Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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空の境界/the Garden of Order 終

「よう、来たな」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「ひひひひひ」

 

 きりっとした顔をしたクー・フーリンがそんなここぞとばかりで使うようなセリフを言ったはいいのだが――。

 

「師匠に踏まれながらじゃ、台無しだよ!?」

 

 彼は絶賛師匠の足の下だった。

 

「うっせえよ! これでもどうにかした方なんだよ! 大人げなく本気で来やがって」

「なんだ、まだまだ余裕そうだな。どれ、もう一周行くか。ん?」

「いや、師匠。さすがに――」

「泣き言は聞かん。ワシとて辛い。だが、おまえの為でもあるし、マスターの為でもある」

「そのマスターが目の前にいるのに、今から地獄に放り込まれちゃ世話ねえよ!?」

「ああ、だから話している間だけ行ってこい――」

 

 門を通って、クー・フーリンがどこぞへと消える。

 

「…………」

「さて、見苦しいところを見せた許せ」

「あ、いえ」

「ふむ……」

 

 スカサハさんがオレを視る。顔を近づけて覗き込んでくる。

 いい匂いがする!

 めっちゃ美人だし。そもそも、恰好がエロいよ!? なに全身タイツって。

 グッジョブだよ!?

 

「あ、あの、近い、です」

「はは。そう初心な反応をするな。私も本気になってしまうぞ。まあ、――しばらく見ないうちに随分と。男は三日見なければ括目せよとはよう言ったものよ。良い出会いがあったのだな」

「――はい。でも、あなたのおかげですよ」

「なに、ワシは何もしておらん。わかっていながら、導けなかった駄目な女よ」

 

 違う。違う。

 悪いのはあなたじゃない。

 

「違う。悪いのはオレだ。みんなに言われていたのに、いうことを聞かなかった馬鹿なオレが悪いんだ」

「ふふ。まったく、本当に人間とは良いな。大きくなった。実に良い。ならば――」

 

 その瞬間、彼女の雰囲気が反転する。

 柔は剛に。優しさは殺意へ。笑みが、戦闘者のそれへと置き換わっていく。

 

「――力を示せ、このスカサハに!」

「――――っ!!」

「これより先に待ち受けるのは、おまえにもわかっているだろう。ゆえに、今から全員でワシを殺せ。できなければ死ね。なぜなら、今からワシは貴様ら全員を殺す」

 

 本気だ。彼女は本気だ。やらなければやられる。

 

「おい、なんだこいつ。あいつと同類か」

「ふむ、死を視る魔眼か。まさかこのようなところでそれと出会えるとはな。確かに、そやつの眼であれば、ワシを殺せたかもしれん。だが――本気で来ぬのならば無意味よ」

「なに――」

「本来の獲物も持たぬ。オマエではな――」

「式――!」

 

 一瞬だった。ただの一瞬。目を離したわけではない。だというのに、式が吹き飛んでいた。

 

「呆けている場合か――」

 

 槍の突きが来る。

 神速。視て躱すことは不可能。

 ゆえに、それを受けるのは受けられるだけの直感を有する者。

 

「サンタさん!」

「下がれトナカイ! 邪魔だ!」

 

 下がる前に袋を投げつけられて無理やりに下げられる。刹那、一瞬前までいた場所に突き刺さる数十本の槍。

 両手に構えた槍にてサンタオルタと渡り合っているというのに、どうやってと思った瞬間に答えは判明する。

 彼女の片足が上がっている。つまり、蹴り上げたのだ。蹴っての投擲。

 

「ほう、さすがは高名な騎士王。素晴らしい直感だ」

「舐めるなよ――」

 

 切り結ぶ。

 綺羅綺羅と光の粒子が舞う。剣と槍がぶつかるたびに舞うは漆黒の魔力光。

 

五つの石(ハメシュ・アヴァニム)

 

 ダビデの援護。しかし、

 

「ふむ――」

「ぐ――」

 

 サンタオルタを蹴り飛ばし。

 四度の失墜のちの必中を謳うそれへと向き合う。必中、よけることは叶わぬ故に防がれる。小さな石。されど眉間に必中する宝具は、スカサハが蹴り上げた槍と相殺される。

 

「何本持っているんだい、それ!」

「さて、何本だったか、とにかく掃いて捨てるほどには持っているな――」

「く――」

 

 投擲される槍。間一髪ダビデが木っ端のように吹き飛ばされる。

 

「――って、戻ったらこれかよ――ウィッカーマン!!」

 

 戻ってきたクー・フーリン。一瞬にしてウィッカーマンが編み上げられ、ダビデをキャッチしリリースすると同時にスカサハへと殴りかかる。

 さらにそれだけでなく、あまたのルーンが煌き焔を上げる。業火は灼熱。されど部屋も、オレも燃やすことなくただ敵だけを燃やす圧倒的な火力が発揮されていた。

 ウィッカーマンにプラスして凄まじい火力がスカサハを襲う。

 

「ふむ、及第点だ。精進せよ弟子」

 

 けれど。けれど、彼女もまた原初のルーンを扱う。

 業火は一瞬にして鎮火し、逆にクー・フーリンを襲う。

 

「ぐ――」

 

 それはそのままオレたちへと。

 

「マスター、下がって!」

 

 清姫が龍と化し焔を消し去りスカサハに向かう。

 

「ほう、龍とは。どれ、少しは――遊べるか」

 

 二槍が展開される。

 

「まずい、清姫下がれ!!」

「――――!」

 

 ――貫き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)

 

 二本の槍、続けて神すらも殺す一撃が来る――。

 

「あらあら、まったくもう――」

 

 その瞬間、女のひとの声がした。

 槍が迎撃され、そこに立っていたのは一人の女性だった。

 

「式、さん?」

 

 そこにいたのは式だった。

 けれど。けれど、違う。何かが。

 どこかで会った。そんな彼女。

 

「こんばんは。極力出てこないつもりだったけれど、相手が相手だから出てきちゃった」

「あな、た、は――」

 

 いつの間にか着替えているとかそんな些細なことは良い。

 彼女は両儀式でありながら両儀式ではない。

 先ほどまでの彼女とは雰囲気が違う。

 

 花が散るほどのたおやかな女性。風光明媚な。

 

「ふふ、驚かせちゃったかしら。ごめんなさいね」

「ようやく出て来たか」

「そして、あなたは無粋ね」

「いうな。確かめねばならぬこともあるというもの。それゆえに手加減はしていたつもりだ」

 

 あれで? 瞬く間の間に全滅でしたけど?

 

「そう。それで満足?」

「いや、少しだけうずいてしまった。少しだけ付き合ってもらう」

 

 綺羅綺羅しい。その戦いは綺羅綺羅としたものだった。

 

 剣戟の火花が散り、槍の深紅が軌跡となる。

 一瞬にして十合、あるいはそれ以上の戟を交わし互いに一歩も譲らぬ。

 

 どちらもすごいが、攻めているのはスカサハで、式は守っている。

 

「ふむ、防戦ならばできるか。よかろう――」

 

 スカサハが槍を下ろした。

 

「マスターも、要所要所で出していた指示は良い。だが、不測の事態でももっとうまく対処できるようにな。さあ、行け。お主たちならば彼女に会っても、何とか出来よう」

 

 そう言ってスカサハ師匠は消えた。

 

「――はぁぁああ」

 

 オレはその場に座り込む。

 

「死ぬ、死ぬかと思った! 怖すぎだよ。無理、もう立ちたくないって――」

「ったた、まさか机の角に足をぶつけてコケるなんて――ん? なんだ、オレがバカやっている間に終わったのか」

 

 泣き言言っていたら式が元に戻っていた。

 

「おい、なんだ、不思議そうな顔して」

「いや、なんでもない。それより」

「なんだ?」

「起こして、腰抜けた」

「…………」

 

 心底呆れた顔された。けど、無理だよ! 戦闘中立ってただけでもすごいから!

 今思い出しても心臓が掴まれる思いだ。思い出しただけで震えがくる。

 何度戦っても、殺気をぶつけられることにはなれそうにない――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「劇場版、ノブの境界開幕じゃ!」

「なぁーに言ってるんですかアーチャー。あ、アイス買ってきましたよ」

「お、早いのう。さすがワープ沖田」

「誰が、ワープ沖田ですか。売れない芸人ですか。で、何にします?」

「わし抹茶」

 

 ――なんだこれ。

 

「おい、なんだこれ。四階から上の階が全焼してるんだが。明らかに違う芸風だろこれ」

「ふん、日本だからと派手にやったな」

「お、来たかマスター。信じておったぞ。おい、待て人斬り、スプーンがないぞ!?」

「え? だって家のがあるじゃないですか」

「馬鹿者! こういうアイスはコンビニでもらったスプーンで食べるのがいいんじゃろうが!」

 

 だから、なんだこれ――。

 クー・フーリンがいた階より上は全部炎上していた。というか本能寺だった。

 いつぞやの本能寺を思い出すくらいには本能寺だった。

 なにこれ、いつのまに別の世界に?

 

「マスター、大丈夫ですか、熱くありませんか?」

「ああ、うん、大丈夫」

 

 とりあえず灼熱の地獄っぽい本能寺だけど、なんか、まあ大丈夫っぽい。

 

「おお、マスター、よう来たの。待っておったぞ!」

「あ、マスターさん、こんにちは。みんな大好き沖田さんですよー!」

「ア、ハイ――じゃないくて! 何してるんだよ、二人は!?」

「何って、露払いじゃ。マシュマロサーヴァントまで続く栄光のレッドカーペットならぬ燃え盛る本能寺を作っておったのじゃ!」

「…………」

 

 とりあえず、ありがたいのか、ありがたくないのかはっきりしてほしい。というかギャグになるとはちゃけるの正直やめてくれないかなー。

 

「なんじゃ、マスターいいたいことあるなら言うてみい」

「いや、うん、じゃ」

「いやいやいや!? なんで帰るんじゃ! わし頑張ったじゃろ!?」

「いや、だって……」

 

 この現状でどうしろと? 褒められるとでも思っていたのか? これをほめろと? 無理を言うわないでくれ。

 

「ごめん、オレには――できない」

「なんで、めっちゃ溜めてシリアスにいったのじゃ!? 普通にありがとうノッブ! でいいじゃろ!?」

「だって、マンションの階段をあがった先は燃え盛る本能寺とか、もうね、ツッコミ切れない!」

「ぶっちゃけすぎじゃ!? 前のお主なら、何も言わなかったじゃろ!?」

「あ、それやめた」

「ノブ!?」

「ねーねー、マスターさーん、私にも話しかけてくださいよー。あ、アイス食べます?」

 

 なんでか沖田さんがいるのかはさておくとして、

 

「バニラある?」

「ありますよ」

「んじゃ、ストロベリー」

「はいはい」

 

 ハーゲンダッツのストロベリーを式が取っていった。

 

「好きなの?」

「…………」

 

 なんかにらまれた!? 睨まれたけど、そのまま黙々と食べ始めた!?

 

「で、ノッブは何してんの」

「わしの呪いを利用してここらをわしの領地とした。まあ、固有結界で塗りつぶしたわけじゃ。ここには悪霊の類もゾンビもおらん。ゆっくり上に行ける。

 

 上? どうやって上がれと?

 

「まっすぐ行けば上じゃ!」

「そんなテキトーな」

「もともとギャグ出身のサーヴァントに何を求めておるんじゃ。テキトーなのは当たり前だよネ!」

「…………」

 

 まあいいとして。

 

「マシュは、この先にいるんだな」

「ああ、覚悟しておくことじゃマスター。あれは、おまえが知っておるが知らんおっぱいサーヴァントじゃ」

「キリっとしながらおっぱいとか言ったら台無しだよ!」

 

 ともかく、オレたちは本能寺を進んだ。いつの間にか屋上の前の扉だった。

 

「この先だね。マシュの反応がある」

 

 ドクターからの通信。

 

「良し。行くぞ――」

 

 屋上の扉を開く。風が吹き抜ける。

 ようやく新鮮な空気を吸えたようなそんな感想すら抱く。

 そして、そこに、彼女はいた。

 

「ま、しゅ……?」

 

 純白に身を包んだ彼女。さながら花嫁のよう。骸骨で編み込まれた悪霊のドレスでなければ見惚れていたところだ。そして、何よりも怪しく輝く瞳に光はなく、それでいて浮かべた笑顔は見知ったものであることが異常さを醸し出している。

 間違いなく彼女だ。だが、決定的に何かが違う。

 

「先輩。ああ、お待ちしていました先輩。迎えに来てくれたんですね。私、とっても嬉しいです」

「あ、ああ、マシュ、迎えに、来たよ」

「はい、先輩。すみませんお手を煩わせてしまって。でも、大丈夫です。マシュ・キリエライトはもう先輩のことを煩わせません。さあ、先輩」

 

 近づいてくる彼女。一歩、一歩。彼女が近づいてくる。

 何も感じない。彼女からは何も感じない。いつも通り、普段通りの彼女のように見える。

 だから、オレは一歩後ずさる。

 

「? 先輩? どうかなさいました」

「あ、いや、な、なんでもない、よ。帰ろう」

「帰る? 何を言っているんですか先輩。先輩はずっとここにいるんですよ? だって、先輩、あんなに辛い思いをしていたんじゃないですか。気が付いてあげられなくてごめんなさい、先輩。でももう大丈夫です。マシュ・キリエライトが守ってあげます。私が守ってあげますから。大丈夫です。もう辛いこともしなくていいですし、苦しいこともしなくていいです。私がずっと一緒にいて、守ってあげますから」

 

 怖い。

 怖い怖い怖い。怖い――。

 

 彼女にオレは初めて恐怖を感じた。いつも通りに見える彼女。けれど、根本から異なっている彼女にオレはただ恐怖を感じていた。

 だから、身を引いていた。逃げるように。

 

 そんなオレに気が付いて清姫が前に出る。

 

「大丈夫ですマスター。わたくしが必ず――」

「先輩。どうして清姫さんとお話ししているんですか? 私では不満ですか? 私が弱いから。宝具レベルだってあがりません。だから、私には何も話してくれなかったんですね。わかりました。私強くなりました。それがわかれば、先輩は私を頼ってくれますよね」

「清姫、避け――」

「――――あ」

 

 彼女が腕を振るった。直感に従ってオレは叫ぶ。

 けれど。けれど。

 

「清姫!」

 

 清姫が引き裂けた。

 左右に脳天から真っ二つになる。

 臓物がはじけ飛ぶ。

 血が雨になる。あたたかな雨が、ただただ気持ち悪い。

 

「あ、あああああ――」

 

 そのあまりの事態にオレは吐いた。

 

「ああ、ごめんなさい先輩。先輩のお洋服を汚してしまいました。でも、安心してください。どんなに汚れても私が洗濯します。それに新しい服も私が作ります。そんなのよりも良い奴をです。安心してくださいね。

 ああ、先輩、大丈夫ですか? 背中なでなでしてあげます――」

 

 かつん。彼女の足音がした。

 

「――――」

 

 思わず、吐きながらも身を引く。逃げる。

 逃げろ。逃げろ。逃げろ。

 全身が叫ぶ。心が悲鳴を上げる。泣き叫びを嘔吐が無慈悲に押し流して、それでも身体は彼女から逃げるように身を引いた。

 

「――どうして逃げるんですか、先輩。ああ、わかりました。怖いんですね。大丈夫です。私が守ってあげます。私は役に立つんです。私は先輩の役に立ちたいんです」

「――――」

 

 やめろ。やめてくれ。

 

「先輩の役に立つんです。私だって。私だって。私だって私だって。私だって。それともまだ足りませんか? わかりました」

「行け、人斬り!」

「――そこ!!」

 

 ノッブの指示で沖田さんが飛び出す。

 縮地。一歩で音を超え、二歩で無間。そして、そこに沖田はいる。

 

「な――」

 

 しかし、沖田さんの攻撃はマシュの盾に防がれる。どんなに速く切りつけても彼女は防ぐ。絶対の盾だから。

 

「邪魔ですよ」

「コフッ――」

「沖田さん!」

「ええい、人斬りでも駄目か。いったん退――」

「ノッブさん、少し黙っていてください」

 

 沖田さんが雑巾のようにねじ切れ、ノッブの首が引きちぎられ背骨を振り回される。

 白い腕。彼女の周りに見える巨大なゴースト。彼女が纏うベールでありドレスである悪霊の集合体。圧倒的な死がそこにはあった。

 

「先輩。どうして逃げるんですか。先輩がどこかに行ってしまったら守れないじゃないですか――あ、そうです」

 

 彼女が何かを思いついた。その瞬間、

 

「あ――?」

 

 オレはとっさに身を引いた。そのせいで、左腕がねじ切れた。

 

「あああああああああああ――――」

「マスター!」

「トナカイ!!」

 

 痛い痛い痛い。痛い痛い痛い痛い!!??!

 意識が消えては痛みで目覚める。気絶することすら許されない。

 痛い痛い痛い痛い。

 灼熱。激痛。もはや痛み以外に何も感じない。

 

「もう、動かないで下さいよ。間違って腕を切ってしまったではありませんか。足をきってどこにも行けないようすれば守りやすいと思ったのに。でも、大丈夫です。私がおぶって運んであげますから。さあ、次こそは――」

 

 不可視の力がマンションの屋上をえぐる。

 

「ぐ――」

 

 オレを抱えたダビデの両足が砕ける。

 そのままオレは投げられてサンタの中に納まる。

 

「あとは、頼んだよ――」

 

 ダビデが宝具を使う。しかし――。

 

「邪魔をしないでください。さすがの私も怒りますよ」

 

 もう怒ってるじゃないか――。

 

 ダビデの腕が引きちぎられ彼は消えた。

 

「あなたたちがいると先輩が楽になれないじゃないですか。わかりました。じゃあ、先にみなさんから――」

 

 攻撃が放たれる。全方位。彼女を中心として無差別に。

 

「ああ、これはやばいですねー」

「おい、ハサミ男。どうすりゃ、あれを止められる」

「さて、殺してしまえばいいのでは?」

「それじゃ、駄目だから聞いてるんだよ」

 

 殺すことはできても、それでは駄目なのだと彼女は言う。

 それでは、あいつがここに来た意味がないと。

 

「ええー、だってそれやると、ちょっとアレですし」

「あるならさっさと言え!」

「メ……フィスト……頼む……」

 

 息も絶え絶えで、ちゃんと言えたかわからない。サンタさんが袋で縛ってくれている痛みをこらえて、メフィストに頼む。

 

「頼む? 頼むといいました? 悪魔に。はは。この(わたくし)に! ――嫌ですよ」

「――――なん」

「だって、(わたくし)悪魔ですもん。幾ら善いとは言っても悪魔は悪魔。マスターとのあれやこれやは楽しかったですけど――それとこれとは話は別でしてね!」

 

 体が浮く。彼の攻撃がサンタさんに直撃し、オレは落ちる。

 彼に受け止められて。

 

「さあ、行きましょうか」

「はな…………ぐぁぁあああぁああぁ」

 

 傷口に指を突っ込まれた。

 

「ちょっと黙っていてくださいね! でないと、変なところ切っちゃうかもですし! いひひひひ。(わたくし)は悪魔、信用する方が、悪いんですよ」

 

 そして――。

 

「ああ、あなたはいい人なんですね。さあ、早くマスターを」

「はいはい、ちょっとお待ちを――っと」

 

 彼はオレをマシュへと渡す刹那。

 

「――微睡む爆弾(チクタク・ボム)!」

 

 マシュの眼前で彼の宝具がさく裂した。時計の形をした無数の小型爆弾を爆発し吹き飛ばす。

 

「――――」

 

 さすがのマシュもこれには防げない。何せ爆発の至近距離には守るべきものがいるのだ。彼を守らなければならない。自分の防御なんて捨てて。

 そして、その爆発はマシュを吹き飛ばす。いや、それどころか、その背後にあるものすらも。

 

「――なん、で……」

「ああ、言ってませんでしたっけ? 悪魔は、律儀な生き物なのですよ。対価をもらったならそれ相応の仕事をする。それが、悪魔なのですヨ! さあ、どうぞどうぞ殺人鬼のお嬢さん」

「ったく――」

 

 式が駆ける。

 マシュが放つ攻撃を殺しながら、彼女はまっすぐにマシュへと。

 いいや、その背後へと。

 

「直死――。死が、オレの前に立つんじゃない――」

 

 ナイフの一閃が走る。彼女の背後にあるつながり。悪霊どもの怨念のリンクを彼女は殺した。

 

「さあ、今ですよ季節外れのサンタさん!」

「貴様に使われるのは癪だが、いいだろう――エクスカリバー・モルガン!!」

 

 黒の聖剣が天へと上り、死に物狂いの悪霊どもを消し飛ばす。もとよりマシュを核として存在していた連中だ。

 だが、それによって現出するありえざる存在。死霊を束ね尽くしたそれ。プライミッツ・マーダーにすら匹敵するそれ。

 けれど。けれど。

 

「はーい、さあ、(わたくし)をさっさと殺してくださーい」

 

 メフィストがその中心にいた。

 

「な……に……を」

「なにって、マスター。そりゃ、核になってみたりしただけですよ! 悪魔ですからね、これくらいどうにでもできますから。悪の心が抜けた分にいれてみたわけですが、あ、はじけそう! それはそれで面白そうですが、さっさと(わたくし)ごと殺すことをお勧めします」

「……なんで……」

「さて、どうしてでしょうね。まあ、いいじゃないですか、そういう気分だった。それだけですよ。では、マスター。どうか、あなたは時には休むこともして下さいね。あんまりせっかちに走りつづけると誰かさんのように、地上の快楽を素通りしてしまいますヨ。これからはふしだらな生活や他愛もない茶番劇も好んで、もちにかかった鳥のようにじたばたしてみなさいな――さあ、どうぞ」

「…………」

 

 式がナイフを一閃する。メフィストの霊核が切り裂かれ、彼とともに悪霊が死ぬ。

 特異点は消滅し、オレたちはカルデアへと帰還した。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「どうだい?」

「まあ、ちょっと違和感があるというか、痛むというか」

「幻肢痛ってやつだね。大丈夫解決できるよ」

「本当ですか、ドクター」

「ああ、我慢してくれ」

「…………」

 

 とりあえず無事な右手で一発ひっぱたいてから、医務室を出た。

 何とか戻ってきた。カルデアには新しく式が仲間に加わった。また力を貸してくれるという。心強い限りだ。

 

「…………」

 

 そして、オレはまだマシュに会えずにいた。どう会えばいいのかわからない。

 きっと彼女をあんなふうに追い詰めてしまったのはオレだから。

 

「さっさと行け、この」

「ちょ、式!?」

 

 いつまでもマシュの部屋の前で悩んでいたら、式に中に押し込まれた。

 

「せん……ぱい?」

「や、やあ、マシュ……」

 

 気まずい。

 

 とりあえず何とかしようと視線を彷徨わせる。普通の部屋だった。特に私物などもない。普通の。殺風景すぎる。

 そんな中で彼女は布団をかぶって座り込んでいた。

 

「せん……ぱい、私……」

 

 彼女の視線がオレの吊られた左腕に向く。まだリハビリ途中だからうまく動かせないけれど、ドクターが作ってくれた義手。

 色々できる。殴りつければスタンガンにもなるし、将来的にはロケットパンチだとかソナーだとかできるらしい。

 

 まあ、本物の腕じゃないのは結構堪える。

 意識がなかったとはいえど、彼女がやった。彼女はそれを覚えているらしい。

 

 泣きそうになって。それでも何を言っていいのかわからない。このままだと自分で自分の首を斬りそうなほどに憔悴している。

 

「マシュ……」

 

 かたかたと震える彼女。オレは、一度目を閉じた。

 思い浮かべるのはオレの目標。

 ()に勇気をくれた人。

 

「――マシュ。聞いてほしいことがあるんだ」

 

 びくりと、かたかたと震えるマシュ。泣きそうな君。安心してマシュ。

 

「マシュ。オレはね、君だから頑張れたんだ」

「え――」

「君がいたから頑張ろうって思った。良いところが見せたくて、君の期待に応えようと必死になった。無理をしたよ」

 

 みんなの忠告も聞かないで。

 

「だから、オレは倒れたんだ。君のせいじゃない。オレの責任だよ」

「でも、でも、私は、先輩の!!」

「うん、それについてはすごく痛かったよ。死ぬかと思った。気にしてないといえば嘘になるというか。めちゃくちゃ気にしてる。正直何を言えばいいのか悩むくらいには」

「…………はい」

「だから、オレはねマシュ、君が好きだ」

「……!? な、なん」

「はじめて会った時、君を見た瞬間に君を好きになった。だから、オレは頑張れたんだ」

「な、な、ななにを!?」

「何って告白だけど」

 

 普通に恥ずかしいからあまり気にしないで普通にしてもらいたいんだけど。

 てか、なんかエドモンが笑ってる気がする。

 

「な、なんでこの流れで告白に!? 先輩は、私を責めにきたんじゃないんですか! 怒っているはずです。見限られても仕方ありません。それだけのことを私はしたんです! 私は先輩をいっぱい傷つけました。精神的にも、肉体的にも。こんな私なんていない方がいいんです!」

「そうだね。いっぱい傷つけられたし、痛い思いもしたよ」

「だったら――」

「でも、好きなんだ」

「――――」

 

 好きな気持ちをどうこうしようなんてできない。

 おかしいかもしれない。

 そりゃ出会いからして、マスターとサーヴァントになった経緯も何もかもがおかしい。

 なら、おかしくていいとオレは思う。

 

「君が好きだ。マシュ、君はどうだ。オレのことは、嫌い?」

「嫌い、じゃ、ない、です」

「じゃあ、好きって思っていいのかな?」

「……わかり、……ません。それに、私は先輩に好きになってもらう資格なんて」

「人が人を好きになるのに資格なんていらないよ。それに、オレ耐えるのだけは得意だから」

 

 マシュと話すのは正直きついし怖い。

 でも、それ以上に愛おしく思う。

 心がひび割れながら、一方で修復していっている。そんな感じ。

 

「オレは君が好きだよマシュ。君になら、何をされても良い。オレだって悪い。マシュに何も言わなかったからね。そういうかっこつけもやめるよ。マシュにはなんでも話す。愚痴も、弱音も、泣き言も。もちろんマシュのも聞くよ。

 オレはオレらしく進むって決めたんだ」

「ですが……」

「だから、まずは謝りに行こう。みんなにごめんなさいってして、怒られて。それからまた始めよう」

 

 あの時のように。燃え盛る冬木の街で始まったように。

 

「そして、マシュ、君が良いと思ったらオレに告白の答えを聞かせてほしい」

 

 今は、保留でもいい。今は、答えてくれなくても。

 

「さあ、行こう。オレたちは、二人で一人前だろ?」

 

 泣きそうな彼女。泣いている彼女。それでも

 

「はい、先輩――」

 

 泣きながら、かすかに笑ってくれた――。

 




イベント楽しすぎるんじゃが。
試行錯誤が楽しすぎるんじゃが。
鬼ころし級、400万削って耐久勝利しました。

孔明、玉藻、オリオン強い。
玉藻はフレンドでしたが、オリオン硬すぎ。孔明で防御バフかけて自前の防御バフ使用したら茨木童子の攻撃二桁しか喰らわないとか化け物並みの硬さヤバイ。

重要なのは宝具の回転率。
あと酒呑童子をレベルマックスにしました。スキルとかまったくアイテム足りないからでいないけど最終再臨してレベルマックス。フォウ君はひょうたん集めてこれから食べさせます。
うん、いいね。最終再臨絵。素晴らしい。セリフも素晴らしい。

次回はFate/Accel Zero Orderか贋作イベ。それやってから五章。
ギャグ系シナリオはぐだ子編に回すことにします。
んー、贋作イベはギャグ系かな。なら、zeroにするか。
まあ、考えます。

あ、愉悦が足りない方。主人公義手になったよね。マシュには気にするなっていってるけど気にするよね彼女は(あとはわかるな?)

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