「私の敗北か……」
紅の弓兵が消えて。
「申し訳、ありません……マスター」
青い騎士王が消えて。
「…………」
黒き復讐者も消え失せた。
もはやここにはマスターただ一人。どこも見ていない、どこにも行けない。ただ、願いを叶えたかっただけの哀れなマスターが一人。
「終わりだ」
「……終わり……ああ、そうだね。終わり……ああ、もう終わってたのか……ただ会いたくて、それだけだったんだ」
「…………」
「異世界の私…………離すなよ」
それは、誰をだろうか。
誰の手をだろうか。
いいや、違う。そんなものわかっている。
「わかっている」
「――――」
笑ったように見えた。
「だが――バニヤンは駄目だ。アレは、危険すぎる」
「私が、危険……?」
「そうだ。ポール・バニヤン。世界を拡げるもの……」
「でも、私は、全部みんなの為に――」
「それが、世界を滅ぼす」
ポール・バニヤンは世界を拡げる。
いいや、破壊して作り上げる。
確かにそれは有用だろう。
だが――。
それだけでは済まない。彼女に限度などと言うものはありはしない。彼女はあらゆる全てを拓く。
木を切って、家を建てて。次第にそれは村になり、街になり、国になる。
ポール・バニヤンは繰り返す。発展させるために。
そして、最後には全て壊れてしまう。壊してします。
何も悪くない。ただ良くしたかった。そのために壊してしまっただけなのだ。
「わた、しは――」
「バニヤン!」
「マスター……私は、いない方が、いいの……? 私は、ただ、赤ん坊が生まれずに死ぬようにしたかった。寒さに震える老人が、震えなくなればいいと思ってた。飢えて苦しむ農民が飢えなければいいと思ってた。
全ての人を救いたくて、すべての人を助けたくて。だから、みんなが望む通りに、世界を開いてきたのに。私に心があるから、駄目なのかな。壊すべきものは、私なのかな。私は、必要のないものなの……?」
「違う! 絶対に! ポール・バニヤン。君は言った、寂しいと。それに、この世界に必要のないものなんてありはしないんだ」
「そうだよ」
ジャックが言う。
「この世界に生まれるものに必要のないものなんてないんだよ」
「そうよ」
ナーサリーがいう。
「この世界に生まれたものはね、どんなものでも素敵なの。今は、駄目でも、未来はわからないもの。評価されなかった傑作が、遠い未来で評価されて誰かを幸せにすることがあるのだもの」
そう。
この世界に必要のないものなんて存在しない。
必要がないのならば生まれるはずがないのだ。生まれたからには意味がある。神話も、伝説も、民間伝承も。必要とされたからこそ生まれた。
アメリカンジョークの与太話。それがどうした。生まれたからには、例え邪魔と言われようとも生きる権利があるのだ。
「世界の誰がバニヤンを要らないといっても、オレが言ってやる。おまえが必要だ。ポール・バニヤン。
だから、オレの手を取ってくれ。ここにいよう。もう寂しい思いはさせない。オレは、君の味方だ」
「マスター……」
「そうか……ああ、そうか……」
異世界のマスターは、まぶしそうな顔を見せて消え失せた。最後に残った聖杯は、異世界のマスターの手から零れ落ち、砕け散った。
特異点が崩れ始める。ジャックとナーサリーは、この土地で召喚されたサーヴァント。特異点の消滅とともに英霊の座へと帰還する。
「ジャック、ナーサリー」
「んもう、そんな顔しないでバニヤン。また会えるわ」
「そうだよ。わたしたちは友達」
「だから、またねって言えばいいのよ」
「うん、友達。またね」
彼女らは笑顔で帰っていく。
「さて、オレたちも帰ろう」
「うん!」
オレたちは、帰る。
例え誰が何を言うとも、この手を離さない。いいや、バニヤンの手だけじゃない。
マシュの手も。
クー・フーリンの手も。
清姫の手も。
ブーディカさんの手も。
ダビデの手も。
ジキル博士とハイドの手も。
ジェロニモの手も。
ベディの手も。
エリちゃんの手も
ノッブの手も
サンタオルタの手も
式の手も
スカサハ師匠の手も
アイリさんの手も。
金時の手も。
サンタジャンヌの手も。
クロの手も。
リリィの手も。
――絶対に離さない。
そうして、意識は眠りのように沈み、再び浮かび上がる。
そこは、いつものウルクのカルデア大使館にあるオレの部屋だった。
「…………ん……」
目覚めると妙に体が重い。
どうにも眠っている間に魔力を大量消費したようだというのも、おそらくはあの特異点のせいだろう。
ただそれだけではない。
「……まったく」
オレの上で眠っているのはアリスならざる少女だ。全てを思い出して、己を取り戻したポール・バニヤンだ。
いつの間にか裸オーバーオールなのはちょっとまずくないだろうか。
「ん、あつい……」
「まて、脱ぐな脱ぐなぁああ!?」
あ、いつも朝になると全裸になってたのって熱かったからかぁ。
などとそんなことを思いながらも。
「んー。あ、マスター、おはよう」
「おはよう、バニヤン。とりあえず、服は脱がないでくれるとオレが助かる」
「わかったー……」
「それにしても良かったよ。一緒にこっちに来れて。いや、元から一緒だったからいいのか」
「うん。私もマスターと一緒にいられるようになってうれしい。――えっとね。私、あまり役に立たないし、パセリみたいなサーヴァントだけど、これからもよろしく」
「うん、よろしく――さて、お腹すいたし朝食にしようか」
「うん!」
まあ、案の定バニヤンのことで色々とマシュに膨れられたりしたり、心配されたりと色々と騒がしい朝食になってしまったが、新しい仲間の加入にみんな喜んだのは言うまでもない――。
さて、今回短いですが、次回からバビロニアに戻ります。
では、皆さままた。
とりあえず、エレナが最下位でやる気がでないので、時間かかるかもしれません。
第2レース1位とれたけど、その落差よ……
まあ、頑張るけどさぁ……。
あと早くエレナ引きたい。エレナが画面に登場した瞬間、脳内がエレナ可愛いで埋め尽くされるクライダカラネ。
まあ、それはそれとしてノッブイケメンすぎで辛い……。ノッブがイケメンすぎてツライ……あんなん惚れるしかないやん……。