木々が倒れていく。
ドミノ倒しのように木々が倒されていく。
「うわぁ、すごい!」
「すごいねぇ、森が消えちゃいそうだけど大丈夫なのかな?」
「大丈夫ー。ちゃんと出荷できるようにしてるからー!」
出荷……? これもしかして全部加工できるように切っているのか。それはすごいことだと言えた。
このまま人里まで道を拓いて、貯木場までもっていくという。
みるみるうちに森は消え失せていく。それと同時に積み上がっていく丸太の山々。どれもこれも均一の長さでわけられており、使い勝手のよさそうな丸太である。
「流石はアメリカを作り上げた伝説の存在だなぁ」
一日で山一つを更地に出来るほどの働きが出来る。
「アメリカにある自然物の多くを作り出し、五大湖やロッキー山脈を創って、さらにはベイブが五大湖の水を入れた桶をひっくり返した被害を抑えるために濠を作り、それがミシシッピ川となったっていうのもありえた話なのかな?」
「待ってくれマスター」
「ん? どうしたのジェロニモ」
「その話は本当なのか? そうだとするとそれは精霊どころか神霊の類ではないか?」
確かに、それは神霊だ。通常の手段では召喚できない。彼女は魔術師に召喚されたといった。
「あー」
「私は、バニヤンという精霊は知らないから教授してほしい」
「ああ、うん。誤解させたみたいだからいうけど、たぶん通常の召喚だろうと特殊な召喚だろうとたぶんバニヤンは召喚できないと思うよ」
「それはなぜだ?」
「何故かって言われると、ポール・バニヤンの伝説っていうのは、アメリカンジョークなんだよ」
アメリカ開拓史の中でまことしやかに語られてきたワイルド・ウェスト・ダイダラボッチ。
元をたどればそれは、ただの大男に行きつく。しかして、その大男の話が波及するにつれて、尾ひれはひれが付いた。
与太話は法螺話によって巨大化して、まさしく大男は巨人となったのだ。
そう
ポール・バニヤンという存在は、そういった存在のはずなのだ。本来ならば存在しえない存在。
「ただ、まあ、それを言ったら――」
それを言ったら英雄たちだってそうだ。特に古い英雄。
かつてこのアメリカ大陸でともに戦ったカルナやあの騎士王たちだって、実在証明を示す根拠証拠は何一つ見つかっていないのだから。
「……そうなると、彼女はいったい……」
「まあ関係ないよ」
彼女は存在している。
そして、さみしいと言った。
「なら、オレはマスターとして彼女のやりたいことをしてあげるし、一緒にいてあげる。それがオレに出来ることだからね」
「うんうん、それでこそマスターだよ。お姉さんも協力してあげるよー」
「マスターには何言っても無駄だからな」
拓いた道をオレたちは進んでいく。
「待って!」
戦闘を進むバニヤンの鋭い声。
それと同時に何かが堕ちて来た。輝く何か。
「――なんだ!?」
「この気配、サーヴァントだ、マスター!」
「ブーディカ、マスターを護りな! オレが前に出る!」
即座に戦闘態勢に移行。光が収まると同時に、現れた二騎のサーヴァントに目を凝らす。
それはこのアメリカでともに戦ったビリー・ザ・キッドだった。もう一人は、ローマで戦ったアルテラだ。
「えー、現着、現着。こちら保安官助手のビリー。違法な森林伐採の現場を確認」
「違法森林伐採はわるい文明。即刻このワイアット・アープが
――そのはずなのだが――。
「え、え? 悪い文明!?」
なんだかおかしい。
「えっと、アルテラとビリー、だよね?」
「違う。私はワイアット・アープ。それ以上でもそれ以下でもない。アルテラでもない」
「いや、どう見てもアルテラ――」
いや、もしや本当にそういう世界と思っておいた方がいいのかもしれない。なにより、一度戦った仲間と相手だ。なら、やりやすい。
「おまえたちの罪は裁かれねばならない。話は裁判所で聞こう」
しかし、この状況はマズイ。このままつかまってしまうと、どれだけ拘束されるかわかったものではない。ここから帰るためにはこの特異点らしき場所の修復が必要なはずだ。
「待ってよ、私たちは街に進みたかっただけだし、出荷の準備をしていたのは、切った木を無駄にしたくなかったからだよ!」
バニヤンが釈明するが、聞き入れてはもらえない。
「来るぞ! 倒すしかない!」
「よっしゃ行くぜ!」
クー・フーリンにアルテラを押さえてもらい、その間にブーディカさんを戦車でビリーへと突っ込ませる。
「ちょっ、硬いし乗り物はズルイ!」
「襲ってきたのはそっちでしょ?」
ブーディカさんにビリーが発砲しようが盾で防ぐか宝具によって防がれる。
「今回はお姉さんが攻めだよ!」
放たれる魔力塊に高い防御力。決定打はないが、じりじりとブーディカさんの優勢に傾いて行く。派手さのない堅実な戦法だ。
「くっ――なぁんてね」
彼に回避可能な攻撃は通用しない。カウンターが来る。
彼の宝具、壊音の霹靂は周囲の時間の流れをスローモーにし、状況を完全に把握した上でカウンターの射撃を叩き込む宝具だ。
これによって回避可能な攻撃であれば、全てに反撃が出来る。ブーディカさんの攻撃は、回避不能の攻撃というわけではない。
雷霆の如き、三連射によって、急所に穴を穿つ――。
「だろうね」
だから、そんなもの読めている。
「バニヤン!!」
「うん!」
「ちょ――!?」
空から降り注ぐ巨人の足。
「
バニヤンの宝具。それは単純明快な、ジャンプして巨大化してからの踏みつけだ。線では回避されるのならば面攻撃。
これを回避するには全力で走る必要があるが、それは不可能だ。なにせ、彼女が落下するまで二秒もかからない。
その間に逃げることは、射撃体勢のビリーには不可能。ビリーは巨大な足の下敷きになった。
さらにそのまま斧が振り下ろされる。振り下ろされた斧は、アルテラの頭部に鋭角で入った。
「む――!」
「ここまでだよ!」
「まだやる? お姉さんとしてはこのまま邪魔しないでほしいんだけど」
「ここまでか――元より三分しか戦えない。ならば、ここは去ろう」
アルテラなのかワイアットなんちゃらなのかはわからないが、彼女はそのまま飛び上がると東に向けて、飛んでいった。
斧が鋭角で入ったのに元気なのは英霊だからというわけじゃないと信じたくないところだ。
「それで、君は置き去りか」
「そうみたいだねぇ……」
「最後に聞かせてほしい」
「いいよ、何?」
「君を召喚したのは誰だ?」
「そこのバニヤンと同じ魔術師だよ。彼女はシカゴにいる。そこから全てを支配しているのさ――もういい? 保安官ごっこもいいけど、やっぱりアウトローだよ」
「じゃあ、次はアウトローでよろしく」
ビリーはそう言って消えた。
「行こう」
シカゴへ。バニヤンが道を切り開きながら、オレたちは一路シカゴへと向かう。
しかし、広い。行けども行けども広がるのは同じような景色ばかりだ。
草原がどこまでも続いて行く。
「アメリカ、広すぎる……」
いつも思っているが広すぎる。
「んー、じゃあお姉さんの戦車に乗る?」
「いや、ダ・ヴィンチちゃんの拡張キットがないから遠慮するよ」
「そう? 疲れたのならいつでもお姉さんにいうんだよ」
この前のハロウィンの時は、ダ・ヴィンチちゃんによって座席拡張されていたけれど、今はされていない。それはつまり普通の二頭戦車ということになる。
狭いのだ。オレが乗るとブーディカさんと密着することになってヤバイ。バニヤンがいる前でさすがにそれはないだろう。
「しかし、お腹すいたなぁ」
「私も……湖いっぱいのオートミールか、油田一杯の焼きそばが食べたい」
バニヤン、規模がとてつもないよ。
「うーん、確かにお腹すく時間だよね。食材を分けてくれる農家でもあればお姉さんがおいしいブリタニア料理を作ってあげるんだけど」
「狩りに適した獲物の姿もないしな。リスくらいなら捕まえられるかもしれないが」
「オレはともかく、バニヤンのお腹は満たせないよね」
きっと北米のリスを絶滅させても足りないだろう。
「おい、マスター。朗報だ。あそこに民家があるぜ」
クー・フーリンが指し示した先には確かに民家があった。満場一致で食料を分けてもらうことにして、オレたちは民家へと向かい、その扉をノックする。
「はーい」
可愛らしい子供の声が響く。
「あれ、この声……」
がちゃりと扉を開けて出て来たのは、ジャック・ザ・リッパーだった。
「だれぇ? なにしにきたのー?」
「えっと西から来たんだけど、何か食べるものをわけてもらえないかと思ってね」
「おなかすいてるの? ちょっと待ってねー」
すると彼女は奥へと引っ込んだ。それから出て来たのはナーサリー・ライム。やはりこの二人はセットに扱いらしい。
「マスター。彼女たち……」
「うん、どうしてこんなところにいるんだろう」
「わたしたちはねー? おかあさんを待ってるの」
「おかあさん?」
「そうおかあさんは、わたしたちを呼び出した人」
つまりは魔術師であり、マスターか。
「でも、おかあさんはシカゴに行ってしまったの」
なるほど。これは繋がってきたかもしれない。バニヤンやアルテラ、ビリーを召喚した魔術師というのは同一人物なのかもしれない。
「なるほど……」
「ねー、おなかすいたー」
「おっと、バニヤンごめんごめん、すぐになにかもらって」
「うわぁ!」
「わー! なんて大きなお友達なのかしら!」
ジャックちゃんとナーサリーはバニヤンに気がつくと、まとわりつき始めた。子供同士通じるところがあるのだろうか。
「ハンバーグを焼きましょう」
「冷蔵庫に残った最後のハンバーグをあげるー」
「――おいしい」
「一個じゃ足りないよね」
「でも、本当においしい……」
「――っ!?」
その時、小屋が揺れた。何かがぶつかってきたのだ。
「バッファローだわ!」
「バッファロー?」
「なんだと!? 群れが暴走しているというのか。もしや、悪しき悪霊が?」
「とにかく全部倒すぞ! ついでに倒したバッファローは食べば今のこの問題は解決する!」
「おお、それは妙案だ。クー・フーリン、頼めるか」
「あいよ――」
そんなバッファローと戦う気満々のオレたちを見て――。
「いいの? わたしたち、何もお礼できないよ?」
「いいやもうもらったよ」
最後のハンバーグを貰った。
「なら、しっかりと働かないとな!」
そして、突撃してくるバッファローの群れを全て倒しきった。
そのあとにはじまったのはBBQだった。
それをありとあらゆるハンバーグに加工して見せた。
ジェロニモが解体し、オレとブーディカさんが作り、クー・フーリンが焼いて、バニヤンたち子供組が食べる。
塩コショウ、ウスターソース、ケチャップ、煮込み、鍋、チーズ、揚げ。古今東西のありとあらゆるハンバーグをブーディカさんと作ってみせた。
なお、クー・フーリンは一人バッファローの丸焼きを創っていたりしたが、これがまた美味い。保存食として燻製にもしていたらしくシカゴまでの旅の間も安心だ。
「ふぃ……つくった、たべた、つくったぁ」
「あはは、お疲れマスター、はい、お姉さんの愛情たっぷりの最後のハンバーグはマスターのものだ」
「ありがとうございます!! んー、おいしい」
「ふふ」
みんなで楽しく食事をしていると、ジャロニモが笑っていることに気が付いた。
「どうかした、ジェロニモ楽しそうだね」
「ああ。こうしてバッファローを狩り、仲間と騒ぐのがとても懐かしく、楽しくてな。もはや味わえぬと思ってたが、うまいな」
「うん。すごく、とっても、すごく、おいしいよ!」
「よかったぁ、今食べたのはね、おかあさんに習った味なの!」
ジャックも手伝ってくれたハンバーグもおいしい。やけにミンチにするのに慣れていたし。
「おいしいなぁ、みんなとごはんたのしいなぁ。ずっとあの森でひとりだったから!」
「それは良かったよ」
なら、オレも無理して契約した甲斐もあった。
「とぅー! アーンタッチャブル!」
そして、現れるアルテラさん。この展開はいいかげん何が言われるかわかる。
「食べます?」
「食べる」
もぐもぐ。
「はい、これ日本風の和風ハンバーグね」
「む、これはよい文明だ、そこはかとなくだが」
「次はこれ。チーズ入りハンバーグ」
「おお、中から蕩けるチーズが!」
もぐもぐ、もぐもぐ。
「で、次にこれは揚げハンバーグ」
「むむ、これはミンチかつというものでは?」
「ハンバーグと思えばハンバーグ」
「む、そこはかとなくわるい文明な気がする」
「じゃあ、これは?」
もぐもぐ、もぐもぐ、もぐもぐ。
「――いや、違う」
「ん? なにが?」
「いつの間にか、食べさせられるばかりだ。私はバッファロー・ビル。賄賂はつうじ、もぐもぐ――ないぞ」
説得力ないな。
だが、戦うことになっても二回目。姿はアルテラで行動もアルテラ。何度も見た戦い方はわかりやすく、読みやすく、完封可能。
「く、どこにこれほどの力が」
「ハンバーグとの絆の力だ!」
「マスター、マスター、サーヴァントね」
「…………サーヴァントと絆の力だ」
ハンバーグ食べ過ぎたかな……。
「……そうか。それがおまえたちの力というのならば――おまえは為すべきを成していない。異界より訪れたマスター。おまえは、今すぐやめるべきだ」
「なにを――」
「去らばだ」
問う前に彼女は再び飛び去って行った。
「……私……悪いことしちゃったのかな?」
「そんなことはないよ」
「そうだよ。バニヤンはわたしたちとお昼を食べていただけじゃない」
「わるいことなんて、何一つないわ!」
ジャックとナーサリーの言う通り、何も悪いことはしていない。
「――だとしたら、
「良し。お腹いっぱいになったし、バニヤンを召喚した魔術師のところへ行こうか。ジャックとナーサリーも一緒に来る?」
「そうね、一緒に行きましょう」
「うん。待つのもう飽きちゃったから。それにバニヤンはともだちだもの」
「よし、みんなでシカゴへしゅっぱーつ!」
新たな同行者を連れてオレたちはシカゴへと出発した。
キャスニキ入れておいて本当に良かった。キャスニキなら辛うじてエジソンの変わりが務まる……。
大神刻印(オホド・デウグ・オーディン)なら、ギリギリ、アレを敵のバフ判断することで消すことでもとに戻るという感じでどうだろうか。
まあ、万能ルーンさんなら、大丈夫か。