戦闘終了。損害なし。
「しかし、今まで見たことないタイプの魔獣だったな」
「はい。うまく言えないのですが……まったく違う生態系によるものというか……」
今まで戦ってきた獣人や竜種も現代にはいないが、今先ほど戦った魔獣とは、根本から何かが異なっているような気がするのだ。
獣人や竜種も、淘汰によって時代から退場した。だが、アレは観察眼と直感が告げている。アレは、既存の生物体系に属さない。
系統樹が違うとかそういうことでもなく、アレは、初めからこの世界に存在しない生き物だ。
「確かに、神代特有の魔獣、とは違うかもだ」
ドクターが言う。こちらも準備はしてきた。シュメル時代に存在したであろう、幻想種や魔獣のデータをそろえていた。オレも少しは見ていたが、そのどれとも合致しない。
「それに、明確な殺意があった」
「そうだね。普通の獣じゃなかった」
「ああ、あいつら、何が何でも人を殺すって眼をしていた。ほっといたら全部殲滅する気だろあれ」
ブーディカさんと式のいう通り、殺意を持っていた。動物の本能による獲物を狩るという敵意ではない。明確な殺すという殺意。
食事ではなく、殲滅が目的。
「……だとしたら危険だ。すぐに、その街を離れてくれ」
「この街が廃墟なのは、そういうこと、か……」
「ああ、その可能性は高い。だから早く離れるべきだ」
「街を離れるのはわたしも賛成です、マスター」
「ええ、動物は群れるものですから、ささ、お早くますたぁ」
早くこの街を離れようと移動を開始するその直前――。
「ど――い――て――――」
「む?」
「おや?」
「そこのキミ、じゃ――ま――! “メ”が張れない――――!!」
どこからともなく人の声が聞える。駄目だな、これは躱せない。
「ああ、もう、エアブレーキも間に合わない! ダメダメ、ぶつかる――――! お父様にバレたら
次の瞬間、全体的にベージュ色の物体が45度の確度で空から降ってきた。
「先輩、大丈夫……です、……か……」
「フォウ……ハニー、フォーウ!」
とりあえず、身体全体に感じる柔らかな重さと、右手に感じるこの最高級に柔らかい感触と、とてつもなく素晴らしい花のような甘い香りの前にだ――。
――フォウさん、やっぱりしゃべれるだろおおおお!?
明らかにハニー、フォーウとか言ってたよ!? 明らかにしゃべってたよ!?
「あいたたた……ひどい目にあったわ……まさか地上から狙撃されるなんて……でも、思ったよりダメージが少ないのは幸運ね。これも私の普段の
「裁判の、時間だ……」
「って、なによアンタ――!」
とりあえず、免停とか言っていたので、裁判の時間だとか言ってしまったが――黒髪に赤い瞳の女性が空から降ってきた。
オレにぶつかったおかげで、怪我はしていないようだ。こっちもインバネスのおかげで怪我はない。寧ろ、お礼を言うべきだろう。
ありがとうございます。何が、とは言わないが、ありがとうございます。とても、素晴らしい揉み心地だったと思います。
あとお腹というか、全身柔らかかったです。まあ、マシュには負けるけど。マシュが一番なのは変わらないけど。
「何かあったのかい!? 一気に反応が真っ赤になったけど!?」
「それが、空から女性が降ってきまして……、あ。謎の女性、先輩から離れました」
「墜落事案が多すぎだね、その時代!? でも、現地人に会えたのはいいことだ、さっそく情報を――うえ――うお――うおおおおお!? この反応、本当か!? 間違いではなく!?」
「……なにそれ、遠見の神秘? なんか、とりあえず文句の一つも言ってやりたい声がするけど」
ロマンに対しての苦言はオレが許さないぞ、と言いたいのですが、すぐに女性がこちらを睨んでいる。
「今は、アナタの話をしましょう。この私の
彼女は、そう言ってこちらを上から下まで観察していく。
「見慣れない顔と格好しているけど、どこの
「いえ、そういうわけでは」
しかし、ふむ、どうやらこの世界のっぴきならない時代になっているらしい。少なくとも、バビロンという市は滅んでいそうだ。
ニップルから逃げてきた生贄。つまり、ニップルという場所には生贄が集められているのかもしれない。
「まあ、どっちでもいいわ。どっちみち、その二つだったら年貢の納め時よ。手足を撃ち抜いた後、エビフ山にバラ撒いてあげるから」
女性は臨戦態勢をとっている。本気でオレに敵意を向けてきている。
「…………」
「ふぅん、。黙るってことはそうなのね。良かった。温情をかけなくて済みそう」
――ほほう。この女性、割と情が移りやすいタイプと見た。
「ウルクの民なら少しは情けをかけてあげたのにね。自分の不運を呪いなさい」
「待った。まずは先ほどの事故の示談をしよう」
「示談――示談って、つまり裁判!? い、いいえ、ノーよ、その手には乗らないわ! どんな接触事故であれ乗り物に乗っていた方が不利なんでしょ!? 知ってるんだからね、私!」
なんで知っているんですかねこの人。つまり、この人は、サーヴァントか、それに属する人だってこと。まあ、わかっている。
神霊だ、この人。二世みたいな、特殊な現界しているらしい。
「お待ちください……! 先ほどの衝突は不慮の事故によるもの、どちらにも責任はないように見えました! ですので、どうか話を聞かせていただけないでしょうか? えっと、その……ミス……誰でしょう?」
「そうですね。まずは自己紹介から――」
「アナタたち、私を知らないって、本気で言ってる?」
「はい、その……すみません。この時代に来て、まだ一時間も経過していないので……」
マシュがカルデアのことを彼女に説明する。
「なので、決して怪しいものでは……いえ、先ほどの先輩の手つきは十分に怪しかったので、糾弾されてしかるべきですが……」
ちょ、マシュ!?
「はい、とても、いやらしい、右手は、こちらですね。悪い右手には、お仕置きが必要だとわたくし、思います」
「フケツです! トナカイさんの不潔な右手さんは、お仕置きが必要です!」
「フォウフォウ」
ちょ、待って待って!? 不可抗力、不可抗力だよ!?
「異邦からの客人ってコト? 信じがたい話だけど……ま、そういうコトもあるか。私だってそのおかげでこうしているんだし。――いいでしょう。その言葉は信じます。つまり、アナタたちは私をまったく知らない。この世界のことも、今の状況も知らないのね。
……そう。なら不敬、破廉恥、無礼も仕方ないか。遠い世界の野蛮人なんですものね。あのね。私に許しもなく触れるなんて、この世界ではありえないことなのよ。シュメル人ならまっさきに謝罪した後、家財丸ごと差し出しても許されないくらい。今後、それだけは覚えておきなさい。この世界で生きていたかったらね」
「わかりました。女神様」
「あと……
はい、言いましたね。
「私、名乗ってないわよね」
「……高貴さがにじみ出てましたので」
本当は、似たような相手に会っていたことと、女神に会ったことがあるから。
孔明に、獅子王。二人に会ってなかったらわからなかっただろう。
「そ、まあいいわ。それなら、しっかりと敬いなさい。ただし、さっきのことは全部忘れること。それなら、命だけは見逃してあげるから」
「さっきのこととは?」
まあ、わかっているんですが。
「だーかーらー! 私が天舟の運転を誤ったとか、私の悲鳴を聞いたとか、あと、今の私の体のサイズとか!」
サイズ。身長159cm、体重57kgってことですかね。あとは胸のサイズとか、腰のサイズとか、お尻のサイズとか、その他諸々のことですかね。
観察眼のおかげで、そんなものすら把握できる。まあ、ダ・ヴィンチちゃん礼装のおかげもあるのだが。
「そんな悪質な嘘を流したら、地の果てまで追い詰めてやるからね!」
「いう訳ないです。というか、ぶつかったのでいっぱいいっぱいでわかりません」
案外チョロそう。
「……まあいいわ。野蛮人に腹を立ててたらキリがないもの。特別に、そこらの廃墟に隠れてるやつらのことも気が付かないふりをしてあげるわ」
バレてるか。
廃墟にクー・フーリンたちには隠れてもらっていたんだが。
奇襲はできないとはさすが神霊か。
しかし――クロはどうしたんだろう。この女神様の顔見た瞬間、なんとも言えない表情になって膝抱えてたけど。
「そして、この時代のことが知りたいと言ったわね。そんなことは自分の目と足で知りなさい。私は何も教えない。むしろ、アナタたちが教えなさい」
「もちろん。自分の目で見ます。それで、知りたいことは?」
「このあたりで、何か落ちていなかった……かしら……」
何か? 具体的なことを言われない限りなんとも。そもそもここについたばかりだから、なにもわからないというか。
「大切なもの、よ、何か落ちてなかった? こう、見るからに、これはすごい、って思えるもの」
一目見ればわかるタイプのもので、説明しなくてもわかるようなもの……。
マシュ、清姫、ジャンヌに視線をやっても首を振るだけでわからないようだった。
「しかし、貴女が落とした――」
「ばっ、そんなワケないでしょう! 何もなくしてなんかないからね、私!」
どうやら彼女が何か大切なものを落としてしまったらしい。しかし、これは……ひどい……というか。
「ともかく、あったのか、なかったかを答えなさい!」
「うーん……」
「どうなの? やっぱり落ちてた、アレ? ていうか、壊れてなかった? 壊れてた? 私、またやっちゃった?」
「……………………」
「何とかいいなさいよ――!? 沈黙って、時にいちばん残酷なんだからね――――!?」
涙目になっていう彼女。ああ、うん。わかった、この人――。
「――――!!」
「Kishaaaaa――――!!」
接近している大量の魔獣。
「潜伏終了! 迎撃準備! ――貴女は――好きにやってください」
「切り替えの早さはなかなかじゃない。それに、その観察眼――ふぅん……面白いじゃない。
アナタの許可なんて必要なく、好きにやらせてもらうわ。アイツら相手に、憂さを晴らすとしましょうか……!」
起動する天舟――マアンナ。
莫大な魔力を放ちて、飛翔し、その機能を露わにする。それは弓だ。巨大な弓であり飛行船から放たれる矢の一撃は、ただの一撃で魔獣どもを駆逐する。
更に、宝石に蓄積された魔力が爆発的なまでの暴威を振るっている。神気が蓄積されたそれ。普段から溜められているのだろうそれが、今ここに暴力的なまでに圧倒的な蹂躙として現れる。
投じられる宝石の威力――極大。これが神だとでも言わんばかりの天災が具現する。一匹たりとも残すつもりはないのだろう。
金色に輝く瞳を煌かせ、黒い髪を翼のように広げて、それは戦場をまさしく支配していたと言ってもいい。
オレたちの出番などまるでない。だから、観察させてもらおう。
「どう見る? 博士、ジェロニモ」
「うん、彼女と戦うなら、まずはあの
「しかし、あの速度だ。生半可な攻撃では捉えられんだろう」
「そこは、ダビデかな」
ダビデの五つの石ならば必中だ。如何な速度だろうとも相手の眉間に当たる。あわよくば相手の主武装を奪えたらよいのだが、そこまで都合よくいかないだろう。
「しかし、女神に通じるかな?」
「博士の言う通り、それは問題だな。しかし、まったくの不意打ちならばいけるのではないか?」
「つまり、それまでダビデは温存ってことだね」
あまり考えたくはないが、敵対した時のことを想定するのは重要だ。あの破壊力、機動性は驚異的だ。
「まあ、敵になるかはまだわからないけど、神霊だからなぁ……」
神様の見本として思い浮かぶのはステンノとエウリュアレと女神ロンゴミニアドだ。前者二人には、本当に苦労させられた。エウリュアレはいいが、ステンノは大変だった覚えがある。
ロンゴミニアドは苦労どころではなかったが、性格としては良かった。
この場合、参考にすべきは、ステンノやエウリュアレの純粋神格だ。であれば、あまり楽観しすぎるのは良くない。
――ただ、心眼が見抜いたことは、彼女は情に流されやすいだろうということ。
積極的に味方にはならないかもしれないが、敵になるもならないもこちら次第になるかもしれないだろう。
方針が決まったところで彼女が最後の一匹を倒しきったところだった――。
さあ、赤い悪魔の登場だ。
クロはとりあえず何とも言えない表情をして膝を抱えている!
詳しくは次回以降。
そして、やったよ、コアトル姉さん引けたよ。
ついでにゴルゴーンも引けて初アヴェンジャーだ
家賃以内で何とかなったよ。
それ以上は……聞くな……。
ナーサリーが宝具3になったり、ジャガ村先生が宝具5になったりしただけなので。
龍ちゃん、なんの恨みがあって毎回来るんですかねぇ……