Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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メッフィーお仕事中。


彼のいない七日間 後編

「飽きてきたんじゃが――」

 

 チビノブをいじめるのも飽きてきたんじゃが。

 

「はよう目覚めぇ、マスター」

 

 お主がおらんと暇じゃぞ。

 いやはや、よう持ったと褒めてやるなんじゃろうが、まあつぶれてしまってはのう。わしらには何もできん。

 その一端がわしにあるとはいえ、あいつもあいつじゃからのぅ。根が深い。言うても聞かんところはわしに似ておるわ。

 

 とりあえず、あのアイドルをたきつけたは良いが、さて、どうしたもんか。

 こればっかりはマスター次第じゃし。

 

 わしらはやるだけのことはやった。もうあとはあやつ次第よ。

 

「アーチャー!」

 

 ん、なんか誰か来たのう。この感じは人斬りじゃな。ワープとかほんと、ずるいんじゃが。

 というか帰ったはずなのに、なんでまたこっち来とるんじゃ。

 

「なんじゃ、人斬りか。どうしたんじゃ、こんなところまで」

「いや、実はですね。敷金礼金なし、お風呂と厠が別で、このお値段で景色もいい物件がありましてね。今、なんか入居者を募集しているらしいんですよ!」

「んで?」

 

 とくに興味もないのう。なにせ、わし自分専用の部屋持ってるし。

 

「ほら、一緒にすみません? 家賃折半すれば、安いですし」

「ええーなんで、わしが人斬りとぉ?」

 

 というかお主座に還ったじゃろ。どうして好き勝手に出て来とるんじゃ。

 

「だって、誰も召喚してくれないんですよー。沖田さん大勝利ーなはずなのにー!」

「だって、期間限定だからね、是非もないよネ! その点、ノッブってすごいよね、優秀なスキルな上に宝具レベル5だしネ!」

「沖田さんだって優秀ですし――コフッ!?」

「なんか吐血芸も飽きてきたんじゃが。もっとこう、血を吹き出しながら回転するとかしてみたらどうじゃ」

「できませんよ!!」

 

 なんじゃ、つまらんのう。

 それよりもこれからのことじゃ。マスターをどうするかじゃ。

 

「なんです、アーチャー、何かあったんですか?」

「んー、マスターが倒れてのう。そうならんように注意はしておったが、まあ、してやられたという奴じゃな」

「あのマスターさんです?」

「そうじゃ」

「大変じゃないですか! えと、お見舞いを!」

 

 とりあえず足ひっかけてこかす。

 

「コフゥ!?」

「はいはい、おまえみたいなやつが行ったら大変になるだけじゃわ。なにせ不法侵入じゃぞ」

「えー、でも一度は一緒に戦った仲じゃないですかー。それに人気者の沖田さんですよ」

「正式に召喚されてない鯖が何言っとるんじゃ」

 

 期間限定鯖じゃし? 当分召喚はされんじゃろ。期間限定鯖の悲しいさじゃの。ま、わしはイベント限定じゃから復刻せん限り二度と召喚不能じゃが。

 

「ええー」

「はいはい、さっさとその新築物件とやらに行って来ればいいじゃろ」

「だから一緒に行きましょうよー。さびしいですよー」

「じゃあ、わしが何か頼んだら絶対服従な」

「え」

「それが嫌ならわしいかんぞ」

「うぅう、わかりました。るーむしぇあという奴で紹介料もらえるんで良しとしましょう」

「なんじゃと?」

 

 なんかうまいこと乗せられたというか、まあいいじゃろ。パシリゲットじゃし。ワープできるパシリとか便利じゃし。

 なんぞ道化者的な輩に契約書渡して終了。八階部屋を確保。なにやらるんるん気分の人斬りには悪いがあの契約書とか信用できんから、わしは署名なしじゃ。

 

 で、なにオガワハイム? 何これ、だいぶアレなんじゃが、なんというかまあ、アレなんじゃが。

 

「わーい、自分の部屋ですよー」

 

 しかも帰れぬな。つまりはようマスターが目覚めて助けに来てくれんといかんということじゃな。

 これは最悪じゃ。またあの魔術王とかいうけったいな鯖のせいじゃろ。

 わしらだけで解決できればいいのぅ。無理なら、目覚めたマスター次第か。

 

「――よし、人斬り」

「はい? なんです?」

「とりあえず、そこらへんにいるゾンビとか殲滅じゃ」

 

 さあて、マスターが来るまで少しは楽になるように暴れておくとするかのぅ。

 信じておるぞマスター。あの夜、わしと語った天下布武の夢。まさか嘘にはせんよなぁ――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 トナカイは目覚めない。

 だが、目覚めない方が幸せかもしれん。少なくとも、眠っていればこれ以上辛い思いもすることはないだろう。

 何かに巻き込まれていなければだが。

 

「む、トナカイなら何かに巻き込まれている可能性がありうる」

 

 その場合は、なるようにしかならない。大変だろうが、乗り越えられないのならそれまでだ。

 私はトナカイを甘やかす気はない。サンタがトナカイを引くのではない。トナカイがサンタを引くのだ。進路は示してやるが、我々を率いるのはトナカイ自身だ。

 

 それを下から支えてどうなる。どうにもならなかった。その結果がこれだ。

 自分で立ち上がらなければもはやそれまでだ。

 

「それはおまえもだ」

 

 シールダー。マシュ・キリエライト。デミ・サーヴァントだろうとそれは変わらない。

 部屋に閉じこもり出てこない。大方、責任を感じて閉じこもっているというのだろう。声をかける気も尋ねる気もない。

 甘い言葉をかけるなど論外だ。自分で気づかないことにはどうにもならない。それはトナカイにも言える。

 サンタが働くのはクリスマスのみ。私は来年のクリスマスに向けてプレゼントを集めるだけだ。

 

「というわけでだ、ドクター、ターキーを出せ!」

「なんで、僕!?」

「貴様が一番暇そうだからだ」

「いやいや、暇じゃないよ!? 彼の状態をチェックしたり」

「何度もチェックしては溜め息をついていれば状態が変わっていないことなど猿でもわかろう。ゆえに今は必要ない。何かあればあの龍娘がどうにかする」

「いや、それもそうだけど」

「いいから来い!」

 

 ドクター。医療スタッフのメンバーを全員袋に詰めている。こいつら、特にこいつはいつもおちゃらけたうるさい奴だ。

 そいつがまぎまりとかいう奴もやらずにまじめにしている。

 良いこと? 阿呆め、慣れないことを続けてこいつが倒れるとトナカイへのバックアップが終了する。

 

「だから、ターキーだ」

「だからどういうことなの!?」

「休息は誰にでも必要だ。サーヴァントでない貴様らは休めと言っている」

「――……」

 

 なんだその気遣いとかできたんだという目は。

 

「おい、貴様、私をなんだと思っているんだ」

「え、サンタ?」

「そうだ、サンタクロースだ。この程度の気遣いなど朝飯前だ」

 

 各々を部屋に投げ入れる。

 

「さて――」

 

 次だ。サーヴァントどもは各々過ごしているが何人か消えている。

 今消えているのは、クー・フーリンとブーディカ、織田信長、ジキル。

 消えていっている先は日本の特異点。

 

「冬木ではない別の場所か」

 

 トナカイ。起きたら必ず来るが良い。それまでに露払いくらいはしておいてやろう。

 特異点へ。飲み込まれるように征く。マンションの四階。

 

「悪趣味極まりないと思っていたが、私の役割はこれか――」

 

 これより上階で暴れる何者かもいるようだが、数が減っていない。それどころか増える一方だ。それが下にあふれだすのは時間の問題だろう。

 ゾンビ、悪霊、スケルトン。ホラーの目白押しだ。

 

「まあいい。行くぞ。サンタクロースが通る。者ども道を開けよ!」

 

 聖剣を放つ。

 トナカイが来るまでの間、ここでの足止めだ。あふれ出す亡者どもの。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 ああ、何かがおかしい。

 だが、何がおかしいのかはわからない。

 いつもいるはずの何かが欠けているかのような。

 そんな気分だった。

 

「人間なんてそんなものですよ」

 

 いつの間にかそこにいた悪魔が何かを言っている。

 悪魔。

 道化のような姿をした悪魔。長髪の男。メフィストフェレス。悪魔であるとして生み出されたものだ。

 

 サーヴァントだ。俺と同じ英霊だ。

 

「なんだそりゃ」

「さあ、知りません! 思わせぶりなこと言いたかっただけですひひひひ。それより部屋はどうです?」

「知るか」

 

 何より、何かが足りないのだ。俺には何か、そうもっと何かがあった。そう例えば()とか。だが、今はいない。

 そういないのだ。どこかへ消えていた。いや。いいや。あるいは、俺の方が消えているのかもしれない。

 まあいい。どちらにせよ、ここから出ることは叶わないのだから――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 一日が過ぎた。先輩は、目を覚まさない。

 先輩。私の頼りになるマスター。

 彼の顔が脳裏に浮かぶ。笑った顔。今思えば先輩は悩んだ顔や困った顔を見たことがない。いつも自信満々なようなそんな、私の理想(・・・・)通りの姿。

 

 先輩が倒れた時のことを覚えている。狂った姿。奇声をあげて暴れまわる彼の姿。けれど。けれど、私にだけはいつも通りに接してくれる姿。

 感じたのは恐怖。底なしの沼を目の前にしたかのようなそんな恐怖。底なしの恐怖。戦いの怖れとは違う別種のそれ。

 

 私は何も言えなかった。何も。何も。

 サンタオルタさんに言われて初めて気が付いた。

 私が先輩を苦しめていたことを。

 

 お願いします。お願いします。

 どんなに祈っても先輩は起きてはくれない。ただ眠ったまま。

 このまま眠ったままならどうしよう。そんな恐怖が脳裏をよぎる。そんなことはないと言い切れるのだろうか。

 私にはわからない。

 

「フォーウ」

「フォウさん……私は」

 

 フォウさんが心配そうに私の肩に。

 わからない。私はいったいどうすればいいのか。

 私が先輩を傷つけた。傷つけ続けていた。何も気づかないで。

 

「私は、サーヴァント失格です」

「フォウ、フォーウ」

 

 否定するようにフォウさんがなく。

 けれど。けれど、私はそれを否定する。私のせい。

 先輩、どうか。目を覚ましてください。

 

 先輩が眠ってから二日が過ぎた。

 時折先輩の魔術回路が励起しているらしいと聞いた。何かが起きている。けれど私には何もわからない。

 私には何も。何も。何も。

 

「私は、どうして――」

「辛いですねぇ。支えになりたいのになれないのは」

「だ、誰ですか!」

「ああ、私しがない、幽霊みたいなものです」

「幽霊? カルデアに?」

 

 そんなことがあるのでしょうか。しかし、現に声は聞こえど姿は見えません。

 

「わたぁしはですねぇ。困っているあなたを見かねて、出てきたんですよー」

「……困っていません。困っているのは、先輩です」

「ほほう、先輩。先輩とはどのような方なのですかな?」

 

 気が付けば私は先輩について声に話していた。これはいけないことだとわかっていても、止められない。

 先輩のいいところ。先輩の、先輩の先輩の。私が知る先輩のことを話して、私は愕然とする。

 私は先輩のことを全然知らないということに。いいところはわかる。じゃあ、悪いところは? 知らない。見たことがない。

 

 何が好き、何が嫌い。そういうことはわかっても、わからないことが多い。いつ、何をしているだとか。趣味で何をしているとか。

 そんな話を私は、まったく聞いていない。

 

「私は、先輩のこと、なにも知らない――」

 

 ああ、それじゃあ当然です。先輩のことを傷つけるのも当然。

 やっぱり私は、

 

「ああ、駄目ですよ。駄目駄目」

「え――」

「だって、ほら、なんてごくじょ――いえいえ。違います違いますヨー」

 

 ? なんでしょう。この幽霊さん先ほど何を言いかけたのでしょう。

 

「あの幽霊さん?」

「いえいえ、マシュさん。いなくなるだなんて、思ってはいけませんよ」

「ですが――」

 

 先輩を傷つけるだけ傷つけて、笑っているようなデミ・サーヴァントなんて先輩の方から願い下げのはずです。

 

「あなたがいなくなれば、もっとその先輩が傷つくのではありませんか?」

「…………じゃあ、私は」

 

 どうすればいいのでしょう。

 先輩を傷つけたくない。そのために私はいない方が良い。けれど、いなくなっても駄目。何も、できません。

 

「大丈夫。一緒に考えましょう。私も一緒に考えますので」

「幽霊さん、ありがとうございます」

 

 私はこの声だけが聞こえる幽霊さんにこの短い間でとても親しくなったように感じる。最初から親しみを感じさせましたけど。

 というかとても馴れ馴れしい方です。でも、

 

「少しだけ、楽になりました――」

「いえいえ、それならば良かった」

 

 ――三日目。

 

 いつの間にか朝になっていることに気が付く。シャワーも浴びるのも億劫になってきました。

 けれど、けれど。幽霊さんとのお話だけは私はよりどころにしていました。まるで、先輩の代わりのように。自覚なく。

 

「今日も来ましたよー。おや、一段とひどいご様子」

「そうでしょうか」

「ええ、そうですとも。まあ、私は気にしませんがね」

「先輩は今日も目覚めません」

「おやおや、大変ですなぁ」

「このまま目覚めなかったら、私は――」

 

 どうすればいいのだろう。思えば先輩に頼ってばかりだ。すぐに指示を仰いでいた。自分から何かを提案したこともない。

 何より、私は――。

 

「確かに、あなたは先輩に頼りすぎですねェ。ですが、人間なんてそんなものです。頼るし、頼られもする。あなただって、頼られていたでしょう」

「ですが……」

 

 先輩は倒れました。そんなに無理をしていたことなんて何一つ話してくれなくて。

 相棒だと思っていたのは、私だけなんでしょうか。私にはそんなことも話す価値なんてない。そんな風に思われていたんでしょうか。

 

 駄目。駄目。

 

 そんなこと先輩が思うはずはないです。

 

「本当ですか?」

「え――」

「だって、あなたの先輩は、あなたに何も話さない。あなたは先輩のことを何も知らない。ここまで旅をしてきて、本当の先輩をあなたは知っているんですか?」

「――――」

 

 知らない。彼の言う通り。私は何も。

 

「ほら、あなたは何も知らない。教えられていない。あなたなんてその程度だという証明ではありませんか?」

「で、ですが、プライベートですし」

 

 違う。そう思う。けれど、けれど。

 信じられない私がいることに愕然とする。先輩はそんなことをしない。何か理由があった。そう思おうとしてうまくいかない自分に私は愕然としてしまう。

 違う。違う。必死に。必死に。

 

 けれど、けれど、彼の言葉が耳に滑り込んでくる。本当に? 本当に? 本当に?

 彼の言葉がするりと耳に入ってくる。心まで。

 やめてと言えばいいのに、言葉は何も出てこない。

 

「本当はわかっているんでしょう、あなたなんてその程度。もっと使える英霊が来ればお払い箱。だから、何も話さない」

「ち――」

「違う? 本当に? じゃあ、なんであなたに話さないんです? おかしいでしょう。ほかの方は気が付いていましたし。なにかあれば話すのが主従というものでしょう?」

「…………」

 

 私は、何も言えなかった。否定したいのに。否定出来ない。

 もしかしたら、本当にだなんて、思ってしまって。そんなわけないと信じているのに。

 

「だから、確かめてみましょうよ」

「え――」

「要は先輩があなたに対して何を思っているかを知れればいいわけです。ここは少し家出して反応を見てみましょう」

「で、ですが、先輩は今――」

「大丈夫大丈夫。目覚めますよ。だから、さぁ、行きましょう――」

 

 ――どうせ、いなくなっても良いとか思っているのならそれくらいしてもいいんじゃありませんか?

 

 私は、私は。

 先輩。先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩

 先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩。

 先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩。

 

 先輩。先輩のことが知りたいです。どうしても。

 

「わかりました」

 

 それに、もし来てくれないのなら、そのまま消えてしまおう。私なんて、その程度の存在なのですから――。

 消えても良い。どうせ、私なんて。

 

「ようこそオガワハイムへ――」

 

 そこについた瞬間、

 

「イヒヒヒヒ、ああ。実に、滑稽ですねぇ! 滑稽かな滑稽かな!」

 

 私は、何かに、飲み込まれ――。

 

 せん、ぱ、い――。

 

 




次回、空の境界編。

なんと次回の相棒は式と清姫! 安定のダビデお留守番、すると思ったか、今回はかっこよく出陣予定だよ! なにせ連れていける奴がこいつらしか残っていないという事実。
サンタオルタは槍オルタの代わりに四階に配置。

で、マシュですが、巌窟王の代わりとして、後輩系ヒロインとして必須事項である空の境界編ラスボスになってもらうことが確定しました。

あ、沖田さんがカルデアに来ていたのはノッブという縁を利用しての何かです。
時々遊びに来てます。コハエースだから深く考えたら負けです。

師匠は自力で来てますが、特異点でもなければ長く現界はできないので即座にキャスニキを修行場へ引き込んでいきました。生存を祈ってください。

さて、では次回をお楽しみに。

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