オール・ザ・ステイツメン 1
虚構。
与太話。
法螺話。
こねられたうどん生地は、いつしか泥に混じった。
その泥は、いつしか、粘土板となり、絵になった。
――思い……出した……
それは、泥人形の言葉だった――。
誰かが観測した存在しえない、存在が形となったものの声だ。
己という
だが、縁は結ばれた。
同時に。
少年の魂もまた引っ張られる。
――宝具スキップを実装するんだ。
――そのためなら、なんだってやってやる。
――そう、なんだって。
――私は諦めない!
そう
平行世界から、強大な力を持った存在が、供物を拾い上げる。
よって、これより始まるのは、夢の話であり。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「マスター、マスター!」
目覚め、というのは何一つ変わらないプロセスであると、何故信じているのだろうか。
もしかしたら、眠っている間に景色が変わっているかもしれない。
もしかしたら、眠っている間に何かが起きているかもしれない。
目覚めは変わらないものであるがそれに付随する状況は不変ではなく流動的であり、オレに関して言えばそれは大凡、こういう誰かに呼ばれる目覚めというのは何かが起きたということに他ならない。
目覚めを誘う声は、いつものマシュの声ではなかった。その時点で、まず何かおかしな事態に巻き込まれたのだということを悟るべきなのだ。
バビロニアに来てから、そういうことが多々起きているが、これはさらに群を抜いておかしいことに。
そして、眠った後に感じたあの引っ張られる感覚にもっと意識を向けるべきだったのだ。
「――――」
「あっ、起きた、よかったぁ」
「ブーディカさん? ……えっと」
どうしてオレの部屋に? という言葉は呑み込んだ。今、いるのはまったく異なる場所だった。ウルクではない。
眼鏡が観測するエーテル濃度なども神代のそれではなく、比較的現代に近しい。もっと言えば19世紀ほどか。
いいや、今はそれ以上にブーディカさんに膝枕をされているというこの状況を堪能するのが先だ。ほどよい柔らかさと硬さ。筋肉のしなやかさが織りなすハーモニーは極上の一言。
されど、それ以上に、視界に飛び込む
「おーい、大丈夫? 急に黙ったけど、どこか痛いとかあるのかな?」
「あ、いや、大丈夫、です」
「本当に? 君はすーぐ隠すから」
「本当に大丈夫です! えっと、それでここは?」
慌てて起き上がりながら周りを見渡す。木々に覆われた森の中のようだ。
「それが私にもわからなくて。いま、一緒にここに飛ばされたらしいクー・フーリンとジェロニモが調べてくれてる」
「そうか。他のみんなは?」
「今のところ、近くにいたのはマスターと私とさっきの二人だけだね」
「そっか……たぶん、探しても無駄だろうなぁ」
パスはあるが、パスを感じない。この場にいないということを直感した。
「フォゥ」
「大丈夫だと思うけど、とりあえずどうするかは二人が戻ってきてからにしよう」
「フォキュ!」
しばらく待っていると森の奥からジェロニモとクー・フーリンが戻って来た。
「おっ、マスターが起きてるじゃねえか。無事でなによりだぜ」
「心配かけてごめん」
「気にすることはないさ。こうして無事だったのだからね。それで、しばらくこの辺りを見回ってきたのだが」
どうにも森は深いという。
行けども行けども森であり、人の気配がない。
「人がいないのかな?」
「さて、その可能性はあるが――」
「っと、どうやら人はいないが敵はいるらしいな」
クー・フーリンが杖を構える。
『GRAAAAAAAAAAA!!』
森の中から現れたのは人型の怪物。
「これは――ウェンディゴか!」
「知っているの、ジェロニモ!」
「ああ。あれはウェンディゴ。アルゴンキンの民に伝わる、人食いの精霊憑きだ!」
「精霊憑き?!」
つまり、アレはもと人間だということ。
しかし人間とは程遠い。もはや緑色の毛皮の大猿と言った方がいい。
鋭い牙や毒の粘液を纏った黒爪を持ち、腐った吐息を吐く。
『GRAAAAAAAA!!!』
それは精神を揺さぶる怪物の声。
「大丈夫。お姉さんが守るよ」
「もはやああなってしまっては、元に戻す術はない」
「なら、一思いに殺してやるのが情けってことさね!」
「ああ倒すぞ!」
杖を構え、ルーンによる身体能力上昇。キャスターのステータスを軽く超過し、クー・フーリンは己の信条通り、槍使いとして戦う。
焔を杖に纏わせ、ウェンディゴへと炎槍を振るう。
『GRAAAAAAAA――!!』
それに対して嫌悪を咆哮として吐き出すのはウェンディゴだった。
焔の光を消さんがごとく黒爪による攻撃が走る――。
それは絶対致死の爪。たとえその爪撃を避けられたとしても、その全身に纏わりついた死塊の粘液に殺されるだろう。
「そんなんで死ねたら、オレは英雄になんぞなってないんでねェ!!」
死塊の粘液全てを焔が焼き飛ばす。
『GRAAAA――!』
「流石はアイルランドの光の御子というところか。相も変わらず頼もしい限りだ」
そういうジェロニモも短剣を駆使し巧みに黒爪を弾き、毒を精霊の力でもって吹き飛ばす。
その時、さらに一匹が森の中から飛び出してくる。分厚く鋭い黒爪が幾本も空を裂く。
――速い。目では追えない。
生身の体では避けきれまい。元より
けれど、オレは傷ひとつなく、立っている。
ウェンディゴの黒爪が裂いたのは虚空のみ。
いいや、虚空すらも裂けてはいない。
『GRRRR…………? ――GROOOOOO――!!!!』
今のが恐慌の声か。
人の脳細胞を破壊し、死を育て狂気を植える。
しかし、オレは生きている。
その全てを車輪の護りが振り払い、魔力塊がウェンディゴを吹き飛ばす。
「マスターには指一本も触れさせない」
『GRUUUU――』
『GOOOO――!!』
「もう一匹! いや、この数は!?」
さらに森から飛び出してくるウェンディゴの群れ。
「うるせぇ、喚くんじゃねえよ! アンサズ!」
地面に刻まれたルーン文字が発火する。
全てを燃やし尽くす焔が、ウェンディゴを火だるまに変えた。
「流石に数が多いな槍がほしいところだ」
「必要とあらば私が打って出るが、どうするマスター?」
「いいや、流石にこの状況でジェロニモに抜けられると拮抗状態が崩れる――ん?」
その時、何かの振動を感じた。
「なんだろう、この揺れ?」
「幻想種かな?」
「いいや、これは――!」
森の木々を切り倒し、巨大な足音を響かせてそれは現れた。
「――!?」
それは、巨大だった。
巨人というのが正しい。
いいや、巨人ではあるが、どちらかと言えば。
「バカな……! 精霊……神霊……いや、そんな……」
ジェロニモの驚愕。
オレも驚愕しているが、それ以上にアレの正体を想起する。
なんだ、知っている。そんな気がした。
「大丈夫ー? 助けてあげるねー」
空から降ってくる声とともに、彼女が手にした斧が振るわれる。剛風とともに振るわれた刃を躱せる者などいやしない。
耐えられる者もいない。ウェンディゴは、料理される野菜のように輪切りにされていく。
「このままやっつけちゃうぞー!」
その宣言通り、彼女はその全てを肉片に変えて見せた。暴虐の証は何も残らない。綺麗さっぱりと開拓しつくされた大地が如く何も残らなかった。
「大丈夫だった?」
「でかい……」
「うん、大きな子だねぇ」
「しっかし、こんだけデカいとこっちの声は届いてんのかね」
「任されよう」
ジェロニモが代表となって話すことになった。
「大いなる人よ」
「うん、なに?」
「私はアパッチの戦士。人はジェロニモと呼ぶが、いかなる精霊の導きでこちらに来られたのか?」
「んー、なんとなく?」
「では、そなたの名を問いたい。名を知らねば、恩義を祖霊に伝えることも叶わない」
「…………」
名を聞いたとき一瞬だけ、彼女はどこか嫌そうな、遠くを見たような気がした。
「……バニヤン……」
「え……?」
「ポール・バニヤン。それが、私の名前」
「ポール・バニヤンだって?」
ポール・バニヤン。それは、アメリカ開拓史伝承によって生み出された巨人だったはずだ。アメリカンジョークの真髄であるホラ話の体現というべき存在であると、アメリカ出身の職員さんから聞いたことがある。
アメリカンジョークとともに、その話を聞いた。あの時のハンバーグはおいしかった。あれがまさかゲイザーからできていたなんて、誰が信じよう。
と、それはさておいて。
ポール・バニヤン。開拓者。木こり。巨人。
そう呼ばれる存在は、おおむね身長8mという巨人の木こりであるとされている。
気は優しくて力持ちで、豪快であるとされ気さくな髭面のナイスガイであるらしい。
相棒に青い毛の巨牛ベイブを引き連れている。
そう、ポール・バニヤンとは男なのだ。しかし、目の前にいるのは――。
「はーい、じろじろと見ないのマスター」
「えっと、ごめんなさいブーディカさん」
女の子だ。何処からどう見ても。降ってくる声を聞いても。
「
「ああ、よろしくバニヤン」
しかし、巨大だ。下手をすれば踏み潰されてしまうかもしれない。
意思疎通もあのままでは難しいだろう。さすがに、これだけ大きさの違う相手とは意思疎通した経験がないからどうすればいいのかわからない。
「あれ? みんなどこかへ行っちゃった……?」
どうやら、こちらの声が聞こえていないらしい。
「また……ひとりぼっち……さみしいな……」
彼女はそのまま歩き去ろうとしてしまう。
「後を追うぞ!」
さみしいといった女の子を放っておけるか。
と追おうとしたとき――。
「おーい! 良かった見つかったよー!」
先ほどとは打って変わって小さくなった――それでも大きい――彼女が現れた。
「小さくなってる……でもよかった」
「えへへ。こちらこそよかったよー。みんなの声が聞こえなくて、困ったよー」
ひとまずオレは名乗り、
「こっちがクー・フーリンで、ブーディカさん、こちらがジェロニモ。よろしくバニヤン」
「うん、よろしくね!」
「バニヤンはとっても素直な子なんだねぇ」
とても素直でかわいい子のようである。しかし、伝承だと男のはずなんだが、一体どこで何があったのだろう。それに、ポール・バニヤンの伝承は確か――。
「うーん、でも英霊として現界したのならそれが全てか。うん。やめよう――それで、バニヤン、君はどうしてここに?」
「……誰かに召喚されて、この森に来たの」
「それは、召喚した人の命令?」
「ううん……ずっと……この森でひとりだった……」
召喚されてから何も命令はない。
「おなか……すいたな……」
「もしかして、魔力足りてないのかな?」
「……うん…………」
みんなに振り返る。
「マスターの好きにしていいよ」
「おう、好きにしなマスター」
「うむ、我が主よ、心のままに行くが良い。それこそが精霊の導きとなろう」
「良し! ならこれからはオレが君のマスターだ」
「いいの…………?」
「もちろんだとも!」
クー・フーリンとジェロニモに頼んで、こちらとのパスをつなげてもらう。
「うっ……」
「だ、大丈夫?」
「大丈夫大丈夫」
カルデアとの通信は途絶。魔力供給に関しては正常で助かった。もしこれでそこまで以上が発生していたのなら、流石に難しかっただろう。
それにバーサーカーか、この子。うん、バーサーカーと契約するのは特異点では二回目だし、慣れたものだね。
「ちゃーんと、きつくなったらいうんだよ?」
「うんいうよありがとうブーディカさん。どう? 大丈夫かなバニヤン?」
「うん、ありがとうマスター。私、とっても役に立つよ! 何でも言って!」
「それじゃあ、早速なんだけど、ここがどこだかわかるかな?」
彼女ならこの場所のことも知っているかもしれない。召喚されたということは、この時代の情報が少なくとも聖杯から与えられているはずだから。
「えっとね、たぶんノースダコタと思う」
「ノースダコタ……」
つまりはアメリカか。
確か、ノースダコタと言えば。
「ああ、マスター。私が言うのもアレではあるが、田舎と言っても良いだろう。私としては良き土地であると思うが、マスターからしてみれば少し問題だろう。人口密度が極めて低く、闇雲にあるいては人家と出くわすことは到底不可能だ」
「下手すりゃ、この森の中を一生彷徨うってか」
「さらに言えば、この森は荒ぶる精霊たちであふれている。このままでは我々の魔力か、マスターの体力と魔力が尽きる」
そうなれば、あとに待つのは死のみ。
「野営をし続けるのにも限界があるとなれば、早急に何とかしなければ」
「いつもの斧があれば、なんとかなるんだけど」
「いつもの斧?」
「うん。それがあればこの森を切り開くことが出来るよ」
「それじゃあ、それはどこにあるの?」
「私を召喚した魔術師に取り上げられたの。危ないからって」
「魔術師?」
「うん、よくわからないけれど、東に行ったよ?」
とりあえず次の目的地というか、探すものは見つかったようだ。
「ただ、その斧がないことにはどうしようもないか――いや、こういう時こそ」
「こういう時こそ?」
「なければ、自分で作るんだよ!」
素材を集め、
数日ほどかかってしまったが、どうにかこうにか素材が集まって斧は完成した。
「さあ、行こう!」
「おー!」
森を抜けるべく、バニヤンが斧を振るった。
バビロニアの続きだと思った? 続きだけど、続きじゃないよ!
時系列がなんかいろいろと微妙だが、一部っぽいとアレば、出すしかないよネ?
というわけで、ポール・バニヤンをバビロニアと終局に参戦させるべく、ここで突っ込みます。
ほら、ちょうどよく泥から生まれた少女がいたよネ?
バニヤンはうどん生地と聖杯の「泥」から生まれた。
良し、行けるな?
という謎理論のもと参戦させてもおかしくない理由づけは既に済んでいたのだ。
まあ、そうなると彼女のママ発言がおかしくなると思うだろう。
なりません。
ママ=リヨぐだ子。
リヨぐだ子=人類悪。
人類悪=ティアマトママ
ほら、大丈夫!
という感じでやっているので多分大丈夫です。