ほぼ週間サンタオルタさん
「あえていいます。世はまさにプレゼント日和――カルデアもクリスマス仕様ですね、先輩!」
そんな後輩の声が聞こえた気がした。
「――おや?」
しかし、愛しの後輩。僕のデミ・サーヴァントはおらず。
一面の雪景色がそこには広がっていた。
「貴様がレイシフトのトンネルを抜けるとそこは一面の雪原だった。文学的な始まりだな。貴様、という人称が実にこまやかだ。そうは思わないか?」
「そ、その声は――」
その声を僕は知っている。
かつて。ハジマリの特異点。僕らの旅のハジマリにてその声を聞いた。
彼女は最後の敵だった。阻むもの。あの特異点で僕らが打倒した最強の敵。
最強の聖剣をその手に掲げる者。
彼女の名は――。
「サンタさんだ」
「はい?」
「だから、ブラックなサンタオルタさんだ」
「は?!」
いや、確かに彼女はどういうわけかサンタの格好をしているけれど。しかもミニスカだけれども。
大空洞にいた彼女に間違いはなかった。
――殺される。
そう思った。逃げなければ。
逃げなければ。逃げなければ逃げなければ。逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ逃げなければ。
マシュは。マシュは。マシュ――、マシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュマシュ。マシュ、たすけ――。
「おい、待て、何を怯えている」
何かがひび割れる音が響く。何かがひび割れる音が響く何かがひび割れる音が響く何かがひび割れる音が響く何かがひび割れる音が響く。何かが。何かが何かが何かが何かが何かが何かが何かが、割れる割れる割れる割れる割れる割れる割れる割れる割れる割れる割れる割れる割れる割れる割れる割れる割れる割れる割れる割れる割れる割れる、割れ割れ割れ割れ割れ割れ割れ割れ割れ割れ割れ割れ割れ割れ割れ割れ。
恐怖に混濁する意識と、歪み視界がありとあらゆる全てを呑み込んでいく。
僕の脳みそは理解をすっぽかして、ただ恐怖という感情を発するだけの装置と成り果てていた。
生物の至上命題たる生きるということを実行するための呼吸というもっとも普遍的な動作すら忘れてしまっていた。
全てが漆黒に染まりそうになる。
全てが砕け、壊れる――。
「ええい、落ち着け」
「ごはっ――」
何か白い袋で殴られた。衝撃で呼吸が戻る。
「貴様勘違いしているな。安心しろ。今の私は味方だ。まったく、貴様まで勘違いしてどうする。まったく」
――え? え?
――勘違い?
――味方?
「いいか。よく聞け。私はサンタオルタ。確かに貴様相手に何やら聖剣ぶっ放したり殺そうとしたりとかいろいろしたような覚えがあるが、そんなものは捨て置け。重要なことじゃない。今は子供たちにプレゼントを配る悪のサンタクロースだ」
「さ、さんた?」
「そうだ。貴様も勘違いしていたようだし、私はどうも誤解されているようなのでな。感謝をこめ、みなに贈り物を届けたいのだ」
「――――」
思わずぽかんとしてしまった。だって、あのかつて冬木の特異点で僕らと戦った彼女とはあまりにも――いや、雰囲気は同じだが、やっていることが違いすぎて。
僕はただぽかんとしてしまった。
「ころさない?」
「なぜ殺す。貴様を必要としているから呼んだというのに」
「ぜったい?」
「だからそう言っているだろう。見ろ。苦労して集めたプレゼントたちを。これから配ろうと思ったら肝心の移動手段がなくなってしまった。トナカイどもが逃げ出してな、だから貴様に我がトナカイとなる栄誉を与えようというわけだ。わかったか」
「た、たすかったぁ」
助かった。助かった助かった助かった。助かった!
「ごはっ」
なぜか喜んでいたら殴られた。
「なんで」
「何やら気持ちが悪かったからだ――チッ、プレゼンの最中だというのに敵が集まってきたか。よし、剣をとれ」
と言って剣を投げ渡される。
「は? は?」
「行くぞトナカイ。サンタの隣で戦うことがどういうことか教えてやろう!」
「はあああああああ!?」
問答無用で、襲ってきた敵と戦うことになった――。
「――し、死ぬかと思った」
「このようにサンタクロースを狙う輩は多い。トナカイには強いマスターが求められる。わかったな? 拒否権はない。なに、私もサンタだが鬼ではない。よく働けば命だけは助けて――」
「イエス、サンタオルタ!」
――何かがひび割れる音が響く。
「ぬう、一つ返事だと……!? 仔ライオンか貴様!? だが、良い返事だ。気に入った。さっそく始めよう」
そして、僕らは彼女の聖剣をジェットに成層圏へと飛び上がり。近くの家を襲撃することになった。
何かあるたびに、何かがひび割れるような音が響いていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「はしれ騎兵ー、闇を裂いてー、吹雪の中ー、迷うまようー!」
「あああああ!????」
成層圏を飛んでいる。こわいこわいこわいこわいこわいこわい!
なんだ、これ何が起きている。そりが飛んでいる。それも聖剣のビームで。いや、もうそんなのどうでもよくなるくらいのおそろしさ。
成層圏。酸素も薄い。死ぬ。死にそう。ヤバイ。
――何かがひび割れる音がしている。
「どうした、何か問題でも生じたかトナカイ」
現在進行形で問題が生じているとしか思えないということは言えなかった。手を離せば最後、このまま落下ししてしまうのではないかという恐怖が僕にそりから手を放すという行為をさせない。
トナカイの着ぐるみのおかげで温かくはあれど、それでも防げない寒さが僕をさいなんでいく。恐怖と寒さで震えて、今にもソリから手を放しそうになる。
しゃべっている余裕などなかった。それに――。
彼女。サンタオルタ。かつて特異点Fで相対した敵。
味方だと彼女は言ったし、そういう風に行動しているのもわかっている。
けれど、けれど――。
――何かがひび割れる音がしていた。
身体は勝手に震える。理性でそうだとわかっていても、心が理解しない。
頼む、頼む。
神でも、悪魔でも、誰でもいい。
生きて、帰りたい。生きて、マシュに会いたいんだ。君がいないと。マシュ。マシュ。マシュ――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「――そうか」
トナカイ。かつては敵だったマスター。
哀れな男だ。役割を押し付けられ、それでもなお前に進んできた男。ボロボロに傷つきながらも前に進んできた男。
哀れなものだ。だから、袋で殴った。
「ごはっ――」
正直、いちいち気を遣ってやる筋合いなどない。
そもそもそれは甘やかしだ。甘やかしてはいつまで経ってもこのままだ。
私は甘やかさん。甘やかすのは他の奴らに任せる。甘やかして解決するほどこのトナカイは単純ではないのだからな。
「いい加減覚悟を決めろ。もうすぐ目的地だ。今回のお願いサンタさんレターはペルシャ地在住のダレイオス君三歳からのリクエストだ。まったく読めんが問題ない。行くぞ。煙突から侵入する!」
「は、うわあああああああ」
煙突から投げ込み、私も飛び込む。
男二人とキャンドルスタンドが何やらやっている。実に哀れだった――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
いきなり殴られエントツに投げ込まれた。更に上から彼女が降ってきて僕をクッションにする。
「な、なにす――ごはっ」
「さて、哀れな男ども。じゃなくて、どいつがダレイオス君だ?」
「あ、あのろうそく持っている奴じゃ」
「さすがだトナカイ慧眼だな。ほめてやろう」
「あ、どうも」
正直嬉しくもない。いつまた殺されることになるかと僕は内心で震え続ける。
彼女の気がいつ変わるかわからない。それが怖い。マシュがいない。僕一人。僕一人では何もできない。
プレゼントを投げ渡すサンタオルタ。本当にサンタなのか。
「何を不思議そうにしている。言っただろう今宵はサンタクロースだと」
でも、でも――。
わかっていても、心がついていかない。そう簡単に割り切れるわけがない。
「ああ、まったく面倒くさい!」
「ぐあ――」
「いいか、よく聞けトナカイ。貴様は私のトナカイだ。貴様を襲ったセイバーという在り方は封印した。私はトナカイというマスターに乗るライダー。聖夜に現れた、一陣の烈風だ」
でも、でも――。
「ぐはぁ」
「ああ、うっとうしい。言ってもわからないのならその身体に教え込んでやる。私は貴様を甘やかさんぞ。
サーヴァントはそういう存在だ。わかっているだろう。だが、納得していない。だから教え込んでやろう。貴様の前にいるのはサンタクロースだ。子供たちに夢を届ける悪のサンタクロースだ。そして貴様はトナカイだ。私が選んだ。私だけのトナカイだ」
「でも、一夜だけ、だろ、そんなの」
「なんだ、ようやく貴様の言葉が聞けた気がするな。断言してやろう、それはない。貴様は私のトナカイだ。私は貴様のサンタクロースだ。
それは何があろうとも絶対に変わることのない。言ってわからぬようだから、貴様にこれを預けておいてやる」
それはチケットだった。
「これは?」
「いいか、絶対に裏面は見るなよ、絶対だからな!」
ひっくり返す。黒いチケットの裏面。そこには、私の引換券と書いてある。
「…………はは」
思わず笑った。なんだこれ? 私の引換券ってなんだよ。
「ふっ、ようやく笑ったなトナカイ。しかし、見るなといって即行で見るとはな」
「絶対って言われたら見るだろ」
「口答えはいい。さあ、次に行くぞ。まだまだプレゼントはある」
信じてもいいのだろうか。
「信じろ。サンタクロースだぞ。子供の夢は壊さん。むろん、貴様の夢もな。さあ、わかったな。わかっていなかったら、また袋で殴るが」
「わ、わかりました」
「ならいい。行くぞトナカイ」
次に訪れたのはフランスだった。うち落とされかけた時はどうなるかと思った。
「あらあら、お久しぶりね」
「マリー王妃」
「ふふ、元気かしら?」
「まあ」
「……そう。それじゃあ、再会のちぃーっす」
「王妃!?」
「へ!?」
柔らかな感触が広がる。
柔らかく、甘く。
あたたかな。
「頑張り屋さんのマスター。大変だけど頑張ってね。もし疲れたらいつでも私のところにきていいわ」
「うん」
「――さあ、サンタさん。私がマリーちゃんです」
「よしよし、トナカイへの狼藉は私への敵対と見做しても良いが……特別だ。聖夜だからそういうこともあるということにしておいてやる。さあ、並べちびっこども。プレゼントの時間だ!」
マリー王妃、デオン、それからアストルフォという初めてあった子にサンタオルタさんがプレゼントを渡していく。
「次行くぞ、次だ」
次は洞窟だった。
「あの、なんか肉をたたく音がしてるんですけど」
「しているな。だが、住所はここだ。行くぞ、トナカイ。何かあれば自分で対処しろ」
「え!?」
「言っただろう。私は貴様を甘やかさん。行くぞトナカイ」
強引に彼女は僕を洞窟へと連れ込んだ。
中に入ると、へべれけになった荊軻とサンドバック的な何かを殴っているマルタさんと、牛若丸がいた。
「うむ、クリスマスに彼氏もいないOL三人組みたいな組み合わせだが、手紙が届いたからにはプレゼントをくれてやる」
酔っ払いと何やら機嫌が悪そうなマルタと駄犬には付き合うことなかれ。さっさとプレゼントだけ投げ込んで、次へレッツゴー。
何やら途中でソリからサンタさんが下りたりしていた。何かあったのだろうか。
ついでに、赤い大きなトドみたいなのを轢き飛ばした。サンタさんはまったく気にしなかった。
「さて、次は行きたくないが――ん? 離れるな、おかしな空間につかまった!」
「はいいい!?」
「く、ここはどこだ通常の空間ではないようだが」
そこには二人の可愛らしい女の子がいた。
可愛らしい女の子。一人はワンピースドレスのロリータというのだろうか、とにかくそんな感じの女の子。
もう一人は、寒そうな格好をしたとてつもなくきわどい女の子。ナイフを持っているけれど、そんなかっこうで女の子がこんな雪空の下にいるのは駄目だ。
「ちょ、君、やばいって、その格好は!」
僕は、自分の服を脱いで着せてやった。トナカイの着ぐるみだけでどうにかなるから良い。
「あ、ありがとうトナカイさん」
「あ、あの……こんばんは。お姉さんはサンタさん、ですか?」
「そうだ、サンタさん、だよね。だってプレゼントいっぱい持っているし」
「ああ、そうだ。私はサンタだ。そういうおまえたちは何者だ? この辺りの亡霊か?」
「亡霊? こんな小さな女の子たちが?」
ナイフを持っている女の子が言った。幽霊とかじゃない、でも人間でもないと。
「わたしもジャックも自分がなにかわからないの」
名前がなくぼんやりと街を眺めているしかできない。
その街がとても楽しそうだから。クリスマスだからあったかいものがほしいと彼女たちは願ったのだという。
「サンタオルタさん」
僕は彼女たちの願いを叶えたいと思った。
人間でないなんて関係ない。小さな女の子が泣きそうになりながらも、必死に願ったのだ。一夜だけでもいいからあたたかいものがほしいと。
でも彼女たちの為のプレゼントはない。サンタオルタさんの袋の中に彼女たちの願いはない。
けれど、けれど。
報われない彼女たち。無垢な彼女たち。愛を知らない彼女たち。寂しいからほしいと願った彼女たち。
そんな彼女たちに夢すらも見せてあげられないなんて。そんなの間違ってる。
「ならん」
「でも――」
「寂しいから欲しいでは、話にならん。心の底から願うのであれば、口を大にして叫ぶが良い。舐めるなよトナカイ。私はサンタさんだ。子供の願いを、夢をかなえてやることこそが、仕事なのだ」
彼女たちは応えた。遊びたい、楽しい夢が見たい。ほしい、ほしい、ほしい。
「ふっ、ならば与えんだ」
広がるクリスマスの飾り付け。ツリーに雪だるま。
「さあ、受け取れ厳選したプレゼントだ」
プレゼントを受け取って楽しそうに笑う子供たち。幸せそうに。
けれど、けれど。
「ごはっ――なに!?」
「貴様は何を考えようとしている」
「いや」
「ああ、言わんでもわかる。貴様どうせ彼女たちに同情したのだろう」
「そりゃ――」
可哀想だろう。
そう思ったらまた殴られた。
「確かに彼女たちは可哀想なのかもしれない。だが、見ろ。今はとても幸せそうだ。今は、それでいいだろう違うかトナカイ。おまえの同情で水を差す気か」
「――――」
「さあ、わかったのなら次へ行くぞ。なに、彼女たちもいずれは救われる。そういう運命にあるのだ。私の直感がそう囁いている。それに貴様が気にすべきは彼女たちじゃない。間違えるなよトナカイ。貴様が気にすべきものをな。だから行くぞ。次で最後だ」
最後。次にやってきた場所にいたのは、
「君は――」
「最悪。ああ、最悪な女と最低の男のセットとかどうしてくれんのよ」
ジャンヌオルタ。オルレアンにいたあの女。竜の魔女。
そんな彼女が、素敵なクリスマスの飾り付けの真ん中でまるでサンタクロースを待っていた子供の用にプレゼントを入れる靴下を抱えていたのだ。
彼女に抱いていた恐怖がどっかに飛んで行ったのを感じた。
「な、所詮サーヴァントなどそんなものなのだ」
「――サンタオルタさん」
「ようは別の一面だ。どんなに恐ろしい相手でも別の一面がある。この私のようにな。だから、怖がるなとは言わんが、過剰に反応するな。大抵の英霊は貴様の味方だ」
「ちょっと、何言ってるわけ。私が味方? そんなわけないじゃない」
「安心しろトナカイあれはツンデレという奴だ」
ジャンヌオルタが露骨にいやそうな顔をしていた。
「しかし、本当に驚いたな。差出人の名前を見た時はな。見てみるが良いトナカイ」
「本当だ、すごい綺麗な字だ」
「それはそれだが、貴様、物書きはできないのではなかったか?」
――物書きができない?
でも手紙はとてもきれいな字体だった。
つまりそれは、練習したということ。
「だってみっともないでしょ。あんな字」
――あ、可愛い。
すっかりと恐怖はなくなっていた。
「ちょっとなに、すごい嫌な視線を感じるんだけど」
「私のトナカイに噛みつくなよ。さて、ほら、貴様へのプレゼントだ」
ジャンヌのブロマイド。
「――――」
あ、すごい顔になった。
「貴様がくすぶっているからこういうことになるのだ」
「――帰る」
覚えておきなさいよ、いい、絶対によ! とそんな捨て台詞とともに彼女は煉獄へ帰っていった。何やら霊基をあげるとかなんとかかんとか。
「さて、これで終わりだな。よくやったトナカイ」
「いや、オレは何も」
「いや貴様はよくやったとも。この私を見てもう震えもしないし怖くもないだろう」
「――あ」
彼女の言う通り震えることはない。彼女の眼を見て話せる。
「だから、これを渡しておこう。私が特別気に入った竜の玩具だ、大切にするがいい。貴様へのプレゼントだ」
「あ、ありがとう」
「今年のクリスマスは終わりだ。よく頑張ってくれた。だが、世界が続く限りクリスマスもまた続く。来年も我が足として活躍するがいい。さて、帰るぞ」
「ああ」
僕らはカルデアへと戻ってきた。
「帰ってきた――」
「先輩!? どうしてトイレから!?」
ああ、マシュ。マシュ・キリエライト。愛しい愛しい僕のデミ・サーヴァント。
思わず僕は彼女を抱きしめていた。
「せ、せんぱい!? い、いけません、ドクターが、見ています」
「安心しろマシュマロサーヴァント。ドクターとやらは私が外に放り出しておいた。では、トナカイ存分にな。もう残りいくばくかだが、聖夜はまだ続くしっかりな」
「え? え?」
マシュ、ああ、可愛いマシュ。
「あ、あの、せん、ぱい?」
「マシュ。君がいないと、駄目だ」
「あ、は、はい。私も先輩がいないとダメです! あ、あの、何かあったんですか?」
「ないよ、何も。何もない。けど、こうしたいんだ。駄目、かな」
「い、いえ、だ、駄目ではない、のですが。その、私、こ、こういうのは初めて、さ、作法とかも、全然。なので、その、えっと――」
ああ、可愛いマシュ。
僕は君がいないと駄目なんだ。
君が好きだ。
だから。
「マシュ。世界を救おう。絶対に」
「――はい、先輩!」
――何かがひび割れる音が、していた。
癒しかと思ったら過去最大の危機だったでこざる。ま、是非もないよネ!
ブーディカやダビデは壊れないように癒しを。
ノッブは、忘れさせるように笑いを。
スカサハ師匠は、倒れても立ち上がれるような導きを。
サンタオルタは、甘やかさず厳しくスパルタ。
他の面子が甘やかす中、サンタさんは甘やかさずスパルタというキャラ方向になりました。
ちなみにナイチンゲールさんがもっともスパルタです。
さて、もう癒しはいいだろ。待たせたな愉悦部諸君。
次回はロンドンだ。