Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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絶対魔獣戦線 バビロニア 25

 しばっちゃれー。というわけで亀さん系縛りを気絶したイシュタルに実行。まあ、主にやったのはマーリンなのだが。

 

「それじゃあ、起きるまで待ちますかね」

 

 彼女が起きたのはすっかりと日も暮れた頃であった。

 

「――痛い……頭痛いっ……!? 何よこれ、ここはどこ、私ったら縛られててる!? 意味がわからないわ! 説明を求めるわ! いったい何が、どうなっているのかしら――!?」

 

 どうやら目覚めたようであるが、何やらちょっとオレは違和感を感じた。些細なものであるが、何か違和感を観察眼が捉えた。

 しかし、これ以上観察するわけにもいかない。起きたのなら話をしよう。

 

「おはようございます」

「――ええ、おはよう。丁寧なあいさつは好きよ、私。――でも、アナタ誰?」

 

 さて、何度かあっているはずだが。名乗っていないが、それでも何度か会った。まるで初対面みたいな。

 

「フォーウ?」

「なにそれ災厄の獣じゃない!? なんでそんなのがここにいるの!?」

 

 おや、フォウ君を見て怖がっている。

 

「もしかして食べられる? 私、生け贄にされてしまうのかしら!?」

 

 ふむ……。

 

「……はい、そうです」

「そんな――!? 私なのよ!? こんなの前代未聞よ、アナタ、後が怖くないの!?」

「まあ、怖いですけど。これまでさんざん色々とやられましたからね」

「そ、そうなの? 嘘は言っていない目ね……、うわぁ、そうなんだ。ひどい女神ね……私……」

「まあ、そういうわけですので。出来ればお話をしてくれると助かります…………女神様」

「不死殺しを首に突きつけておいてよく言うわね。なに、何が聞きたいのかしら」

「殺す気はないですよ。保険というか、アナがそうするって聞かなくて」

「……当然です」

「ふぅーん。まあいいわ。どうせ聞きたいことは三女神同盟のコトでしょう」

 

 頷く。

 こちらかの質問はシンプルだ。

 なぜウルクを襲うのか。

 ほかの女神の真名。

 誰が召喚したのか。

 

「予想通りの質問ね。貴方、名前は?」

 

 正直に本名を名乗る。

 

「……ね。わかったわ。私に名前を教えた愚かしさに免じて、答えられる範囲で答えてあげるわ」

 

 どうしてウルクを狙うのか。

 地上を支配するため。人間の支配、地上の支配で細かい違いがあるが、競争をしている。ギルガメッシュから聖杯を手に入れた者が土地の所有者になり、他の二人は、去るか付属神となるからしい。

 真名は教えられないと彼女は言った。それはそうだ。三女神同盟には互いに攻撃することを禁じる戒律があるらしく、他の女神に対して敵対行動は出来ないらしい。

 

「攻撃できないんだ」

「ええそうよ」

「なるほど……確定か」

 

 次に召喚したのは誰か。イシュタルは巫女長に。他は聖杯に惹かれてやってきたといった。

 

「話してくれてありがとう」

「質問は終わりかしら。アナタ良い人間(ヒト)ね。敵であれ、ちゃんと礼を尽くす。そう簡単に出来ることじゃないわ。こっちも質問させてもらってもいいかしら」

「どうぞ。答えられる範囲ならば」

「貴方はカルデアの魔術師なのよね。年代的に言うのなら人類最後のマスター。間違いないかしら」

「はい、間違いないですよ。でも、最後にはさせません」

 

 未来はこれからも続いて行く。

 ならば、オレが最後になんてならない。

 

「言うじゃない。そして、レアじゃない。――いいわ。ますます私の好みなのだわ」

「フォウ……フォーウ!!」

「フォウさん? ――!?」

「マスターさん! 市のいたるところに骸骨が現れました!」

 

 見張りをしていたリリィが告げてくる。

 

『なんだって!? こちらでは大量の魔力があるだけだ』

『ああ、そういうことかぁ。ロマニ、これはこれで正常なんだ。だって、今、彼らがいるのは神代なんだから』

『そうか――死体が動くくらいじゃ魔力測定に揺れは起きない。つまりそっちではそれぐらい異常じゃないんだ!』

 

 相変わらず現代の常識が通用しないな神代!

 

「……撤退しましょう。幸い粘土板は回収しています」

「アナの言う通りだ。さっさと逃げた方がいいね。だって、ここにいるのクタ市民じゃ足りないくらいだ」

『ああ、二人の言うとおり至急クタ市から脱出を!』

「わかってる。でもその前に――縛ってすみませんでした女神様」

「…………待って、どうして縄を解くの」

「話し合えば、わかると思ったので」

「ぐっ……そんなワケ、ないじゃない……」

 

 そうやって赤くなるところがそうだと言ってるんですよ女神様。

 

「まあ、あとは。オレの直感が貴女は敵じゃないって言ってるんですよ」

「――――」

「それじゃあ、生きていたらまた!」

 

 しかし状況は悪い。時間が経つほど増えていく骸骨。一体一体は弱いが数が多い。カリバーンで薙ぎ払ってもすぐに道はふさがってしまう。

 

「万事休すかな」

「すみません、マスター。私が未熟なばかりに」

「リリィのせいじゃないよ」

「さて、でもまだあきらめるわけには――」

 

 その時、矢が降り注いで道を創る。問答無用の援護射撃。

 

「早く行きなさい! 私の気が変わらないうちに」

「女神様! ありがとう! 行こう」

「では、失礼しますよマスター」

 

 ベディに抱えられてオレはクタ市の南門へと向かう。

 

「これに懲りたらもうここには近づかないことね。冥界に捕らわれてしまったら、二度と戻れないわよ」

 

 そう言って彼女は北島の空へと飛び去って行った。

 オレたちは、そのまま南門からウルクへ向けて撤退した。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「ふはははははははははははは!!!」

 

 ウルクについて報告をしたら響き渡る王様の笑い声。それも当然だった。あのイシュタルが、ハタキ落とされ、情けで助けられ、脱出の手伝いをして逃げ去った。

 というのが王様の認識だからだ。

 

「それくらいに王様」

「これが笑わずにいらいでか。だが、確かに時間は有限だ。話そう。次の仕事だ。ニップル市は知っているな」

 

 ニップル市は、絶対魔獣戦線の向こう側にある都市だったはずだ。今も籠城していて、魔獣たちの襲撃周期を読んでそこを外して、少しずつこちらに避難してきていた。

 しかし、そこの備蓄がついに尽きたらしいのだ。よって、これ以上の籠城は不可能になった。糧食のない籠城などもはや自滅以外の何物でもない。

 

「巴のやつによって引き伸ばされていた時間が尽きた。それだけのことよ。ゆえに、残ったニップル市民を避難させる」

「七日に一度の攻勢の間隙を縫ってニップル民を北壁まで先導すればいいんですね王様」

「話が早いな。調べていたか」

「敵のことは色々と」

 

 王様に認められるまで依頼のおかげで色々なところにいった。その時に兵舎にも行った。そこで絶対魔獣戦線の戦況やどのように戦っているのかを聞いておいたのだ。

 これから戦う相手の情報は多い方がいい。そうすれば、どう戦えばいいかを組み立てやすい。あとは実際に見て情報を更新する。

 

 みんなに指示を出すための努力は怠っていなかったおかげでギルガメッシュ王が言いたいこともわかる。

 

「ならば奮起せよ。もしニップル市民を無事に避難させられたのであれば。貴様らを不要と言った言葉は改めよう! 存分に我が名代として人理を修復することを赦そう」

「――――」

 

 あれ、オレたちよりもシドゥリさんの方が感極まってる。

 

「待てシドゥリ。なぜそこで感極まって涙するのだ?」

「ハッ!? い、いえ、そのようなことは、ただ……世話役として彼らの苦難の日々を思い起こしただけですので。ええ」

 

 ありがたい。本当にシドゥリさんには良くしてもらった。だから、必ずこの特異点を修復し、世界を救おう。誰でもない。このウルクでかかわったみんなの為に。シドゥリさんの為に。

 

「よーし、頑張るぞー!」

「ようやくスタートラインだけどね。それじゃあ、王様? 天命の粘土板はどうするんだい?」

「我は読まん。そちらで読むが良い」

「自分が?」

「ああ。読めずとも良い。ただ触れて唱えよ」

 

 都市があった(ウル・ナナム)都市があった(ウル・ナナム)

 天と地の繋ぎ目(ドゥルアンキ)■■(ギル)カラの野原(エディン)

 

 唱えた瞬間、それを視た。

 

 ――誰かの義憤を、視た。

 ――誰かの怒りを、視た。

 ――誰かの言葉を、視た。

 

 許せぬと憤り。

 それは、誰かが抱いた怒りだった。

 誰かに抱いた怒りだった。

 それは悲劇に対する怒りだった。

 愛するが故の怒りだった。

 それは万能。

 それは至高。

 それは最強。

 

 数多、人々の理想足りえる者。足りえた者。

 全てを知る者。知り得た者。

 神に選ばれたもの。神の如きもの。

 王であった者。王の陰。

 

 彼に対する、怒りを見た。

 

 その王が赦せぬと憤るものがいたことを視た。

 世界にあふれる悲劇に何もせず、知ってなお、何かできたはずの万能の王が何もせずただ笑っていた怒りを、視た。

 回転悲劇の螺旋階段を上る生贄がいることを知りながら、王は何もせず、ただ笑っているのだ。

 そんなことを赦せるはずがない。

 

 出来たはずだ。

 ――救えたはずだ。

 出来たはずだ。

 ――悲劇をなくせたはずだ。

 

 あらゆるものを司る力を与えられ。

 あらゆるものを視る眼を与えられ。

 不可能など何一つ。

 そう、彼の王の身には不可能なことなど何一つありはしなかった。

 

 ――だが、王は何もしなかった。

 

 それを赦せるはずがない。

 

 怒り。

 怒り。

 怒り怒り怒り。怒り。怒り。

 

 この身を焦がす怒り。

 その身を永らえさせる執念。

 妄執。

 これは増悪などではありはしない。

 全ては――。

 

 ――言葉を視た。

 

 神殿を築け。

 それは必要なもの。全てをやり直すために必要なもの。その身自身。

 

 光帯を重ねよ。

 それは必要なもの。全てをやり直すために必要なもの。エネルギー。

 

 人類史三千年にも及ぶもの。

 それは滅ぼすための資源。

 それは忘れるための時間。

 

 それこそは、終局特異点への道筋。

 魔術王への玉座に通じる道筋。

 

 オレは、それを視た。

 

 ――その(ソラ)を視た。

 

 時間神殿。

 ソロモン。

 終わりの極点。

 星なき宙。

 それはあらゆる時間を束ねた渦の向こうにある。

 最後の希望――。

 

 ――ああ、そうだ

 ――そこは――。

 

「――っ!」

「マスター!? 大丈夫ですか!? 顔が真っ青ですが!?」

「っ……」

「なるほど。その顔では明確な答えはなかったようだな。だが、これで因果は出来た」

 

 アレは手がかり。ギルガメッシュ王が視た、魔術王へと通じる数少ない手がかり。

 

「いずれそれに対面しよう。それまでは頭の隅にでも放り込んでおけ。貴様には、それで十分であろう。では、行け、せいぜい励むが良いわ」

 

 それが何を意味するのか、オレにわからない。 

 神霊ならざるこの身には。

 英雄ならざるこの身には。

 碩学ならざるこの身には。

 

 だが、何かを掴んだのは確かだった。

 それはきっと、魔術王に繋がる何かだ。

 もうそれはどこかへと去って行った。

 視たはずのものも、聞いたはずの声も。

 

 もはやそれはどこか遠く。

 

「大丈夫ですか? マスター」

「うん、大丈夫だ。マシュ。時間は有限だ。北壁へ行こう」

「はい、マスター!」

 

 北壁。

 世界の最前線。

 世界を救うための戦場へ征く。

 

 ――怖いか?

 ああ、怖い。

 ――恐ろしいか?

 ああ、恐ろしい。

 

 怖い、怖ろしい。ならばやめたらどうだ。頑張っただろうと。

 弱い心は常に、そう弱音を吐いてくる。

 でも――。

 

「? どうしました先輩? じっとわたしの顔を見つめて。ごみでもついてますか?」

「いいや、なんでもないよ」

 

 輝きは、そこにある。

 あの日見た白亜の輝きは、絶えることなく。

 誰にも侵されることなく、そこにある。

 

「さあ、行こう」

 

 ならば、立ち止まることは出来ない。

 どこまでも行こう。

 魔術王の企みを阻止して、世界を救う。

 

「みんなとならやれるさ」

 

 ――その日、夢を見た。

 

 ラムレイでの移動中に白昼夢を見た。

 

 雪の降りしきるどこかで。

 

「気を付けて。それは死を知らぬ者。それは、母なるもの。貴方が視ているものではない。けれど、それは――」

 

 優しい誰かの声を――。

 




遅くなりましたー。

公募の作品とかいろいろ書いたりしてました。リアルも忙しさマックスなのでやべえです。
出版社の人から電話あったりとごたごたしてたがようやく書けました。

次回、北壁の諸々。

久々の夜会話になるから頑張るぞー。

では、また次回。
相変わらず色々とやってますが、ゆったりと待っていてくださいね。

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