Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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絶対魔獣戦線 バビロニア 12

 朝。

 いつもと違う、活気あふれる音で目が覚めた。活気あふれる朝。瑞々しい朝の空気。カルデアでは感じられないその空気に、思わず自分がどこにいるのかを一瞬だが忘れた。

 

 それでも、すぐにここがどこであるかを思い出す。

 ウルク。カルデア大使館。

 

 通信機の時計機能を見るとまだまだ早い時間のようである。いつもよりも早いのは、慣れない環境だからか、これからの仕事について、気が急いているのだろうか。

 

「しっかりしないと」

 

 まずは、顔を洗おう。しっかりと着替えを済ませて、庭の井戸で顔を洗う。カルデア大使館のロビーに行けば、すでにマシュが準備万端でまっていた。

 

「おはよう、マシュ」

「おはようございます先輩。よく眠れましたか?」

「うん、ぐっすりと」

「それはよかったです」

 

 そう朝の挨拶を交わす。カルデアとは違う場所で、こんなにもゆったりとした挨拶を交わすというのは新鮮だった。

 その新鮮さを噛みしめていると、

 

「……おはよう……ございます……皆さん、早起きなのですね……すごい、です……」

「おはよう、アナ。朝は苦手?」

「……んん……すこし……」

「はは、もう少し寝ててもいいのに」

「……いえ……」

 

 そう言っている間に、みんなも起きてきて朝食の準備が整う。といっても、昨日のうちにシドゥリさんが用意してくれていたもので、それを食べ終わった頃にシドゥリさんがやってきた。

 

「おはようございます。みなさんお揃いですね」

「おはようございます」

「早速ですが、皆さんにお仕事です」

 

 仕事。

 いったいどんな仕事になるのだろう。

 雑用という話だけど、小さなことからこつこつと、だ。

 

「農場のリマト氏からの羊の毛刈りです」

「羊の毛刈り、ですか?」

「はい」

「おー、羊。いいねぇ。いきなり重要な仕事じゃあないか」

 

 羊飼いのダビデがいう。

 さすが羊飼いと言ったところか。

 彼曰く、年に二回か、三回、羊の毛の刈り入れを行うらしい。

 

「羊の毛は値千金だからね。そのリマト氏はいったいどれくらいの羊を飼っているんだい?」

「百八十頭です」

「それは、大変だ。ひとりじゃ、一か月はかかるじゃないか」

「??」

「おっと、それじゃあ、説明するよ。羊の毛を刈るには、そうだね、慣れたリマト氏で四時間といったところかな。そうなると日にできる数は四頭かそこらだ」

 

 なるほど、百八十頭もいるんだから、それじゃあ全然終わらない。だから、カルデア大使館への依頼として毛刈りというものが来たわけか。

 シドゥリさんもうなずいてくれているし、間違いないらしい。

 

「それじゃあ、頑張らないと」

「お願いします。ああ、それと、今の時期、羊の毛はもこもこですよ」

「もこもこ……」

 

 各所で女性陣の声があがる。

 もこもこ、気持ちよさそうだ。

 

「先輩、行きましょう!!」

「おお!? マシュ、やる気だね」

「はい!」

「……フォーゥ……」

 

 それに比べてフォウさんは強力なライバルの登場でテンションが低そうだ。もこもこだからなぁ……もこもこだしなぁ……。

 ともあれ、今日の仕事は羊の毛刈り。ウルクの郊外での仕事なので、魔獣も出るという。特に見たこともないような魔獣が出るというので、気を付ける必要がある。

 

「それでは、頑張ってください」

 

 シドゥリさんは、王様の補佐に向かう。オレたちは、郊外へと向かう。

 カルデア大使館の戸締りをしてから、全員で郊外へ。

 

 まだ、朝も早い頃だというのに、ウルクの市は活気であふれている。

 

「安いよ、安いよー! 買ってって―!」

「お、そこのお嬢ちゃん、可愛いね、安くしてあげるよー」

 

 活気あふれる市場。滅びに瀕しているとは、何度見ても思えない。

 

「ウシワカが来るぞー!!」

 

 そんな叫び声が唐突に響いた途端、商人たちは店先に出していた商品を一気に片付け始める。次の瞬間には、空から牛若丸が降ってきた。

 

「逃がさん!!」

 

 何かを追っているようなのだが、さっきの着地によって露店が一軒潰れてしまった。

 

「くっそー、今日は、ロギンのとこか!」

「もう一個となりだったら、こっちが勝ってたってのに!」

 

 ――なに、これ……。

 

「お店を壊されたのに、みなさん、笑ったり悔しがったり……先輩?」

「んー? クー・フーリン?」

「なんで、オレだよ」

「だって、賭け事に詳しそうだし」

「そこまで言うんだったら、アンタが言えよな。嬢ちゃんもその方がいいだろ」

「わ、わたしは……その……」

 

 ――そうはいっても、クー・フーリン参加してたっぽいし。

 

 知っている人がいるのなら、知っている人が話すのが一番。オレが話すことができるのは、今のウルク商人たちの反応を視ての推測だけだ。

 それを言う事もできるけど、どうせならオレも正解が知りたい。

 

「へいへい。まあ、アレだ。見ての通り、あの牛若の嬢ちゃんが落ちる場所を賭けてんだわ。毎日毎日、朝っぱらから、烏やらなんやらを追い払う仕事してるらしいんだが、その都度、店が壊れることになる。それが長く続けば慣れてきて、今では賭けってことよ」

「胴元は?」

「ああ、そこにいるぜ」

 

 人に囲まれて金銭の移動を行っているのは――。

 

「弁慶……」

「ん? おお、これはカルデアの皆さま、おはようございます」

「おはよう。何してるの?」

「見ての通り、主がよく落ちるので、それを賭けにして少しでもウルク市民を楽しませてあげるために、賭け事の胴元をしています。

 無論、阿漕なことなどしていませんとも」

 

 ――それでいいのか、この主従。

 ――いや、うん、これでいいんだろうな。

 

 鬼ヶ島の時から彼らは何一つ変わっていないのだから。

 

「お仕事ですかな?」

「ええ」

「では、そちらもお気をつけて」

「そっちも頑張ってね」

 

 牛若丸を追っていく弁慶を見送って。

 

「それで、いくら勝ったの?」

「ま、ぼちぼちだな」

「まったくこの一番弟子は……」

 

 スカサハ師匠も呆れ気味だが、いいと思う。悠長にしていてはいけないけれど、いつも張り詰めていてはいけないことは、もう学んだ。

 気が抜ける時は気を抜いて、おかないといつか潰れるのは、もう知っている。クー・フーリンなら、戦う時はちゃんと真面目にやってくれることがわかっているので、何も問題ない。

 

 ちゃんと、自分のお金だし、それで好きにやるのは全然問題ない。

 

「まあまあ、スカサハ師匠。ちゃんと切り替えができるのなら、そこまでとがめるつもりはないし、自由にしてくれていいよ。みんなもね」

 

 焦ってもどうにもならないのだから、焦るのはやめて、ここでしっかりと英気を養うのもいい。王様に認められるまではどのみち、ひたすら下働きだ。

 それならば、楽しんだ方がいい。あの王様を相手にするのだ、それくらいでないとすぐにストレスで死ぬ。冬木で会った時よりましだけど、根っこは全く変わってないのだから。

 それに、せっかくの一軒家を手に入れたのである。活用しなくてどうする。

 

 みんなが、自分のお金で何を買って、何を部屋に置くのとか、凄い気になる。カルデアだとダ・ヴィンチちゃんに言えば支給されるが、それとはまた違うことになるはず。

 なにせ、自分のお金。少ない中のやりくりとか。そういう意味で、いろいろと見て見たくも思う。一番見たいのはマシュだけど。

 

 マシュが、自分のお金で何を買って、何をするのか、とても気になる。

 まずは、その第一歩。差しあたっては羊の毛刈りだ。初めてだけどうまくやれるだろうか。

 そう思いながら、ウルク市郊外。牧草地帯が広がる場所。たくさんの羊の前に、男性が一人いる。

 

「リマトさんですか?」

「お? あんたらがカルデア大使館って人たちかい?」

 

 リマト氏は、こちらを値踏みするように視線を動かす。異邦からの旅人だから、当然だろう。大切な羊を預けるのだから、値踏みされて当然だ。

 リマト氏の視線は、ダビデで止まる。

 

「お、あんた、羊飼いだな?」

「わかるのかい?」

「ああ、わかるさ。同業だからな」

「そうかそうか。それにしてもいい羊たちだね」

「おうとも、自慢の羊たちだぜ! さって、それじゃあ、さっそくなんだが――」

 

 その時、魔獣の咆哮が響き渡る。

 魔獣の群れがこちらに向かってきている。見たことのない魔獣と聞いたが、アレは、魔猪だな。しかし、数が多い。

 

「毛刈りの前にまずは、全員でアレを片付けるぞ!」

「了解です! もこもこは死守します!」

 

 マシュたちが魔猪に向かって行く。

 

「へぇ、大したもんだ。異邦から来たって聞いた時は、どんな奴らか、大丈夫なのかと心配したもんだが、大した腕じゃねえか」

「はは、ありがとうございます。でも、オレはただ視てるだけですけどね」

「いやいや、それが大事さ。羊の群れと同じだ。あんたの仲間(群れ)は、アンタを信用してる。いい動きしてるじゃねえか」

 

 ――そこまでわかるリマトさんがすごいんじゃ……

 

「しっかし、んー」

「どうかしたんですか?」

「ああ、いやな……毛刈りを頼むっていったんだが……実はな」

 

 リマト氏曰く、毛を刈る羊がいないのだという。どうにも巫女所の人たちが、予約を取ってしまったのだというのだ。

 

「貨幣制度が出来て、娯楽を買うということができるようになったからだろうね」

「貨幣制度の弊害かー」

 

 いや、いいことなんだろうけれど、ウルクには早いものだったようだ。いくら必要とは言えどやっぱり貨幣制度は早すぎたのだろう。

 

「マシュたちが聞いたら、落ち込みそうだなぁ」

 

 その予想は案の定当たりだったのだけれど。

 

「その時は、キミが慰めてあげなよ」

「ドクター、他人事だと思って。簡単に言わないでよ」

「そうかい? キミならできるだろうって信用だよ。これまでキミは多くの不可能を可能にしてきた、それがまたひとつ増えるだけさ」

「そのために、どれだけ血反吐を吐いてきたことか……けど、ま、やるだけやってみるよ。というか、メンタルケアはドクターの仕事なのでは?」

「おっとー、こうたいのじかんだー」

 

 ――すごい棒読みだな、おい

 

 ともあれ、報酬の羊の銀三つを受け取る頃にはすっかりと夕暮れ時。倒しても倒しても現れる魔猪軍団を倒しきる頃には、本日分の羊の毛刈りは終了。

 もこもこを味わることなく帰還することになってしまった。

 

「……」

 

 マシュたち女性陣の落ち込みようが半端ないです。

 

「――というわけでして」

 

 それをギルガメッシュ王に日の終わりに報告する。

 

「――ふん、まったく面白味もない。ああ、エアンナの祭壇に召喚術の痕跡があったか。では、下働きに聞き込みをしろ。突然の休みがあったはずだ。そこから切り崩せ。大規模な召喚術だ、それだけ目撃者もいようよ。

 む、なんだ、まだいたのか、さっさと下がれ。その陰気な面を見せるな」

 

 とまあ、すっかりと落ち込みモードなマシュは鬱陶しいと、さっさと追いだされてしまった。

 

「今回も話を聞いてはくれなかった」

「……もこもこ……」

「あー、マシュ、そろそろね。もこもこじゃないけど、オレの頭とかなら、貸すけど」

「――!?」

 

 ――あ、慰めようとして、たぶん、結構やばいこと言った気がする。

 

「で、では――」

「おまちください、ここは、わたくしも」

「トナカイさんの頭、わたしも撫でたいです!」

 

 ――まずい。

 

 このままでは、多分、ちょっとどころじゃなくまずい――。

 このままにしておいては、きっと何事も進まなくなる。

 

「とりあえず、料理のあとにね――」

 

 料理のあと、ひたすら撫でられました。これはこれで――。

 

 翌日、何故か、特別に羊の毛刈りをさせてもらった。

 




バビロニアライフ開始ー。
まずは羊の毛刈りから、スタートして、次は浮気調査。地下の旅です。
さあ、順調にウルク民と絆を深めていきましょう。

ああ、翁さんは、キャッシュバックあったから、少し引いてみたよ。出てないよ。以上。
エレちゃんを待つさ。

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