Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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絶対魔獣戦線 バビロニア 26

 ウルク北壁。

 絶対魔獣戦線。それこそは、人類の防壁であった。ウルク王、ギルガメッシュによって建造された、世界を破滅の瀬戸際で食い止める壁。

 魔獣の侵攻を防ぐそこは、しっかして活気で満ち溢れていた。

 

「すごいです! 先輩見てください、ウルクと同じくらいの活気ですよ!」

「ああ、すごいな……」

 

 北の防壁。最前線などと聞いていたからもっと物々しいと思っていた。

 

「すごいわ。神代の時代って、本当にすごい」

「ほんとね。城壁に街がくっついてるみたい」

 

 現代人たるアイリさんとクロが、街の規模を見て驚いている。ウルクもそうであったが、神代の時代とは思えないくらいだ。

 常識は本当に通用しない。

 

「はは。驚いてるようだね。それも当然だよ。なにせ、半年だ」

「そうか。半年もこれで耐えてるんだよね」

「兵站の観念などから鑑みるに、ただの要塞では維持は出来ない」

「だったら街をつくるか、本当すごい発想というかなんというか」

 

 ジェロニモとジキル博士からしてもこれは予想外だったようだ。それもそうだろう。こんなもの予想で来ている方がおかしい。

 ウルクと同じ活気に迎えられるなど誰が予想できよう。ここは最前線だ。現代や近代人ならば泥沼の塹壕だとかを思い浮かべるかもしれない。

 あるいは思い浮かばないのかもしれない。

 

 特異点を旅したオレだって、最前線のヤバさはしっている。アメリカでもエルサレムでも体感した。だが、これは予想外にすぎる。

 

「でも、完全に防げているというわけではないようですね」

 

 アナが指さした先を見れば丁度魔獣が乗り越えて来たところであった。

 

「ふはははは、このわしが築いた人間万里の城を超えられるわけなかろう!」

 

 しかして、それをすぐさま撃ち落とす見知った影。

 

「ノッブ!」

「ん、おお、来たか。これで本調子よ。報せは聞いておったが、ようやったの。褒めてやろう。ほれほれ」

「ちょ、頭撫でないでよ」

「照れるでないわ」

 

 恥ずかしいし、何やらマシュが膨れてるので戯れもそこまでにして、離れたところで、何かに頭をホールドされた。後頭部に当たる柔らかな感触は、確かに覚えがある。

 

「漸く来たか。待ちくたびれてしまうところであった。何分、こちらとしてもマスターと離れては本調子とはいかなぬゆえな」

「それくらいが丁度よかろうがおぬしの場合」

「はは。それはそうだ。不用意に世界を壊す心配がないからな。だが、マスターが近くにいないというのは存外、寂しいものがあるのだぞ」

「皆さまお揃いでしたか。私の出番がないのは残念です」

 

 牛若丸が上から降ってきた。塀から飛び降りて来たのだろう。

 相変わらず身軽なようだ。

 

「牛若丸様! ふぅ、いきなり塀から飛び降りるのはおやめください。如何に貴方様であろうとも危ないですぞ」

「はっはっは。弁慶殿、そうだがマスター殿が来て下さったのだ。喜ばしいことだ」

「レオニダス王」

「お久しぶりですな。報せはよく聞いていましたぞ」

「そうでもないよ。それより――」

「ええ、では早速参りましょうか」

 

 オレたちは、レオニダス王について塀へと昇る。絶対魔獣戦線を支える北壁。どこまでも続くかのような城壁は、まさしく万里の長城のようであった。

 此処が人類の最果ての防壁。そこにいる兵士たちは屈強だ。絶望的なまでの防戦であろうに、誰も彼も絶望などどこにも背負っていない。

 

「これは?」

 

 それと大きな兵器。投石器のようにも見える。

 

「ええ。これこそ、魔獣撃退の要。神権印章(ディンギル)のある射撃台です」

「……」

 

 見た限り投石器であるが、ただの投石器ではないだろう。ギルガメッシュ王が設置した魔獣撃退の要となれば、石を飛ばすためのものではないだろう。

 

「これは何を飛ばすものなのですか?」

「ええ、マシュ殿。これは、ギルガメッシュ王が所有していた様々な力ある武器を撃ち出すための大型の投石機です」

 

 台座に埋め込まれたラピスラズリに大量の魔力が込められており、それを砕くことによって撃ち出すのだという。非常に贅沢な兵器であり、それくらいの財を彼が解放しているということなのだろう。

 

『本当冬木で出会ったあの王様と同一人物だとは思えない。ウルク風、いや、ギルガメッシュ王風のバリスタか』

「それでも大層良いものというわけではありませぬ。遠見の魔術師殿。威力はあるのですが、大層狙いが甘いのです」

『なるほど。確かにギルガメッシュ王の財宝は古今を問わず、東西を問わず収集したものだそうだけれど、限りがないわけじゃない。そうなると牽制や大軍用なのかな?』

「その通りです」

『それにディンギルか』

「そう。ディンギルだとも、ロマニ。シュメルでは人々は功績のあるものを神格化する。武器もそうさ。神が認めた神ではなく、人間が認めた神。人間による人間の為の信仰と言える」

「なるほどのう。これはある意味あの金ぴか王様の意思表示というわけか。あやつめ、相当神仏が嫌いのようじゃのう。人間の手でこの戦に勝利するという意思表示じゃなこれは」

 

 ノッブの言う通りなのだろう。ディンギル。人間による、人間のため信仰。そうだというのなら、本当にそう思っているのだろう。

 

「それは知りませんでした。……なるほど。人の手だけで勝利する、ですか。確かに窮地には人は神頼みをするものですが、そんな時の神頼みほど無下にされるものはありませんからな」

「その通り。神が加担するのは勝ち組だけさ」

「なるほど……それで、オレは一体何をさせられるのかな?」

 

 そろそろ本題に入ろう。ニップル市を解放するために、オレは一体なにをさせられるのか。

 

 レオニダス、牛若丸から語られたないようは戦況の変化だった。

 夜事、ニップルから市民を避難させていたが、魔獣どもの動きが変化したのだという。あからさまなニップル包囲。

 なるほどどうやっても逃がさない腹積もりであるらしい。

 

「ギルタブリルに次ぐ指揮官が来たのでしょう」

 

 ギルタブリル。巴御前が倒したという魔獣か。

 

「だったら、そいつを倒すまで待つか?」

「いいえ。それでは餓死者が出ましょう。もはやニップルにこれ以上の時間的余裕は残っていません」

「であれば、陽動よ。そこにいてほしくないのならば、引き離せばよいだけよな」

「ノッブ殿の言う通り、牛若丸殿、弁慶殿が指揮する部隊が東からニップルを目指します」

「そうなると魔獣は迎撃に出るか。ならば、オレたちは西から行けばいいんだね?」

「ええ、その通りです。門を開き、市民を護衛してもらいたい。ただ、戦力は避けぬゆえ、貴方方のみになりますが」

「こっちはみんなサーヴァントだから、大丈夫だけれど、それじゃあ、牛若丸たちが大変なんじゃない? こっちからも戦力を回そうか?」

「いいえ、大丈夫です。私も弁慶も平原での戦には慣れております故。それに私はニップルには入れないのです。ギルガメッシュ王より入るなときつく言い渡されておりますゆえ」

 

 入れない? いったいギルガメッシュ王にはどんな意図があるのだろうか。

 まあ常人にはわからない何かしらの意図があるに違いない。あの人はそういう王様だ。

 

「では、作戦通りに。決行は?」

「明日、太陽が空の七分まで昇った時です。それまでは英気を養ってください」

「……すみません。ニップル市の地図はありますか?」

「おお、それならば拙僧が懐で温めておりますぞ。アナ殿、一緒にみますか」

「……兵士からもらってきます」

「一緒にいこうか?」

「…………結構です。あなたは休んで下さい」

 

 明日まで思い思いに過ごすことになり、今日は解散となった。

 

「さあ、ますたぁ、少しこの街を見て回りましょう」

「そうですね。わたしもその、少し気になるので」

「そうだね。城壁に出来た街なんて、初めてだし。少し見て回ろうか」

 

 清姫とマシュを引き連れて、少しだけ街を歩いた。

 そうしたら、いつの間にか全員集まってたのには笑った。

 そして夜、眠れずにいると男衆に連れ出された。

 

 酒場で酒盛りだという。食事もうまいというのは本当神代はすごいというか。

 ウルクと何一つ変わらないのが凄いと思った。

 

「すごいなぁ」

「唐突にどうしたよ、マスター」

「いや、ウルクとなにも変わらないところがね」

「なるほど。最前線だから、こんなところで酒盛りなんて出来ねえって思ってたってことか」

「まあ、そんなところ」

「マスターの言いたいこともわかるけどね。だけど、最前線だからってのもあるのさ」

 

 ダビデ曰く、こういう場所ほど娯楽というものは必須だという。

 

「戦があるところにゃ、大抵商人が集まんのさ。稼ぎ時だからってな。それが長い戦になって街になったんだ。そりゃ、こうもなるわな」

「ゴールデンだぜ。士気もたけぇしあの指揮官も中々だ。半年も戦ってんなら慣れてる頃合いだろうからな。そうなるとこういうのが必要になるってのは頼光さんに聞いたことだな」

「うむ。戦になると粗食になっていくのは致し方ないが、人間であるゆえにそれでは持たない。精神の疲労は戦において何よりも大敵だ。どれほど強い軍隊であろうとも、その精神を挫けば殺るのは容易い」

「怖い怖いって。ジェロニモ。怖いって」

「はは。戦前だからねマスター。みんな興奮してるんだよ。僕もそうだからね。大きな戦だ。それも人類趨勢を決める。英霊としても、一人の戦士としても皆血が疼くんだろうね」

「ハイドも?」

「ケハハ、そりゃなァ!」

「ハイド殿、あまり暴れるようでしたら」

「ヘイヘイ、騎士のお坊ちゃんに怒られないうちに退散しておきますよ」

 

 騒がしい夜だった。誰もが、此処で酒を飲んでいる。明日の作戦に備えているのだろう。

 

「マスター。ご安心を。円卓の騎士の末席に座る身。このベディヴィエール、全霊を以て貴方を護りましょう」

「うん、その辺はまったく心配してないよ。それよりも、みんなも気を付けてよね」

「なに言ってやがる。一番あぶねえのは、俺らについて前に来るマスターじゃねえか。俺らの心配なんざしてる暇があるのなら、魔術礼装の確認でもしておけよ。土壇場で何が役に立つかわからねえぞ」

『そうだね。こちらも確認はしているけど、万が一があってらいけない。きちんと確認だけはしておくんだよって、ダ・ヴィンチちゃんも言っていたから、寝る前に確認するんだよ』

「わかってるってドクター」

『いや。いいや、君がわかってるって言ったときは大抵無茶とかしちゃう、わかってないときだからね。最高責任者としてしっかりと言い含めておくよ。みんなもよろしく』

 

 む、そんなに無茶してない……いや、決行してるか。でも、オレがやるしかないし、なによりみんな死んでいった。

 多くの人がこの旅で死んでいく。託された、とか思い上がるようなことは言えないけれど、やれることを全力でやらないといけない。

 そうじゃないと、すべてが無駄になってしまう。それだけは嫌だし、何より。

 

「みんな頑張ってるからね」

 

 オレだけが下がったり、無茶をしないなんてのはおかしい。みんな頑張ってるんだから。

 

「そんなことより、マーリンはどこにいったんだい? 僕とキャラ被りしている奴は」

「いや、そんなことって。ダビデ……。でも、たしかに、マーリンはどこに行ったんだろうね」

「大方、どっかで女でも捕まえてんじゃねえか?」

 

 ありうる。

 

「はは。さすがの彼も前夜にそのようなことはしていないだろう。精霊の導きの下、彼も足掻いているよ」

「えぇ~ほんとうでござるか~」

 

 などと、夜は更けて、作戦決行の朝が来る――。




さあ、さくさく行こう。

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