってこそ戦闘。
斧剣だけではなく、その拳が、蹴りがさく裂する。
一発でも当たればそれだけで肉体が消し飛ぶような威力。
ヘラクレスの一撃はその全てが死へとつながる殺しの技だ。
必ず殺す必殺のそれ。
遊びなどなく。もとより狂化したとはいえさび付かぬ英雄の技量をいかんなく発揮して目の前の敵を滅殺せんと猛る猛る。
対する彼女の方は静かだった。
莫大な熱量を放つ意思を内包していながらさながら機械のように冷徹に状況を俯瞰している。
猛き狂う大英雄を前にして、彼女は変わらず冷静。
されど莫大な熱量をその背に宿している。
だが
「チィ――!」
これにて四度。武具を砕かれ致命傷を裂けている。いや、四度というのはいささか少ないと感じるだろう。
ゆえに真相。もはや百、いやそれ以上は繰り返されている。
四度というのは、周りが認識した回数という意味。
その戦いはもはや常人の眼ではとらえられぬ。
音速を置き去りにして光に迫り、天変地異の如き破壊をまき散らすほどの戦い。
常人が目にすることなどできるはずがない。
「ぐおおぉおお!!」
二刀を砕かれ吹き飛ばされる。
即座に新たな二刀を創形。
それも砕かれる。
さらに投影。
強度が足りない。足りない、足りない。
力が足りない。足りない。足りない。
速さが足りない。足りない。足りない。
もっとだ――。
防戦一方。
斧剣の剣戟を受ける度に全身が軋み、あらゆる場所に罅が入っていく。
受け続ければ最後、この身はそのまま砕けるだろうとすら。
這い寄る敗北の二文字。
振りあがる斧剣。投影する二刀。
砕かれる。
眼前に斧剣が迫っていた。
「まだだ!」
一瞬のうちに更に二刀を投影する。
それは今までと同様の結果など生じさせない。
新しく、作りあげた二刀は砕けずあろうことか斧剣を押し返す。
「■■■■――!!」
「オオオオオオォオォオォ――!!」
爆光が爆ぜ女が吼える。
きらめく英雄の一撃が、ヘラクレスへと叩き込まれる。
鋼の舞い散りとともに砕ける刃。
その一撃すら、いまだヘラクレスには届かない。
へラクレスの輝く双眸がさらなる一撃を女に放たせる。それもまた彼女は受け止めた。そして、そのまま攻撃を放つ。
先ほどとはけた違いに注ぎ込まれた魔力。爆光が爆ぜ、周囲を飲み込み、吹き飛ばす。
防御など知らぬといわんばかりにここ一番の博打に彼女は打って出た。一撃で殺せぬのなら、何度も食らわせるまでだ。
剣を振るう度に彼女の速度が上がっていく。彼女の力が上がっていく。
際限なく高まっていく彼女の剣戟。
足りぬのなら上げるまで。どこまでも上がる。上がる。
窮地でこそ人は成長する。確かに正しいだろうが、これはいささか異常が過ぎた。防戦一方であった人間がヘラクレスと互角に打ち合う? なんの冗談だそれは。
だが、見た全てが真実だ。ヘラクレスが手加減をしているはずもなく、では何が起きたのか。
単純だ。女が強くなっただけのこと。窮地による覚醒。言ってしまえばそんな単純な事象であるがゆえに誰も信じられない。
人間がヘラクレスを打倒するのではないかと。
そんな希望を抱いた瞬間、
「――――!!」
女の一撃がヘラクレスの首を切り裂いた。流れる血はヘラクレスを一撃で絶命させたことを示している。
爆光が硬い筋肉の鎧を切り裂いて、その気道を動脈を消滅させた。普通ならば死ぬ。首の大半がえぐられたのだ。普通ならば死ぬ。
だが、
「僕のヘラクレスがそんなことで死ぬはずないだろう?」
イアソンの声が響く。それは何よりも彼を信じているが故の言葉。
その言葉を証明するかのように、ヘラクレスは再び立ち上がる。
無敵の英雄ヘラクレス。
彼が退けた十二の試練こそが彼の宝具。
それは十二の残機と死んだ攻撃への耐性付与というもの。
つまるところ、十二回の別の殺し方をする以外に彼を殺す方法はないのだ。
そして、女にできることはただ一つだけだった。
「ガ、ア、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!!!??」
放たれる無双の一撃。
いかに強化した二刀であろうとも受けきれずその腹をえぐっていく。
これこそが英霊だ。英雄だ。人間が勝てるはずのないもの。
その事実を思い知っただろう。ならばそこで倒れるが良い。ある意味でそれは慈悲だ。止まらぬ英雄ほど、止まれぬ歯車ほど、恐ろしいものはないのだから。
いつか摩耗し、壊れるのならば、ここで死ぬことこそ慈悲だ。
「まだだァ――」
だが、それで止まれるのならとっくの昔に止まっている。すでに、女の身にブレーキという概念はない。走り出したのだ。
数多の犠牲の中で生き残りやり通すと決めた。ならば、止まれるはずがない。
放たれた爆光の突きがヘラクレスを指し穿ちその脳髄を消滅させる。
「おぉお――」
その瞬間、ヘラクレスの蹴りが彼女へとさく裂する。殺した瞬間、更なる追撃の瞬間、死んでいながら反射で彼女を吹き飛ばしたのだ。
船上から海へとたたきつけられ海の上をバウンドしながら吹き飛んでいく。
「オオオオオオオ!!!」
海水に指を立て、勢いを殺し彼女は踏み込んだ。
海の上を走る。原理は単純だ、足が沈む前に次の足を前に出しているだけ。尋常ならざる脚力でバカげた水柱を挙げながら、同じように追撃に出たヘラクレスへと蹴りを見舞う。
吹き飛ぶヘラクレス。握りしめられた拳がヘラクレスを海中へと叩き込み、その心臓を極限まで収束した爆光が刺し穿つ。
その瞬間、その足が握りつぶされる。
海中へと引きずりこまれる。
人間は海の中で呼吸できるようにはできていない。
どれほど海中に出ようとしてもヘラクレスがその足を離さない。
己の巨体ごと海溝へと沈む。
呼吸困難。窒息で死ぬだろう。
圧力で死ぬだろう。
だが、ヘラクレスは生き残る。もう三度殺されているもののここで二度死んだところで五回だ。残り七回も残っているのなら何の問題などありはしない。
一度死ねばその死に対する耐性が付く。彼女が死んでから容易に海上へ上がることができる。
「――――!!」
そんなヘラクレスの眼へと二刀が差し込まれた。
こんな状況ですら未だに諦めていないのだ。
更に輝きを増した爆光が刺し貫き脳を攪拌する。だが、それでも足は離さない。
再生したヘラクレスが斧剣を振るう。ただそれだけで海が割れる。横に割れて、一瞬の空隙にわずかな酸素が流れ込む。
それを吸い込み彼女は生存時間を伸ばす。
斧剣が振るわれる。それを受け止め、足をつかんでいる左手へと押し付ける。
自分で自分の腕を斬るが良い。
「――――」
その瞬間、ヘラクレスは斧剣を手放した。そのまま拳を握り彼女の腹へと打ち付ける。
会場まで響く爆音と水柱。
何かが破裂した致命的な音が響く。
「がっ――」
彼女が血を吐いた。
しかし、それでも彼女の瞳の炎は燃え続けている。
それでも終わりは存在する。それは苦痛であり、寿命であり、どうあれ確実に命を削るものだ。
勝利、刻み続けようと、いつか必ず限界は訪れる。死という終わりは誰にでもやってくる。
莫大な圧力。水圧が彼女を絞殺さんとする。
それに加えて、動きの鈍る彼女に対してヘラクレスの斧剣が迫る。
「――それでもだ。諦めない。まだだ――」
「先輩!!」
海の中に響く声がある。
「宝具、展開します――!!」
彼女の宝具が展開される。
疑似展開ではあるが、それは守る意思の発露。
誰かを守りたいという意思そのものだ。
その力が彼女を生かす。水圧を減じさせ、ヘラクレスの斧剣すらも防いだ。
「ああ、マシュ、おまえは最高だ――受けろ、死なぬ英雄ならば、死ぬまで、殺しつくすだけだ――」
爆光をあげる二刀。
そのままヘラクレスへと叩き込んだ――。
このあとその他もろもろの協力の下ぐだ子がヘラクレスを削り切り、イアソンが涙目になりながらも、おまえは悪くないとぐだ子に許されたり、メディア・リリィと戦ったりとかいろいろした。
結果、イアソンと黒ひげ、ヘクトールおじさんが仲間になった!
とまあ、そんな感じじゃないですかね。
番外編なので特に何も深く考えてないです。