Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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序章 1

 ――塩基配列ヒトゲノムと確認

 ――霊基属性、善性・中立と確認

 ――99%の安全性を保障

 ――ゲート、開きます

 

 アナウンスの声と共には、僕の何かがスキャニングされたようだった。塩基配列はわかる。それはヒトには必ずあるものだからだ。

 けれど霊基というものはわからない。ただ、ゲートが開いたということは何の問題もなかったということだろう。一度深呼吸をして足を踏み入れる。

 

 そこはひどく未来的な建造物であった。

 

「はは、すごいな、これからここで働くのか――」

 

 どうやって何をするのかもわからないけれど、退屈だけはしなさそうだった。とりあえずゲートが締まる場所まで前に出ると先ほどと同じ声のアナウンスが流れる。

 

 ――ようこそ、人類の未来を語る資料館へ

 ――ここは人理継続保障機関カルデア

 

 カルデア。それが僕の職場になるらしい。人理、というのは何かわからないし、人類の未来を語る資料館というのも謎だ。

 というか、ここに就職したとは言えどなにもわからないに等しい。

 

 ――最終確認を行います。

 ――名前を入力してください。

 

「えっと、名前は――」

 

 名前を入力する。

 

 ――認証、クリア

 ――あなたを霊長類の一員であることを認めます。

 ――はじめまして新たなマスター候補生

 ――これより登録を行います

 ――シミュレーション起動

 ――どうぞ有意義な時間をお過ごしください。

 

 これで全て終わったらしい。ここまでくるのにだいぶ時間をかけたというのに最後はあっけないものだった。

 

「しかし、疲れたし。ねむ――」

 

 そして、どういうわけか僕は眠気に負けて眠りについた――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「フォーウ、フォウフォウ!」

「フォウさん、そちらは正面ゲートです。外に出るには許可証が――」

 

 不思議な動物を追って女の子がやってきた。片目を髪に隠した眼鏡の女の子だ。彼女は、不思議な動物――フォウを追った先で不思議な人に出会った。

 

「驚きです。こんなにも無防備な睡眠状態があるなんて……」

 

 それは男の人。無防備に正面ゲート前で眠りこけている少年だった。フォウがその頬を舐めている。変な寝言を言っているが、それで目覚めたようだった。

 

「――もう、麻婆、は、やめ――ん、なんだか今頬を舐められたような――君は?」

「おはようございます。先輩」

 

 目を覚ましたら可愛い女の子がいた、などと言えばよくあるテンプレライトノベルのような感じだが、まさか本当にそれが自分の身に起きるとは思っていなかった。

 どこか神秘的な何かを感じる女の子だった。ここの職員だろうか。こんなかわいい女の子がいる職場。来てよかったと思うけれど――。

 

「先輩? 先輩って、僕のこと?」

「はい」

 

 先輩ということは、僕の後輩? 高校にこんな子いたっけ。記憶を探る。思い出せない。そもそもこんなに可愛い子がいたら忘れるはずがない。

 ということは別の高校? でも、あまりそういう知り合いはいなかったと思う。まさかストーカー? いやいや、僕をストーカーしてどうするのだろう。

 

 どう考えたって平凡を絵にかいたような僕だ。少しだけ運が良いだけのただの少年。それが僕だ。どこかの主人公みたいに不思議な力なんて持っていないし、何か特別な才能があるわけでもない。

 友達に昔からチェスとか将棋、騎馬戦で大将やらせて指示だしさせると意味不明に強いとか言われたけど、それだってプロになるほどじゃない。

 

 人の上に立つ存在なんじゃないかとうぬぼれたこともあるけど、そんなことはなかった。僕は平凡だ。そんな僕をストーカーするような子はいない。そういるわけがない。これまでも、これから先もきっとそういう子は出ないだろう。

 でも、もしかしたら何かで会ったことがあるだけということもあるかもしれない。一応、確認しておこう。

 

「えっと、ごめん、誰だったっけ? それよりここは?」

「それは簡単な質問です。助かります。わたしは、マシュ・キリエライトと言います。ここは、カルデア正面ゲートから中央管制室に向かう通路です。こちらからも質問よろしいですか先輩。お休みのようでしたが、通路で眠る理由は何なのでしょうか」

「僕が、ここで、眠っていた?」

 

 確かになんだか眠っていたような記憶があるような、ないような? いや、何かしていたような、していなかったような気がする。

 なんだか、とてもぼんやりしている。記憶があいまいというか。いや、記憶はあるが、こんなところで眠っている記憶がだけがない。

 

「はい。すやすやと。テキストに載せたいほどの熟睡でした」

 

 彼女が言うのならそうなのだろう。よほど疲れていたのかなと思う。確かに標高6000メートルの雪山を昇ってきたのだ。

 途中まで現地の人にジェスチャーで車に乗せてもらって途中まで送ってもらったりしたけれど、さすがに登山は疲れていたようだ。

 

 高山病に夜は風が恐ろしすぎて眠れなかった。雪の寒さもあってここに来てようやく一息ついたという感じ。なるほど眠りこけても仕方ないと納得だった。

 

「フォウ、フォーウ!」

「失念していました。あなたの紹介がまだでしたねフォウさん。こちらのリスっぽい方はフォウ。カルデアを自由に散歩する特権生物です。こちらのフォウさんに誘導されてお休み中の先輩を発見しました」

 

 リス? リス……。リスってこんなだったっけ。とりあえずもふもふしていそうだ。触らせてもらえないだろうか。

 そんなことを思っているとフォウは、またどこかへ行ってしまった。

 

「また、どこかに行ってしまいました。あのように特に法則性もなく散歩しています」

「へ、へぇ……」

 

 とりあえず、フリーダムな生き物ってことなのだろう。そう思うことにした。しかし、カルデア。あんな不思議生物までいるなんて、どんな組織というか職場なのだろう。

 だいぶすごいところに来てしまったというか、場違いな場所にいるような気がしてならなくなってきた。

 

 そんなことを思っているともうひとりやってくる。それは男の人だ。緑のスーツというかコートというかに帽子。研究員や技師というより、手品師(マジシャン)のようだと思った。 

 

「ああ、そこにいたのかマシュ。――おっと、先客がいたんだな。君は……そうか、今日から配属された新人さんだね。私はレフ・ライノール。ここで働かせてもらっている技師の一人だよ。ようこそカルデアへ。訓練期間はどれくらいだい?」

 

 訓練期間? そういえばそんなものはなかった。

 

「いえ、あの、応募したら今すぐ参加するか決めろって言われて」

「ほう、まったくの素人かい? けど、一般枠だからって悲観しないでほしい。今回の任務(ミッション)には君たち全員の力が必要なんだ」

 

 ミッション? 仕事のノルマのことかな? というか、いまだに何をやるのか聞いていない。この人が説明してくれるのだろうか。

 というか、普通は案内役の人とかがいるんじゃないかと思うのだが。

 

「魔術の名門から38人、才能ある一般人から10人。何とか48人の才能ある者を集めることができた。わからないことがあれば私や、マシュに――そういえば何を話していたんだいマシュ? 以前から面識でもあったのかい?」

 

 魔術の、名門? 魔術? マジック? いや、そういうニュアンスじゃない。そもそも魔術の名門と言っていた。手品の名門がそんなにあるなど聞いたことはない。

 本物? いや、まさか。そんなことがあるわけ――。

 

「いえ、この通路で熟睡していらしたのでつい」

「ああ、さては入棺時にシミュレーションを受けたね。霊子ダイブは慣れていないと脳に来る。表層意識が覚醒しないままここまで歩いてきたんだろう。――おおっと、そろそろ所長の説明会が始まる。君も出席しないとね」

「所長? 説明会?」

 

 そういう連絡は受けていない。

 

「そうこのカルデアの所長にして、今回のミッションの司令官さ。時計塔を統べる十二貴族としてそれなりに有名な名前なんだが――」

 

 時計塔? 十二貴族? いや、さも当然のように言われてもわからないのですが。そこらへんの説明はしてもらえないのでしょうか。

 

「まあ、所長の名前を知らなくてもマスターとしての仕事に不都合はないし、何も問題ないな」

「レフ教授。先輩を、管制室にご案内してもよろしいですか」

「良いよ。一緒に行こう。君もそれでいいね?」

「あ、はい。ああ、でも、そのまえに君はどうして僕を先輩と?」

 

 色々と気になることもあるから、とりあえず一つずつ聞いて行こう。まずは、彼女が僕を先輩と呼ぶ理由だ。出会ったことがないのなら、どうして先輩と呼ぶのだろう。

 カルデアの職員になっているのはきっと彼女の方が先なら彼女の方が先輩のはず。そうでないのならいったいどういうことなのだろう。

 

「…………?」

「ああ、気にしないで。彼女にとって君くらいの年頃の人間はみんな先輩なんだ。でも、はっきりと口にするのは珍しいな。いや、初めてか? 私も不思議になってきたな。ねえ、マシュ、なんだって彼は先輩なんだい?」

「理由、ですか。……この方はわたしが出会ってきた方の中で一番人間らしいです」

「ふむ、それはつまり?」

「はい、まったく脅威を感じません。ですので、敵対する理由が皆無です」

「なるほど、それは重要だ。カルデアの人間は一癖も二癖もある変人(テンサイ)ばかりだからね。確かにそれは重要だ。なんだ、君とはいい関係が築けそうだ」

 

 脅威、それに敵対? えっと、いや、もういいや。わからないことはそのままにしておこう。それに今は時間がないようなので、所長とやらの話を聞くために管制室に行こう。

 それにしても、このレフって人はいい人そうだ。マシュも慕ってくれているようだし、とりあえず仕事場はいいところそうだ。あとは仕事がそんなにきつくないといいけれど。

 

 管制室に向かう。

 

「間に合いました。先輩の番号は、一桁――最前列ですね」

「うわ、本当だ」

 

 最前列。それは地獄の席と言っても過言ではない。こういう説明会でも気を抜けないし、今の疲労と眠気のある状態でも居眠りのひとつもできないのだ。 

 それに周りのひとたちがそろっている上になんだかエリートっぽいような人たちばかりで、前の方に行くと嫌でも注目を集めてしまうのがきつい。

 

 しかも――なんだか偉そうな女性の目の前。

 

「はい。それも所長の目の前とはすばらしい悪運です」

 

 ――それ、褒めてる?

 

 とりあえず座らないと。なんだか、所長? らしき人がひどく睨み付けてきている。とりあえずなるべく小さくなりながら席に座る。

 すると咳ばらいをしながら所長? らしき人が話をし始めた。

 

「こほん――時間通りとはいきませんでしたが、全員揃いましたのではじめさせていただきます。特務機関カルデアへようこそ。所長のオルガマリー・アニムスフィアです。あなたたちは各国から選抜されたマスター適性を持つ特別な才能を持つ人間です。

 とはいえ、貴方たち自身はまだ未熟な新人だと理解なさい。ここカルデアは私の管轄です。外界での家柄や功績は重要視しません。まず覚えることは私の指示は絶対ということ。意見、反論は認めません。貴方たちは人類史を守るための道具であることを自覚するように」

 

 それを聞いてざわめく。そりゃ、家柄とか功績を重視せず、道具として働けと言われればそうなるだろう。美人だけど、少し怖い人だ。こんな人が上司でやっていけるだろうか不安になってきた。

 

「私語は控えなさい! いいですか。今日というこの日、我々カルデアは人類史にとって偉大な功績を残します。学問の成り立ち、宗教の成り立ち、航海技術の獲得、情報伝達技術の着目、宇宙開発の着手。そんな数多くある星の開拓に引けを取らない――いいえ。

 全ての偉業を上回る偉業。霊長類である人の理、すなわち、人理を継続させ保障すること。それが私たちカルデアの、そして、貴方たちの唯一にして絶対の目的です。カルデアはこれまでこの工房で百年先までの人類史を観測してきました。頭上を見なさい」

 

 オルガマリー所長が頭上に注目するように言う。そこにあるのは、球体だった。地球儀のようなそれ。小型の疑似天体とでもいうべきもの。

 よく大きな駅にあるような地球の姿でも投影しそうなものだと思った。

 

「これがカルデアが誇る最大の功績。高度な魔術理論によって作られた、地球環境モデル。私の(・・)カルデアスです」

 

 直径六メートルくらいの地球儀だ。それにしては、リアルすぎる。まるで、そこのもう一つの地球があるかのような――。

 

「これは惑星には魂があるとの定義し、その魂を複写する事により作り出された極小の地球です。我々とは位相が異なる場所にあるため、我々の眼では細かなことは観測できませんが、大陸にある都市の光は専用のレンズ、シバによって読み取れます。このカルデアスは未来の地球と言っても良いのです。ですが――レフ、レンズの偏光角度を正常に戻して」

 

 地球の姿は変わる。赤く変色した、燃えるような――。それは嫌な予感を想起させた。いいや、嫌な予感どころか。

 まるで、未来はないとでも言われているかのような。そんな風な予感を感じさせた。

 

「現状は見ての通りです。半年前からカルデアスは変色し 未来の観測は困難になりました。今まで観測の寄る辺になっていた文明の光が不可視状態になってしまったのです。観測で来る最後の文明の光は一年後。つまり、あと一年で、人類の絶滅が観測、いえ、証明されてしまったのよ」

 

 それは、あらゆる全ての終わりであり、始まりだった――。

 




マシュとの出会い。

レフ・ライノールとの出会い。

オルガマリー・アニムスフィアとの出会い。

あらゆる出会いがあった。

序章に関してはドラマCD準拠です。

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