「古くはありますが、広さは十分でしょう。また、お金さえ払えば勝手に増築、改築はしてよいと王からの許可もあります」
もともとは酒場だったのだろう。三階建てで、一階は共有スペース。二階、三階が居住区となっているようだった。
古くて埃をかぶっているから、まずは掃除からだろう。家具類などはあるので、買う必要はないとのこと。ただ、最低限のものなので、ほしいものがあればやはり買ってほしいとのこと。
「まさか、一軒家をそのままお貸しいただけるとは! ありがとうございます、シドゥリさん!」
「やりましたねますたぁ、これで、ますたぁも一国一城の主様。清姫、誠心誠意、お仕えいたしますわ」
「うん、こういうのってなんか嬉しいよね」
ここを自由にしていいと言われると、シミュレーションゲームを思い出す。どんどん発展させていきたいとも。
「金策なら、僕にお任せだ。僕は稼ぐよ、凄い稼ぐ」
「賭け事はやめとけよ全裸とそこの魔術師」
「しねえっての、それに自分で稼いだ金でやるわ」
「だから、全裸じゃないって!?」
――そこは、まあ、自分で稼いだお金ならいいのかな。
自由になるお金で何をしようとみんなの自由だし。
「マシュは、何したい?」
「わたし、ですか?」
「うん」
「そうですね……思い浮かびません。先輩とこうしているのが、とても楽しいですから」
――カハッ。
「ますたぁが死んだ!?」
「このひとでなしー!? 大丈夫ですか、トナカイさん!?」
「ええ!?」
「はいはい、遊んでないで。マシュ、そこは霊脈も通ってるから、サークルが設置できる。今回の拠点だね」
「了解です。カルデア大使館ですね!」
――カルデア大使館。
――確かに、大使館と言えなくもないかもしれない。
みんなのアジト。ここを素敵な場所にできると良いと思う。どれくらい暮らすのかわからないけれど、あの王様のことだから、一筋縄ではいかないと思う。
それに、せっかく済むのだから、住みやすくしたいしね。綺麗ではあるが、やはり古いから改修もする必要があるだろう。
島を開拓した時に、小屋も作ったしある程度は自分たちでできるだろうけれど、資材を買うにもお金がいるだろう。
「頑張らないとな」
「よぉーし、私もここに住むとしよう。こちらの方が面白そうだからね。さっそく二階の様子を見てこよう。短い滞在だろうと、部屋選びは重要だ」
「…………」
「アナも見てきたら?」
「……そうします。マーリンがまたよからぬことを企まないか、監視してきます……」
浮かない顔。可愛い顔が台無しと思う。
其れも仕方ない。彼女の目的から遠ざかっているのだし。
「……さて、それじゃあサークルを設置したら、大掃除だ!」
ぱんぱんと手を叩いて、みんなに指示を出す。
「では、サークルの設営に入ります……」
サークルの設置は問題なく済む。その間にいつものダ・ヴィンチちゃんのレクチャーが入って、神霊とか権能について学んだ。
その後は、みんなで大掃除。一階の共有スペースはもちろん、二階、三階と部屋割りを決めて、掃除をしていく。サボるマーリンはアナがたきつけ、サボるダビデは式が何とかしてくれた。
部屋割りは、二階が男子部屋、三階が女子部屋。オレは、階段に近い部屋を貰った。ベッドと簡易の机があるだけの簡素な部屋だ。
それでも自分だけの部屋というのはやはりうれしいし、これからどうカスタマイズ、もとい模様替えしていこうなどと考えるのは楽しい。
そんな感じに、掃除の方も何とか日が落ちる頃には終わった。
掃除が終われば、どこかに出ていたシドゥリさんも戻ってきた。お酒と御馳走をもって。
「皆さん、麦酒はいきわたりましたか? 未成年の方には果実水を」
「……すみません。私は水がいいのですが……麦酒は苦くて……」
「すみません、これは気が利きませんでした。アナタもサーヴァントだと聞きましたので、つい。では――こちらのミルクはどうでしょう。蜂蜜入りで甘いですよ」
「……甘いものは苦手なのですが……はい、いただきます」
と言いつつ口元がにやけているのは言わないでおこう。
しかし、まさか歓迎会まで開いてくれるとは思わなかった。お酒や果実水、料理もいっぱいだ。
「それでは、カルデアの皆さまのウルク赴任を祝って、ささやかながら歓迎の席を設けたいと思います。皆さん、杯は持ちましてね? では――かんぱーい!」
「かんぱーい!」
ごっごっご、とイイ呑みっぷりの皆。驚いたのはシドゥリさんも一気に飲んでいるというところ。サーヴァントは言わずもがなだけど。
「いやー、うまい! 半日かけての掃除の後だとなおさらだ!」
「仕事のあとの一杯は格別だね!」
「……マーリンと全裸さんは、サボって娼館に行こうとしてましたよね……それにマーリンは角部屋を独り占め……やはり隙があったら一度殺しましょう」
マーリンとダビデには困ったもの。なにせ、彼ら二人は、似た者同士だ。ありていに言えばクズということ。昼間っから掃除さぼって娼館に行こうとしていたのを、アナに連れ戻されること数回だ。
何をしているのやらだ。金策と情報収集と称しても、娼館に行くのは駄目だろう。
「ああ、うめえわ。良い魚だ、オレも釣りたいねぇ」
「うむ、同意だ、クー・フーリン」
「お、ジェロニモ、あんたもいける口かい?」
「カルデアで情報誌を読んで興味がある」
「いいねえ。今度、どうだい」
クー・フーリンは、魚料理を見ながら釣りの相談だ。生活が軌道に乗れば、そういう趣味に精を出すのもいいだろう。
特に、釣りはいい。釣れたものは、夕食とかにすればいいから積極的に釣ってきてもらうのもいいかもしれない。
魚料理は、美味しい。川でとれた魚らしいが、泥臭くなく、それでいて深みのある不思議な味わいだ。身が引き締まっていて、それはもう美味い。
焼いてあるが、刺身もいいかもしれないと思いながら魚料理に舌鼓。
「サンタ後輩、ターキをもて」
「サンタ先輩、ターキはないです!」
「む、そうか。ならば贅沢は言うまい。しかし、この芋料理は、うまい……。ただ、つぶした芋料理がなぜ、こうも美味い……なぜガウェイン卿の
何やら、芋料理を食べて落ち込んでいるらしいアルトリアさん。何かつらい思い出でもあるのだろうか。
ただ、確かに芋料理はおいしい。ただマッシュしただけのはずなのに、どうしてか美味しい。不思議である。これが神代補正とでもいうのか。
「オラ、肉を食え、子供は肉を食って、でかくならねえとな!」
「いや、だからってわたしのお皿に、お肉ばっかりおかないでくれる!?」
「そうよ、金時さん、大きくなるためには野菜も食べないと」
「マ――アイリさんも、野菜ばっかりお皿にのせないでよ!?」
クロは金時とアイリさんに挟まれて、お皿にお肉と野菜をのせられている。親子か、焼肉に連れてこられた親戚の女の子に親戚のおじさんが構いまくってるようであった。
でも、あれはあれでうらやましいような気がする。羊肉は美味しい。タレも、香辛料もないはずなのに、どうしてこれほどまでに美味しいのかというくらいに。野菜もそうだ。しゃきしゃきと瑞々しく、大地の味がする。
それはもう食べた瞬間に雄大な世界に放り出されたような感動を覚えるほどだ。料理人が良いのだろうか。それとも食材が違うのか。
――色々と食べ歩きとかしてみると楽しいかもしれない。
――マシュと二人で。
デート。どうやって誘ったものか。服装は残念ながら、似たようなものしか持ってきていない。特異点だから、持ち込めるのは魔術礼装くらいでオシャレ、というのはとんとできてないのだ。
――いや。
――諦めるのは早い。
ここは、ウルク。戦時下とは言えど、服飾店くらいあるかもしれない。もう神代だとか関係なく、このウルクならあってもおかしくないとか思い始めている。
だから、市場で服を探してみるのもいいだろう。このウルクに滞在するなら現地の服装に着替えるというのは、溶け込みやすくなるだろう。
「どうだろう、スカサハ師匠」
「うむ、そうさな。マスターの服装のみは、魔術礼装として力を持たせるためにこちらでつくるが、我らサーヴァントの服装を買うのはよかろう。なにより、こちらに合わせてみるのも面白かろうな」
「そうだね。作るよりは買う方がいい」
同意したのはダビデだった。
「む、また邪なことでも考えておるのか、イスラエルの王よ」
「はは。今回はそうでもないさ。なにせ、買うということはお金を使うということだからね。お金を使えば経済が回る。それはいいことだ」
「なるほど、伊達に王を名乗るわけではないな」
「もちろん、作るのもいいよ。素材屋も儲かる。新しい服を造り、流行を巻き起こせれば、こちらはがっぽりと設けられるからね」
そういうお金の稼ぎ方もいいだろう。ただし、あまり現地の人たちに迷惑をかけない程度に抑えなければ。
「もちろんだとも。そんなあまりにも大きすぎる成功にはしないさ。嫉妬は怖いからね」
「うん、その辺の調整はダビデ王なら問題ないだろうね。新しいものが好きなのは、どの国でも、どの時代でも同じだろうし」
「まあ、よいですね。ただ、新しいものを作ったら、まずは王にもっていくことをおすすめします。その、あとで発覚すると……」
――理解した。
言葉を濁したシドゥリさんの言いたいことは、わかった。それに新しいことをやるのなら、確かに王の許可はいるだろう。
「ちゃんと、メリット、デメリットを明確にした企画書を作成しよう」
「じゃあ、その辺はジキル博士に任せるとしよう」
「ダビデ王!? ……はあ、のせられちゃったか」
それでも楽しそうだ。ダビデのことだから、早々問題になるような企画はたてないだろうから、多分大丈夫。ジキル博士もつくのなら問題は起きないはずだ。
「まあ、心配なら、オレが見といてやるよ」
「ありがとう、式」
「式ー、あんまり食べてないけど、いいの?」
「オレは、これでいい」
どこに持っているのかハーゲンダッツのストロベリー味のアイス。アレ、お気に入りだよね。カルデアの式の部屋の冷蔵庫には、それはもうたくさんのハーゲンダッツが入っているのを知っている。
勝手に食っていいと言われてるから、時々食べてるけど、誰が仕入れているのだろうか。
「まったくもう、自分の納得したものしか食べないんだから」
「いいだろ、サーヴァントになって食わなくても活動に問題はないんだからな」
それを見て、注意するのはブーディカさん。本当おか――お姉さんである。
「それでも、気晴らしにはなるし多少の魔力の足しにはなるからね。いざという時に備えないと。ねえ、リリィちゃん」
「はい、おいしいです!」
「もう、ほっぺについてるよ。はい、綺麗になった」
「あ、ありがとうございます」
――本当、親――姉妹みたいだなぁ……。
「うへぇ……もう酒はいいわ、果実水がいいのう……その蜂蜜入りミルクとかわしも、飲みたいんじゃが……」
「なに、この程度の酒でへばってるの? だらしないわねぇ」
「雑竜にいわれたくないわ」
「誰が雑竜ですってー!」
「まあまあ、お二人とも、落ち着いて、こちらをどうぞ」
「もぐもぐ」
「もぐもぐ」
なんだろう。ベディヴィエールが、我儘お嬢様二人に仕える執事みたいになっている。でも、似合ってるな。そう言えば、彼はアーサー王の世話役だったのか。なら、本職をしているようなものか。
「――――」
「マシュ、楽しそうだね」
そんな光景を見ているマシュはとても楽しそうだ。
――にこにこと、本当に、可愛い。
――めっちゃ可愛い。
――すごくかわいい。
「はい! とても楽しいです! お料理にも興味が尽きませんし、なにより――」
「ささ、どうぞ主殿、ご一献」
「牛若丸様、いけませんぞ、びぃるをお注ぎになられては」
「はい、ますたぁにお酌するのは、わたくしの役割ですから」
――いや、多分そういう事じゃないと思う。
楽しい理由。
たぶん彼ら。
牛若丸と弁慶。
なんというか、凄まじい格好の少女と、武器をいくつも背負った男。
何やら酔っぱらって牛若丸が失態を犯したことを、ネタにして一発芸を披露している。亀になり切るのがこつというか、首ごと移動してないか、アレ?
――さらにもう一人。
「シドゥリ殿、私は栄養だけで十分です! 酒を味わうのは、魔獣たちを全滅させた後のみでしょう!」
――レオニダス一世。
盾を持った筋骨隆々の人。
かのスパルタの王だ。防衛線に於いて、彼以上の指揮者はいないだろう。ただ、スパルタ流儀を叩き込んでいるのか、凄まじいスパルタ理論が展開されている。
ただ――、うん、確実に酔っている。おそらく入れたのは牛若丸だな、眼が泳いでいる。
彼らはあのギルガメッシュ王に召喚されたサーヴァントだという。
「頼もしい味方がこんなにも!」
「うん、頼もしいね」
彼らはギルガメッシュ王に仕えるもので、彼を優先するだろうが、この時代、この街を守るという目的は一致している。
むずがゆいが、人類最後のマスターとしての心意気も買ってもらっているらしい。だったら、どこまでも一緒に戦えるだろう。
しかし、マーリン+七騎を召喚したギルガメッシュ王すごすぎる。
「いやあ、聖杯戦争について語ってしまったのはまずかったなぁ」
なんだ、マーリンが悪いのか。
「いやいや、あれは王も悪い。ちゃんと忠告したのに」
「アレ、じゃあ今は?」
もしかして、自分で維持してるの?
「いえ、今は、食事をとり、自らで魔力を生成しています」
「――受肉しているということかい。なるほど――」
ドクターが何やら納得したようなので、そういうことなのだろう。
「一概に王が悪いとは言えませんな」
「王は、我らが来るまで敵がどのようなものかもわからなかったと言います。しかし、クタ市が壊滅し、その時、ウルクが滅びる未来を視たと」
「なるほど、だから無茶な英霊召喚に挑んだと」
「その通り。お見事な分析能力です、マシュ・キリエライト……マシュ殿でよろしいかな?」
「は、はい、マシュ・キリエライトです。デミ・サーヴァントですが、よろしくお願いします!」
和やかな会話は、いつしか今までのおさらいになる。このウルクでの戦いの時系列。こちらが知っておくべきことをレオニダスたちが説明してくれる。
この時代が特異点化し、人理焼却の後に、ギルガメッシュ王は英霊七騎を召喚した。
それから半年、戦いを続けているのだという。
ウルク市を戦闘都市として生まれ変わらせ、緊急時限定の貨幣制度まで導入したほどだ。
――すごい。
そう純粋に思った。
アメリカでも戦ったが、あれはすべてが終わった後だった。だが、こちらは今も、壊されないように抗っているのだ。
――すごいとしか言いようがない。
「それは、時期が良かったからね。アメリカも、もう少し時代があとなら戦っていただろう。こちらは、あの王様が不死の霊草探索から帰った後だった。それが良かった」
ギルガメッシュ王が精神的に成長したあとだったからこそ、ここまで抗っているという。
「そうか……じゃあ、エルキドゥはなんなんだろう」
「そうです。あのエルキドゥさんは一体……」
「ああ、あなた方はあの方にお会いしたのですね。ギルガメッシュ王の友人であり、対等の勇者であったもの。それが今では、人間の敵になってしまった。
ですが、私たちはあれをエルキドゥとは思えないのです。ウルクの民は以前のエルキドゥを知っている。私たちには、どうあってもあれがエルキドゥとは思えない」
――それに関しては、オレはなにもわからない。
エルキドゥを視た。だが、以前の彼を知らない。だから、比較ができない。
比較が出来れば、ある程度はどんなものかわかるかもしれないというのに。
――ないものねだりをしてもしかたない。
「ともあれ、まずは、この世界を救うことを考えないと」
それがきっと彼の正体をしることにもつながるはずだ。
「うん、それがいい。なにせ、世界が滅んでしまうと、麦酒を味わえないし、娼館にも通えないからね――さて、そろそろお開きかな。アナも眠ってしまっているしね。
全ては明日からにしよう。今日はしっかりと休むと良い」
マーリンの言葉で、お開きになる。ブーディカさんにアナを任せて、片付けに加わろうとしたとき――。
「アナはね、人間が憎いから距離をとるんじゃない。むしろ、人間が怖いから、距離をとろうとする。キミなら、この意味がわかるだろう?」
マーリンがそう言った。
「わかりました。任せてください」
そう言って、なじみの娘がいるといって出ていく彼とダビデとクー・フーリンを見送る。よくもまあ、行くものだとあきれながらも、片づけを終えて。
「さて、寝るかー」
「はい、そうですね。しっかりと休んでください、マスター」
「うん、おやすみ、マシュ」
「おやすみなさい。明日また、カルデア大使館ロビーで会いましょう!」
こうして、ウルクでの一日目が終わった。
明日からの仕事に思いを馳せながら、眠りについた――。
さあ、ウルク生活開始です。
楽しい楽しいウルク生活の中で、ウルク民と絆を育んでいきましょう。
ウルククエストはまだまだ募集中。活動報告のウルククエスト募集版にのっけてくださいな。
第二章の圧縮解除は、進行中。
まだまだ序盤を書いている途中ですので、ゆったりとお待ちください。
更新もゆっくりになりますが、じっくりとお待ちください。