Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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絶対魔獣戦線 バビロニア 9

「まずはカルデアの使命をウルクの王様に伝えないとね」

 

 ウルクを目指すにあたりマーリンが言った。

 ウルクの王様にカルデアの使命を伝えること。

 そうすることによって、やるべきことがわかるとのことだった。なによりもウルクは活動拠点に最適だというのだ。そうなれば行くことを反対することはない。

 

「じゃあ、行こう、ウルクへ」

「決まりだ。そういう訳でウルクに戻るわけなんだけど、アナはどうする? ついてくるかい?」

「……話が違います。一刻も早く女神を倒す、と言ったはずです」

「確かに、神殿まで案内するとは言ったけど、今の状況もわかるだろう」

「もしかして、オレたち邪魔しちゃった……よね、ごめん」

 

 マーリンの案内はアナの方が先客だった。ならば、こちらが割り込んだようなものだ。状況的に仕方なかったし、オレたちだけでなんとかウルクまで行けるのならいいのだが。

 

「…………別に、貴方が謝る必要はありません。状況は理解しています……でも、人間の集落に行くのは……」

 

 アナは人間が嫌いだ、とマーリンは言った。

 だが――視て思うのは、彼女は人間が嫌いというわけではなさそうな気がするのだ。本当に人間がきらいなら、オレなんて助けないはずなのだ。

 おそらく何かしらの理由がある。それは、彼女の存在の根本にかかわるだろう問題だろう。オレから何かできるとは思わない。

 

 でも――。

 

「一緒に行こうよ」

 

 オレは手を彼女に差し出す。人間が嫌いだから。それだけの理由でオレたちまで彼女を嫌うのは間違っているだろうし、何より人は多い方がいい。

 オレたちと一緒に行かないという選択肢で、彼女が此処に残るようなことになってしまったら悲しいし、それは寂しいことだと思うのだ。

 

 だから、彼女の手を引いて行こうと思った。

 

「…………握手は結構です。私には近づかないでください」

 

 だが、それでも一緒には来てくれるらしい。

 

「よーし、それじゃあ行こう。こっちだよー、ああ、それとできればソリに乗せてほしいかなぁ、なんて思うわけなんだけど、どうでしょう我が王」

「マスター専用だ。貴様は歩けマーリン」

「マーリンとの相乗りなんて、お父さん認めませんからね!」

 

 ドクターは何を言っているんだ……。

 

 ともあれ、マーリンとアナとともにウルクを目指す。歩けると言ったのにオレはラムレイ二号に乗せられてみんなの上空をソリで移動している。

 ワイバーンが来るよりも高い成層圏ギリギリ。ラムレイ二号の機能によって、ここでも問題なく過ごせるとは言えど、地上を行くみんなが心配だ。

 

「これが、先輩がクリスマスに乗っていたラムレイ二号なんですね! 実は、わたしも乗ってみたいと思っていました」

「そうなんだ。感想は?」

「はい、とても良いものだと思います。これがアレばどのようなところでも先輩をお疲れさせることなく、移動することが可能です」

 

 気に入ったのかな、眼が輝いている。そんなマシュは本当に可愛い。

 ただ、みんなが心配ではあるが、利点があることもわかっている。オレという足かせがないほうが移動速度を上げられるのだ。

 

 サーヴァントの速力に合わせるとオレがどうあってもついていけない。だが、オレがこうやってラムレイ二号で先に行っていればみんなも速度が出せるというわけだ。

 本来なら丸一日かかる強行軍になるはずだったが、半日ほどまで短縮できる見込みだった。もちろん魔獣などの相手をしつつだから、多少前後するだろうが、ジキル博士とジェロニモが上手くやるだろう。

 

「操縦だいじょうぶ?」

「はい。わたしも騎乗スキルを持っていますから。ですので、先輩はお寛ぎを」

「うーん、でも、魔獣がいる森をようやく抜けたとは言え、まだまだ魔獣はどこから襲ってくるかわからないし、オレだけ安全圏で休むというのも――」

 

 気が引ける。

 理屈は解っていても、オレ一人だけ休むというのはやはり気が引けるのだ。

 

「いいえ、ますたぁはお休みをとるべきです。大切なお体なのです。どうぞご自愛下さい、ますたぁ」

 

 そう言って、オレの肩を掴んでぐいぐいと寝かせようとする。

 オレだってマスターなのだからと抵抗するとそっと耳打ちされる。

 

「頭痛が酷いのでしょう? ウルクの王様に会う前に体調は整えるべきです。気が付いているのは一部の方だけですが、ますたぁがお休みにならないのであれば、わたくし、口が滑ってしまうかもしれません」

「…………わかったよ」

 

 降参と両手を上げる。

 

「子イヌー、ねたー?」

 

 さあ、いざ眠ろうと清姫膝枕で寝転がったところで、エリちゃんがやってきた。飛べるということを利用して、彼女はこちらと地上の橋渡し役でもある。

 

「いま、寝るところだよ」

「あら、意外。もっとごねるかと思ったわ」

「清姫には勝てない」

「ふぅーん。田舎リスもやるのねぇ」

「ドラ娘とは育ちが違いますので」

 

 ばちばちと火花散らす二人。はいはい、喧嘩しない。眠れないでしょ。

 

「眠る気がないなら、子守歌でも歌おうかと思ったけど必要ないみたいね。子イヌ、しっかり休むのよ。地上のみんなは、子イヌに変わって、このスーパーアイドルにして勇者である(アタシ)がしっかりと率いてあげるわ!」

「うん、任せたよ」

「あ、あら……? いつもなら、心配だ―とか、言われると思ったんだけど……相当、疲れてる?」

 

 確かに賢さは足りないけど、エリちゃんなら大丈夫だと知っている。ジェロニモやジキル博士もいる。

 それに、エリちゃんのポジティブなところとか、物おじしないところは率いる者としては結構、貴重な資質だ。頑張り屋の彼女ならきっと悪い方にはいかない。

 

 ――オレの心眼がそう言っている。

 

 まあ、疲れてるのは否定しない。エルキドゥとの闘いでかなり消耗した。勝てないからといって無理に勝利への道筋を探そうとしたせいだ。

 

「言ってほしかった?」

「まさか。……じゃあ、戻るわ。しっかりと休みなさいよ」

「うん、それじゃあ。あとよろしく」

 

 下に戻っていったエリちゃんを見送り、オレは目を閉じることにした。眠れはしないけれど、休むことはできる。

 今は、休もう。

 

 眠る気はなかったが、いつの間にか、眠りの中に落ちていった――。

 

「――先輩、先輩」

「ん……」

「おはようございます」

「おはようマシュ。着いたの?」

「ええ、合流地点の光源です。皆さん、お着きですよ」

 

 起き上がると、何やらじゃんけん大会が開かれていた。

 

「何してるの、アレ」

「次はだれがソリに乗るのかでじゃんけんだそうです」

 

 なるほど。オレが休めるようにということで、定員は二人。そのうちの一人は騎乗スキル持ちが選ばれるが残りの一人はじゃんけんと。

 ただ、スカサハ師匠とマーリンは除外されている。スカサハ師匠は暴走した罰。マーリンは端からアルトリアが乗せる気がない。

 

「しかし……」

 

 出した瞬間に全員で、手を変えるってありなんだろうか。というか、そんなに乗りたいのかな。

 

「はは。乗りたいのは女の子たちだよ」

「そういえば、じゃんけんに参加してるの女の子たちだけだね。まさか、博士、アレ、最初からあの状態とか言わないよね?」

「うん、その通り。最初からあの形だよ」

 

 予想通りだった。なるほど、そんなにソリに乗りたいのか。

 だなんて、的外れなこと言うつもりはない。いや、クロやアイリさんは純粋に乗ってみたいだけなんだろうけれど、それ以外のメンツが本気だった。

 エリちゃん、ノッブ、ジャンヌにリリィ。この四人の本気じゃんけん。

 

「しばらくは勝負がつきそうにないか。でも、こんなにゆっくりしてて大丈夫なの?」

「この辺りはまだ元々のメソポタミアに近いから大丈夫だよ」

 

 オレの問いにはマーリンが答える。

 

「元?」

「そう。元のね。ここが安全なのは、ウルクに近いからさ。王が健在なウルク市の周辺だけだよ、ヒトがヒトらしい生活をしているのはね」

 

 メソポタミアの北部は魔獣の王国となっている。

 南部はなぞの密林に覆われ帰らずの森になった。

 もはや逃げる場所はウルク市しかないといった状況。

 

 つまり、三女神同盟によってシュメル都市国家群は壊滅的な打撃を受けた。それでも、人々は北壁を作り上げ、絶対魔獣戦線を立ち上げ、粘っている。

 まさしく最後の砦という奴なのだろう。ウルク市は、最期の安息の地といえるはずだ。

 

「現状だと、魔獣への対処が優先順位が高そうだね」

「そうとも。魔術王がどんな介入をしたのかはわからない。けれど、魔獣たちがウルクを攻め落とせば人類史はそれで終わってしまうだろう」

 

 都市国家のひな型であるシュメル初代王朝が消滅してしまえば、その後の人類史がどうなるかは保証不可能だ。だから、絶対条件としてウルクを守らなければならない。

 もとよりそのつもりだから、これは問題ない。

 

 次に、やるべきことは、魔術王の聖杯を探し出して回収すること。それによって魔術王が何をしているのかもわかるはずだ。

 そして、三女神同盟の打倒。魔術王の聖杯にかかりきりになっている間にウルクが攻め落とされてしまえば、本末転倒にすぎる。

 

 ゆえに、まずは後顧の憂いをなくすべく三女神同盟を打倒することを目的とした方がよいだろう。相手は神。強大な相手だ。

 魔術王の聖杯の探索を行えば、障害である三女神同盟とはどこかで必ず戦うことになる。

 

 どのみち戦うのならば、最初に打倒してしまった方がいいだろう。そうすれば後顧の憂いなく聖杯を探すことができる。

 厄介だがやるしかない。そのためには情報が必要だ。

 

「マーリン、三女神同盟について知っていることは?」

「いやはや。教えてあげたいところなんだけどね。これが何とも言えないのさ」

 

 魔獣の女神

 密林の女神。

 天駆ける女神。

 

 どれもこれも厄介な女神だ。最も強大なのは魔獣の女神であるが、最も厄介だというのは天駆ける女神だとマーリンは言った。

 天駆ける女神。それはもしかして、このメソポタミアに来た時に出会ったあの女神様だろうか。

 

「ともあれ、自分で確かめるしかないか」

「うんうん。それが良い。何事も、自分でやるのが一番だよ」

 

 マーリンが言うと皮肉っぽい。

 

「じゃあ、次はウルクについて。ウルクを治めているのは、ギルガメッシュ王?」

「もちろんさ。古代王の中でも飛び切りの暴君のギルガメッシュ王だよ」

 

 ああ、やっぱり。

 あの傲岸不遜な金ぴかかぁ……。

 

「大丈夫なのあんなのが王様で」

 

 クロは何やら含んだ言い方をする。何かしら知っているとでも言わんばかりだ。無論、オレだって第四次聖杯戦争の特異点で出会ったが、クロの言い方はそれとはまた異なるような気がした。

 

「そうねぇ。クロちゃんの言う通り、私も疑問だわ。会った限りだと、心配よねぇ。我儘だし、自己中心的だし」

 

 アイリさんも酷い言いようであるが、間違っていないのだから困る。

 

 なにせ、ギルガメッシュ王といえば、世界最古の英雄王なのだ。

 神々が偉そうだからと縁を切ったり、全ての民の初夜権を有したとか。あの時はわからなかったけど、手にした財宝だっておそらく星の数ほどはあるだろう。

 

 よくもまあ、あの時は勝てたものだと思ったが、クロと相性が最高にいいことが分かった。武器を投影できるからぶつけてやれば相殺可能。

 ただ、どうにも追いつかないから、そこらへんの速度が課題だ。その場にあらかじめ用意できていれば早いのだが――とそこまで考えて、今回は別に戦う必要がないことに気が付いた。

 

 ギルガメッシュ王と事を構えなければいいのだ。それに、不死の霊草探索を終えたギルガメッシュ王ならばまだ話が通じるはずだ。

 霊草探索を終えたあとのギルガメッシュ王は、それまでの我儘やら圧政がなりを潜めたという。楽観はできないが、あのきんきらきんの王様状態よりはマシだと思われる。

 

「…………」

「はは、行きたくないって顔だね」

「さすがにね、ドクター。できれば変わってほしいよ」

「ははは、遠慮するよ。ともあれ、心の準備だけはしておくんだ。きっとカルチャーショックを受けるからね」

「ごめんなさい。敵影です。群れからはぐれた魔獣たちが向かってきてます」

「ん、ありがとうアナ。みんな!」

 

 どうやら、ちょうどよくじゃんけんも決まったらしい。勝者は、ジャンヌ。

 決まったらあとは、ごねることなく全員が戦闘態勢をとる。

 

「……お礼はいいです」

「さて、素早く片付けてウルクに行こう」

 

 群れからはぐれた一団だが、それなりの数がいる。まずは、一発、一気に削るのがいいだろう。

 

「クー・フーリン」

「おう!」

 

 前面に展開されたルーン文字。陽の輝きを放ち、焔が爆ぜる。一団の中央が爆ぜる。

 爆裂で倒しきれはしないだろうが、密集していたのが離れる。あとはもう簡単だ。各個撃破する。

 

「エリちゃん、セイバーでお願い」

「オーケー! 勇者エリザベートの出陣よ!」

 

 剣を手に魔獣と相手取る。めちゃくちゃな、どこかで見たような動きだが、その剣戟は強力だ。そこに音も混ぜさせている。

 魔力をちょっと消費するが、剣に音をぶつけて超振動させている。そのおかげで、切れ味はただの剣なのに、すっぱりと斬れるし、その歌は基本自分の為になるわけで、周囲にも多大な被害をもたらしている。

 

 なぜ、エリちゃんを先に突っ込ませたのか? その理由がこれだ。魔獣を散らしたのも被害を仲間に出さないためだ。

 他も問題なく倒し、更に半日をかけて、バビロンにレイシフトしてから二日。ウルクへとオレたちはたどり着いた。

 

 紺碧の城壁がオレたちを迎える。美しい城壁だった。城門では市に入るための検問をしているらしいが、この人数でどうやって入ったものか。

 

「マーリン?」

「任せたまえよ。何のための宮廷魔術師だと思っているのかな」

 

 そう言ってマーリンが先を行き、オレたちはそれに続く。

 

「おや、宮廷魔術師殿。お帰りなさいませ。そちらの方々は新顔ですね? どこの市からでしょう」

「彼らはギルスからの難民だ。彼らをウルクに避難させたいのだけど、手続きは必要かな?」

 

 そう言いながら何らかの印をマーリンは門番の兵士に見せる。

 

「シドゥリ様の印ですね。それでしたら問題ありません。難民の受け入れでしたら、今日は西市場のヌゥトラの店がいいでしょう。ちょうど二階の倉庫を難民の皆さん用に開放したと報せが届いています。

 当面の生活用品は、それぞれの門の受付で受け取ることができます。少なくはありますが、ウルクは皆さんを受け入れる用意があります」

 

 そのほかにも、臨時の市民登録はラナの娼館でやっているなどの情報を門番をしている兵士さんは、親切に教えてくれた。

 大変だろうに、こちらをいたわり、ねぎらってくれている。

 

「ありがとうございます」

「いいえ、我々は生きるために戦う者、そのすべてに協力を惜しみません。どうか、そうかしこまらずに。ようこそウルク市へ。みなさんを歓迎いたします」

 

 これで入れるとなったとき、

 

「む。待ちなさい」

 

 呼び止められる。

 彼が見ているのはアナだった。

 アナがローブの下で武器を構えている。

 

「アナがどうかしましたか?」

 

 思わず警戒してしまったのが出ていたのだろう。

 

「ふふ。ご安心を。何もしません」

 

 そう言って彼はアナに視線を合わせて、懐から砂糖菓子を取り出す。

 

「どうぞ。その小さな体でよくここまで歩いてきました。娘から昼のおやつに渡されたものですが、どうぞ」

「……で、でも、あの……私は、その……」

「キミが受け取ってくれると、こちらも助かるのです。少々、私には甘すぎるものなので」

 

 門番さんはとてもいい人だ。

 

「アナ、好意に甘えたらどうかな?」

 

 そういうと、アナはコクンと頷いて、掌の上に乗せられた砂糖菓子のうちひとつだけを手に取る。

 

「……ありがとう、ございます」

「いえいえ――では、どうぞ中へ。それから、皆さんのお顔は覚えました。私は記憶力が良いのです。どうか、また生きて再会できることを望みます。

 戦いに出る。生まれ故郷に帰る。何を選択されても、どうか元気な姿を見せてください。それが、私の喜びです」

 

 そんな優しい門番さんに見送られながら、オレたちはウルクへと足を踏み入れた――。

 




さあ、次回はウルクの王様に謁見だ!

門番さんとの第一接触。これから何度も会うことになります。
絆イベ、用意してます。
シドゥリさんにも用意してます。
というか、ウルク民に対してのイベもいろいろと用意してます。

描写されなかった20日間もあの手この手で描写して、ウルク民と一杯交流していきたいと思っています。

ウルククエストはまだまだ募集してます。何を使うのかは未定ですが、いろいろと使うかもしれません。

夜会話とかもあります。カルデア大使館の発展とか、模様替えとか、新しい施設の追加とか。
RPG要素マシマシで行きたいと思います。

何のためかは、わかっていると思いますので何も言いません。

6qkdni

ではでは。

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