Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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絶対魔獣戦線 バビロニア 22

 犠牲を出しながらもオレたちはウルへとたどり着いた。

 

「ここが、ウル……」

「思ったよりも無事なようですね」

 

 人々は無事に生活をしているようだった。

 

「とりあえず、話しかけてみよう。情報を集めるんだ」

 

 オレは、とりあえず通りすがりの女性に話しかける。

 

「あの――」

「あら、あなたたちは?」

「ウルクから来ました」

「まあ、ウルクから」

「ええ、王様の命で貴方方ウル市民を助けに来たんですが――」

 

 見回した限り、危険という感じではない。

 むしろ、これは――。

 

「ああ、マスター、気が付いたかい? ああ、ここは違う。紛れもなく、神話体系が違うということもあるが、それだけじゃあない」

「マーリン、これって」

「うん。間違いなく、これは別の女神の庇護下にある」

 

 一体何を対価に引き渡し、この状況を作り上げたのだろうか。いいや、そうじゃない。

 

「あの、避難などはしないのですか?」

「ええ、だってここは安全ですもの」

「それは、良かったですがウルクに連絡を取ろうとはしなかったんですか?」

「ウルクに連絡をしようとしましたが、それは森の女神の法に逆らうためできなかったのです。ですが、その代わり、森の女神は、安全を保証してくれます」

「…………そうですか。ありがとうございます」

 

 言外にこういっているように聞こえていた。逆らわなければ安全。つまるところ、逆らえばどうなるかわからないということ。

 あのジャガーマンとかいう意味不明な存在もいるところを見ると、相当強力な神霊のようだ。

 

 おそらくはアステカの神。アステカの神で女神か……。

 

 コアトリクエ。

 という存在を思い出した。

 コアトリクとは、アステカ神話における地母神のこと。その名は「蛇の淑女」、あるいは蛇のスカートをはく者を意味する。

 コアトリクエは、全ての天の者を生む地球の大母神、炎と肥沃の女神、生と死、および再生の女神とされている。

  あるいは南の星の生みの親などの肩書きを持つとも。

 

 アステカの神で女神と言えば、これだったはずだ。だが、この状況を見る限り、違う。コアトリクエの食べ物は、人間を含むあらゆる生き物の生肉だ。

 もし彼女がここにいるのならば、きっとこんなに安全とはいかないだろう。彼女が、人間を囲って放牧でもする趣味があるのならばだが。

 

 なんとなく、直感だがそれは違うと思う。

 

「そうなると、一体……」

 

 どちらにせよ、ウルから市民を避難させることは出来ない。

 

「マーリン、なにかわかる?」

「なんとも。それにしても、逆らわなければ安全。しかし、それにしては、人が少ないよねぇ。気が付いているかな?」

「わかってるよ」

 

 ここには男が少ない。おそらく、この安全と引き換えにされているのは生贄だろう。それも生きのいい男。文字通りの意味での生け贄だ。

 

「マシュには伝えない方向で。きっと大騒ぎだ」

 

 今はまだ、見つかるわけにはいかない。ジャガーマンと戦って式を失ったのだ。これ以上、誰かを失うわけにはいかない。

 けれど――。

 

「ますたぁ、血が……」

「あぁ、ごめん」

 

 握りしめた拳から血が流れていた。握りすぎた。生贄になっている人たちのことを考えると、いてもたってもいられない。

 だが、それでも――、それでも――。

 

「ああ、クソ!」

「まったく、我慢なんて出来ないんだから、するもんじゃないのよ」

「クロ……」

「それで? 生け贄が嫌だといっても、今どうすることも出来ないけれど、どうするの?」

「それは、とーーっても気になるぞー。ジャガーマンにも教えてほしいなー」

「――――!?」

 

 そこに突然現れたジャガーマン。ふざけた様子は変わらず。

 

「ククルンのことはー、嫌いだけどー、まー、仕方ないニャー、というわけでー、余計いなことをしそうな君たちをー、ここらで成敗しちゃおーうってわけさ! んー、なんと知的なジャガーなのだろうか」

「クロ!」

「ええ、わかってるわよ!」

「フッ、動きが鈍いぜガール?」

「うっさいわねぇ!」

「アナ、頼む!」

「了解です!」

 

 クロとアナでジャガーマンを抑え込む。

 

「マーリンは二人の支援!」

「任せたまえ。しかし、せかさないでくれよ。舌をかむ」

 

 マーリンの支援があれば、あの2人でも大丈夫。であれば、

 

「マシュ、清姫、リリィ、二人は森から出てくるジャガーの眷属っぽい魔獣を倒して!」

「はい!」

 

 だが、それでもジャガーマンは強い。

 ふざけているが、アレは神霊だ。

 

「ニャッハハ、これこそがジャガーのパァワー」

「くっ!」

「ふざけているのに、こんなに強いなんて――!」

 

 だが、ジャガーマンばかりを気にしている暇もない。

 現れるワーウルフなどの獣人の一斉攻撃。全方位からくる飽和攻撃に衝破の咆哮が襲い来る。

 

「マシュ!」

「はい、マスター!!」

 

 マシュの大盾が防ぐ。されど、大盾の欠点。視界の悪さを利用し、高速で迫る獣人ども。だが、そこは既に死線だ。

 

「清姫!!」

「さあ、燃やし尽くしてしまいましょう――」

 

 とんっと、地面を蹴って、獣人どもの中心へと踊り出た清姫。

 女一人容易いとばかりに、吠える獣人ども。だが、それはただの女ではない。思い込み一つで、竜となる女だ。ゆえに――。

 

「転身――」

 

 炎よ燃えよ。嘘つきを燃やし尽くした、青き焔の竜が、とぐろを巻いて獣人どもを焼け落す。既に、一度見ている。やつらの戦いを。

 何より、今回は密林の真っ只中ではない。ウル郊外の開けた場所だ。ここでなら、あの機動力を封じれる。

 

「クロ!」

「わかってるわよ!」

 

 投影される剣。それはクロの中にあるもの。それをカルデアから潤沢な魔力を用いて投影する。生じる剣群は、竜の牙の如く、ジャガーマンへ突き立てんと猛るが――。

 

「ハッハッハ、そんなもの当たるはずもなかった!」

 

 素早い身のこなしによってジャガーマンにかすりもしない。

 だが、それでいい。

 

「アナ!」

「はい――」

 

 その剣群の間を高速で移動するアナ。剣群の密度は上昇中。ジャガーマンの逃げる場所を封じる。次にどこへ剣群が堕ちるのかを予測し、アナに伝達する。

 それによって、剣群振りすさぶ中をアナは一本も掠ることなく疾走する。

 

「おお、これは――」

「そこで跳ぶんだろう? マーリン!」

「はいはい、おまかせおまかせっと!」

「おお――」

 

 跳躍の瞬間を狙い打つかのように放たれた魔術。蹴り脚を穿ち、跳躍を封じた。そこにアナの不死殺しが征く――。

 

「――――」

 

 だが、それでもなお、勝つが神霊――。

 

「ジャガーはすべて知っている、今ひっさつの――!」

「――――ッ!!」

 

 振り上げられたふざけた槍。そこに宿る魔力は何よりも強く――。

 

「避けろ!」

「――――ッ!!」

「ネコパンチ」

 

 テシッ、という気の抜けた一撃がアナの頭へぽすり。誰もが呆然とした瞬間に。

 

「うーむ、良い戦いだった。突然始まり、突然終わるがジャガー流。では、みなの衆サラダバー!」

 

 などと言ってさっさと撤退していった。

 

「逃がしたか。みんな大丈夫?」

「はい、大丈夫ですマスター」

「いっぱい焼きましたよ」

「ちょっと精神にキてるけど、まあ、大丈夫」

「……問題ありません」

「良かった」

「あれ、おーい、マスター? 私に聞かないのかい?」

「問題ないでしょ?」

 

 マーリンはダビデと同じ。心配するだけ無駄だ。どうせ、いつものらりくらりと無事なんだから。

 

「それより、今はウルクに戻って王様に報告しよう」

「ああ、こちらも目的はほとんど済ませたしね」

 

 そういうわけで、ウルを後にする。口惜しいが、絶対にこのままにはしない。そう誓って、オレたちは一路ウルクへと戻る。

 門番さんがまたオレたちを迎えてくれた」

 

「お、戻ったかい。あれ、あの奇妙な服のお嬢ちゃんは?」

「…………」

「……」

 

 オレとリリィの表情を見て、察してくれたのだろう。

 

「そうか。すまない。さあ、入ってくれ。君たちが無事に戻ってきてくれただけでもうれしい成果だ」

「ありがとうございます」

 

 そうやって門を抜けようとしたところで。

 

「ああ、そうだ。お嬢ちゃん」

 

 アナが再び呼び止められる。

 

「おかえり。ほら、これをあげよう」

 

 門番さんは、しゃがんでアナに砂糖菓子を渡す。

 

「……ありがとうございます」

 

 門番さんは笑って、オレたちを中へ通してくれた。

 マシュを先にカルデア大使館に戻して、事の顛末を居残りのみんなに伝えてもらうことにして、オレはマーリンと二人で、ギルガメッシュ王に報告に来ていた。

 

 あったことを事細かく報告する。

 

「――それで、おめおめと逃げ帰ってきたと?」

 

 あ、これはまずいかもしれない――。

 なんというか、凄い王様が――。

 

「ギルガメッシュ王! どうか、彼らは生還したのです。これまでとは――」

 

 すぐさまシドゥリさんもまずいと思ったのだろう。ギルガメッシュ王を止めに入る。このままでは、きっと大変なことになると思ったからだ。

 だが、オレはまったく別のことを思っていた。あの二十日間のウルク生活で、この王様のことは少なからずわかってきていた。

 だからこそ――。

 

「なんだ、その面白サーヴァントは我も見たかったぞ! なぜ、次から次へとそんな面白トラブルに行き当たるのだ。我も我慢の限界であるとしれ」

「仲間はずれにされた子供ですか王よ!?」

「ああ、やっぱり……」

 

 王様がこんな反応になるのも当然だった。

 この王様、随分とオレたちのことを羨ましがっていたからなぁ。きっと内政ばかりで、つまらないのだろう。そこにオレたちのとんでも体験ばかりの報告を聞かされたら、それはもうねぇ?

 これ明日くらいに、カルデア大使館にギルガメッシュ王がやってきて無茶ぶりされたりしてな。

 

「――ともあれ、南の密林は後回しだ。生贄はあれど、それは、価値がないから殺すのではない。寧ろ、最大限価値を認めているからこそ、殺している。犠牲に選ばれることこそが栄誉だという。

 だが、犠牲は犠牲。今は手が出せぬことが歯がゆいが、仕方ない。――それで、マーリン、ウルからエリドゥは見えたか。斧は健在か。

「樹海が広く見えなかった。けれど、斧はある。そういう気配を感じたよ」

「斧?」

「今は関係ない。さて、此度の働きは十分とはいえぬが、生還したことは褒めてやる。これからもせいぜい蟻のように働くが良い」

 

 こうして密林の調査は終わった。

 式が倒された。

 その事実だけが、重く、のしかかる。

 それでも、歩みを止めることは出来ない。

 

「世界を救うために」

 

 必ずや世界を救うために――。

 

「んぅ」

「…………」

「ん、ぅ――」

「なんで、アリスがいるのかなぁ!?」

 




待たせたな……。

いや、本当、すみません。リアルヤバイし、コンテストあるしで、忙しくて書く暇ないのに、ネタだけは思い浮かんでやばかった。

次回もゆっくりお待ちください。

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