絶対魔獣戦線 バビロニア 23
朝食の間。
少しだけ、考え事をしていた。
「ん? 先輩、わたしの顔になにかついているのでしょうか。それとも寝癖が!?」
「ああ、いやなんでもない。今日も可愛いなって」
「そ、それは、ありがとう、ございます」
考えていたのはあの特異点でのこと。自分に似た、けれど自分ではない平行世界の誰か。
――ただ、私は会いたかっただけなんだ……
平行世界のマスターはそう言っていた。会いたかっただけと。いったい誰に会いたかったのか。
――わかってる。
――オレには。
きっとマシュに会いたかったのだ。
マシュ。マシュ・キリエライト。オレの戦う理由。君がいたから、オレはここまで来れた。もし君がいなかったのなら、きっとオレはどこかで潰れていたのかもしれない。
あの監獄塔。偽りのシャトー・ディフ。深淵なりしイフ城で、きっと前に進めずに終わっていただろう。
でも、マシュがいたからこそ、オレは前に進めた。
あいつにはきっともうそれがなかったのだ。
「マシュ」
「はい、なんですか先輩?」
「……いや、なんでもない。今日も頑張ろう」
「? はい!」
「フハハハハ」
気を取り直してシドゥリさんが来るのを待って仕事に行こうと気持ちを切り替えた時。何やらどこかで聞いたような笑い声が聞えて来た。
「朝っぱらから元気な声が……」
嫌な予感がする。とても嫌な予感がする。笑い声とともにそこにいたのは見覚えのある顔。
「雨どいにしては広いではないか」
「ギルガメッシュ王――!?」
「叫ぶでないわ、シドゥリに気づかれてしまうではないか!」
王よ、王の言葉が一番大きいです。
マシュの驚きをよそに、オレはまた厄介ごとを持ってきたなこの人と思って、とりあえずどうするか考えていた。王様の相手はマシュに任せる。
「あの、一体どういう用件でしょうか」
「今日は趣向を変えてこちらから出向いた。日々励んでいるようなのでな。そういうわけで、新しい仕事だ」
ウルクより南下してペルシア湾に行くと彼は言った。水質調査をそこでやるのだと。
ペルシア湾の海岸線には観測所があるから、そこに荷車に乗せた空の瓶を届け、代わりに海水の入った瓶を持ち帰れば良いだけの簡単な仕事。
ペルシア湾は三女神に襲われていない唯一の道だから安全だという。それがどこまで信じられるかはわからないが、少なくとも魔獣の類は出ないだろう。
「わかりました。それじゃあ準備をします。先輩」
「言っておくが、通行許可証の余りが二人分しかないのでな、貴様ら二人で来い――いや、待て、何やら一人増えていないか?」
「ああ、新しい仲間です。ちょっと昨日のうちに特異点が発生していて、そこに修復に出向いていたので」
「ええい、貴様、次から次へと面白いことを体験しおって! そういう時は我に一言声をかけてからやれと言っているだろう!」
「えぇ……」
「マスター、この人は?」
「この人はこのウルクの王様だよ。ギルガメッシュ王さ」
「王様! ええと、私はポール・バニヤン、です」
「……ふむ。よし、気が変わった。もう一人分通行許可証を用意してやる。そこの新顔も連れてこい」
「あの、本当に、大丈夫でしょうか」
「何度も言っているが問題ない。寧ろ、問題が起きるならば願ってもないことだ」
あ、なるほど、そういうことね。
王様は暇らしい。
「では、行くぞ」
というわけで、さっそくオレとマシュ、バニヤンで出発することになったわけだが――。
「やっぱりついてくるんだ」
カルデア大使館からずっとついてきてるからもしかしたらと思っていたけれど、やっぱりそうかぁ。
ギルガメッシュ王が付いてきている。一句よんで上機嫌だ。よっぽど外出したかったと見える。それもそうだろう。彼は日夜このウルクにおける、魔獣戦線を支えるべく邁進している。
少しくらい息抜きもしたくなるのだろう。あるいは、オレたちの報告に触発でもされたのか。トラブルばかりの報告だったけれど、途中から生唾飲み込む勢いで聞いていた。
元来、机にかじりついたりしているのが似合わない王様だ。こういった楽しいことという奴に興じて見たかったと見える。
『それよりもポール・バニヤンとは。昨夜おかしな特異点が観測されたと思って君に連絡しようとしても通じなかったのはやっぱりそういうことだったんだね』
「それは朝報告した通りですドクター」
『仕方ないとはいえ、君が無事でよかったよ。両儀君が脱落した今、新たな戦力の補充が出来たのは嬉しい誤算だ』
「私、がんばる!」
『素直な良い子みたいだしね』
そんな話もできてしまうくらいには、平和であった。ペルシア湾に行く道は、本当に三女神同盟の勢力下にはないようである。
「ここは本当に平和のようですね、先輩」
「そうだね。ドクター、敵は?」
『今のところ、反応はないね。ギルガメッシュ王の言う通り、この辺りは三女神同盟の勢力下じゃないようだ』
「だから言ったであろう気にする必要はないとな。それよりもだ、何も起きんのか」
「いや、そう言われましてもねぇ」
「はい、何も起きないのが一番です」
『――あー、非常に言いにくいことなんだけど』
「なに、ドクター?」
『敵性反応だ。何かそっちに向っているけど、見えるかい?』
ドクターに言われた方向を見れば、巨像がこちらに向かって歩いてきていた。
「フハハハ、ようやく来たか。さあ、どうする。どうしてもとあれば我も手を貸そう。どうしてもとあれば!」
「あー」
「マスター! ギルガメッシュ王がとても戦闘をしたそうにしています!」
「私、あれくらいひとりで大丈夫だよ?」
「うーん、バニヤンはとりあえず下がっていようか。なんというか、王様が戦いたいらしいから」
「わかった!」
「じゃあ、王様、どうしてもなんで手を貸してください」
「そうか、貴様らがどうしてもというのならば仕方あるまい。この我が手を貸してやろうフハハハ!!」
それからは特に特筆することなく戦闘は無事に終わった。
というかギルガメッシュ王がハッチャけていたそれほどまでに戦いたかったのだろう。いや、戦いたかったというよりは、単純に戦闘をしたかっただけなのだろうが。
「フン、なんだ最後のアレは。明らかに我対策ではないか!」
「いやぁ、ライダーでしたね」
何やらよくわからない電波も途中で拾ってしまったが、ともかくオレたちは無事に観測所に到着した。
「ツマラン。何も起こらないではないか! 珍道中を期待したというのに」
「いや、何かって、起きたじゃないですか」
石像に襲われただけではご満足いただけなかったらしい。
ともあれ、荷車の瓶を入れ替えた後、ギルガメッシュ王が観測所で何かしら調べものがあるというのでオレたちはその間休憩となった。
「んー、海だー」
「フォーウ、フォー」
「先輩、見てください。フォウさんがはしゃいでいます」
「バニヤンもだ。海でゆっくりなんてなかったから楽しそうだ」
オケアノスでは海賊船の上がほとんどだったし。陸にあがってからはあのヘラクレスと追いかけっことかばっかりだったからあまりゆっくりできなかった。
「海はどう? マシュ」
「はい、オケアノスと比べると小さいですが、この先にインド洋があるかと思うとドキドキします。世界は繋がっているのだと、そう思えて」
「そうだね」
今回の特異点は広い。ドクター曰く、インドまで観測可能。メソポタミアにとっては、海は重要なファクターなのだろうとのこと。
海か。メソポタミア神話における海は、すべての始まりだったはずだ。だからなのだろう。この特異点が広いのはそういう理由なのだと思われる。
「海かぁ……入りたかったなぁ」
マシュの水着が見たかった!
いや、無人島で見たけれど、ここは二人っきり。いや、バニヤンがいるけれども。水着は見たい!
「しかし、先輩、水着がありませんので入ることはできませんね」
「だったら浜辺でも走ってみる?」
『――九時方向から高速で接近する飛翔体! 速い、時速500キロ!? この反応は! 早くそこから離れるんだ!』
「もう遅い! マシュ!」
「はい、マシュ・キリエライト衝撃を防御します!!」
それはもう来ている。
飛翔してきたのはエルキドゥ。
「まったく。愚かに過ぎる。君たちはそんなにも死にたいのかい。イシュタルのいないこの港に来たのが運の尽きだ」
「エルキドゥ!」
「ああ、良かったよ。こんなところにやってくるような緩い頭でも、ボクの名前くらいは憶えていられるようで、ね」
「いいえ。マスター。彼はエルキドゥではありません。彼からは魔術王の気配を感じます!」
マシュの言う通りだろう。英霊エルキドゥではない。おそらくは、彼はそうじゃない。
「またそれか。でも、君たちは正しい。ボクはエルキドゥとしては偽物であることに違いはない」
だからこそ期待などするなとエルキドゥは言う。
壊れるまで。何があろうとも。
人類の敵である。
「よって、ここで死ぬと良い。ああ、安心していいよ。三女神と違って、ボクは苦しませるようなことはしない」
ただの全力を以て、安らかに串刺しにするだけだ。
「来る――マシュ、バニヤン!」
「はい、マスター!」
放たれる最上の武具。
無尽蔵の刃が、雨のように降り注ぐ。
「く、ぁあ――!」
『く、なんて攻撃なんだ。観測しているだけでも、どれもこれも最上の武具だぞ!』
「バニヤン、大きくなるなよ!」
「でも――このままじゃ」
このままではマシュの方が耐えられない。
盾が破られずとも、盾を揺るがす衝撃は何よりも巨大だった。今まで受けたこともないような衝撃が連続して降り注ぐ。
かつてギルガメッシュ王の宝具の雨の時よりも激しい。いや、あれは手加減されていたのか。こちらは加減なし。
いかに破られぬ盾でもマシュには限界がある。
「く――こうなったら、バニヤン!」
「うん!」
ポール・バニヤンは、観測するごとに大きさが変わる。
それは彼女が持つ武具もそう。一瞬にして巨大化、斧を壁とすると同時にエルキドゥへと叩きつける。
「また、新しいサーヴァントか。いくらいても――いや…………待て、なんだ貴様。まさか、母さんが。違う、違う!」
「なんだ――」
エルキドゥがバニヤンを見て、止まった。降り注ぐ武具の応酬は止まった。
何かはわからないが――いや、待て。
確か、バニヤンは――。
――聖杯を用い、泥によってつくられた。
エルキドゥは神によってつくられた泥人形。
「なにか、共通することでも感じ取ったか――だったらこの隙に! バニヤン!」
「行くよ――!!」
「舐めるなよただのサーヴァント風情が、ボクに傷なんてつけられるものか」
バニヤンの追撃は武具によって防がれる。さらに、そのままカウンターの雨。最上の武具を惜しげもなく使い捨てるように降らせてくる。
「くそ、ギルガメッシュよりひどい!」
「当たり前だろう? 無尽蔵の刃を雨のように降り注がせる。それこそが、この身体における戦闘の最適解だ。むしろ、真似しているのはソイツの方さ」
「ほう――これは異なことを。これは我の記憶違いか?」
さらに追撃を浴びせようとしたとき、ギルガメッシュ王が観測所から戦闘に気が付いたのかこちらにやってきた。
「ヤツは、我が脳裏に閃いた王の新戦法、今しがた貴様がやっているソレを、“無駄遣いの極み”と罵ったはずだがな」
放たれた刃は、ギルガメッシュ王によって全て叩き落される。
「まったく。何をやっている。サーヴァント風情に時間をかけおって」
「――っ、ぁ――」
「まあ良い。それにしても見込み通りであったぞ。見事な悪運だ」
えー、それは褒められてるのでしょうか。絶対褒めてないよねギルガメッシュ王。だが、これを予想していたのか。
確かに少ない戦力で敵の大将がのこのこ出歩いていたらそりゃ襲いに来る。だれだってそうする。オレだってそうするだろう。
「さて、エルキドゥ。貴様らしくないな。かつての兵器としての無駄のなさはどうした? まさか、死んだらどこかに忘れて来たというわけではあるまい」
しかし――。
「さっきからエルキドゥの様子がおかしい?」
ギルガメッシュを見て、動揺しているのか?
「ギルガメッシュ王! あれは偽物です! 本当のエルキドゥさんでは!」
「ほう、偽物。贋作にしてはよくできているではないか」
それどころか出力は上とか言い出した。
「よほど良い魔力炉心を手に入れたな」
「黙れ――黙れ、黙れ! 貴様の声は不快だ、ギルガメッシュ! オマエは、敵だ。必ず、殺す。忘れるな、母さんの敵、この世界は、オマエの死とともに、おらわせる!」
そのままエルキドゥはウルク北部方面に撤退していった。
『助かった……。エルキドゥは撤退したよ。こちらが劣勢だったのにどうして撤退したんだろうかはわからないけどね』
「…………」
どうして、か。どう考えてもギルガメッシュ王だ。王が来てから、エルキドゥは様子がおかしかった。明らかに何か不具合でも起きたようだ。
「どうでもよいことだ。調べるべきものは調べた。見るべきものは見た。ウルクへ戻るぞ」
ともあれ、今は無事に戻れることを喜ぼう。
「ごめんね、マスター。私、役に立たなくて」
「いや、役に立っていたよバニヤン。さあ、戻ろう」
「うん! お詫びに乗せてあげるね!」
帰りは大きくなったバニヤンによって運ばれたのでとても楽であった。王様は大層愉快だと笑っていたが。
さあ、リヨイベから現在に戻って、行くとしましょう。
スピードあげてジャンジャン以降。
はやくCCCとか終局とか、いろいろと書きたい。
最新の神話ポールバニヤンと最古の神話ティアマトの戦いとか
そんな感じの対決とかしたい。
斧を運ぶのはバニヤンに任せたりとかで。
イベントはエレナチームが一位でゴールしたので大満足。
トータルでも勝ったんじゃないかな?
まあ、予想通り落ちたけど。
それにしてもアレだ。あのシルエット。
見直すとメイヴっぽいし、もう一人は新宿のアヴェンジャー。
さて、どうなるのやら。