Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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こっそり更新。

予定変更
今回のイベが終わるまでぐだ子編をやります。
愉悦も絶望もないのであしからず。


ぐだ子編
特異点F――鋼の英雄


 燃え盛る街。冬木炎上。聖杯戦争の結末によって全てが燃え盛り。全てが消え去った。

 そう。全ては人類を滅却するため。人類史を破壊し、人理を破却した悪逆。

 聖剣の担い手をも超えて、そこに黒幕と断ずべく悪がいた。

 

 レフ・ライノール。人類史を滅却せんと暗躍する者。まさしく、悪。

 

「な――身体が宙に引っ張られて――」

 

 彼女は消え去る。もとより死んでいるのだ。

 ならば哀れ故に望みをかなえてやると言って、愉悦を慈悲だといって。

 彼はオルガマリーを殺そうとしている。

 

「いや――いや、いや、助けて、誰か助けて! わた、わたし、こんなところで死にたくない! だってまだ褒められていない……! 誰もわたしを認めてくれていないじゃない……! どうして!? どうしてこんなコトばかりなの!? いや、いやよ!」

 

 彼女の慟哭が響き渡る。それを嗤うのはレフ。まさしく、彼は悪だった。

 そんなものを彼女は――看過できなかった。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「そこまでだ――」

 

 鳴り響いた靴の音は、意識から外れていた彼女のものだった。私が選んだわけでもない、ただの一般人。数合わせ。最後の生き残り。

 そんな彼女が立てた音だった。

 

 人理修復を掲げるカルデアに刻み付けられた、数々の人的損失、痛み、そして絶望。それら全てを払拭するかの如く漆黒の衣装に身を包んだ彼女は堂々と災禍の中心へと踏み出した。

 その時感じた。物語にはつきものの逆転劇が、降り立ったのだと。

 

 そう最早悲劇は終わった――涙の出番なんて二度とないとでも言わんばかりに。

 これより始まるのは、女の紡ぎだす新たなる英雄譚(サーガ)

 ただ姿を現した、ただ一歩を踏み出した。その動作一つで戦場(ぶたい)を支配する主演が立った。

 

 女は運命へと挑む者。覇者の冠を担う器。

 そう彼女こそが最後のマスター。

 その名を口にすることすら憚られた。まるで彼女だけはその存在が自分とは違うのだと認めるような気がして。

 

 そして、それは正しいのだ。人外ばかりがいるこの戦場。まともなのは私と彼女ただ二人。そのはずなのに。

 どうして彼女こそが一番、外れている(・・・・・)と感じてしまうのか。

 彼女のことを何も知らない。ただの一般人。数合わせで呼ばれた人間。そうとしか知らない。

 

 けれど。けれど、何よりもほかの全てが屑星に見えるほどに彼女は、隔絶していた。

 そう感じるのは彼女の前に立つレフも同じだった。彼女を前にして目をそらすことなど不可能。

 つまり対等。いや、それ以上。

 

「馬鹿な――」

 

 レフの驚いた声が響いた。

 

「まさか、あの方と――ありえない」

 

 レフの否定の声が響く。

 そうだ。信じがたいが、二人は釣り合っていた。いや、釣り合っているどころか――彼女が凌駕している。

 

 目に宿る光の密度、胸に秘めた情熱の多寡、どれもが桁はずれ。いったい人間という限界を彼女はどれほど超えているというのだろうか。

 この特異点でマシュに頼っていた彼女はもういない。やるべきことが見つかった。ならばあとは突き進むだけという決意がそこにはあった。

 

 たとえ命に代えてでも私を守る。いや、人類史を守る。世界を救う。

 そんなバカげたお題目を前に、彼女は我が意を得たりと言わんばかりにそこに立っている。

 胸が、高鳴った。高鳴りが止まらない。

 眼が離せない。彼女を視ると熱狂が止まらなくなるのだ。自分が死んだことさえ些末なことに思えてしまうほどに。

 

「見極めねばならん。おまえが、何者であるか。その可能性を――」

 

 レフが手勢を召喚する。魔神柱と呼ばれるようなそれ。この人理を滅却せんとする使徒。

 幾重もの触手がうねりを挙げている。

 憎悪と恨み。人理への反逆という恍惚を詰め込んだ異形。彼女の覇気と秘してもそん色ない根源的な力。

 

 だが、それを前にしても彼女は一歩も引くことはない。

 いつもならばマシュが止めるはずであるが、彼女すらも熱狂に呑まれている。ただ黙って、彼女の背を見つめるばかり。

 それは容易く助け出された私もそうだった。彼女の背後に入れば絶対に安全。そんな安心感すら感じている。

 

「そして、ここで死ね」

 

 そう言ってレフは消え失せ、魔神柱が声なき咆哮を挙げる。人を狂わせるそれ。

 

 目を閉じていた彼女が目を開く。

 ああ、そうかとでも言わんばかりに。

 内に秘めた、高熱を解き放たんとその手に二振りの刃を投影してみせた。

 視線に籠る決意の火は、強く尊くまぶしく熱く――。

 

「理解した。貴様らを殺すのが私の役目だということを。刻み付けてやろう。おまえたち正義の敵に――」

 

 威風堂々と言い放った瞬間、彼女は一迅の影となる。

 同時――動き出す魔神柱。

 これより英雄譚が始まった――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 一合。彼女らが激突する寸前にオルガマリーはこう思った。彼女は敗北してしまう。怪物に勝つことなど人間には不可能なのだと。

 そんなことが出来るのは英雄だけだ。そして彼女は人間だ。そのはずだ。

 

 魔神柱がその触腕を振るう。ただそれだけ。身を震わせたただそれだけで大地は震えて引き裂ける。

 まさしく魔神。冠された名に偽りなくただそこにあるだけ、動くだけで悉くを破壊する。

 

 生まれ持った性能スペックを、捻りなく、在るがままに発揮する。それだけで十分。

 己が己であるだけで如何な相手をも粉砕できる。魔神柱は真理を体現しているのだ。

 

 ゆえに飛来する岩塊や大地の裂け目を彼女は素早く躱かわした。

 理由は勿論もちろん決まっている。

 間髪入れず倒壊した高層ビル。触腕の叩きつけによる破片と触腕の雨も当然躱した。

 これも無論、理由は決まっている。

 

 ――そうせざるを得ないから。

 

 それは当然、彼女が人間であるからだ。

 生物種として当然、魔神柱の攻撃が当たれば、いやかするだけで人間は死ぬ。

 

 戦いにおいて多勢を決する要素は常に力、速度、防御などの純然たる能力値だ。

 大が小を圧倒するという子供でもわかる方程式にして真理。水溜まりが海を殺すことが出来ないように。

 能力面で劣っていれば、その差が隔絶していればいるほど勝る者に勝てる道理はない。

 

 弱者が強者に土をつける展開は起き得ない不可能事象であるがゆえに誰もが夢想する。

 優れた者が順当に勝つことこそが基本にして当然。逆は不出来なイレギュラーにしてエラーでしかない。

 

 昨今のネットノベルで有りがちな弱者主人公ですら、他人よりも勝る分野があるからこそ勝利している。誰にでも劣る真の弱者ならば勝利などあり得ない。

 そんな弱者は死んでいるからだ。極論、人間という生物に生まれたという事実すら一種の優れた点であるがゆえに生存という勝利を得ることが出来る。

 

 しかし、自身より優れた生物がいれば負けるは必定。人間であるがゆえにサーヴァントすら凌駕しかねない魔神柱に相対すれば確実に死ぬ。

 如何に鍛えていてもだ。死ぬ。敗北する。

 

 オルガマリーがそう予見したのは、そういう理由からだ。武術についてわからずとも世界の理は知っている。そして実際、彼女は敗北必至と言っていい。

 彼女を圧倒する怪物この状況、基礎能力差を考慮すれば勝率などない。

 気合や根性で勝利できるのなら、誰もが人生の勝者だ。だから彼女は無惨に敗北し殺され全てが滅ぶ。

 

 そう思っていた。それゆえに想像した絶望の未来

は、しかし未だ訪れる気配は無く。

 それどころか――。

 

「嘘でしょ、あり得ないくらいの魔力量の、まさに魔神なのよ……」

 

 渡り合っていた。それも互角に、鮮烈に。

 まるでこれこそ当たり前の展開(こたえ)だと言わんばかりに、彼女はたった二本の刃で魔神柱と対等の戦いを演じていた。

 

 鋭い剣閃が奔はしるたびに轟音を響かせて弾き合う触腕。

 火花がまるで華のように散っては咲き、咲いては散って彼女の舞踏を豪華絢爛に染め上げていた。

 衝突するたびに大きく軋む刀身は砕け散る。しかし、次の瞬間には新たな二刀が現れる。一度の合わせを耐えて二度で砕け、再びその手に戻る。

 

 投影魔術。先のアーチャーが用いていた魔術だ。それを彼女が用いていた。

 その練度は武技に比べたら遥かに拙い。巧く受けたとして砕ける程度。

 

 だが、急速に研きあげられていた。作り直す度に壊れなくなっていく。一度で壊れたのが二度の衝突に耐え、作り直せば三度、四度と完成度が上がっていく。

 十度を超える頃には彼女の武技にて受ければ壊れない程度まで投影魔術による刀の完成度は高まっていた。そこからはさらに桁がかわる。

 

 攻撃、回避、防御に反撃。先程までとは全てが変わる。絶技であったものが更に。

 二刀を振るう。彼女の戦闘行動のあらゆる場面において技量が生かされていない箇所など見当たらない。

 例外なく、余すことなく、その悉くすべてが絶技を超えた極技となっている。

 

 戦闘技能と判断速度、戦闘勘なる直感、鍛え上げたあらゆる全てを見抜く心眼。

 全てが常軌を逸している。

 練達などという評価さえ彼女には屈辱にしかならない。

 まさしく正しく、技の極みがそこにあった。武術を知らぬ素人ですらわかるほどの極まりだ。

 

 いったい、どれ程の時をかけて身に付けたのか。まだ彼女は若い。齢20にも届かぬ娘。恐らく人生全てを鍛練に捧げたのは間違いなく、何が彼女をそうさせたのか想像すら及ばない。

 

 あり得ないほど、悪魔的に積み重ねた修練の量が一挙一動から伺える。そのあまりの完成度に、マシュとオルガマリーはよく出来た円舞(ワルツ)でも観劇している気分だった。

 一眼、一足、一考、一刀に至るまで、悉くに意味があり、無駄な行動と思えるものが微塵も無い。

 

 歯車のような正確さで暴力の風雨を捌く 。

 かと思えば、彼女は時に息を呑むほどの博打に打って出る。

 勝利の流れを嗅ぎつけ、そこに躊躇なく命を懸ける行為。

 破綻にさえ見える勝利への執着からの行動。

 

 それは強者には必須ともいえる行動だった。

 正着を打つだけの機械には決して持てないもの。

 勝利するためのあらゆる全てをなし得る覚悟。

 

 それらがまたとない力となって、彼女を勝利へと導いていく。

 

 気合や根性で誤魔化せる差ではないというのに。

 まさに、その気合と根性。

 執念という意志力だけで、彼女はその差をあっさりと覆している。

 

 十が百を踏みにじる。

 猫が虎を噛み砕く。

 奇跡という名の不整合が顕現する。

 

「勝利の意思もない、破壊をもたらすだけの魔神柱に私は負けない」

 

 呟く言葉は強く。何よりも英雄的だ。

 

 ゆえに破壊をもたらす怪物は英雄を殺すためその権能を露にする。必ず殺すため。

 天井知らずに上昇していく危険度。歪み、蹂躙されていく景色。

 逆賊を誅戮する。自然の摂理に逆らう輩へ、天意の裁きを下す。

 

 もはや個人に向けて用いるような代物では断じてなく、破滅のカウントダウンが無慈悲に頂点めがけて駆けあがった。

 

 だから後はもう、希望的観測を抱く余地すら無い。そのはずなのに。

 オルガマリーは、マシュは、目を見開く。

 

「――――!?」

「先輩!?」

 

 やはりこの女は勇者(きぐるい)だった。

 受けて立つと、逡巡なく前に出る姿は恐怖という感情が欠落しているとしか思えない。

 いや、まさか本当に? まさか理解した上でそうしているとでもいうのか。

 

「負けるものか。安心しろ。私が必ず全てを救うとも」

 

 彼女の呟きはその考えを肯定した。

 向かい来る暴虐を前に一刀を捨て。

 

「秘剣の煌めきを見せてやる――」

 

 彼女は踏み込んだ。

 

 一歩、二歩、三歩。

 

 たったそれだけ。開いていた距離はなくなり彼女の姿は魔神柱の前にある。

 

「無明三段突き――」

 

 それは稀代の天才剣士沖田総司が得意としていた秘剣――三段突き。

 超絶的な技巧と速さが生み出した、必殺魔剣の再現。

 ほぼ同時ではなく、全く同時に放たれる平突き。 

 そこには放たれた壱の突きに弐の突き、参の突きすら内包していた。

 

 つまり、放たれた三つの突きが同じ位置に同時に存在しているということ。

 剣先は局所的に事象崩壊現象をすら引き起こし、貫けぬはずの魔神柱を貫き穿っていた。

 それは魔神柱の攻撃が意味をなくしたということ。

 

 それはつまり、勝利したということ。

 

「英雄――」

 

 怪物を斃せるものは、彼らと同じ怪物だけ。

 そして人間でありながら怪物を斃すことができる者は、御伽噺の英雄のみ。

 オルガマリー、マシュは今、間違いなく、一人の女が伝説になる瞬間を目撃した。

 

「彼女なら、任せられるかもしれない」

 

 オルガマリーは死んでいる。戻れない。

 

「何してる帰るぞ」

「私は」

「言ったはずだ、全てを救う。女一人救えないはずがない。この手を掴んでいろ。どうにかする」

 

 現実へとレイシフトする。その刹那、オルガマリーはその手を掴まれ、そしてどうにかなった。

 

 これが彼女のグランドオーダー。その始まり。

 

 




鋼の英雄ぐだ子

今回は分かりやすく、彼の戦いを模倣しました。

次回は竜殺しを差し置いて竜殺しするんじゃないかなぁ。

あとIFの方でマシュマロお仕置き、清姫とのいちゃラブ見せつけからの3Pなる何かを構想してますがいつも通り期待はなしの方向で。あといつできるかもわかりません。
ぐだ男が割りとSってます。

あ、IF更新しました。

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