「窓からおはようございまーす!!」
飛び出してくるマッスル。窓から入ってくる筋肉。脈動し、輝く肉体は、まさしく戦士のもの。
レオニダス一世が、窓からカルデア大使館に飛び込んでくる。
「お、おはようございます、レオニダスさん」
「おはようございます、マシュ殿」
「今日はここにきていいのかい総大将なんだろ?」
「はは、そう大層なものではないですよ。ただ要塞を任されている。守るだけ。何も変わらないですとも」
「いいねぇ、槍がありゃあ、オレも行くんだがなぁ」
クー・フーリンがレオニダスと話している。
彼の槍は、ウルクの都市結界に弾かれ、霊基に付属していた余計なものが全部吹き飛んでしまっている。元の霊基になっただけといえばそうなのだが、どうにも槍がないと落ち着かないのはいつものことらしい。
「それで、今日はどうしたんですか?」
レオニダスさんが来たということは何かしらあったのだろうか。それも窓から飛び込んできたのだから、それなりに何かあったのかもしれない。
あるいは、何かの依頼か。
「ええ、その通りですよ」
ちょうどよくシドゥリさんもやってきて、朝食をとりながら今日のお仕事の話になる。
まあ、慣れてきたのか、その朝食も非常に騒がしいものになる。
「その野菜はもらったー!」
「あー!? わたしのお野菜!?」
「甘いのぅ、二代目サンタ! 悔しかったら、もっと修行せい!」
「うむ、それには同意だな、織田信長」
「ノブー!? わしの魚!?」
「フッ――」
「ええい、むかつく笑みをしおってからに、初代サンタ、人気ならわしのが上なんじゃぞ」
――それはない。
――沖田さんの方が人気ですからねー。
などと異次元からのツッコミと英霊の座からのツッコミを受信したような気がしたが、気がしただけだろう。
「はっはっは。いやー、イイヨネ。女の子たちがきゃっきゃうふふしてるの見るの」
「うむ、それは同意だねダビデ王」
「何を言うんだいマスター、誓って健全だとも。健全にアビシャグってただけだとも!」
健全にアビシャグってたってすごい言葉だなー。確か、添い寝だっけ。まあ、本当にダビデが娼館で添い寝だけで済んでるのかは知らないけれどさ。
「ジェロニモ様には、また巫女たちが話を聞いてほしいと」
「心得た」
ジェロニモはシドゥリさんと真面目に今日のお仕事の話。巫女たちのカウンセリングをしているらしい。
なんでも、イシュタルが悪さをしているそうなので、それはもう大変なのだとか。まあ、それ以上にギルガメッシュ王の処理する案件とかいろいろとあるらしい。
「カウンセリングかー。大変そうだね?」
「そうでもない。香を焚き、少々言葉をかけるだけだ。ドクターの支援もあるから随分と楽だとも」
「へぇ、ドクター、ちゃんと仕事してたのか」
「してたよ!?」
「あ、おはようドクター」
「ボクの反論は無視ですか――まあ、おはよう。今日もいい日になりそうだね?」
いい日になるかはわからないけれど、そうなるようにしたいとは思う。ウルクでの生活にも慣れてきたところ。みんな現地の服装に着替えて、なじんできたと思う。
まだまだ、ギルガメッシュ王は話を聞いてくれないけれど、それでも少しずつ前進はしているはず。
「そうなるようにしたいよね。まあ、出来ることをやるよ」
何事も一歩ずつ。
「そうそう。焦ったってどうにもならないしねー。あ、お兄ちゃんそれとって」
「はいはい」
小学生に諭されてるオレってなんなんだろうね。とは思うけれど、クロがいうことも的確だ。焦ったところであの王様の気がかわるわけでもない。
何とか戦線は保っているのだから、今のうちにできることをする。
「もうわたしは動じないわよ。今度ゲテモノが出てきたって、わたしは屈しないわ!」
しかし、なんだろう、凄いフラグを感じる……。これ絶対ヤバイゲテモノが出てくるのではないだろうか。なんとも、彼女はそういう数奇な運命にありそうだし。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――どこかの密林のどこかのジャガーっぽいナマモノがくしゃみをしたとかしてないとか。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「今朝も騒がしいね」
「はい、ですが、こうでないと、ですね」
料理担当のブーディカさんと清姫がおかわりをもって来た。
「おつかれさま。この人数のご飯は大変だよねぇ」
最新設備があるわけじゃないから、時間がかかるし、微細な調整とかそれはもう難しい。ダ・ヴィンチちゃんが現地にいればどうとでもできたのだろうけれど、今はいない。
火加減だけはスカサハ師匠のルーンでどうにかしたけれど、それでもやはり難しいものは難しい。無人島での経験がなければやばかっただろう。
「大変だけど、楽しいしみんな喜んでくれるからね。お姉さんは苦じゃないかな」
「はい、清姫もますたぁの為なら」
「ありがと」
「出来れば式にも食べてほしいんだけどね」
「いいだろ、ちゃんと食ってるし」
それアイスじゃん。アイスと水じゃん。式がスカサハ師匠とルーンで作った冷蔵庫にハーゲンダッツばッか入ってるの知ってるんだぞぅ。
「なんだ、ほしいならやるよ」
「いや、いいよ。朝からアイスは」
朝はしっかり食べる派だからね。
「じゃあ、私がいただこうかしら。おいしいわ」
オレがいらないからアイリさんがもらって食べる。美味しそうに食べると、欲しくなるが、我慢我慢。
「我慢は体に毒だよ、マスター」
「それを博士がいいますか……」
「はは。そうだけどね。ともあれ、マスターの今日の仕事はレオニダス殿について訓練だそうだよ」
「訓練?」
どうやら兵士を相手に百人組手をしてほしいとのこと。サーヴァントと戦うことで新兵たちを鍛えようという腹積もりらしいが。
「たいへんそうだぁ」
聞くからに大変そうである。
「組手と聞いたのなら、黙ってはいられんな」
「訓練、私もしたいです!」
「リリィ様が行くのなら私も同行します」
ほら、スカサハ師匠がやる気になっちゃったよ。
そういうわけで、今回の依頼はレオニダスについて訓練だ。きっと楽しい百人組手。メンバーは、マシュ、スカサハ師匠、リリィとベディだ。それからアナもだ。
「いいかな?」
「……構いません」
「よし、じゃあ、今日も頑張ろうか」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
レオニダスについて、訓練が行われる東兵舎へと向かう。訓練ということで皆久しぶりの武装である。
東兵舎について、慣らしの運動が行われて、しっかりと柔軟などを経て、百人組手が始まった。
「マスター殿、侮らないでくださいね」
「?」
開始前のレオニダスの言葉。それを理解したのは50を超えたところだった。
それは互角の戦いだったといえた。
確かに兵士たちは力で劣っている。速度で劣っている。耐久力で劣っている。
単純な性能という意味合いにおいて例え神代の人間であろうとも、特別がなければサーヴァントに敵わない。だが――勝てないわけではない。
敵わないということと勝つということは両立する。
全ては条件次第。
練度という名の質。
仲間という名の量。
総じてそれらを束ねる指揮者と個々を繋ぎ一つの兵器へと変える絆がそろった時。
敵わない存在だろうとも勝利へと手をかけることができるのだ。
だが、今回は百人組手。一人一人が連続して向かってくる。普通ならばそれほど苦もなく終わるはずの戦い。
「すごい――」
しかし――そうはならなかった。
急速に減っていく魔力がそれを示している。現在戦っているこちらのサーヴァント四騎。それぞれが訓練故
だが――圧倒できていなかった。
驚くべきことに、兵士たちは善戦していた。
力で劣るのならば技巧を以て。
技巧という糸が紡ぎあげた一つの力は、たとえサーヴァントであるろうとも容易く破れるようなものではなかった。
始まりは良かった。だが、50を超えてからはこの調子だった。
劣るがゆえに、外野すらも巻き込んで伝導され急速に研ぎ澄まされていく
圧倒的なまで力の差をものともしない束ねたもの。なるほど、確かに、侮ってはならないとはこのことか。侮ってはいなかったけれど、想定が足りていなかった。
だが、もう遅い。既に敵の術中。
あとはもう個人の技巧次第だ。なにせ、あの百人組手の中にはヨヒメンも混じっているというのだから、油断できない。
「フハハハ! 良いぞ! 滾ってきた! そら、もう少し本気を出すとしよう。ついてこれるか? いや、ついて来い!!」
「――応!」
その点、心配がないのがスカサハ師匠だった。ケルトのノリを出して、相手をスパルタの流儀と合わせて相乗して鍛えている。
さすがというべきだろう。ここは何一つ問題はない。いや、問題としては、ケルト流に兵士たちが染まりつつあることくらいか。
まあ、うん、世界が守れるからいいだろう。うん――。
次。
「はあッ!! さあ、来なさい。私も円卓の騎士の末席に名を連ねる者。我が王とマスターのため、死力を尽くしましょう」
ベディヴィエールもまた同じく。円卓の騎士であるために、刻まれた練度は高く、騎士として力強い。隻腕の騎士として戦い抜いたその技巧は、アガートラムが合ってなお、朽ちることはない。
むしろ、より一層その技巧は高まりを見せている。
よって、心配すべきは残り二人。アーサー王として未だ修行中のリリィとマシュだ。
「く――やあ!」
リリィの方は苦戦している。80人を超えたあたりから疲労も見える。サーヴァントと言えど連戦は厳しい。なにせ、オレはもう動けないほどに魔力をもっていかれている。
いわゆる疲労度はこれでわかりやすいといえる。それだけ魔力を使っているということになるからだ。
「負けません――!」
それでも、不屈の闘志で、戦いを続けていく。
そして、この場でもっともきついのはマシュだった。彼女は精神性はただの普通の少女だ。それがサーヴァントの力を得て戦うデミ・サーヴァント。
百人組手はきついことがある。また、彼女の性格上、訓練とはいえ、人間を相手にするのは厳しいものがあるだろう。
峰内を徹底しているが、それだけに相手の技巧が高まっているのがマズイ。
「――っっ!」
食らいつく攻撃を防ぐのにも限度が出てくる。凄まじいものだった。
そして、誰もが疲労困憊になりながら、百人組手は終わりを告げた。
「うぅ、疲れましたぁ……」
「お、おつかれ、マシュ……」
「先輩も、お疲れ様、です……」
「さあ、座学の時間ですぞ!」
それから始まるレオニダス教室。
「まだやるのか……」
「皆さんあれだけ動いたのに、元気にレオニダスさんのところに集まっていきます……。わたしも、行ってきます!」
マシュも十分凄いよ……。
「百人組手は今やったように、六十人あたりで限界を迎えることになります。しかし、そこからが本番なのです。
ぱんぱんの筋肉。破裂しそうな心臓。疲労困憊でもうろうとする意識。
その極限状態の中で、どうやって戦うのかを学んでほしい。そう思っているのです」
それは兵士たちも同じこと。自分よりも強い相手と戦うことを知ってほしい。どうやって戦うのか。どうやって負けないようにするのかを。
何よりも仲間を信じ、仲間とともにいついかなる時も生きて死ぬことを考えてほしい。今回は非常に良い訓練になった。
「ベストコンディションにもっていくことよりもバットコンディションで戦う術を身に着けることが大事。自らの疲労と向かい合い、疲労の中で何ができるのかを考えること。ただし、負傷は駄目、負傷は。負傷したらすぐに交代。
槍は捨てても、盾は捨てるな。盾は――」
とマッスルスパルタ理論を展開しているが、総じて、極限の中でどうやって戦うかが、レオニダスが教える全てだった。
「それと筋肉です。筋肉をつけましょう。世界は筋肉でできていますので」
「なるほど……奥が深いです。先輩、わたし、頑張ります!」
マシュは、頼むから筋肉むきむきにはならないでね? 今のやわらかいマシュでいてください。ほどほどに頑張って、お願い。
それにしても――。
「人間って――すごいな」
思うのはやはりこれだった。
「いえ……あの、あなた、大丈夫ですか?」
「ごめん……超、きつい……」
倒れたまま動けません。
「みんななかなか本気を出していたからねぇ。それだけ魔力消費も大きいんだろう」
アナについてはドクターに任せる。もう少し回復してないと。
「そうなのですか?」
「そうだよ、アナ。サーヴァントはマスターを契約してこそ力を発揮する。アナはサーヴァントとしての知識はないのかい?」
「わたしは……やることだけがわかっていました」
「魔力はどうやって?」
「魔獣たちの魂で霊基を維持していました」
「――それなら、オレと契約する?」
今は食事をしているけれど、それでは限界も来るだろうし、魔獣を倒して追いつかない時があるかもしれない。そうなってからでは遅い。
だから、オレと契約したらどうかと提案する。
「……すみません」
「……そっか」
「……人間がどうなろうと関係ありません。ただ、時を待っているだけですので」
そうかな? アナ。
だったらなんで君は。
そう思ったところでマーリンの言葉を思い出す。
なら待つことにしよう。いつか、彼女が契約してもいいと思ってくれる日が来ると思うから。
レオニダス教室も終わり、今日は疲労困憊なので帰宅。
「おーう、帰ってきたな。今日は丸焼きだぜ」
久々のクー・フーリン丸焼き料理が出迎えてくれた。
お待たせしました更新でございます。
今回はレオニダスブートキャンプ。
ケルトとスパルタが出会うとき、とんでもない修行が始まる!
まあ、原作より戦力マシマシにしておりますが、はてさてどうなることやら。
次回はいつになるのやら。
次回は川の掃除。
だが、ただでは終わらない。
現れるヘドロン。
紡がれる友情。
そして、別れ――。
次回、河川洗浄戦線。
――ヘドロンとの友情。
お楽しみに。