さあ、今日も元気に行ってみよー。朝食はマシュの手作り。目玉焼き、美味しいです。
今日から、みんなで手分けして仕事をすることになっている。
「おはようございます。こちらが今日のお仕事になります。いくつか見繕っておきました。ああ、それと羊の毛刈りですが、もう一度お願いしたいとのとこでしたので、先に、羊の毛刈りに、それからこちらのお仕事の方へ」
「ありがとうございます」
わざわざ丁寧に粘土板にまとめてくれているのは助かる。さすがシドゥリさんだ。それにしても毛刈りができるとは。気を遣わせてしまったかな。
朝食を終えて、仕事を貰った者からウルク市内へと繰り出していく。最後はオレたち。
「それで、今日の仕事はなんでしょうか?」
「はい、キッシナムウ氏からの浮気調査となります」
「浮気調査、ですか」
まさか浮気調査とは。しかし、オレとしてはどうにも気が進まないというか、ヒトのそういうこととに介入するというのはどうなんだろうと思う。
「許せません!!!」
なのだが――ここに物理的に燃えている女の子が一人。
何を隠そう清姫である。
「何があろうとも浮気など、絶対に!!!!」
うん、そういうと思ってました。
「はい。それが浮気は彼の奥方がしているようで。朝から夜遅くに帰ったり、どこかへ行ったりといった風らしく」
「なんと!? 信じられません。わたくしならば、絶対に浮気などしないというのに! 浮気調査などせずに今すぐ燃やしてしまいましょう! 浮気、ダメ、絶対!!!」
「はいはい、清姫は少し黙っていようか。話が進まないから」
「兵器舎の親方なので離れられられません。やる気の問題もあるので早期解決が望まれます」
「了解です」
残ったのは、マシュと清姫。浮気調査には、少し心配だが、清姫のスキルが役に立つ。ストーキングを応用すれば、尾行など余裕のはずだ。
アナは花屋の方で仕事を頼まれたらしく、そっちだ。もうひとりくらい手がほしいところ。どういうわけか、そういう直感が止まない。
確実に浮気調査では済まないと直感が叫んでいる。こういう時の直感は当たるのだ。
だれかいないものか、そう思いながらカルデア大使館を出ると。
「おや、マスター殿も今からですか」
「牛若丸、君も?」
「ええ、これから市内の見回りですが、そのように考え込んで、どうかなさいましたか?」
「ああ、これから浮気調査で――」
「浮気調査!! おお、なんとおもしろ――大変そうな」
――いま、面白そうって言わなかったか?
「いま、おもしろ」
「言ってませぬ」
「いや」
「言ってませぬ。しかし、浮気調査とは大変だ。私もお供しましょう」
「いや、義経殿? 見回りが――」
「何を言うか弁慶。浮気調査をしながら見回りもできるだろう」
こうなってしまっては誰も止められない。ブレーキのない暴走特急が彼女だ。だったら、そのまま走らせた方が効率が良いだろう。
下手に御するよりも、結果は良好だ。その過程を考えなければという点と、その結果がどうなるかを考えなければであるが。
ともあれ、
「まずは浮気をしているという奥さんを見つけなければいけませんね。キッシナムウ氏のご自宅へ行ってみますか、先輩?」
「そうだね、とりあえずは張り込みかな」
「はい! お任せください先輩。ダ・ヴィンチちゃんに頼んで、秘蔵のあんぱんと牛乳をご用意です!」
張り込みの定番だよね。
「あんぱん?」
当然、そんなお約束や定番を知らないシドゥリさんは首をかしげる。牛乳はまだ考えればわかるだろう。乳とついているのだから、想像は可能だが、あんぱんだけはわからない。
パンはわかっても、あんがついたパンとなるとこちらにはないだろう。
「ええっと、ですね。あんぱんというのは、こういうもので」
ゆえに、そこらをわかりやすく説明。
「まあ、ありがとうございます。パンの中に甘い餡、ですか。おいしそうですね」
「こちらで作れるだけの材料とか探してみて、作れるようなら作ってみますよ」
「本当ですか!?」
「あ、はい……」
予想外の食いつき。いつの時代も甘いものは女の人の心を掴むものなのかと思う。あんぱんは、それほど甘いものというわけではないけれど、そこはそれとして。
「ともあれ、それじゃあ行ってきます」
「はい、いってらっしゃいませ」
やることは決まっているし、やるべきことは多い。まずは、張り込み、そこから尾行だ。ただ、この人数が一気に移動するとなると問題になるし、尾行どころじゃないだろう。
「そういうわけで、頼んだよ、清姫」
「はい、おまかせを!」
というわけで、尾行を清姫に任せて、オレたちは少し離れたところで連絡を待つ。念話をすれば、相手にバレることもない。それに、携帯のかわりになる。
あとは、決定的な証拠が出るなり、勘違いだったという結果が出るなりしたら、オレはマシュに抱えられて屋根伝いにいくことになる。
「どうなるかな」
「本当に、浮気なのでしょうか」
「どうだろうねぇ」
本当に浮気だったとして、そこをどうするかはオレたちの判断できることではない。気まずいがそうだったと事実を報告して終わるだろう。
問題は、そうじゃなかったら。旦那さんに隠れて、何かやるとしたら、何かの記念の贈り物とかそういうものというのが相場が決まっている。
そうであったら、うまいこと誤魔化さないといけない。隠れて必死に準備しているのを邪魔するほど無粋ではない。
「ますたぁ、動きがありました。今から追いますわ」
「早速か。ちゃんと間違いない?」
「はい、間違いはないかと。どうぞ、ご確認を」
清姫の視界を借りて確認する。確かに、シドゥリさんが言っていた特徴と合致する。彼女が、奥さんなのだろう。
間違いないことを確認して、清姫に追わせる。ストーキングスキルがこんなところで役に立つとは。清姫曰く、気乗りしないとのことであったが、そこはそれ有効活用してもらわないと困る。
もちろん、オレになんて使ってほしくないので、そこは考えてほしいけれど、こういう人のためにも使えるということを知ってほしいところだ。
それが、今の彼女にしか伝わらなかったとしても、それはきっと意味のあることだと思うから。
「それにしても、買い物、おしゃべり、と普通にしているだけのようですが……」
清姫が定期的に上げる報告を聞いていると、浮気など嘘のように普通に生活しているように思える。これは勘違いだったのだろうか、そう思い始めた頃だった。
「ますたぁ!」
鋭い清姫の声。
「どうかした?」
「それが……ともかく、今すぐこちらにきてもらいたいのです。ご覧になられた方がおそらく早いかと」
「……なるほど、了解。確かに、これはそっちに行った方がよさそうだ。マシュ」
「はい! では、先輩失礼します」
もにゅん。
うむ、盾があるから横に抱えられるのは仕方ないとして、うん、さすがだ。
「むむ、マシュ殿、マスター殿は、私がお連れしましょうか? その盾では持ちにくくないでしょうか」
「義経殿がまともなことを!」
「よし、死にたいんだな弁慶」
「滅相もない」
「いえ、わたしは大丈夫です」
うん、そうこのままにしておいてほしい。いや、マシュのビーストマシュマロの感触を感じたいという思いもあるが、そんなことよりも、牛若丸に連れられた方が危ないのだ。
まずその格好もそうだが、牛若丸の移動を見てると、絶対に酔うし、危ない。それに格好がヤバイ。マジヤバイ。
ともあれ、清姫と合流し、奥さんが消えた先というものを見た時には、そんな浮ついた気分などどこかへと吹っ飛んでいた。
「先輩、これは」
「大穴ですね。それに、この気配」
「化生の気配がしますな。この先、何者かが潜んでいる様子」
「本当に、ここに奥さんが消えたんだな?」
「はい、わたくししっかりと見ました」
目の前にあるのは深い穴だ。市中、郊外ではあるが、ここにこのようなものがあるとは思いもしなかった。そもそも、この穴は一体どこに通じているのか。
市中にあって、だれも気が付かない都市の死角に作られた大穴。そこから感じる空気は、嫌なものだ。
「…………」
行くか、行かないか。まずはそれを決める必要がある。ここに奥さんが入っていったというのなら、行くしかないだろうが――。
果たして、この先がどのようになっているのか。できることなら、もう少し戦力がほしいところであるが、仕方ない。今は、全員仕事中だ。
「……行こう」
ただ、やはり行かないわけにはいかない。
「では、先頭は、わたしが行きます」
「うん、お願い、マシュ」
盾を持ったマシュが先頭ならば、何かが起きても大丈夫だろう。殿は、弁慶に任せて、マシュ、牛若丸、オレ、清姫、弁慶という順で大穴を下りていく。
蛇の喉を下りていくかのような感覚。はるかな深淵の奥底へと滑り落ちて行っているかのようだ。暗黒の中、一歩でもズレてしまえば、もっと大変な場所に堕ちるのではないかという
「気温があがってきました。マスター、大丈夫ですか?」
「大丈夫。礼装のおかげで、なんとかなるよ」
「もしもの時は、わたくしに行ってください、まるっとひとのみで安全をご提供します」
「ああ、うん」
それは最後の手段にしておきたいところだ。何が嬉しくて、清姫に丸のみにされなければならないのだろうか。いや、別に嫌という訳ではないのだが、心情的に、丸のみにはされたくないなというかなんというか。
「マスター!」
「マスター殿!」
「――――!」
穴を下りた先、光輝く溶岩の地底湖が広がる小さな世界。
「なんだこれ――」
そして、そこにいるすさまじい数の何者か。まるで、ここが巣であるかのような、いや、まるでここは国のようだった。遠くに見える、建物群は、確かに国と呼べるだけの何かがあるだろう。
「行こう。この先にきっと、答えはあるはずだ」
溶岩に落ちないように進む。
都市の近くに来ると、ヒトと同じような姿をした人々の姿が目に入った。どうやら、彼らはここに住む者たちらしい。
名はヨヒメンというらしいが、これ以上はわからない。もっと近づけばわかるのかもしれないが、これ以上近づいてしまえば、それだけでは済まなくなる。
確実に彼らと戦いになる。なぜならば、どうにも地上を攻めようとしている気配があるのだ。都市を俯瞰して、牛若と協議した結果、結論は一致した。
軍備を整えている。確実に、どこかへ攻め入るつもりだということがわかった。そして、それは確実にウルクだろう。他に攻め入る場所などどこにもないのだから。
「さて、どうしたものか」
地下にあるこんなものを見逃すわけにはいかなくなった。浮気調査がとんだ世界の命運を片手に掴んでしまっている。
「ひとまず撤退か――」
「いえ、そう簡単に行かないようです」
鳴り響く警鐘の音。それは、こちらがバレたということ。さすがに悠長に情報収集を赦してくれるほど甘くなどない。
「素早いですな。義経殿ほどではないが」
「ああ。だが、巧い」
ヨヒメンの大群。そのどれもがオレたちの退路を塞いでいた。戦に備えているだけはあるか。
当然、包囲のあとに来るのは殲滅だ。
こちらをすり潰そうと軍勢が押し寄せてくる。
「囲みの突破は――現状は無理か。だったら、機会を待つ」
この中でマスターの仕事はない。指示を出そうにも、そんなことよりも素早く切り替わる戦闘流。それら全てを読めてはいるが、決定打として手を打つのはまだ早い。
相手も手強いが、こちらはサーヴァントだ。ゆえに、性能差という点でみればこちらが圧倒していることに変わりはない。
危険なところで少し指示を出し、この先をオレは考える。この先、必ず来るであろう事態を収束させる為のタイミングを待つ。
ゆえに、まず見るべきは第一の戦場。
正面。もっとも大軍勢を相手取っているのは、マシュだった。城塞の如き防御でもって大軍勢と相対している。
「やあっ――!!」
いかに大軍勢が現れようともその盾の防御を崩すことは不可能。平地での戦いであるが、相手からしてみればこれは攻城戦に他ならない。
どのような攻撃だろうとも、その盾に防がれ、受け流される。その隙を晒してしまえば、盾の一撃が来る。
鍛え抜かれた戦闘技術と戦経験、真名とかみ合ったことによって、デミ・サーヴァントは更なる完成度へと至っている。
それでも積極的攻勢ではなく、積極的防御を獲るのはもはやマシュの性格以外の何物でもないだろう。
だが、最も安定した戦場という意味でならばここだった。
「一つ、二つ。三つ!!」
次の戦場は右翼。
首がぽんぽんと飛ぶ戦場と言えばだれが戦っているのかは一目瞭然だった。
ただし、その姿を目にした途端、翻る刃によってあらゆる全ては断ち切られてしまう。
まるで空を舞うかのように、軽く地を蹴り飛翔する牛若丸。
刃を振るえば、首が飛ぶ。
だというのに、血をかぶることのないその戦いは演武のようだった。
「数が多いだけですね。これならば、何一つ問題なく倒せましょう」
できればあまり殺さないでもらえると助かるが、敵が来ているのに、殺すなとは言えない。
「さて、どうするか――」
戦闘は続く。
より深く、深みを増していくようだった。
待たせたな!
リアルが忙しいというのと、他にもいろいろしていることが多いのと、シルヴァリオトリニティやっているから遅れましたが、更新です。
次回は、戦闘からヨヒメンの愛、ギルガメッシュ、喉を鳴らす。
とかまで行けると良いなぁ。
ともあれ、ゆっくりとお待ちください。
しかし、楽しいなトリニティ。
――狂い哭け、おまえの末路は英雄だ。
ぐだ男に当てはまる言葉だよなぁ。
好きなキャラはガラハッドさんとムラサメさんです。
アレ、男しかいねぇw。
女キャラだとミステル姉さんとヴァネッサ姉さんです。
見事に姉さんキャラしかいねえw。