Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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空白 断章
彼のいない七日間 前編


「ドクター、先輩は……」

「おかしいんだ、目覚めない。バイタルは安定しているし、魔術的な痕跡もない。魔術回路も正常だ」

 

 だが、目覚めない。

 カルデア最後のマスター。唯一の希望。僕らが背負わせすぎた、男の子。

 彼は眠り続けている。鎮静剤の効果が切れても眠り続けている。

 死んではいない。生きている。全てが正常値。けれど、目覚めない。何の異常も見られないのに目覚めない。

 

「ダヴィンチちゃん、わかるかい?」

「さて、色々と可能性は考えられるけど、これは私にもわからないなぁ。さっき不自然に魔術回路が励起している節はあったけど。もしかしたら何かに巻き込まれてたりして」

「私の、せいでしょうか、私が――」

「マシュ、それは違うよ」

 

 違うよ。マシュ。僕らの責任だ。僕の責任だ。彼がああなるまで気が付かなかった。気づいてあげられなかった。

 一般人のマスター。最後に残った希望。彼に頼る以外に方法はなかった。彼もまたそれに応えようとしてくれた。無理をしていたということに僕らは気が付かなかった。いや、見ないふりをしていた。

 

 彼のその姿に僕らは、希望を見たかった。最後のマスター。一般人であるが、その不屈の精神で特異点を修正し世界を救う。

 そんな冗談のような理想を彼に押し付けていただけだ。そうしなければ世界が滅びるという免罪符を突きつけながら。

 

「とにかく、今は待つかしない」

 

 彼が目覚めるのを待つ以外にない。それ以外にできることが、ない。

 

「……ここは僕が見ておくから、マシュ、君は休むと良い」

「……はい」

 

 部屋に戻るマシュ。

 

「マシュのダメージ、結構でかそうだね。君は大丈夫かいロマン?」

「……正直堪えてるよ」

「本当、酷な運命だよ――」

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 マスターは眠り続けている。

 

「ったく、見てられねえな」

 

 あれからマスターは眠り続けている。自分のふがいなさにまったくもって憤る。

 だというのにできることと言えば癒しのルーンを刻むくらいだ。それすらもまったく意味をなさない。

 ドルイドという身。魔術師のサーヴァントという己。

 

「あれかねぇ、師匠ならどうにかできたのかね」

 

 つくづく運命という奴はままならないものだと柄にもないことを考える。

 何が導くだ。マスター一人、相も変わらず己は導けていない。

 己に課したそれすらも守れぬ未熟。

 

「師匠に殺されるなこりゃ」

 

 嫌な寒気を背中に感じる。これはまったくもってヤバイというかなんというか。

 そのうち師匠が出てきて殺されるんじゃないだろうか。

 そんなことを思う。

 

「良し――」

「ほう、何が良しなのか。聞かせてくれるか弟子――」

「いや――」

 

 マスター。俺は信じている。おまえならきっと戻ってくるってな。

 だから、すまん、今は逃げさせてくれ。俺の命の為に。

 この埋め合わせは必ずする。ああ、絶対だ。

 ルーンでもなんでも教えてやる。

 だから、今だけは――。

 

「さて、ワシもおまえと同罪なわけだが、なぁに、互いに反省する点はあるわけだから、互いに鍛え直そうではないか。なあ、愛弟子」

「あ、師匠、ちょ――」

 

 俺は新たに日本に出現していた特異点へと飛び込んだ。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 一日が過ぎた。旦那様はまだ目覚めません。

 眠り続けています。

 わたくしは傍らで待ち続ける。いつ目覚めても良いように。それが良妻であると確信しているゆえに。

 けれど。けれど、旦那様は目覚めない。

 待っても。待っても。

 待っても。待っても。

 待っても。待っても。

 まるで、あのひとのように。

 

 二日が過ぎた。旦那様はまだ目覚めません。

 わたくしは傍らで待ち続ける。いつ目覚めてもいいように。

 けれど。けれど、旦那様は目を覚まさない。

 待っても。待っても。

 待っても。待っても。

 待っても。待っても。

 

 考える。わたくしは考える。

 彼の言葉を。彼女の言葉を。

 わたくしは旦那様を愛している。そこに嘘などあるはずがない。

 罵倒されたということは愛が足りなかったということ。だからこそ片時も離れずに旦那様のそばにいる。

 お優しい旦那様。目覚めればきっと、また変わらぬ笑顔を浮かべてくれると信じています。

 

 ――嘘だ。

 

 だって、待っても。いつまで待っても、戻っては来ない。あの時の、あのひとのように――。

 

 三日が過ぎた。旦那様は目覚めない。

 わたくしは傍らで待ち続ける。旦那様がいつ目覚めても良いように。

 けれど。旦那様は目覚めない。眠ったままの旦那様。

 あなたはわたくしに微笑んでくれない。

 あなたはわたくしに声を聞かせてくれない。

 あなたはわたくしに触れてはくださらない。

 

 待っても。待っても。あなたは目覚めてはくれない。

 こんなにも想っているのに。こんなにも、お慕いしているのに。

 あなたは目覚めてはくれない。

 わたくしはあなただけを見ているというのに。

 

 ――嘘だ。

 

 四日が過ぎた。ああ、もうそんなに時が過ぎたのかと、ドクターに聞いた。

 旦那様は目を覚まさない。

 わたくしは見続ける。旦那様の顔を。安らかに見える。その顔を。

 旦那様は眠り続ける。

 わたくしはそれを見続ける。

 

 旦那様。愛しい旦那様。愛しています。

 だから、早くお目覚めになってください。良妻はここに。いつまでもここにいるのですよ。

 ずっと。ずっと。わたくしは待ち続ける。

 かつて待ち続けたのと同じように。

 

 愛しくて、恋しくて、愛しくて、恋しくて。

 けれど。けれど。

 同時に、悲しくて、悲しくて、悲しくて悲しくて悲しくて。

 憎くて憎くて憎くて憎くて憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎。

 

 ――駄目。駄目。

 

 旦那様へと伸ばした手を押さえる。

 わたくしは待ち続ける。

 わたくしは待ち続ける。

 

 五日が過ぎる。

 

 旦那様、旦那様。旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様

 旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様

 旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様

 旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様――愛しています。

 

 ――嘘だ。

 

 六日が過ぎる。

 

「私の言葉の意味がわかったか」

 

 サンタ様がわたくしの前にいる。

 わたくしは答える。

 

「はい、愛してます、愛してます、愛してます! 本当に、心の底から愛してます。この心を偽物と呼ぶのなら、世界に真実はありません」

「――そうか。だから、燃やすのか」

「あ?」

 

 わたくしの手には炎。

 龍と化した、炎。

 

 嘘。嘘。嘘。

 ああ、ああ。

 わたくしは、そう。わたくしは、愛してるから、愛して。だからこれも愛で。

 

「愛しいから、燃やすか。その価値観は私にはわからんが貴様のそれは愛ではなく後悔だろう」

 

 後悔? はて、いったい何をわたくしは後悔しているというのだろう。

 何を、何を。何を。

 

 ――これより逃げた大嘘つきを退治します

 ――愛で、悲しみで、ただ燃やした。

 

 わたくしは、わたくしは――。

 

「嘘を嫌う? 狂っているからと言って都合よく解釈しているだけだろう。貴様自身がもっとも嘘つきであることをな――」

 

 聞こえない。聞こえない聞こえない聞きたくない。

 

 そして、七日。

 旦那様が目を覚ました。その手に、見慣れない帽子とインバネスを持って。

 ああ、でもそんなことは関係ありません。

 関係ないのです。

 旦那様がお目覚めになった。もうそれだけで――。

 

「令呪によって命じる。君の狂化の戒めを解く――」

「旦那様?」

 

 戒めを解く? 何を言って?

 

「え、え――」

「これで言いたいことが言える。清姫。もう都合のいいものを見るのはやめろ」

「はい、なんでしょう旦那様?」

 

 ――やめて。

 

「オレは、君が嫌いだよ。君の理想になることももうない。オレは安珍の生まれ変わりじゃない」

 

 ――やめて。

 

「オレは――」

 

 ――()を壊さないで。

 

 けれど。けれど。かれは名前を告げた。自分の名前を。

 安珍ではない、名を。

 

「どうして、どうして――どうして!!」

 

 どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!

 

「どうして、狂わせておいてくれなかったのですか! どうして!!! そうすればわたくしは!! わたくしは!!」

 

 ――()を見続けることが出来たというのに!!

 

「だからだよ。君の愛はオレに向けられていない。言ったよ。自分に都合のいいことしか見ていない、自己満足の愛。どうして、オレに向いてない愛を受け取ることができるんだ。

 オレは、そんなものほしくない。迷惑って言っても聞かない。そんな奴にどうして愛を感じられるというんだ!! ――だからオレは、君が嫌いだ」

「――――」

 

 強い言葉。ああ。それがあなたの。

 もう全ては手遅れなほどに。

 それも全ては自分が。

 また。また。

 

「そう。そう。そうなのですね。それが、あなた(・・・)の」

 

 ――やはり、わたくしは死んだ方が良いのですね。

 

 このままではわたくしはあなたを焼き殺してしまう。

 わたくしはどうしようもない女です。

 いつまでも、いつまでもいつまでも待ち続ける女。それしか知らない。

 裏切られたことをいつまでも怒って。

 逃げられたことをいつまでも憤って。

 

 そして、燃やしたことを、後悔している。

 だから今度こそはと良妻になろうとした。

 何も見ずに。都合のいいことだけを見て。

 

 ああ。なんて、なんて醜い女。

 なんて卑しい女。

 やはりわたくしは――死んだ方が良い。

 

「待って」

 

 手が掴まれる。

 大きな手。(安珍様)のではない。彼の手だった。

 優しく綺麗な。

 

「離してください」

「駄目だよ。まだ話は終わってない」

「終わりました」

 

 そう全ては終わりました。

 結末は変わりません。

 

「終わってない。まだ。何も。けれど、君が、オレを見てくれるのならオレは君の想いを受け止める。答えを出す。オレは逃げない」

「…………」

「オレは安珍じゃない。弱い、何の力もない君のマスターだ」

 

 ああ。ああ。

 

「もし、安珍としてじゃなく、オレに好意を抱いてくれているのなら、オレは君にきちんと答えを伝えるよ。嘘はつかない。絶対に逃げない」

「――――信じ、られ、ません」

 

 そう言って彼は逃げた。きっと、あなたも同じ。

 

「いいや、逃げない。絶対に。勇気をもらった。だから、怖いけど絶対に逃げない」

「……い……いの……です……か信じても……」

「信じてくれないと困るよ。オレは君のマスターだ」

 

 ああ。ああ、やっぱり、この人は――。

 

「……わた、…………わたくしは、あなたを愛しています」

「うん」

「初めて会った時、安珍様だと思いました。けれど、違います。今なら、わかります。裏切られたくなかったから、もう辛い思いはしたくないから、だから、わたくしはあなたを安珍様だと思おうとしました」

「うん」

「でも、ほんとうは、あなたを、愛しています。好きです、マスター」

「うん、嬉しいよ清姫」

 

 ああ、ああ。この人は、本当に。

 

「でも、ごめん。オレなんかを好きになってくれたことはとても嬉しい。けれど、オレにはもう好きな人がいるから」

「……マシュ、ですか」

「うん」

 

 ああ、やっぱり。あなたは一途な人。わかっていました。ずっと。ずっと。あなたはずっと。彼女だけを見ていたから。

 それも見ないふりをしていただけで。都合の良いものだけを見ていただけで。

 

 だったら――。

 

「第二夫人、でもいいです」

「え?!」

「もしマシュがあなたのことを振ったらそのまま正妻にしてもらっても構わないでしょう。もしマシュが承諾したのなら、わたくしは、第二夫人でも構いません」

「え、ちょ!?」

「いい、ですよね、マスター」

 

 縋るように見上げる。

 わたくしはズルい女です。

 

「…………善処します」

「もぅ」

 

 でも、やっぱりマスターらしいとわたくしはそう思うのです。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 彼は目覚めない。彼は眠り続けている。

 ドクターがいうには異常はない。けれど眠り続けている。

 マスター。

 

 ごめんなさい。

 

 あたしは謝り続けている。

 それが意味のないことだと知っていてもあたしは謝り続ける。それ以外にあたしにはできることがないから。

 気が付いていながら、こうなることを遅らせることしかできなかった駄目なサーヴァントだ。

 何が勝利の女神だ。何が勝利だ。

 かつても。今も。負けてばかりだ。

 

 負けて。負けて負けて。

 これからも負けるのか。

 そんなのはいやだ。

 

 あたしは、あたしは――。

 そして、気が付いたら、あたしは――見慣れぬ部屋にいた。

 ああ、居心地がいい。

 何も気にしなくていい。そんな気にさせられる。

 

 あたしは――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 一日が過ぎた。子イヌは眠り続けている。

 (アタシ)は歌の練習をする。

 子イヌが起きて一番に聞いてもらうために。

 

 (アタシ)の歌はひどい。どうひどいのかわからないけれど、それでも練習をする。声は良いって、子イヌに言ってもらったことがあるから。

 それは信じていいと思うから。

 だから、(アタシ)は歌の練習をする。

 

 二日が過ぎた。

 子イヌは目を覚まさない。様子を見に行った。あいつがずっと動かないで子イヌを見ているのはちょっと怖かったけれど何も言わなかった。

 だってみんな考えることはきっと一緒だから。

 

 眠り続けている。起きる気配はない。

 

「子イヌ、早く起きなさい。(アタシ)頑張って子イヌの為に歌の練習しているのよ」

 

 誰かの為に歌うのはとても大変。歌うことは気持ちがいいことだから。忘れることができることがあるから。

 それでも、子イヌの為に歌う。

 

 三日が過ぎて四日が過ぎて。五日が過ぎて

 子イヌは起きない。目を覚まさない。

 (アタシ)は歌の練習をする。

 

「それじゃダメじゃのぅ」

「なんでよ!」

「だって、あれじゃろお主、マスターが眠り続けているのを忘れるとかそんな気で歌っとるじゃろ。一日目は聞けたのが、今じゃまた前に逆戻りじゃぞ」

「――――」

「ほれ、頑張らんかい。最初の歌はいいんじゃから。目を背けずマスターの為に歌ってみせい。おぬし無駄に前向きなのが取り柄じゃろ」

 

 六日目。

 なんだか煽ってくるノッブとともに練習する。頑張って、(アタシ)は子イヌを想う。子イヌの為に歌を歌う。

 

 そして、七日目。

 

「子イヌが目覚めたって!?」

「あ、エリちゃん、ちょうどよかった」

「ちょ、ちょうどよかったじゃないわよ。何、普通にしてるの、心配したんだから!」

「ああ、ごめんちょっといろいろあったんだよ」

 

 でも元気そうで安心した。

 

「…………」

 

 言わないと。まずは、ちゃんと謝らないと。それから、聞いてくださいってお願いするの。

 聞いてくれないかもしれない。けど、けれど。

 それでもいい。(アタシ)はそれだけのことをしたから。

 

 でも、今度は間違えない。今度は。だって、今度はちゃんと教えてもらったから。

 

「「あの――」」

 

 かぶった。かぶったかぶった――。恥ずかしい。

 

「えっと、そっちから」

「うん、えっと、そのマスター……ごめんなさい」

 

 頭を下げる。(アタシ)は頭を下げる。

 マスターは今どんな顔をしているだろう。怖くてかおがあげられない。

 マスターが動く気配がする。

 

 殴られるのかな。痛いのは嫌だけど、それだけのことをしたってことだよね。

 

 けれど、けれど。

 

「え……」

 

 ぽんと、頭にマスターの手が置かれる。ぽんぽん。

 

「むぅ、羨ましい」

「はいはい、清姫は黙っててね――顔を上げてエリちゃん」

 

 恐る恐る。顔を上げる。マスターがいる。清姫を連れた。

 

「あ、えっと」

「ちゃんと謝ってくれるとは思わなかった」

「あ、謝るわよ、ちゃんと教えてもらったもの」

「そっか。オレもひどいこと言ったごめん」

「良いのよマスター。あ、あのね、それで、(アタシ)(アタシ)……」

 

 い、言わないと。ああ、でもでも――。

 

「聞くよ、エリちゃん。だから、言って。言ってくれないとわからないから。オレが言えるわけじゃないけど、これからは言うことにしたから。だから、エリちゃんも言って言いたいことをさ」

「……あ、(アタシ)ね、練習したの、歌。子イヌの為に、歌おうって、想って。だから、聞いてください」

「わかった。聞くよ」

「えっと、酷かったらすぐに耳塞いでね」

 

 (アタシ)は歌う。子イヌの為に。

 

「――――」

 

 どうかしら。大丈夫? 見たくないから目を閉じて。マスターの為に歌う。

 

 歌い終わったとき、聞こえたのは、拍手の音だった。

 

「良い歌だったよ」

「ドラバカの癖にまっとうでしたわ」

「はぁああぁ――」

 

 (アタシ)は思わず座り込む。ちゃんと歌えた。ちゃんと褒めてもらえたそれが嬉しくて。

 

「エリちゃん、きっと君は誰かの為に歌った方が良いと思う。正直、前のなんて聞くに堪えないし」

「うぅ」

「でも、誰かの為に歌う君の歌はとても素晴らしかった。だから、これからもそれでお願い」

 

 何かすごい迫真! って感じの伝わるお願いだけど。

 

「うん、わかった」

 

 ここにいる間くらいは、頑張るって決めたから。

 (アタシ)は子イヌの為に歌うって。

 

「じゃあ、次のコンサートの準備をしてくるわ!」

 

 そして、(アタシ)は見慣れない部屋にいた――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「あ、マスター目覚めたんだ」

 

 七日目。

 マスターが目覚めた。

 

「良かった良かった。大丈夫かい?」

「心配かけたかな?」

「そりゃもうね。なにせ君の破産は僕の破産だ」

 

 この七日まったく生きた心地がしなかったよ。

 でも君が目覚めてくれた。僕はそれを喜ぼう。

 これが僕の本心さ。

 

「でも、なんだろうね。何かいいことがあったみたいだ」

 

 いい顔をしている。発狂した君とは大違いだ。何があったんだろうね。

 でも、その何かには感謝しないと。

 おかげで、僕らはまだ戦える。

 マスター。君が帰ってきた。きっといつの日か世界は救われるだろう。

 

「その帽子とインバネスってやつが原因なのかな? かっこいいじゃないか」

 

 彼は服装を変えた。黒いスーツにインバネス。それから帽子。

 

「まあね。オレの尊敬する人からもらったものだよ」

「へぇ、それはまたいい人なんだろうね」

「ああ、オレを導いてくれた人だ。安心してくれダビデ。オレは大丈夫だ」

 

 恐怖も、苦痛も、辛いのも当然いやだけれど。

 それでも前に進む勇気をもらった。

 

「それで、さ、一つ聞きたいんだけど」

「なんだい?」

「落ち込んでいる女の子には、何を言ったらいいんだろうか?」

「はは――」

 

 本当。どういう心境の変化なんだい。実に。ああ。実に好ましいじゃないか。

 ずっとずっと人間らしくなった。こういうのはあれだけど、ひたすら理想になろうとしていた君は見ていて良いものじゃなかった。

 けれど、今の君は――控えめに言って最高だ。

 

「そんなの決まってる。愛の言葉だよ」

 

 女は愛を囁くと良い。

 あとは金。土地。

 愛がなくても金と土地があれば女の子はよってくるからね。

 

「ひどいな、それ」

「ひどくないよ僕の経験さ。何ならいくらか貸してくれたら倍に増やして見せるよ?」

「いけませんマスター! この者詐欺師ですわ」

「ひどいなぁ」

「お金ないし、まあ、あとで」

「うん、それじゃ頑張り給えよ若人」

 

 大丈夫。君なら。

 僕らではだめでも君なら。

 

 それにしても、

 

「誰だろうね、彼を立ち直らせるために人を呼んだのは」

 

 もしかして、君かソロモン。

 うっかりしてるねぇ。あるいはそれすらも見通し済みかい?

 

「でも、次は負ける気はない」

 

 君の父親が誰だか思い出させてあげるよ――。

 




というわけでオガワマンションフラグも立てながら行きます。

きよひーの狂化を解除。それによって都合のいい解釈をさせずに本音をぶつけました。
なんかぐだ男がただのイケメンに見えるが、それもこれも巌窟王のおかげなのだ。
エリちゃんは前向き。私の中では地味にスチパンヒロイン系に一番近い存在。
誰かの為に歌えば良いのだ。それが一番難しいけれど諦めない彼女ならばきっと大丈夫。

安定のダビデ。

後半はノッブ、サンタ、ジキル博士という割と安定組。
そして、マシュ。

さあ、一番ヤバイのをラストに。

あ、あとR18、投降したよ。Fate/Last Master IFというタイトル。
初めてだから期待しないでね。
いいか、絶対だぞ。絶対に期待するなよ。低クオリティだから。

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