Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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オール・ザ・ステイツメン 3

「あー! またバニヤンがパセリ残してる!」

「いけないのだわ、好き嫌いはいけないのだわ!」

「えー、だってぇ……」

 

 シカゴまであと少しというところで野営をしていると、いつものやり取りが聞こえてくる。子供組とバニヤンの声だ。

 どうやらバニヤンがまたパセリを残したということでジャックとナーサリーがいけないんだと言っているようである。

 

「マスタぁー」

 

 バニヤンはいつものようにこっちに助けを求めてくるが。

 

「食べなさい」

「そんなぁ~」

「仲間はずれはだぁめ。ほら、食べられたらシカゴで食材を買ってお姉さんがおいしいパンケーキ、作ってあげるからさ、頑張って食べよう?」

「パンケーキ? わかった……頑張る……」

「うん、良い子良い子」

 

 流石はブーディカさんというべきだろう。子供をやる気にさせるのが上手い。

 

 ――その翌日シカゴの街に入る。活気あふれる街並が広がっているが、どこか見たことあるような景色な気がしたが気のせいだろう。

 

「さて、シカゴについたな」

「どこに行けばいいんだろ――あっ」

 

 どこに行けば件の魔術師に会えるのかわからなかったため、辺りを見渡しているとバニヤンと通行人がぶつかってしまった。

 

「おい、ジャマだ! デカイ図体しやがって!」

「ご、ごめんなさい…………」

「謝らなくていいよ。――おい、ぶつかってきたのはそっちだろう」

「なんだと、このガキ!」

 

 けんかっ早いチンピラだったのだろう。矛先をこちらに変えて殴りかかってくるが。

 

「おっと、そこまでにしておけよ」

 

 クー・フーリンがチンピラの腕を掴んで止める。キャスターと言えどサーヴァント。その筋力は、一般人をはるかに上回っている。

 

「あ、あだだだだ!? わ、わかった、わかったから放せよ!?」

 

 クー・フーリンが放すと、そのまま走り去っていった。

 

「……あ、ありがとう、マスター……」

「どういたしまして。あっちが悪いんだからバニヤンは気にしなくていいんだよ」

「いいの……? 私の身体、大きいから、迷惑――」

「迷惑なんかじゃない。それも個性だよ。想っただけで蛇になっちゃう女の子とか、男なのに女になってる人とかいるからね。だから、身体がちょっと大きいくらいじゃまったっくもって全然だよ」

 

 それにその程度で驚いていては、人理修復なんてできない。

 

「では、情報収集をしよう。広い街だ。手分けをする。くれぐれも問題は起こさないように。魔術師に気が付かれる可能性もある」

「はーい」

「かいたいかいたい!」

「解体はやめようね。さて、それじゃあ、時間になったら集合ということで――解散!」

 

 ブーディカさんとともに、シカゴの街を巡る。

 

「魔術師の痕跡、痕跡かぁ。どういうところにいるんだろう。下水道?」

「そういういかにもなところにもいるかもしれないけれど、こういう町だったらどこかのクラブとかじゃないかな?」

「なるほど。でも、この辺にはないよねぇ」

 

 結局、一日歩き回ってもオレの方は大した情報を得ることは出来なかった。とりあえず、地元の料理のレシピを助けたおばちゃんにいくつか教えてもらったくらいだ。

 今度ウルクでみんなに振る舞おう。

 

 時間になり集合した。クー・フーリンも情報はなし。子供組はグルメツアーで大きなピザを食べて来たらしい。楽しんできたのならいいだろう。

 重要な情報はやはりこの人、出来る男ジェロニモさんが手に入れてきてくれていた。

 

「クラブ・ハイソサエティ。この店にオカルト趣味の好事家が集まっているらしい」

 

 ほとんどは魔術使いとも呼べぬ一般人だろうが、そういうところには魔術協会の息がかかっているとジェロニモは言った。

 情報はそこ以外にない。であれば行かない選択肢はない。

 

「じゃあ、ブーディカさん、子供たちを見ていてもらっていいかな?」

「うん、良いよ。さすがにクラブには子供たちは連れていけないからね。向いのコーヒーショップで待機することにする」

「ありがとう」

「えー、いけないの?」

「バニヤンはいいのにー」

「あからさまに子供は入れないからねぇ。あそこで甘いお菓子を食べてくると良い。たぶんケーキやドーナツとかあると思うよ」

 

 お菓子でジャックとナーサリーをブーディカさんに預けて、男組とバニヤンでクラブへと向かう。

 

「三人だな? 通って良し」

 

 ルーンによる幻術を使って、成人しているくらいに化けているが、どうやらバレずに中に入れたようだった。

 

 クラブの中は酷く猥雑であった。意味のある意味ありげな、意味のないマニアックな会話をしているセレブたち。

 まるで世界の裏側を知っているのですと訳知り顔で騙る。全員が仮面をつけているのは、表での身分をわからないようにするためか。

 

「難しい話ばかりだね……もっと日常で役に立つお話をすればいいのに」

「まあ、こういう場所だからね」

「それにああいう話は警戒する必要がない。ほとんどが偽りの知識だ。正しき精霊の知識は資格を持ちし者にのみ与えられる。広く吹聴しては、価値が下がる。魔術師風に言うのならば、神秘の秘匿となるのだろうな」

「良い意見だが、気が付いてるな、ジェロニモ」

「無論だ、光の御子よ」

 

 一人だけ、この中に本物が混じっている。

 

「綺麗な人…………」

「サーヴァント……!」

 

 こちらが気が付いたように彼女もこちらに気が付いた。艶やかな女性。姿も、服装も、仕草も。あらゆる全てが男を魅了するとでもいうかのような存在感。

 されど、彼女自身に淫靡さはさほど感じない。健全であるかのようであり、されど艶やかに男を篭絡する花。

 

「うふふ。ようこそ、クラブ・ハイソサエティへ。私はマタ・ハリ。このクラブの女主人(ミストレス)よ」

「…………」

「ふふ。警戒しているのね。それも当然ね。でも、無意味よ」

「――――ッ!」

 

 意識に靄がかかる。まるで溺れて言うかのような。意識が混濁する。

 その中で冷静な部分が、これが相手の力なのだと理解する――。

 だが、対策を行っていない今の状態では対抗できるはずもなく。

 オレの意識は白く染まって――。

 

「――そうはいかないな」

「なっ、私の宝具が――!」

「甘ぇよ。今宵のオレはキャスターなんだぜ? それにジェロニモと外にはナーサリー・ライムの嬢ちゃんが控えてる。何の対策もせずに敵地に乗り込むなんざ阿呆のすることだ」

 

 靄が晴れる。

 

「っ助かった」

「さて、もう宝具はきかねえぞ。ついでに言えば、アンタが控えてる用心棒もな」

「そうみたいね」

 

 とっくに全て対策済みというわけか。

 

「言ってくれればよかったのに」

「なに、マスターが知らなかったおかげで、敵はこちらに注意を一切払わなかったからな」

「囮かい。まあいいけどさ。さて、それじゃあ聴かせてもらおうか。バニヤンたちを召喚した魔術師はどこにいる」

「……そう、そうなのね……世界コロンビア博覧会。そこに行きなさい。そこに行けばあの人に会えるわ」

 

 そう言って、マタ・ハリはバニヤンを撫でる。

 

「ポール・バニヤン。これだけは言っておこうと思うわ。人は、いいえ、あらゆる存在はね。愛があれば生きていけるの。これだけは忘れないで? 貴方はそこのマスターに愛されている――さて、それじゃあ、私は行くわ」

 

 マタ・ハリはそのまま去って行った。

 

「世界コロンビア博覧会か。バニヤン」

「うん、行こう!」

 

 世界コロンビア博覧会。訳ではそうだが、シカゴ万国博覧会ともよばれる。1893年5月1日から10月3日まで開催された国際博覧会。

 美術館、連邦政府館、園芸館、工芸館、農業館、機械館、管理棟。アメリカの繁栄を示すにふさわしいと考えられた豪華な新古典主義建築の建物が建てられ、アメリカを中心に各国からの工芸、美術、機械などがテーマごとに展示されたという。

 この博覧会には日本も参加していたという。西洋国家に自らが文明国であることを知らしめて不平等条約を撤回するために準備をして日本庭園と日本館を作り上げたらしい。

 

「ああ、こういう試みをするというのは良いことなのだろう。だが――この博覧会は醜い」

「いやだねぇ。富める者の傲慢ってやつは。まあ、そうせざるを得ない場合もあるが」

「これは酷いね。いいところももちろんあるけれど、少数民族を展示している……赦されることじゃないよ」

「そうだね……でも、一杯建物があるよ。みんな頑張って建てたんだね!」

 

 バニヤンは建てられた建物を見ている。

 

「建物は好き?」

「うん。壊して、何かを創る。広げて作る。それが人の為になる。だから、とっても好き」

「うふふ。そうね。私も楽しいわ。だって、作られたものは素敵だもの」

 

 ナーサリー・ライムは言った。

 作られたものは素敵なのだと。例え、作者が何を思っても。製作者が気に入られなかったとしても。

 

「作り上げられたものにはね、なにも関係がないの。だって、私たちに関係があることはただ一つだもの。みんなの笑顔。何を思われて作られたとしても、きっとみんなの笑顔につながるのなら、それはとても素晴らしいものだもの! ね、ジャック?」

「うん。そうだね」

「――いいや。そこまでだ」

 

 その声を遮るように。電気が照らす中に現れたのはアルテラだった。

 

「いや、いいや違う。私はデビー・クロケット。この博覧会の守護者。ポール・バニヤン。オマエは、これより先に進むべきではない」

「悪いけど、それでも進むよ」

 

 例えこの先に何が待ち受けていても。バニヤンに対して、何が降りかかろうとも。

 

「オレはマスターだから。バニヤンが先に進みたいと言っている。なら、どこまでも一緒に行くさ」

「マスター……!」

「なるほど――例え、それがこの先に進むことで悪夢に直面するとしてもか」

「バニヤンが諦めないのであれば」

 

 諦めずに前に進むのであれば。マスターとして、どこまでも一緒に行こう。世界の果てまでも。

 

「寂しいって言った女の子を放っておくなんて男じゃないだろ」

「そうか……忠告はした。あとはオマエに任せるとしよう」

 

 アルテラは去って行った。悪夢がこの先に待ち受けている。そう言って。

 

「さあ、行こうバニヤン」

「うん……悪夢が待っていても、マスターとなら、大丈夫だよね!」

「そうだよ、わたしたちも。マスターもいるよ。ブーディカも、ジェロニモも、クー・フーリンもいるよ」

「ありがとう……!」

 

 オレたちは先へ進んだ。万博の中心。そこにあるのは日本館と日本庭園だった。

 どうして日本館が中心なのか。それはわからないが――いや、わかる気がする。ここに来た、この特異点を創った者がいや、そうじゃなくて――。

 

「…………ああ、来たのか」

 

 日本館の前、そこにいたのはオレに似た、誰かだった。

 どこか疲れたようすの彼は、座り込んだままそこにこちらを見ていた。いいや、見ていないのかもしれない。そいつの眼は、何も映してなどいなかったから。

 

「私の名前は■■■■。無数に広がる平行世界の果て……君たちとは、違うカルデアから来たマスターだよ」

「じゃあ、おまえが?」

「そうだよ。みんな、私が召喚したサーヴァントたちだった。ジャック・ザ・リッパーも、ナーサリー・ライムも、君たちが退けたサーヴァントたちも」

「じゃあ、ポール・バニヤンも?」

「いいや。違う」

「違う?」

 

 ポール・バニヤンは、召喚されたといった。だが、それではつじつまが合わない。

 

「ポール・バニヤン。おまえは、違う。おまえは、サーヴァントですらないモノ。まつろうもの、うつろうもの。ただの都市伝説に過ぎない。オマエは気づいているんだろう。別世界のマスター」

「…………」

「沈黙は肯定。そっくりだね、私たち。そう。ポール・バニヤンの伝説は、ただのアメリカンジョーク。

 依って立つ伝説はない。

 縋りつく伝承もありはしない。

 必要不可欠な神秘なんてあるはずもない」

 

 だが、彼女は現にここに存在している。

 

「それを、私が、泥に混ぜて作り上げた」

「そん、な……私は、英霊、じゃない……?」

「なぜ、そんなことをした」

「私は……、私は、ただ……もう一度、会いたかっただけなんだ……」

 

 会いたかった? 誰に――。

 

「わかるだろう。平行世界の私。平行世界において、大まかな流れは変わらない。あの爆発の中、手を取った。そして、旅をした。それは変わらない」

「――――まさか……!」

 

 心眼が見抜く。直感が、答えを出す。

 

「その様子だと、君には――あぁ、羨ましいな。私は、こんなにも願っているのに、聖杯はなにも叶えてくれない。出来上がったのは、そこの出来損ないのモノだけだ」

「今、バニヤンをものと言ったか……?」

「モノだろう。価値のないモノだ。私にとって、価値のあるものはもう、どこにもいない。だから、特異点まで作ったというのに、私は、ただもう一度だけ、会いたかっただけなんだ。ただ、もう一度呼んでもらいたかっただけなんだ」

「やめろ。おまえが、どんな旅をしてきたのか、オレは知らない。でも、それでも―――仲間(サーヴァント)をもの扱いをするおまえをこれ以上好きにはさせない!」

「そうだね、マスター。例え、バニヤンがなんであっても」

「ああ、オレらが目の前にあるやつを見捨てるなんざありえねぇ」

「そうだとも。この場で否定すべき異世界のマスター。君だけだ」

 

 滾る怒りと戦闘意志。

 

「そこまでにしてもらおう」

 

 そこに現れたのは、騎士だった。青き騎士王。

 

「君は――」

「平行世界より来たマスター。私は貴方の知る私ではない」

「わかっている。だが、君は、そのマスターを庇うのか」

「無論。私はマスターのサーヴァントだ。例え、何があろうとも。なにより、この結果は我らの未熟がもたらしたもの。ならば、最後まで見届けるのが騎士の務め」

 

 輝く黄金の聖剣がこちらに向けられる。

 それだけではない。

 剣群が降り注ぐ。

 

「さて、ついに来たかという感覚ではあるが、あんなものでも我々のマスターでね。悪いが、ただで倒されてやるわけにもいかない」

 

 紅い弓兵が、二刀を手に、現れる。

 

「…………」

 

 そして、最後の一人は、漆黒の中より現れる男。

 だが、けたたましい笑いはない。

 静かに、こちらを見据える復讐鬼が一人。

 

「行くぞ、異世界のマスター!」

「行こうバニヤン!」

「うん――!」

 

 こうして、マスター同士の戦いが幕をあけた。

 




リヨぐだ子っぽい何かです。
ええ、あのままリヨぐだ子を出すと色々とアレなので、ちょっと改変してます。

性別はご想像に任せます。

ただ、あのマスターは、ただ会いたかっただけなんだ……。

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