Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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絶対魔獣戦線 バビロニア 6

「ま、こんなところね。たとえ疑似現界であっても、ティアマトの魔獣になんて負けないわ」

 

 戦闘終了。彼女は余裕そうだ。

 それにしても、なかなかに興味深いことを言っているな。

 

 疑似現界。

 ティアマトの魔獣。

 

 しかし――

 

「すごい派手だったな」

 

 戦い方は派手だった。色々と総合するとこの一言に尽きる。派手。

 勢いに乗らせたら駄目なタイプだ。その前に何としても止める必要があるな。

 

「でしょでしょ!? もう、私ったらどんな(からだ)だろうと最高なんだから!」

 

 ……敵対した時のこと考える必要あったかな……。

 いや、いくらチョロいからと言って、敵対しないとは限らない。うん、そういうことにしておこう。それに無駄にはならなはずだ。

 一度動きを視れば、あとはいろいろと予測しやすい。

 

「すみません! 第二陣、第三陣が来ます!」

 

 あれだけの数がただの第一陣だと!? これはちょっと予想外だ。かなりの数がいるとは思っていたが、まだいるのか。

 ドクターに聞けば、六十を超えてさらに増加しているという。というか、この街自体が魔獣の巣窟だという。逃げるには飛んで逃げるしかないレベルで包囲されているらしい。

 

 ドクターが女神様と交渉して飛んで逃がしてもらえというが、この人数を飛ばすのは無理だろうし、何より多分、飛ぶことになれば彼女に触れてしまうことになりかねない。

 直感がそう叫んでいる。もし彼女と飛ぶことになると確実に、接触事故(ラッキースケベ)が起きると言っている。

 

 そもそも彼女自身が戦った理由は、自分が暴れたかったからということだろう。それにだ――。

 

「ここで逃げてたら、多分人理修復なんてできないだろうし」

「そういうことよ。それじゃあ、私は行くわ。せいぜい、頑張って生き残りなさい」

 

 そう言って彼女は高速で離脱していった。

 

「さて――どうするかなぁ」

「なに、目の前に来た奴から倒していけばよい。それがいなくなるまでやれば終わりだ」

 

 さすが師匠言っていることが脳筋(ケルト)だ。ただ、それをするには敵の数が多すぎる。

 

「はっはっは、わしにまかせい! 神代とか、もう鴨じゃ鴨。もう、わしの独壇場じゃろ、ここ!!」

 

 ノッブは神秘が高い相手ほど強いから、確かに神代そのものの時代だと相性最高だったな。

 

「ともあれ、一点突破だな。ドクター?」

「ああ、東に向かってくれ。そこが一番手薄だ」

「良し、行こう」

「トナカイはラムレイ二号に乗っていろ。抱えて走るより早い」

 

 って、ちょっと待った、そもそもラムレイ二号飛べるじゃん。

 

「あ――」

「あ――」

 

 アルトリアさんまで、驚愕しないで!? しかし、ラムレイ二号であっても運べる人数には限りがある。とりあえず、ラムレイ二号にオレは乗り込む。

 上空から戦場を俯瞰して、手薄なところを突き進みながら東の城壁を目指していく。

 

「トナカイ、薙ぎ払うぞ。魔力を回せ!」

「了解――」

 

 東の城壁まであとわずか、道を塞ぐ魔獣たちを薙ぎ払おうとした瞬間――。

 

 天の鎖が、全てを殺しつくした。

 

「見せ場を奪って申し訳ない。しかし、百体程度であれば、街を破壊する必要もありません。聖剣の輝きを放つのはまた次の機会に」

 

 端整で優美な姿をした何者かが現れる。

 それは両極端を形にしたようなものと思えた。完成された顔立ちは男とも女ともつかず、どこか人形を思わせる。

 人間がましい淫靡さと自然の獣の純粋さ、両極の印象を観察眼が告げる。

 

 ただ、そう、ただこの人物のすさまじさだけはわかる。現代の人間など蟻のようなものではないのかと思えるほどの隔絶した差。

 純然たる性能差がそこにあった。

 

 もはや差がありすぎて嫉妬する気すら起きないほどだ。そもそも、此処は神代。普通の人間ですらおそらく、現代とはくらべものにならないくらい逞しいに違いない。

 

「君は……」

「お会いできて光栄です、カルデアのマスター。僕の名前はエルキドゥ。この神代にて、貴方たち人間の到来を待ち続けたもの。地と、新しい人を繋ぎ止める役割を担ったものです」

「エルキドゥ? エルキドゥと名乗ったかい!? だとしたら最高の助っ人だ! あの王様に並ぶ、その時代最強の存在だからね! その人物は信用できる」

「…………」

 

 エルキドゥ。

 太古の昔、神の手により造られ、地上に送り込まれた泥人形。

 知性も、言葉も、男女の別すら持たず、野の獣と全く変わらず森で暮らしていたらしいが、エルキドゥに狩りを邪魔された狩人がギルガメッシュ王に願いでたところ神聖娼婦のシャムハトが派遣された。

 エルキドゥは、シャムハトと出会い、6晩7日に及ぶ交わりに及んだ。

 

 これによりエルキドゥは、体内にある過剰なまでの精を吐き出し野性を失い、力も弱くなるが、代わりに知恵と思慮を身に付けたという。

 それでも彼は未だ人間を遙かに凌駕する力を持ち、当時ウルクの都で絶大な権力を誇り、暴政の限りを尽くした黄金の王にすら匹敵するとさえ噂されたというのだから恐ろしい。

 

 最初は野の獣風情と笑い飛ばした王とも、直接に対峙し、天地を揺るがすほどの死闘を繰り広げた末に互いの力を認め合い、無二の友となる。

 二人は共に冒険を繰り広げ、苦楽を分かち合い、そして、女神の手によって引き裂かれた。

 

 それがオレの知るエルキドゥの来歴。伝承だから、何があっているのか、何が間違いなのかはこれからわかるだろう。

 ともあれ、ドクターが信用できる人物というのなら、そうなのだろう。

 

 しかし、なんだ。人間でも、サーヴァントでもない。どちらかというと、これは機械に近い。いや、兵器か。もっと言えば、宝具?

 これが、神に造られた人か……。

 

「…………」

「どうかしましたか?」

「いや……」

「……いえ、いいのですよ。申し訳ない。怖がらせるつもりはないのです。こちらの本質を見抜いたのでしょう。大した観察眼だ。そちらのデミ・サーヴァントのお嬢さんも、申し訳ない。もっとゆっくり出会うべきでした」

「い、いえ、大丈夫です」

「今は、戦いに集中しましょう――突破します」

 

 エルキドゥの戦いも、圧倒的だった。

 これがこの時代の最強の一角と謳われる存在の力。

 

 だが、待て、この力があってなお、この世界は滅んでいるんだろう?

 

 それ以上の存在がいるということなのか。

 

 ――なに、それ怖い……。

 

 今も、巨大な竜を楽々と倒しているし、これ以上の敵がいるのか。

 これが第七特異点か……。

 

「今の毒竜(バシュム)で最後ですね。とりあえずですが、この街にいる魔獣たちは一掃しました。とはいえ、安全になった訳ではありません。仲間の血の匂いを嗅ぎつけ、すぐに集まってくるでしょう。今やこの大地は魔獣たちの巣窟。その数は増えることはあれ、減ることはないのですから」

「なるほど。こちらのことは知っているんだね?」

「ええ、すべて巫女長の託宣によって」

 

 この時代は少なくともまだ崩壊していない。戦っている。

 エルキドゥ曰く、世界の滅亡くらいじゃ神代の人間は全然へこたれないらしい。そもそも、神々の気まぐれによって何度も滅亡の危機に瀕してきたので、まったくもって問題ないらしいのだ。

 

 神代、恐るべしだ。

 

「なるほど、わかりますわかります。そのくせ、痴話げんかとか、夫婦喧嘩には弱いんだよね」

 

 いや、本当、どうなってんだ神代……。

 

 その後、エルキドゥの先導で廃墟を抜ける。途中魔物に襲われたが、何の問題も起きることはなかった。エルキドゥの強さだけが、ことさら強調される結果となったが。

 

 ――オレは怖いので、エルキドゥから、できるだけ離れる。

 

 どうしてか、わからないが、怖ろしいので離れる。

 

「何とか、抜けられてよかったけど――これは北に向かっていないかい? 観測結果だとウルクは南東のはず。ユーフラテス河を南下するものとばかり」

「短慮はいけません、ドクター・ロマニ。南に抜けるとまた別の女神の勢力圏に入って――ああ、そうでした。皆さんは今のメソポタミアの状況を知りませんでした」

 

 説明されたことを端的に言うと、メソポタミアは滅亡の危機に瀕している。

 十二もの城塞都市はその八割が壊滅。生き延びた人々はウルク市に身を寄せ合い、刻一刻と迫る滅亡の時に立ち向かっている。

 この時代を乱しているのは三女神同盟と呼ばれる三人の女神たち。魔術王の聖杯は誰の手にもわかっておらず、魔術王の手の者ではない者がこの世界を滅ぼそうとしている。

 

 魔術王と同格、或いはそれ以上のモノの手によってメソポタミアは滅びようとしている。正しく神の霊基を持った神霊。

 その権能(きのう)を十全と使用することのできる強大な存在。

 

 その存在ははっきりとはしないが、その目的だけはわかっている。

 

 ――人類抹殺。

 

 一人残らず殺しつくす。許しはしない。

 皆悉く屍を晒せ。

 

 完全廃滅の意思。

 人類史という積み上げられるべきそのものの否定だ。

 

 女神といえば、先ほどの女神様っぽいが。

 どうにもそれにしては、言動がチョロすぎたような気がする。

 

「さて、見てもらった方が早いでしょう。見てください。この高台からなら、北壁の様子が一望できる」

 

 一つ、女神の脅威をお見せしましょう。そう彼が言った。高台へとのぼり指し示す。

 

 ――魔獣の女神の魔の手を。

 

「果てのない、壁?」

 

 そこから見えたのは果てのないようにも見える壁だった。長大にして、巨大。何よりも堅牢さを持つ石壁がそこにあり、魔獣の軍勢を押しとどめている。

 

「そう。魔獣たちが北部を埋め尽くした際、バビロン市を解体し、その資材で作り上げたもの。今ではこう呼ばれています」

 

 それは人間の希望。

 それは四方世界を守る最大にして最後の砦。

 

 ――絶対魔獣戦線バビロニア。

 

「絶対魔獣戦線バビロニア……」

 

 アメリカの東西戦争など比べ物にならない規模に震える。このシュメル。メソポタミア世界そのものに迫る危機。北壁に見える米粒のような大地を埋め尽くす影が全て敵。

 数千、あるいは数万か。それの十倍以上が、この北部にはいるという。

 

 ――冗談だろう……。

 

 先ほどの魔獣の戦闘能力は、自律型の小型戦車に相当する。それが一万頭を超える規模。あんなものを城壁一つで防ぐことなど、それこそ宝具でもないと不可能だろう。

 だが――防いでいるのだ。

 

「どんだけ凄いんだよ、神代の人々は……」

「それぐらいで驚かれても。彼らは半年もの間、あの壁を維持しているのですから」

「半――!?」

 

 半年!? 何をどうやったら、半年もの間、あれだけの数の魔獣を相手に人間が対抗できるというのか。

 観察眼が告げる。

 不可能。

 心眼が告げる。

 不可能。

 直感が告げる。

 それが神代なれば。

 

「凄いです……すさまじい練度の兵士たちがいると思われます……」

「なにそれ、怖いんだけど」

「本当ねぇ、人間の底力っていうのは……」

 

 感心よりもまず、嘘だろと疑う方が大きいが、実際に見せられてしまうと疑いようがない。

 

「すごいのう。わしもあんな兵士ほしかったわ」

「うむ、凄まじい練度の兵士がいるのだろうな。ふむ……」

「師匠、さすがにやり合うのはなしだろうぜ?」

「む、さすがの私もそこは考える。なに、訓練だけだ。あそこで戦う兵士と少し訓練でもできればな」

 

 その訓練、死者はでませんよね?

 

「なに、致命傷も全てルーンでどうにかできる」

 

 相変わらずルーン万能すぎる。

 

 しかし、みんなも思うことは同じだ。シュメルの人々の屈強さだ。本当に同じ人間なのかと思わずにはいられない。英雄ならまだしも、ただの普通の兵士たちがこれほどの間抵抗を続けているのだというのが信じられない。

 ただ、同時に希望も見える。あそこに参戦することができるのなら、状況を変えることも可能なのかもしれないと。

 

 なにせ、こちらは英霊たちだ。対軍に秀でたアルトリアやノッブ、スカサハ師匠がいる。特にアルトリアは魔力が続く限り、エクスカリバーを放ってもらえれば、それだけであの軍勢を溶かすことも可能だろう。

 

「ええ、みなさんの言う通り彼らの練度はすさまじい。魔獣側よりも死傷者が少ないほどです」

「嘘はいけませんよ、嘘は」

「清姫、嘘じゃないことはわかるんじゃない?」

「…………」

 

 それこそ嘘であってほしいが、いや、死傷者が少ないことは嬉しいんだが。

 

 なにせ、そこからわかることは、的確な軍隊の運用に、一分の隙もない交代制度。それを統括している指揮官の尋常ならざる優秀さだ。

 確実に、指揮官としてもオレよりも上だ。

 

 ――あれ、オレ必要なくね? 戦力だけ貸せば、良いとかいう話にならない?

 ――…………。

 

「と、トナカイさんは必要です!」

「そうだぜ、オレたちは大将以外には従うつもりもねえしな!」

 

 ありがとうジャンヌに金時。

 

「ともあれ、あと一月は、前線を維持するでしょう」

「うんうん、王様としても、ヤバイのがわかっちゃうというか、凄いよ。明らかに負けてる。でも、全体で見ると勝っているんだよ。いやー、すごい王様もいたものだね」

「いったい、どのような者が、あの城塞の指揮を執っているのだろう。……なんとも、辛抱強い指揮官か」

 

 ジェロニモが言う通り、半年もあの状態を維持しているというのなら、すさまじく辛抱強い指揮官だ。

 

「……ええ、本当に。彼らも無駄な血を流すものです」

 

 ――無駄?

 

「すべてを滅ぼす必要はない。後は放っておいても死に絶えるのに、無駄なことを」

「フォウ……?」

「エルキドゥ……?」

 

 なんだ、その物言いは。それではまるで、敵側のような?

 

「すみません。魔獣とて生命。少し感傷的になってしまいました」

 

 エルキドゥはそういうが、感じてしまった違和感は抜けようがない。

 

「興味があるのならいつだって戦線に参加できますよ? いまウルクの徴兵試験はだいぶ緩いそうですから」

「……それはウルクについてからかな」

 

 サーヴァントなら問題ないだろうし、みんなが行けば状況も変わるかもしれない。一騎当千の英霊たちが戦線に参加するのだ。これ以上ない援軍になるだろう。

 ともあれまずはウルクに行くべきだ。

 

「そう。前線が維持できているのなら、指揮官――つまりは王がいるということだ。ウルクを襲う脅威が聖杯によって狂った王ではなく、三女神同盟とやらなら、交渉はシンプルに済む」

 

 ――ええ~本当でござるか~

 

 エルキドゥがいるということなら十中八九、ウルクにいる王とはギルガメッシュのことだ。あの金ぴか王。第四次聖杯戦争の特異点において、戦ったあの王様だ。

 どう見ても厄介極まりない王様だった。我が強すぎるし、自分中心に世界を回してるし。アレに交渉とか、オレできる気がしないというか。

 

「まあ、何とかするしかないでしょ。いつものことじゃない。アンタならやれるわよ。この私が保証するわ」

「ありがと、クロ」

 

 しかし、クロは大丈夫かな。あの女神様にあってから、妙に落ち着いていないようだし。ウルクについたら聞いてみよう。

 

「今は、ウルクに急ごう」

「ええ、ここは危険ですし。まずは見通しの悪い森に入りましょう」

 

 エルキドゥの先導に従って進む。北へ。

 この時からおかしいと感じていた。ウルクは南東だ。それなのに、北へ北へと向かって行く。そもそもだ。北は、魔獣の女神の領域。

 

 それにだ、この森の奥から感じる、怖気はなんだ――。この先に進んではならない。この先に行くことを本能が拒んでいるような――。

 

「もうじき安全地帯です。日が暮れる前にたどり着けそうですね」

「……これは、杉の森、ですね。伝説では魔獣フワワが守っていたという話ですが……あれはウルクの東、ティグリス河の向こうに当たるザクロス山脈にあると解釈されていたような……」

「ああ、それは二種類あるんだよ。シュメル版とアッカド版には食い違いがあってね。古い文献には杉の森は西にもあるとされているんだ。だから、こちら側に杉の森があってもおかしくはないんだけど……」

「……ウルクとは逆方向だ」

「ますたぁ? お顔が、真っ青ですよ? 具合が悪いのでしたら、休憩を」

 

 ギルガメッシュ叙事詩における杉の森は聖域だとされている。だが、ここは、まるで、魔物の腹の中のようだ。今にも胃の内容物をぶちまけそうなほど。

 ここはマズイ。直感も心眼も叫んでいる。ここが安全地帯? 馬鹿も休み休み休み言え、ここが安全地帯なら先ほどの北壁の方はまさしく極楽だろう。

 

 間違いない、ここは敵の巣窟だ。敵の掌の上に乗りかけている。だというのに――。

 

「どうかしましたか? 何か、気にかかることでも?」

 

 この時点で、オレはもうこのエルキドゥが味方だとは思えなかった。

 

「子イヌが気分悪そうなのよ、ちょっと休憩にしなさいよ」

「ああ、それはいけません。ですが、ここで休憩はまずい。この先の川に波止場があります。そこまで行きましょう」

 

 波止場には舟がある。そこまで行けば川を下るだけ。

 

「お疲れとは思いますが、頑張って。この森を越えてしまえば、それで終わりです」

 

 この森を、越える? はは。何を言っているんだろうか。この森自体が、まさしく敵の腹の中と言ってもいいような状態なのに、なんだ、それは?

 この森を越えるということがどういうことか、オレは直感的に悟った。この森の様子を見て、心眼が見抜いた事実に直感が加わる。

 

 それを指摘しようとした時――。

 

「なんと! それはいいことを聞いてしまった。この先に波止場があるとは知らなかった! やあ、こんにちは。驚かせて済まない! 怪しいものではないから、まずは話を聞くと良い」

 

 現れたのは白いローブの男と黒いローブの少女。

 怪しいことこの上ない組み合わせだが、不思議と邪気は感じない。男の方は胡散臭いことこの上ないが、少女の方は、むしろ、こちらを怖がっているような気すらしている。

 

「我々は遭難者。この通り、慣れない獣道で迷ってしまってね」

 

 駄目だ、しゃべる度に怪しさが増していくぞぅ、この男。

 しかし、この男、アメリカで――。

 

「これはもう魔獣たちのエサになるしかない、と悲嘆していたが、やはり私はついている! ほら、そうだろうアナ? 私についてきて正解だったと思わないかい? 今回は運悪く目的地にたどり着けなかったが、こうして道を知る現地人に出会えたんだ。

 待てば海路の日よりあり、一歩進んで二歩下がる。まさか魔獣の女神のお膝元で、人間に会えるとはね!」

「迷い人ですか。災難でしたね。僕たちはこれからウルクに向かいますが、同行しますか?」

「もちろん。断られてもまとわりつくとも。もう三日も歩き詰めで、足が棒になる寸前だった。でも、うーん。名前も知らない人たちに同行するのは怖いなぁ。そこのお嬢さん、良かったら名前を聞かせてくれないか? ああ、私は故あって名前は名乗れない。この娘も同じだとおもってくれ」

「マシュ・キリエライトと言います。こちらはマスターで、こちらの方はエルキドゥさんです」

「エルキドゥ? エルキドゥと言ったのかい? うーむ、それは困ったなあ。うん、とても困る」

「……なぜ? 僕におかしなところがあるとでも?」

 

 白いローブの男は、爆弾を投下する。もっともこの場に必要だったソレを。

 

「ああ、そうだね。だって、今、ウルクで戦線を指揮しているギルガメッシュ王は、不老不死の霊草探索から戻ってきた後の王だ」

 

 それは、つまり、エルキドゥは既に死んでいて、ここにいるエルキドゥが敵だという確固たる証拠だ。

 

「ふ――ふふ、ふふふふふふふふふ! まぁ、そうだよね。あっさりバレなくちゃ嘘だよね、こんな即興の芝居はさ! こんにちは無能たち。ああ――でもたいへん惜しかった! あともう少しで面白い見世物が見られたのに!」

 

 変貌する。

 変容する。

 それは敵へと、エルキドゥならぬ何かへと。

 

 人間を失敗作とのたまう人類の敵へと。

 

「――やっぱり、か……」

「ここまで僕らを誘導したの罠だったってことだね。そうなると、君は本物のエルキドゥというわけじゃ、ないんだろうね」

「それは違うさ、碩学。ボクは、エルキドゥと同等の性能を持つ、エルキドゥと同じように語る、エルキドゥ本人だとも。

 そもそも、だ。どうしてエルキドゥ(ボク)が人類の味方だなんて思いこんだんだい?」

 

 神々に作られた兵器。

 それが人類の味方なはずがないだろう。

 

 今更だが、それもそうだと納得もする。だが、それ以上に、彼の放つ魔力が魔神柱のものに近いとなぜ気が付かなかった!

 目の前にいるモノは人類の敵対者だ。ソロモンに類する何かだ。

 

「まあ、敵ってことだろ? だったら、殺さなくっちゃなあ」

「酷い言われようだなあ。さっきまで仲間意識で和気藹々としていたのに」

「フッ、何を言っているのか。トナカイが貴様から距離をとっていたのに気が付かないわけがないだろう」

「無意識に気が付いていた。だが、もうこの森に入った時点で詰みだ」

 

 エルキドゥの魔力が増大する。

 戦闘態勢に入った。

 

 ――勝ち目がないと心眼が叫ぶ。

 ――直感がその役割を放棄する。

 

 勝てない。

 

「ふむ。偽エルキドゥ氏の言い分はてんでわからないが、状況だけは理解した。何より、彼女がカルデア(そちら)側にいるというのなら手伝わないわけにはいかない。

 だから、アナ、手伝ってあげなさい」

「…………わかりました。契約外ですが、あの人たちを守ります」

 

 黒衣の少女がその大鎌を手に参戦する。

 

「何が来ようと無駄さ――」

 

 絶望の戦いが幕を開く。

 神代において、神に造られた超兵器が、その機能(ちから)を解放する――。

 




QPがない。QPさえあれば、コアトル姉さんのスキルがあげれたのに。

とか言いながら、エレナ女史、イシュタル、コアトル姉さんという金星に所縁のあるパーティ作りました。
クリティカルで殴るパ。
欠片、月の湯治とかで恒常的にスターを稼ぎつつぶん殴ります。
等倍でも普通に五桁ダメージをたたき出してくれるので非常に楽しいです。

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