Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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絶対魔獣戦線 バビロニア 24

「今回は探し物だ」

 

 ギルガメッシュ王から重要な案件があるとのことで、カルデア大使館は呼び出しを受けた。ギルガメッシュ王に謁見し、その内容が伝えられる。

 探し物。クタ市に向い、そこにあるという天命の粘土板を回収してこいということだった。

 

「おや。これは意外な仕事だ。天命の粘土板はクタ市にあるのかい?」

「そうだ。冥界よりウルクに帰る際、クタで先を視たのを思いだした」

 

 天命の粘土板というのは、まさしく天命を示したものだという。ギルガメッシュ王が瞑想にふけり、その千里眼にて記録した運命の粘土板だ。

 人間にとっては先を知ることの出来るものであるが魔獣にとっては何ら役に立たないものであるらしく、放置されている可能性があるという。

 

 よって、それの回収がオレたちの今回の仕事になるらしい。

 

「それとイシュタルの情報を集めておけ」

「イシュタルの?」

「はい。ウルクより北東部。クタ市を含めた領域はイシュタル女神が制空権を支配しているのです」

「なるほど」

「そういうわけだ。此度の仕事、時間はかけられぬ故三日で戻るが良い」

 

 往復二日、現地で一日の探索。

 これは急がないといけないようだ。

 急いでカルデア大使館まで戻る。

 

「……お帰りなさい」

 

 戻るとアナが迎えてくれた。

 

「ただいま」

「慌ただしいですが、何かありましたか」

「はい。! ギルガメッシュ王からの新しい任務ですよ、アナさん!」

「今回はクタ市に行って天命の粘土板っていうのを探すことになったんだ」

 

 給料は巫女の銀がニ十個。相当な金額だ。

 

「メンバーはアナ、マーリン、マシュ、ベディ、リリィだ」

「……急いで仕度してきます」

「ノッブとスカサハ師匠は、魔獣戦線の方へ」

「うむ、了解した」

「任されよう」

 

 それぞれに役割を割り振って荷物をまとめていると牛若丸たちがやってきた。

 

「ほう、クタへですか。羨ましいですね。是非同行したいのですが」

「我らには明日より魔獣戦線に向わねばなりませんからなぁ」

「ニップル市解放作戦までもうすぐなんだっけ」

「ええ。そうです。一度くらいは貴方と旅をしてみたかったのですが。仕方ありません。辛抱していれば次の機会もめぐってきましょう」

「そうだね。次は一緒に旅をしよう」

 

 牛若たちと別れ、荷物をまとめて出発の準備を整えた。

 居残り組はカルデア大使館の運営を任せ、オレたちは北門から出発する。

 

「マーリン」

「なんだい?」

「クタ市はどうして滅んだの?」

「それがわからないのさ。クタ市は、三女神同盟が現れた後に、唐突に滅び去ってしまった。連絡が途絶え、調査隊が見たものは静寂に支配された街並みだった」

 

 血痕も遺体も争った形跡もなく、ただ眠るように息を引き取っていたのだという。

 不可思議な事件だった。ただ死んだ。

 

「ただ死んだ……」

 

 毒の類か。少なくともイシュタルや密林の女神の仕業ではないし、北の魔獣を操っている女神の仕業でもないだろう。

 おそらくは別の要因のはず。

 

「…………」

「まあ。考えたところでわからないものはわからないさ。まずは道中の魔物を倒して牧場主に恩を売りつつ行くとしよう」

 

 道中牧場主からいろいろとイシュタルについて聞きつつ、クタへとやってきた。

 

 証言は以下の通り。

 1、イシュタルは、無差別に飛び回って魔物を爆撃と高笑いを落としていく。

 2、忙しい時にやってきて、どんどん魔物を爆撃。怪我人がいないのが奇跡。あと高笑い。

 3、イシュタル様のご尊顔を拝謁だ桁だけでもよいが……。魔物を無差別に爆撃していくから雇った先から魔獣退治屋が逃げる。あと高笑い

 4、絶対、何百年後には金星の悪魔呼ばわりだよ。牧場は穴だらけ、羊は逃げだす、オマケに魔獣たちさえ皆殺しにする外道っぷり。それから、降りてきて、アナタの宝石全部貰うわと貰っていく。

 

 何とも鬼畜っぷりであるが共通していることが一つある。

 魔物を倒しているということ。

 高笑い。

 

 とりあえず高笑いは関係ないだろう。

 関係があるとすれば、魔獣を倒しているところだ。

 これは明らかにおかしい。

 

「三女神同盟は、互いに邪魔していることは今までなかった。少なくとも密林に北の魔獣がいたことはない…………」

 

 そうなると、本当にイシュタルは三女神同盟なのか? という疑問が生まれてくる。直感であったが、どうにもそう、おかしい。

 もしイシュタルが三女神同盟出ない場合、クタ市の不可思議な事件について一応の説明がつく可能性がある。そういった権能をもった女神がいる。

 

「んー、でも、神代とは言えそんなにホイホイ神様が出てきてもなぁ……」

「マスター、何を考えているんだい?」

「んー、イシュタルのこと。マーリンは何か知らない?」

「女神イシュタルのことかい? そうだね、私の知っていることなんてたかが知れているけれど、あのイシュタルは普通のイシュタルではないということくらいかな」

「普通のイシュタルじゃない?」

「そう」

 

 マーリン曰く、北部に魔獣が現れだした時に、ウルクの巫女所で王に黙ってある儀式が行われたらしいのだ。それが、イシュタル召喚の儀式である。

 ウルクは王権と祭祀場と巫女所の三権分立であり、巫女所は都市神を王よりも重視している。王が蔵を解放して北壁を作っている間に、巫女所は女神の魂だけを召喚し、この魂に適合する肉体に入れてからそれを召喚したらしい。いわゆる疑似サーヴァントという奴。

 

「だから、彼女の髪は黒いのさ。メソポタミアの神は金髪であり、人間は黒などと言われている。イシュタルの神が黒いのはもとになった少女がいるからだろう」

「……ふむ。そうか……」

 

 そうなると、どうにも色々とつながりそうな気がするが。さて。

 

『それはご愁傷様だね。観測したところ、アレは完全にイシュタルだ。元になった少女はかなりイシュタルと気があったんだろうね。

 もう完全に二つの自我が融合して、まったく新しい、それでいて元のままの女神として成立してしまっている』

「まあ、それでもそのおかげで、生きている。あのイシュタルは人間らしいからね」

 

 元になった少女には悪いけれど、おかげで助かっている。もし会うことであったらお礼が言いたいけれど無理だろうなぁ。

 

「マスター! 皆さん、クタが見えてきましたよー!」

 

 先を歩いてくれていたベディとリリィが告げる。どうやらクタに着いたようだった。

 

 クタ市。一夜にて活動停止した都市。魔獣ですら恐れて入り込んでいない。そのため、人の手がないために荒れてはいるが、破壊された痕跡は皆無だ。

 よって天命の粘土板は今もこの都市に残っているだろう。

 

『ただ、損傷がひどいね。破壊されてはいないが、ここから探し出すのは手間だぞぅ。どんな危険があるのかもわからない』

「それは大丈夫さ。私の、自分だけはなんとしても助かるぞ、という第六感も脅威はないと告げているからね」

「…………」

 

 恐ろしいほどの静寂。

 無音の大音量がここにはあった。風すらも吹かない。ただ静謐。ここには何もないのだ。まるで宇宙のようだ。あるいは深海。

 少なくとも生命というものがここには根本的に足りていない。

 

 さらに言えばここに来て気が付いたことがある。根本として様々な問題がここだけは違うのだ。

 

「やっぱり、何かいるのかもしれないな……良し。とりあえず、天命の粘土板を探そう」

 

 皆で手分けして探す。ここに脅威はない。だから、手分けした方が早い。

 

 オレの担当は南地区。

 

「待ってください。わたしは先輩のサーヴァントです。離れるわけには」

『大丈夫だよマシュ。ここに脅威はない。この先、一人で調査する必要もあるかもしれない。その時の為にも経験はしておく方がいい』

「ドクター……しかし」

「なに、キャスパリーグもいるんだ。なにかあっても大丈夫さ」

「……わかりました。先輩。くれぐれもお気をつけて」

「うん、マシュもね」

 

 みんなで手分けして天命の粘土板を探す。

 形状はギルガメッシュ王が持っている神権印象(ディンギル)の粘土板と同じものであるという。微弱な魔力を放っているらしいのでそれを感じ取ればいい。

 

「どう、ドクター?」

『うーん、見渡す限りの廃墟だね。微弱な魔力っていったけど、ここまでマナの密度が高いと逆に見つけられない』

 

 神代の弊害か。

 ともかく歩くしかない。カルデアの観測もオレを中心としているから、オレが歩き回ればそれだけデータが集まる。

 職員の皆には悪いけれど、解析してもらおう。

 

『なに、大丈夫さ。この万能の天才ダ・ヴィンチちゃんがいるんだからね。それに職員のみんなもやる気さ』

『ええ粉骨砕身やらせていただきます。だから、気にせず歩き回ってくださいね』

「よろしくお願いします」

 

 よく話をするオペレーターの人にもそう言われたし、いっちょ頑張って歩き回ってみようと、一歩踏み出した瞬間。

 何かを、踏み抜いた――。

 

「どこだ……ここ……」

 

 何か薄皮のようなものを踏み外して、下に落ちてしまった感覚。しかし、穴などではなく、もっとこう抽象的というか概念的という感じがした。

 そして、落ちたのは暗い、どこかもわからない場所だった。クタ市ではない。冷たく冷えた、どこかわからぬ場所だ。

 

「フォウ、フォーウ!」

 

 フォウ君は無事だが。

 

「どこなんだここは――」

 

 ――生者、生者だ。

 ――なぜ、冥界に生者が、いる。

 

「――!?」

 

 その時響いた声をなんと形容すればいいだろう。地の底から響くような。そう、まるで地獄の亡者のような――。

 

「嘲笑いに来たのか」

「略奪に来たのか」

「逃亡に来たのか」

「捨てに来たのか」

 

 それは怨念だった。

 

「赦されない」

 

 そのどれも許してなるものかという亡者の怨念。

 

「死ね」

 

 死ぬがいいという思念が叩きつけられる。

 

「く――」

 

 逃げなければ。殺されてしまう。

 だから、逃げようとして――。

 

「待て」

 

 全てがその一言によって静寂に帰った。

 

「ガルラ霊よ。その者はまだ死してはいない。連れ去っては主人の怒りを買おう。疾く役目に戻るが良い」

 

 その声によってその場にいたゴーストたちはいずこかへと戻った。

 

「貴方は……」

 

 いつか会った。

 確か、ジウスドゥラ。

 

「彼らに非はない。無礼を働いたのはそちらが、若人よ」

 

 生きたまま冥界。死者の国を訪れた。約定に反している。理に反している。ゆえに、ガルラ霊は怒った。本来ならば助ける道理などありはしない。

 

「そなたには、恩が、一つある」

「一つ……?」

「不肖の弟子の救いよ。最後の最後で、宿命を超えた我が不肖の弟子の願いに免じて、ただ一度だけ救おう」

「えっと……」

「若人よ。クタ市の地下は冥界とつながっている。そなたは生きたまま冥界に落ちたのだ。門はこの私が閉じよう。そなたは、伝えよ」

「なにを……」

「魔術師に、冥界は健在なり、とな」

 

 その瞬間、何かが一閃された。

 斬られていない。

 だが、この感覚には覚えがあった。

 

「まさか――」

 

 だが、それを掴む前に、オレの意識は闇に沈んだ。

 

「フォーウ……フォウ……フォーウ……」

「夢……だったのか……?」

 

 気が付けば、集合ポイントに戻っていた。

 

「ただいま戻りました。こちらにはそれらしいものはありませんでした」

「ああ、お帰りマシュ。こっちもなかったよ」

「はあ? では、その先輩のお尻のしたにあるのは?」

「二人とも戻ってきていたか。いやはや徒労徒労。まったく無駄骨に終わって……おや?」

「すみませんマスター! 見つかりませんでした! あれ、マスター、お尻の下に……」

「申し訳ありません。私の方も草の根分けて探しましたが見つかりませんでした。その代わり、食べられそうな肆草を発見したのでせめてもと摘んで……んん? マスター、その下にあるのは……」

「……西地区をしらみつぶしに探しました。粘土板らしきものはありません……む?」

「フォウ?」

 

 おや、何やら視線がオレに集中。いや、オレの下?

 

「んー?」

 

 さて、何があるのだろう。

 

「マスター。マスターが敷物として使っているその板は、どうみても天命の粘土板では!?」

「フォ…………ドフォーウ!?」

「嘘だろ……」

「いやー、良かった良かった。間違いなくそれが天命の粘土板だ。どこにあったんだい? マスターの担当地区にもないと思っていたんだけど」

「それが……」

 

 オレはあったことをそのまま話した。

 

「ふむ、ジウスドゥラ。冥界は健在と来たか。ロマニ、どうなんだい? 記録していたんだろう?」

『それがここ数分間の記録がないんだ。本当にその老人はジウスドゥラと名乗ったのかい?』

「そうだよ」

 

 それは、シュメル伝説において洪水生き残った唯一の人の名前である。つまるところノア。

 世界の終わりを継承する者、あるいはすべての死を見守る者。

 

「本人でなくともそれに近しい役割だろうね。それよりも冥界が健在か。そうなれば、冥界の主人も厳戒していると考えるべきだ」

「たぶんしてる。ジウスドゥラがそう言ってたからね」

「そうなると、僕が千里眼で視たあの三女神の集まりは……」

『考えるのあとだ! みんな気を付けて、そちらに強力な霊基が向かってきてる! イシュタルだ!』

 

 ドクターの通信が終わるのとほぼ同時に、それは降ってきた。天舟に乗ったイシュタルだ。

 

「見つけたわよ! アンタたち、私のことを牧場主に根ほり葉ほり聞いたそうね!」

「あー、聞いたね。うん」

「どういうつもりか知らないけど、女神の休日を探るなんてデリカシーなさすぎよ!」

 

 警告なしの威嚇射撃。とりあえず建物の影に隠れる。

 

「いやー大変だ。大変。牧場主から宝石を奪って貯蓄している女神がきた。今度は僕らが狙いとは」

「それ風評被害だっての! この私が金銭目的でニンゲンなんて襲うかっての!」

「じゃあなぜに宝石を巻き上げていたので?」

「決まっているじゃない。当然の権利だからよ。助けてもらったからには報酬を支払うのが道理でしょう。この私が無償で人助けなんてするもんですか」

「タダで? 助ける? え。自由気ままな女神イシュタルが人間を、ですか……?」

「やっぱり」

「しまった……余計なこと言っちゃった……」

 

 となると、三女神同盟とは……。

 

「ともかく! アナタたちには天罰が必要よ! この私を二度も虚仮にしてくれた罪を償いなさい。具体的に言うと、そのアナタが持っているそのお宝っぽいもの。それが気になるから没収するわ」

 

 あとはもうスカピンにしてくれるらしい。

 まあ、うん、もう三度目だしなぁ。

 空を飛び回っているのが厄介だが――。

 

「行きますよ、カリバーン!」

「ちょ、あぶっ!?」

「いやぁ、もう三回もオレたちあっているんですし、貴女がどこにどうやって逃げるとかわかるので」

 

 あとはそこにあらかじめビームを放てば、ほれこの通りと当たってくれる。

 

「ズルいわよ! チートよ、チート!」

「チートだったら、どんなに良かったか。貴女クラスの心の中読み取るのって、結構しんどいんですよ」

 

 今も鼻血出て来たし。

 

「くう、こうなったら――なったら――あれ……」

「ん? 止まった、ならアナ!」

「はい。空を飛べなくとも、これだけ屋根があれば!」

 

 アナが屋根へ駆け上がり、イシュタルの背後からの一撃で地面に叩き落す。

 女神イシュタルは脳天から堕ちて、気絶したのであった。

 




なに? 攻撃が当たらない?
だったら先読みしてそこにビーム置いとけばいいだろ!

というのが今回のぐだ男君の対イシュタル。
もう三回目。二回も行動を見ればおのずとわかるもの。それでも神様の心の中なんて相当無理しないと読めないけどネ。

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