――時間は、瞬く間の間に過ぎていった。
「その肉、もらいうける!」
「フッ、甘いな馬鹿弟子。それは私のものだ」
「それを横から攫うのが、賢い大人のやることさ」
「かっさらったのを横からかっさらうのが私さ」
クー・フーリンとスカサハ師匠が肉の取り合いやってて、それを横からかっさらうダビデと、さらにダビデからかっさらうマーリン。
相変わらず騒がしい食事風景だ。
「はい、あーん」
「はぁ、あーん……」
「……トナカイさん、私も!」
「はいはい、あーん」
「あーん、おいしいです」
「むっ……」
「さすがにマシュはごめん」
ジャンヌはまだ子供だけど、マシュ相手にはその、ここでは無理だ。
「アリスもアリスもー!」
「はいはい、ちょっと待って待って」
子供の相手は大変だ。
「モテる男はつらいわねぇ」
「そういうなら手伝ってあげたら? あれ、かなり大変そうだとアイリさんは思うのだけど」
「いやよ。大変そうだし。お兄ちゃんなら大丈夫でしょ、あ、ママ、それとって」
「これ?」
「え、ちょっと待って、どこにあったのそのダークマター。ちょ、こっち持ってこないで!?」
あっちもあっちで大変そうである。
というか、なんだろうあれ、うねうね動いてる……。
「ジェロニモ、それをとってくれるかな?」
「うむ、これか博士。なかなか博士も通な食べ方をする」
「この前飲んだ時に、教えてもらったアレが結構気に入ってね」
ジェロニモとジキル博士は、飲み仲間として一緒に飲んでいたらしい。この二人はいいよね、マーリンやダビデと違って節度持って行動してくれるから助かってるよ。
「はーい、みんなー、おかわりもってきたよー」
「みなさま、お待ちかねのお肉ですよー」
そこに追加の料理を持ってきてくれる清姫とブーディカさん。肉はいつも取り合いになるけれど、心配はいらない。
オレの分だけ清姫が別途で用意してくれているのだ。さすがは良妻というべきか。まあ、最近はオレのを用意してくれていても、アリスが横からとってしまうんだけど。
「おっにっくー!」
「こら、駄目ですよアリスさん。それは先輩のお肉です」
「いいって良いって、育ち盛りなんだから食べたいなら食べさせてあげないと」
「そんな先輩も絶賛育ちざかりかと」
「そうかな? そういうならマシュもでしょ」
「そうそう、ほらほら、これもいっぱいお食べー」
「わぷっ、ブーディカさん、これはさすがに――」
「ますたぁ、これをどうぞ。今日はアリスちゃん用をご用意していますので、問題なしです」
さすが清姫。
「ゴールデンうめぇ、なあ、そうだろシルバー!」
「シルバー、いまだ慣れませんね」
「かっこいいですよ、ベディヴィエール卿」
「リリィ様がそういうのなら、騎士ベディヴィエール、頑張って慣れましょう!」
「おい、清姫、ターキーはないのか」
さすがにないと思われます我が王。
「ふぃ、食べたわ。食べたあとは、音楽よね!」
「ヤバイぞ、弁慶、止めろ!」
「く、拙僧には――レオニダス殿!」
「ぬぉ!? ま、待て、慌てるな。慌てる時間ではない。そうだ、計算があれば――ムァスタァ――!!」
呼ばれてる――。確かにエリちゃんが食後の音楽と称して怪音波をまき散らそうとしているから、さすがに止めないといけないだろう。
頑張ってるけど、アレはもう仕方ない領域だからなぁ。オレの為に謳ってくれる時はいいんだけど。
「エリちゃん」
「なぁに、子イヌ?」
「スイーツ食べる?」
「いただくわ!」
ドラゴンなスイーツ。頑張って作った力作だ。
「呵々。まったくもって騒がしいのぅ。ゆったり酒も飲めんわ、呵々」
「そういう割には君も楽しそうだけどね、信長君?」
「おー、楽しいぞドクター。ウルクでの日々は平穏じゃったからなぁ。じゃが、これはわしの第六天魔的勘なのじゃが、そろそろじゃろ」
「そろそろ動くことになるって?」
「ああ、そうでなくともそろそろ時間もないじゃろうしな。鉄砲の量産はまあ、なんとかなっておるじゃろうが、根本として弾薬が足らんからのう」
「
「はっはっは、だってわしじゃし? なぁダヴィンチちゃん?」
「しかも硫黄持っていった矢先に、そっちで宝石式に改造しちゃうんだから、骨折り損のくたびれ儲けとはこのことだよ」
宝石式火縄銃とか、火縄関係ない鉄砲が今、ウルクでは生産されているらしい。城壁の上から魔獣を撃てる兵器として割と優秀なようだ。
「それにしても、ティアマトの子たちを模した魔獣たちか。本当にティアマトがいるのなら、備えておかないと」
「そこらへんは任せたからのぅ、ドクター」
「こっちも頑張るよ」
「さーて、酒がきれたぞー、ブーディカ、もう一本」
「もう四本目でしょ。マスターに許可取ってからね」
「いーやーじゃー。わしはいま飲むんじゃー」
「マスター?」
「あと一本ね」
「了解。ほーら、ノッブ、これで最後だからね?」
あのやり取り四回目な気がするなぁ?
「しかし――」
この騒ぎ、まるで学生寮だなぁ。
「そうだねぇ」
「ああ、ドクター。これだけ大人数だと本当に賑やかだよ」
事実この19日間は、本当に賑やかで騒がしかった。
ウルク菓子王選手権をやったときは、まさかエリちゃんの発想がウルクを震撼させるお菓子を生み出すことになったのは今でも信じられない。
超常飯決戦の時は、羊肉とその乳が高騰した。あの時の直感で豆を食べればいいじゃないと言わなかったら、今頃、羊は消えていたかもしれない。
ちゃっかりダビデは、あの高騰の時に羊の乳を売って稼いでいたし。
ギルガメッシュ王が、麦酒のおつまみとして売り出したのではないだろうな。ウルクには早すぎる。人は豆を目当てに働く生きた亡者になりかねない。
という危惧してたけど、本当になりかけてたからなぁ。麦酒と豆。オレはドクターストップで食べさせてもらえなかったんだよねぇ。
あの時は、マシュが酔っぱらっちゃって大変だったよ……。具体的にいえばもにゅっと、もにゅもにゅっとだった……。
ダビデとマーリン、クー・フーリンたちと娼館にも連れていかれたっけ。何もしてない。ええ、何もしてませんとも。
あの時は、清姫に殺されかけました。ええ、本当に。あの笑顔は忘れられないです……。
それにしても、ダビデと娼婦の恋を応援する羽目になったのは驚いたけど。マーリンは邪魔しかしてなかったし。
そういえば、まだあの娼婦とは続いているのだろうか。
そんないろいろな思い出があった。
「護らないとな」
この街で生活して、いろんな人とふれあって。友達もいっぱい出来た。三又通りのギロムとまさかマシュを賭けた決闘をすることになるとは思いもしなかった。
無論、負けなかった。ファリア神拳がなければ、危なかった。ありがとうエドモン。
うん、ウルクで生活してその思いが強くなった。この街を、この世界を滅ぼしてはいけない。
「はい、先輩。頑張りましょう」
「まあ、そうだけど、そろそろ王様も外に出してくれてもいいと思うだけどなぁ」
最近は報告書が何やら溜まっているらしいけど。
ウルクの夜は更けていった――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「さて、今日は休みだけど、どうするかな――って、アナ?」
「はい、あのお休みのところ悪いのですが、私の依頼を受けていただけないでしょうか。お金は、こちらで」
「ああ、良いよ。アナのお願いなら、応えてあげるさ。それでなに?」
「ありがとうございます。あの、戦闘を行うので、出来れば」
「わかった。そうだな。式、マシュ、来てくれる?」
「ああ」
「はい――アナさんの依頼ですか? わかりました」
アナに案内されたのは、とある広場であったが――。
「亡霊だな。死神に近いな」
「倒せそう?」
「ああ、生きているのなら殺してやるさ」
「それでは、お願いします――」
マシュが追い込み、アナと式が亡霊に止めを刺していく。特に式は手慣れていて、こちらが指示をするまでもなく全滅させてしまった。
「まだ、あいつの方が手ごたえがあったな。まあ、あの時とは状況もオレの方も違うんだが――」
「それにしても、ここの亡霊たちはなんなんだろう」
「はい、あの亡霊たちは死神に近いようで。まだみなさん気が付いてないようなのですが、このウルクには今死の病が蔓延していて、あの亡霊たちが関係あるのではないかと」
体力が落ちた者から永遠の眠りにつく。霊はそれと関係がある。
あの霊を追い払えば衰弱死をする人が減るだろうと思ったらしいのだ。
「それならそうと最初に言ってくれたらみんなで来たのに」
「それは……」
「それにして、死の病か」
「はい。病に侵されると衰弱死して、眠りにつきます。魂を死神が冥界に連れて行ってしまうのです」
「さすが神代、冥界があるんだっけ」
「はい。しかし、その時点では死んではいません」
「そうなの?」
アナは頷いた。
「その時点では、魂を戻せばまだ生き返ります」
『ああ、なるほど神代においては、肉体の死と精神の死は別物なんだね』
ドクター曰く、肉体が無事でも魂が死神に連れ去られたら死ぬ。ただし、肉体さえ無事なら魂を連れ帰れば眠りから目覚めさせることができる。
とのことらしい。マナの質の違いなどが関係しているらしい。
「それにしても、アナはウルクの人たちのために?」
「……違います。単純に不愉快だっただけです」
そういうことにしておこうか。
「その視線、不愉快です。シドゥリさんに報告に行ってきます」
「あ、わたしも行きます。アナさんだけではうまく説明できないでしょうし。先輩は、先にお帰りください」
「わかった。行こうかフォウさん」
「フォーウ」
フォウさんと大使館に戻る道を歩いていると人だかりがあるのに気が付いた。その中にいたのは、老人だ。みすぼらしい老人。
話を聞くに、どうやら二日くらいなにも食べていないのではないかとすら言われていた。
「フォウさん?」
「フォウフォフォーウ」
「良し。お金もあるしね」
少しのパンを買って、老人のところに持っていく。
そっと、彼の前に置いて、さっさと立ち去る。こういうのは、きっとあまり彼にはよく思われないだろうという直感があったから。
「待たれよ」
「――はい……やっぱり余計でしたか?」
「うむ。わかっておるのならば良いが――謂れのない憐憫は悪の一つだ。その慙愧もまた、悪の一つ。
しかし、細やかな気遣いにまで難癖をつけては老害のそしりを受けよう」
何より、金銭ではなく必要なものを必要なだけ持ってきたという判断に感心される。
単純に、こうした方がいいと思っただけなんだけど、そこまで言われることはない。何より、あまり良いことではなさそうだし。
「それに、受け取ったからには、きちんと返礼をせねばな。私の名はジウスドゥラ。さて、何を返そうか。今は、何も持ち合わせてはいないが――未来ある若者に返すのならば、忠告が良いだろう」
これよりウルクには三度の嵐が訪れる。
憎しみを持つ者に理解を示してはならぬ。
楽しみを持つ者に同調してはならぬ。
そして、苦しみを持つ者に賞賛を示してはならぬ。
「この三つを忘れるでないぞ。それが、たとえ、人道に反していようとも。それが己の道に反していようとも。
神を相手に、人道を語ることこそが愚かである」
「それでも、オレはオレの道を行きます。せっかくの忠告だけれど、オレはオレだから。他には何もできない。でも、マスターとして、自分の道だけは見失いたくないから」
憎しみを持つ者を理解しよう。
楽しみを持つ者に同調する必要があるのなら同調しよう。
苦しみを持つ者がそれを望むのなら、賞賛しよう。
「神でも、オレにはまぶしすぎるから」
「…………愚かな。だが、良い愚かさだ――」
そう言って老人は。
「消えた……」
「フォーゥ」
「なんだったんだろうね」
でも、きっと大事なことだったのだろうと思った――。
そして、嵐の前兆が訪れる――。
それは、誰かの、いいや、ナニカの夢だった――。
さあ、行くぞ諸君。
是より先、嵐が来る――。
さて、翁の協力が得られなかった場合は、ノッブに頑張ってもらいますかねぇ。
あとラストバトルが冥界。死んだのは、式、スカサハ。
良し、行ける。
あ、活動報告でラスマスCCCの最後の体験版をあげましたのでコメントでもしてくださると喜びます。
デミヤの詠唱をでっちあげたりしましたー。
では、次回も、待て、しかして希望せよ。