Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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とりあえずぐだ子編は深く考えたら負けです。


第一特異点――救世主

「オルガマリー所長は……」

「ここにいる」

「は?」

 

 ロマンは、彼女の言葉が信じられない様子であった。

 

「正確には私の中にだ。私と一心同体にして連れ帰った」

「は?」

 

 いったいこの女は何を言っているのだろうか。

 

「つまり、今もそこにいる。幽霊みたいなものだ。今出力してやる」

 

 彼女が何かしらを行うと、オルガマリー所長の姿が投影される。

 

「…………」

 

 とりあえずその所業に呆れればいいのか、感謝すればいいのか。

 

「とりあえずスルーすればいいんじゃない。私は、そうすることにしたわ」

「生きていておめでとうございますといえばいいんですかね所長」

 

 とりあえずこの女が規格外ということが判明した。それだけだ。

 

「というか、どうやって?」

「意味消失の危機の際、私と彼女の存在は希薄になる。そこを取り込んだ」

「――どうしようかマシュ……」

「さすがです先輩! そこにしびれて憧れます!」

 

 オーケー、とりあえずまともに話し合ってはいけない。というかこの手の話題はそういうものとしておけばいいんだろう。

 そうでないと精神衛生上悪そうだとロマンは悟り、次の特異点を示す。

 

「とりあえず、次の特異点はフランスだ。所長、状況はわかっていますよね」

「ええ、やるべきことは変わらない。レフのやつをぶん殴ればいいのよね。彼女なら余裕よ」

 

 魔神柱を容易く殺した彼女ならば。

 これより先は新たなる英雄譚だ。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 フランス。

 第一特異点。竜の魔女に襲われた国を救うべく、竜殺しを解放せんと聖人を守るため私は戦っていた。

 いわば足止め。囮。

 そんなもの。

 

 絶望的な戦力差。覆すこと能わず。

 だが、それでいいのだと悟っている。自らは此処で死ぬ。けれど、その死は必ずや希望をつなげるのだ。ならば無意味であるはずなどなく。

 

「フランスに殺された王妃がフランスの為に死ぬなんて。なんて馬鹿なのかしら」

「ふふ、そうかしら竜の魔女さん」

 

 最期はどうあれ、マリー・アントワネットとしての人生は華やかだった。

 それでいい、それでいい。

 後悔などなく。それが国民の意思ならば、国の意思ならばそれでいい。

 なぜならば、その先にある確かな幸せのために死ねたのだから。それでいい。

 

「わたしは、今はすっごく幸せ! こんな私にも、あの方やジャンヌの力になれたのだもの」

 

 だからそれでいい。

 フランス万歳(ヴィヴ・ラ・フランス)

 そう言って笑顔で消えましょう。

 

 友達のお手伝いができた。

 フランスを救う為の手伝い。

 それが出来たのなら、悔いはない。

 喜んで散ろう。

 

 邪竜ファヴニール。その焔の息吹が放たれる刹那――。

 

「諦めるなマリー!」

「――――!!」

 

 彼女の声が響いた。

 全てを焼き尽くす絶望の嚇炎が迫る中、それに負けない鮮烈にして莫大な熱量を持った声が響く。

 輝光を纏った疾風。

 まき散らされた瓦礫と砂煙を引き裂いて灼熱の焔をものともせず駆け抜ける姿がある。

 

 運命を受け入れ閉じていた瞳を開く。そこにあるのは彼女の背。

 華奢な彼女の大きな背中だった。

 ただ一人、希望を繋いで逝くことを良しとしたのに、彼女だけはただ一人折れてはいなかった。聖人を逃がし、合流した時点で全てを悟ったはず。

 だというのに、彼女は、来た。ただ全てを救うために。

 

 押し寄せる絶望に対して、彼女だけは折れることなく、諦めることなく前を見据えていたのだ。

 勇者、英雄。斯くあるべし。まさしく正しく、彼女は英雄だった。

 マスターであるのなら、どのような敗勢であろうとも屈してはならない。

 どのような運命であろうとも屈することはなく、ただ前に進む。

 

 その強靭な意思こそが彼女を彼女たらしめる。最後のマスター。世界を救う希望として。

 その才能は凡人だった。非凡なものなどなにもない。

 だが、その意思こそが最も尊い。

 

 全てを救う。

 

 その意思は、何よりも強く。ただの人を英雄へと押し上げるのだ。

 

「諦めるな。前へ進む足があるのなら。闇を切り開く腕があるのなら。身体を前に進める意思があるのなら――諦めるな」

 

 ――ああ、なんて。

 

 なんて雄々しいのだこの人は。

 だが、それでも状況は好転していない。今もなお絶望は続いている。

 

 けれど。けれど――。

 

「――」

 

 投影した大剣を手に、彼女は迫る焔に対してひるむことなく前に出る。

 励起する魔術回路。

 非凡なもの。どうあがいても足りぬ魔力。

 劣ったそれをただ気合いと根性(・・・・・・)で補う。

 

 おそらくは莫大な負荷が彼女をさいなんでいるだろう。だが、汗一つかくことなく彼女は術式を行使する。

 

 超密度で編み込まれる自らの身体の力を強化する魔術、更に二重、四重に大剣の構造を強化し、魔力を放出し放つ。

 疑似的な衝撃波。相手が行ったのは権能。

 

 この攻防でどれほどの超絶技巧が使われたのかは火を見るよりも明らかだ。ファヴニールの一撃を防いだ。しかもただの魔術師がだ。

 まさしく称賛に値する行為。

 

 だが、戦闘という面からみると明らかに、彼女が劣っていることがわかる。

 竜にとっては焔を吐くことなど余技だ。そんなものを防ぐのに数多の策を講じる必要があったということはそれだけ両者の間に差があるということになる。

 

 それも当然だ。ただの人間と最強の竜種。

 その差は到底覆せるものではない。

 

 だというのに、想わずにはいられないのだ。

 

 ――もしかしたら、彼女ならば勝ってしまうのではないかと。

 

 そう思ってしまう。そんなありえもしない奇跡を思い描いてしまう。

 だからこそ、聞かねばならないと思った。

 

「どうして――私など」

「言ったはずだ。私は全てを救う。おまえすら例外ではない」

 

 まさしく英雄だった。

 

「行くぞ、邪竜。そして、竜の魔女――私が、おまえたちの敵だ!」

 

 爆轟する灼熱がはじけ、ここに決戦の火ぶたが切って落とされた。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「ハアアアアア!!」

 

 裂帛の気合いとともに放たれる剣戟。それによって生じるのは地割れの如き、いや、モーセの海割りの如き所業。

 敵の大軍が割れる。

 

 即ち天を舞うワイバーンがただの一振りによって薙ぎ払われたことを意味している。

 それがただ一人の女の剣によって引き起こされたと誰が信じられようか。少なくともその暴威を間近で感じたマリーですら信じられないほどだった。

 

「マリーを殺すのは――」

 

 そんな彼女の所業を目の当たりにしながら狂った処刑人は止まらない。

 

「邪魔だ――」

 

 それをただの剣の一振りで首を落とす。

 

「ああ、なんて」

「サンソン」

 

 彼はとても安らかな顔をして消えた。

 

「なんなのよ、あんたは! ファヴニール!」

 

 竜の魔女がファヴニールに命令を下す。

 奴を殺せ。

 

「笑止――その程度か」

 

 振るわれる剛爪。

 それを彼女は受け止めて見せた。

 この程度か。この程度で最強の邪竜だと?

 おまえの暴虐はこんなものではないだろう。

 伝説にまでなったおまえの暴虐はこの程度ではないだろう。

 

「本気を出せ。でなければ、死ぬぞ――」

 

 振るわれる剣。

 ただの一撃が、その竜鱗を引き裂き血を流させる。

 ファヴニールの悲鳴が響き渡った。

 

 たたきつけられる強靭な尾。

 彼女はやすやすとそれを躱して見せた。

 大きいことはそれだけで強さであるが、その分大ざっぱになる。

 大きな振りは躱すことなど容易い。

 

 大地が引き裂け岩盤がえぐられる。

 縮地と呼ばれる特殊な歩法にて彼女はえぐられ宙を舞う瓦礫の上を駆け回り、ファヴニールの直上からひときわ大きな瓦礫。

 城ほどはあるだろう瓦礫を持ち上げて投げつけていた。

 

 人外の強化魔術。魔力がすぐに枯渇するだろうレベルのそれを彼女は行使する。

 魔力など気合いと根性でいくらでもどうとでもなる。そういわんばかり。

 負荷など微塵も感じていないかのように巨大な瓦礫をファヴニールへと投げつけた。

 

 それと同時に大気を蹴って疾走する。もはや地面などいらぬとばかりに、彼女は竜の魔女の前へと降り立ち剣を振るう。

 相手はサーヴァント。人間よりも格上だ。

 

 ゆえに、人間の一撃など容易く受け止められる。

 彼女が剣を振るう度に相手の旗がはためき火花を散らす。

 それだけでなく、背後からのファヴニールの一撃すらもはじき、あるいは利用して竜の魔女と互角に渡り合っていたのだ。

 

 衝突するたびにきしみをあげる大剣。いかに構造を強化しようとも内包した神秘の差に悲鳴を上げている。

 少しでもまともに受ければ折れてしまうだろう。いいや、受け続けても折れる。

 それだけ武具の差がある。

 

 だが、そんなもの知ったことかと彼女は剣を振るう。自らの一撃で砕ける大剣。

 

「馬鹿め!」

 

 そう竜の魔女があざけり彼女を殺さんと旗を振るう。

 

「――――フッ!!」

 

 彼女が振るったのは剣ではなく足だった。蹴りあがった足が降り降ろされ旗を地面へと押し込む。

 

「なっ!」

 

 そしてその手には新たな大剣が投影されている。

 

 それは今度は砕けぬ。

 それもまた気合いと根性というありえない二つの文字のせいでだ。

 

 神秘が足りない?

 上等だ。ならば魔力を込めればいい。

 強化率をあげてやれば問題などないだろう。

 

 そんな単純明快な思考の下彼女は、行動している。

 

「うそ、でしょ――」

 

 竜の魔女とファヴニール。

 このフランスを害する最強の存在を相手にしながら彼女は互角に、いや、圧倒し始めていた。

 生じる業炎とともに振るわれる大剣。

 真に恐ろしいのは炎ではない。彼女が炎を出しているというのは副次的な効果でしかないということだ。

 

 ただの強化魔術は普通、大剣を振るって炎を出すなんて芸当はできない。炎が出るということは熱が発生しているということ。

 原理は簡単だ。摩擦熱。大気との間にある摩擦熱によって熱が生じ、それが焔にまで昇華しているだけなのだ。

 なんのことはない。彼女の大剣を振るう速度と力はが炎が出るほどに速く力強いということなのだ。

 

 その速度、音速を優に超えている。人間が出せる限界を超えさせるのが曰く強化魔術ではある。しかし、これほどまでに常識を振り切った強化魔術など誰も見たことがないし、そもそも魔力が持たない。

 事実彼女の魔術回路は励起しっぱなしだ。

 それも過剰に。

 

 全身を激痛がさいなんでいることは間違いないだろう。無理な駆動だ。そんなことをすれば壊れてしまうのは当然の結末だが。

 彼女はそんなことに頓着などしない。

 思うことはただ一つ。

 

 ――全てを救う。

 

 そのためならばどのような無茶だろうが、超えて見せる。

 

 雲が切れ、大地が引き裂け、はじけ飛ぶ。

 そんな光景を作り出したのが彼女の大剣の一振り一振りだというだから竜の魔女の戦慄はさらに深まっていく。

 

 彼女の攻撃はもはや大砲、いや、ここは最上級で示そう。核兵器と言っても何ら変わりがない。

 彼女が剣を振るえばそこが爆心地となる。衝撃波とともに生じた莫大な熱量が全てを焼き尽くして消し飛ばしてしまう。

 その光景は、まさに日本に落とされた二発の原子爆弾が引き起こした光景と類似している。徘徊するゾンビやワイバーンが炭化したままそこに立っている光景など非常識過ぎた。

 

 だが、そんな非常識な光景でありながら、彼女は冷徹なまでに自らの能力を計算に入れて演算を繰り返していた。

 相手の動き、相手の呼吸。自らの状態。実力。

 それらすべてを冷静に計算に入れて、極限まで極めていた。

 全てが壮絶、全てが隔絶した技量と能力のぶつかり合いであり、そこには確かに超常をそのまま体現したような熱量が存在している。

 

 だが、言った通り芯にあるのは氷だ。冷たく冷徹に、激しい熱量の中で自らを俯瞰し、相手を捉えて勝利への道筋を組み立てていく。

 その姿はさながら機械のようでありながら、されど思いもよらぬ行動をとるところはまさしく人間であった。

 

「なんなのよ、おまえは!!」

「最後のマスターだ。おまえたちの敵だ。竜の魔女」

「くっ、ファヴニール!!」

「逃がすものか――」

 

 殺す意義と殺す甲斐。殺す目的がある。

 ここを逃せばまた苦しむ民が出てくるだろう。

 ここは特異点。ありもしない歴史を刻んだ場所。

 修正されれば全てはなかったことになる。

 

「だが、私は覚えている。この土地に生きていた全ての者を。死んでいった者たちを。戦った者たちを。悲劇を、絶望を私は覚えている」

 

 ゆえに、彼女は誓っている。

 

「私は全てを救う」

 

 たとえ荒唐無稽と笑われようとも成し遂げる。

 そう誓っているのだ。

 

「逃がすものか」

「誰が逃げるですって」

 

 ファヴニールに飛び乗った竜の魔女がいう。

 逃げるものか。おまえはここで殺す。ここで殺してしまえば終わりだ。

 至極自然な道理としてここで死ぬし人類は滅ぶ。

 だからこそ逃げるはずもなく。

 

「やりなさいファヴニール!!」

 

 特大の炎。

 彼が持つ最大の一撃。

 

 それが顕現すると同時に世界の全てが崩壊する。

 莫大な熱量。それは致死の猛毒だ。

 揺らめく陽炎の中ありとあらゆる全ては溶解していく。

 人間など燃え尽きる。

 人間にとって、限度を超えた炎は毒でしかなく。それは人間であるがゆえに逃れることはできない。

 いいや、生物であるがゆえの絶対の摂理。

 

 逃げられるのは幻想であるものだけだ。

 この場合は竜種のみだ。

 

 必ずや彼女は、英傑はここに落命する。

 怪物に殺されることこそ英雄の華。

 死にて幕を起こしてこそ英雄譚は輝くのだ。

 さあ、おまえの英雄譚に輝きをくれてやる。

 

「笑わせるな。そんなものは要らん。三流とののしられようと。誰もが笑っているハッピーエンドこそ私の望むものだ」

 

 だからこそ全てを救う。

 

「救えなかった命がある。それら全てを背負って私は行く。残った全てを救い、誰もが笑える世界を作る。そのためならば――」

 

 たとえこの身が果てようとも構わない。

 魔術回路が焼き切れようとも、この身の痛みなど全て耐える。

 なぜならば、死んだ彼らの方がもっといたかったはずだ。

 この程度で泣き叫び倒れてなどいられない。

 全身を苛む激痛程度、耐えられないはずがない。

 

 迫る超重量の脅威。

 莫大な熱量。

 まさしく星の新生如き爆裂が迫りくる。

 そのさなか、彼女は動かぬフランス兵の死体を見据えた。マリーとともに住民を逃がすために戦った勇敢なる兵士たち。

 

「すまない。そして誓う。無駄にしない。おまえたちの死はなかったことになったとしても、おまえたちの死は必ずや世界を救う礎となる。人類史を弄んだ奴らの魂魄まで刻み込んでやるとも――」

 

 開眼した瞳。

 その奥に燃える焔。

 

「必ずや、勝利してやる――」

 

 紡がれる宣誓。

 燃える意思とともに魔術回路が駆動する。

 極限の意志を燃料に莫大な魔力が燃え盛り術式が駆動する。

 爆光とともに彼女の魔術が放たれた。

 

 それはまさしく光の波濤。彼の騎士王の聖剣にすら匹敵する莫大な光。

 世界を二分するほどの輝きの一閃は冗談のようなエネルギーを伴い顕現した。

 降り降ろされた一撃は焔を消し去り、ファヴニールと竜の魔女を飲み込んだ。

 

 進行方向にあるものは何も残らず、ここに全ての戦は決した。

 

 それと同時にオルガマリー率いる別動隊がオルレアンを解放し、ジルと魔神柱を討伐したことが報告される。

 全ては終わったのだ。

 

「さあ、行くぞマリー」

 

 彼女は笑顔でそういったのだ――。

 




というわけでマリーを救いました。
あとオルガマリーも救ってます。
なんかこう気合いと根性で。特異点でのみ所長は外に出てこれます。カルデアでは基本ぐだ子の守護霊的な立ち位置。ぐだ子の気合いと根性によって投影できるらしい。

ぐだ子のカルデアには特異点で出会った味方のサーヴァントが全員います。
ぐだ男と違って大所帯。全員気合いと根性でぐだ子が連れ帰ってます。

とりあえずぐだ子編は深く考えたら負けです。

Fate/Last Master IF更新しました。
お相手はマシュと清姫です。期待しないように。

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