Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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初めに言います。ネタイベントだから、この話もギャグよりです。


月の女神はお団子の夢を見るか?
月の女神はお団子の夢を見るか?


 お月見というものを知っているだろうか。

 いや、知らないものはいないだろう。少なくとも現代日本出身者ならば知っているだろう。

 ここカルデアでもそういうイベントはあるようだった。

 

 世界を救うのにそんなことをしてもいいのかという思いはある。けれど、

 

「いいじゃないの。世界を救わなければいけないけれど、休んじゃダメなんて誰もいってないからね」

 

 ドクターはそういう。

 

 僕もそれには賛成だった。たまには、何も気にせず休みたいときもある。

 

「だからドクターはカラの皿なんて持って踊ってるんですね」

「いや、うん、ごめんちょっと待って」

 

 わかっている。ドクターも言わないけれど辛いのだろう。僕だけが辛いわけじゃない。

 

「いや、なんで君は僕の肩に手を置いているのかな。違うからね!? 倉庫にお団子を取りに行ったマシュが戻ってこないんだよ」

「マシュが?」

 

 デミ・サーヴァントマシュ。可愛い僕の後輩。

 彼女は言われたことは素直に実行するとてもいい子だ。そんな彼女が倉庫にお団子を取りに行って戻らない?

 断言するありえない。彼女は何があろうともいわれたことは実行してきた。無理な時はさすがにできないことはあれど可能なことはできうる限り実行する。

 

「……」

「ねー、ロマニー、お団子まだー? もう月の映像だしちゃうよー? 早くお酒飲もうよー、この日のために節制してきたんだからさー」

 

 何かあったのではないかと、考えているとダヴィンチちゃんがもう待てないーと駄々をこねる。

 お酒飲みたいといいながらもちょびちょび飲んでいるのはダメ人間を思わせた。

 

「そうだぜ、早く飲もうぜっと」

 

 キャスターのクー・フーリンも同じくちびちびと好みの酒を飲んでいるようだった。

 

「んー、これは何かあったかな」

 

 ブーディカさんがそういう。

 その瞬間、警報が鳴り響いた。

 同時にマシュが駆けこんでくる。

 

「大事です、ドクター! 食料庫が襲われました! 用意していた祭儀用のお供え物ほか、カルデアの食料備蓄は底をつきました!」

 

 そう血相を変えて一気にまくしたてるマシュ。

 ああ、でも、それ以上に言うべきことがあると思った。いいや、違う。絶対に言わなければいけない言葉があるのだと理解した。

 この瞬間、人類の普遍無意識とまるでつながったかのように錯覚する。

 

 まるで世界の意思が僕にこの言葉を言えと叫んでいるかのようだった。ゲームの登場人物のように操作されるままに自然と口が言葉を紡ぎだす。

 その言葉は空気を読んでいないかもしれない。明らかにおかしいかもしれない。絶対に今いうことじゃないといわれるだろう。

 

 けれど。ああ、けれど。

 それでも言わなければならないのだと魂が叫んでいる。

 これを言わなくてどうするのだ。そう心が叫んでいるのだ。

 だから、叫べ、胸を張って、大きな声で彼女に聞こえるように――。

 

「そんなコトより眼鏡似合っているね、マシュ」

 

 僕は精一杯のイケボを行使した。具体的には回す方のノッブっぽい声だ。

 

 ああ、可愛い可愛いマシュ。僕の愛しのデミ・サーヴァント。健気な後輩。

 彼女は初めて会った時のような格好で、眼鏡をかけていた。

 いつもの格好ではなく。

 これをほめないなんて、男じゃない。

 

 ああ、可愛い僕のデミ・サーヴァント。君は美しい。時よ止まれと思ってしまうほどに――。

 

「あ……」

 

 ああ、赤面した彼女も可愛らしい。

 

「はい、ありがとうございます。視力があがりましたので、本当は必要ないのですが……初めて先輩と会った時の格好ですし……」

 

 何この可愛らしい生物。

 

「はーい、そこ空気読んでねー。ここ緊迫したシーンだからねー」

旦那様(ますたぁ)! どうですか!」

 

 いつの間にか清姫も眼鏡をかけている。そこらにいた職員のを奪ったらしい。大きさが合わなくて彼女は両手で眼鏡を押さえている。

 魂の叫びは――。

 

「可愛いよ、清姫」

 

 ――止められない。

 

「ああ、旦那様ぁ!」

「こらこら、今は緊迫した状況なんだからそこまで。君も、あまりそういうことを誰にでも言っちゃだめだよ。いざという時に信じてもらえなくなるからね」

「助かるよクイーン・ブーディカ。それで、マシュ。食料庫が襲われたって、犯人は誰なんだい!?」

 

 ドクターに言われてマシュが現状の説明に入る。

 彼女曰く、犯人は不明。監視カメラは機能不全であり、記録された映像はハートマークのようなもので塗りつぶされていた。

 解析班の人たちもこれを見て倒れてしまっているという。

 

「ははん、これは鯖の仕業だね」

「鯖!? レオナルド、キミまで狂ったか!? まともなのは僕だけか!」

 

 いや、ドクター、そういうことではない。ダヴィンチちゃんが言いたいのはおそらく、

 

「サーヴァントの仕業ってこと?」

「そうさ。ほらロマニ、ここ見てみ?」

 

 彼女が指さす先にはカルデアスがある。そこにある特異点の一つを指さす。そこはフランス。

 

「誰かがフランスにレイシフトしてるみたいなんだよね。さっきの警報はこれかな」

「単独でレイシフトして逃げたと……?」

 

 マシュが驚く。

 それは僕も同じだった。

 単独でそんなことができるサーヴァントがいるわけがない。

 

「そうだね。今のカルデアから外に出られるのはマスターと契約したサーヴァントだけだ」

「でも、逆にいえばー、契約したサーヴァントならいくらでも悪さができるってことなんだよねー」

 

 ダヴィンチちゃんの補足に驚く。

 しかもそこからさらに続く言葉に驚きは連続する。

 

「きわめて強力かつ、特殊な英霊。そうだね、時空をゆがめるくらい強力なサーヴァントなら可能さね」

「いや、そんなサーヴァントとは契約した覚えないよ。ね、マシュ」

「わたしの知る限り、そんな記録はありませんね」

「いや、そこはほら因果が逆逆。時空をゆがめるくらい強力な鯖だよ? いずれ契約する可能性を引っ張っていつか契約した結果を招き寄せるくらいは簡単なことかもしれない。ああ、間違いなくこれは――」

「神霊だね」

「ロマニー、なにいいところ取って言ってるんだよー」

「いや、このままだとなぜかフェードアウトしそうで」

 

 神霊。

 いと尊き者。そとなるもの、蕃神。かなたよりきたるもの。ふるきもの。さりしもの。

 

「そんな存在が、オレと?」

「うん、そんな可能性もあるみたいだね。君が契約するなら純粋な悪人というわけじゃないだろうけど、このまま食料の備蓄がないのは僕たちとしては困る」

「そうです、ドクター、マスターのサーヴァントとして速やかな対策を要求します」

「でも神霊だよ? 大丈夫?」

「マスターがいれば大丈夫です!」

 

 ああ、マシュ。マシュ・キリエライト。

 愛しい君。可愛い可愛い僕のデミ・サーヴァント。

 君の信頼が嬉しい。君がその信頼の笑顔を向けてくれる限り、僕は頑張ろうと思える。

 けれど、けれど、同時に重くも思う。

 

 君の無条件の信頼が僕には重い。僕は君が思っているほどすごい人間じゃないんだ。ただの一般人。何の特別もないただの人間なんだ。

 数多のサーヴァントたちを束ねるマスター足り得る実力なんてない。

 判断も並み。偶然うまくいっているだけに過ぎない。必死に勉強しているけれど、それでも英雄たちに及ぶなんて到底思えない。

 

 けれど、そう、けれど。

 君がそう望むのなら、僕はそう在りたいと思う。

 マシュ。可愛いマシュ。僕のデミ・サーヴァント。唯一にして無二の愛しい後輩。

 君がそう望むのなら。僕はそう在ろう。

 

 ――何かがひび割れる音が響いている。

 

 ああ、マシュ。可愛い僕の後輩。愛しいデミ・サーヴァント。

 君が望む限り、その信頼に釣り合うようにマスターとして在ろう。

 だから、僕は君に、こう言おう。

 

「ああ、任せろ!」

 

 力強く、数多の英霊を率いるマスターとして。何の力もないが、意思だけは前に進み続ける理想のマスターと見えるように。

 

 ――何かがひび割れる音が響いている。

 

 愛しい君。助けたいと思った君。

 僕にできるのはこれくらいだから。

 

 マシュの笑顔を見ろ。その期待に、その信頼に僕は応えなければいけないのだから。

 君がどうしようもなく愛おしいから。

 君の期待には応えたいと思う。だから僕は前に進む。

 

 ――何かがひび割れる音が響いている。

 

「それでこそだ! それじゃあ、よろしく頼んだよ」

 

 レイシフトするフランスへ。

 

 そこで1人の女性と出会った。

 

「オリオン?」

 

 女性はそう名乗った。星座のオリオンだと。

 

 ――え、え?

 ――オリオン? 星座の?

 

 男のはずだけれど、女の人? しかも弓の扱いへったくそに見えるのにどうしてそれでうまいこと当てて敵を倒せるのだろうか。

 

「事実は伝説よりも奇なりっていうことよ」

 

 そういう問題じゃないような気がしたが、とりあえずマシュとともにお団子を盗んだ犯人をおいかける。オリオンさんが見たという三人組。

 フランスで世話になったマリー王妃たちだった。

 

「でも、ごめんなさい、今は敵なの」

 

 かつての味方だった彼女たちとの戦いは辛かった。苦楽を共にした仲間と誰が戦いたいと思う。

 それでも戦った。戦って、勝って、思い出してくれた。

 

「ごめんなさいね」

 

 それでもお団子は足りない。三トンという量には程遠い。マリー王妃の話によればまだだれかが持って行ったらしい。

 彼らはマルセイユの浜辺にいるという。

 

「先輩……!」

 

 マシュが僕を見る。彼女の願いが僕にはわかる。取り戻したいのだ。お団子を。

 なら僕は彼女のマスターらしく、こう言おう。

 

「ああ、急ごうマシュ!」

「ちょっと待ってくださる?」

「なんです?」

「せめてあなたたちの旅に幸運があらんコトを!

 ヴィヴ・ラ・フランス! あーんど、ちぃーす!!」

「へ?」

「ふふ、頑張っているあなたにとびっきりのご褒美。またほしくなったらいつでも来てね」

 

 おいしい紅茶とお菓子を用意して待っていてあげる。

 

 そう口づけと共に言い残して、彼らは去っていった――。

 

「ええー? ほんとにござるかぁ?」

 

 王妃の言っていた場所に行くと、なんだろう。聖人二人と侍が語り合っているのか喧嘩をしているのかわからない現場にたどり着いてしまった。

 だが、団子を食べている。これはもう成敗案件だとマシュは言う。

 

 とりあえず突撃して、倒して。

 

「いやはや、物欲とは叶わぬな」

 

 小次郎はそういった。

 

「ふむ、団子とは実に奥深いものだ。聖人すら魅了するとは」

 

 ゲオル先生がそう言った。

 

 いつもとの違いに驚くばかりだ。

 

「まったく男って。その中でもあなたはとびっきりね」

 

 聖女マルタがそう僕を見ていう。

 

「オレが?」

「そう。自分でわかっているくせに」

「そんなことより団子返してくれ」

「はいはい、返すわよ。――それじゃ」

 

 そして朝刊に載る勢いで逃げていった聖女マルタ。

 

「――なんだったんだろう」

「なんでしょうね、先輩」

「さあ、行きましょう」

「そうです、時間の許す限り回収します。次はふとっちょのあの人です」

 

 ローマでさんざんいいようにやってたあの男。カエサル。

 聖女マルタの言葉通り荒野に行くと彼はいた。そこに集うはローマ皇帝たち。

 

 しかし、かつてのローマとはその在り様が大きく違う。

 これがサーヴァントというもの。召喚された陣営が違えばその在り様もまた違うのだ。全てはマスター次第。そう言外に言われているような気がした。

 

 正しくあろうと思う。いいや、正しく在らないといけない。

 最後のマスターだから。

 

 ――何かがひび割れる音が聞こえている。

 

「とりあえず会話するより前に突撃です!」

 

 正面から堂々と突撃。それでしゃべらせる前に終わらせた。

 

「まったくしゃべる間すらないだと。おまえたち鬼か。私は弁舌の赤セイバーだというのに」

「いえ、正当な権利を行使しているだけです。それから本気で訴えますよ」

「ネロオオオオオオ!!」

「二人とも、大変よ! カリギュラが斬られたわ!」

「カエサルさんなにをしたんですか!」

「いや、これは私のせいではないぞ。断じて違う」

 

 じゃあ、誰? と袋を見る。

 そこから這い出してきたのは褐色の女。

 

 破壊の大王だった――。

 

「――――」

 

 視界が、歪む。我知らず喘いで、強烈な眩暈が僕を襲う。呼吸困難。眩暈。

 呼吸が、止まる。恐怖で。息を吸っても、吐いても、空気が肺に入って行かない。苦しさを感じる。息をするという生物が普遍的に行う呼吸が止まって、苦しくない生き物はいない。

 

 ローマでの彼女の所業を忘れられるわけがない。

 ――恐怖。

 それをただ感じる。

 

 彼女もまたかつてとは違う。だが、恐怖が僕の身体を駆け巡る。

 

「気を付けて、彼女は危険よ」

 

 オリオンが言う。

 

 知っている。彼女が危険なことは知っている。感じている。

 圧倒的な破壊の念ともいえるそんな気配。

 黄金ならぬ眼でも。碩学ならぬ身でも。神ならぬ身でも。

 それは感じ取ることができる。

 

 彼女の在り方は変わらない。破壊する。

 

「ん……」

 

 ふいに彼女と視線が合った。

 気が付くと、彼女が目の前にいた。

 

「もぐ、もぐ、うむ」

 

 ひんやりとした手が僕の頬に触れる。

 

「おまえはいい文明だ。けれど、おまえは悪い文明だ。だから壊す」

 

 恐怖に混濁する意識と、歪んだ視界がありとあらゆる全てを呑み込んでいく。

 全てが漆黒に染まりそうになるその刹那――。

 

「先輩!」

「――――っ!!」

 

 喉を空気が通る。弾かれるように、身体が跳ねて、酸素が脳に回る。

 

 ああ、マシュ。可愛い後輩。愛しい僕のデミ・サーヴァント。

 彼女の盾が軍神の剣を防ぐ。

 彼女の言葉が勇気を湧きあがらせる。

 そうだ、立ち止まれない。恐怖に足をすくませている場合じゃない。

 

 だって彼女が見ている。なら――。

 

「マシュ、全力で、迎撃だ!!」

 

 僕は前に進む。

 

 ――何かがひび割れる音が響いた。

 

「ああ、うまくいかなかったな。いいや、残念じゃない。ただ――」

 

 言い終わる前に彼女は消えた。

 激しい戦いは終わった。

 意味深な言葉を言い残してカエサルもいなくなり、ドクターとの通信が回復。ボロボロだけど、団子は集まった。

 これで帰ることができる。

 

「あれ、オリオンは――」

 

 一緒に戦っていたはずのオリオンがいない。

 

 カルデアに帰っても、疑問はついて回る。

 僕らの側に問題があった。

 ダヴィンチちゃんの言葉。

 問題。違うことは。

 

 導き出される結論は、ただ一つだった。

 気が付けば、マシュと二人フランスにいた。

 

「こんばんは、カルデアのマスターさん」

 

 そこにいたのは、オリオンさんだった。

 

「あなたが、犯人だったんですね」

「そうよ。だって、お団子があったんですもの」

 

 お団子。月見団子。

 あれはいわば神への供物。月の女神に捧げるもの。

 だからこそ目覚めてしまった。カルデアという特殊な召喚式がある場所でそんな儀式を行えば当然神は目覚める。

 

 目覚めたらまずやることは? 腹ごしらえ。おなかすいていたから団子を集めさせていた。

 

「あなたたちのおかげで気楽な召喚待ち状態になったんだけどー、あとはあれよあれ。腕試し!」

「話し合いは」

「無理。私弱い人間嫌いだから。だから、まずは、わがままで、理不尽で、人でなしな私を倒せるぐらいの力を見せてほしい。そうしないと私みたいなサーヴァントは扱えないんだから」

「先輩――」

 

 マシュが僕を見る。

 わかっている。わかっているよ可愛いマシュ。僕のデミ・サーヴァント。

 

 ――何かがひび割れる音が響いている。

 

 君の覚悟ができているというのなら。君が望む通り。僕はマスターとして宣言しよう。

 

「女神退治だ、マシュ――!」

「それじゃあ、改めて。私は月の女神アルテミス。ダーリンのように私を打倒してね」

「マシュ・キリエライト行きます!」

 

 そして、女神に勝利した――。

 

 




次はハロウィンです。

ネタイベだろうとシリアスイベントだろうと主人公の心をゆっくりと削っていきます。
少なくとも本編ほど削れないけど塵も積もれば山となるというように少しずつ、少しずつ削ります。

そして、空の境界イベントとバレンタインデーを逆にすることに決定。空の境界イベやったあとにバレンタインをやって木っ端みじんにして、マシュのメンタルもがりがり削ります(愉悦)。

さて、次回ハロウィン。どうやって削ろうかな。真綿で首を締めるように、やすりで鉄塊を削り切るように。ゆっくりとゆっくりと、徐々に、徐々に摩耗して、弱らせていく。
ああ、楽しい(愉悦)。

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