城を探す。ドクターの指示通りに探す。
「――いました!」
「良かった」
「これは――ひどい――」
「く――」
「――きゃあ!?」
見つけた竜殺しのサーヴァントがこちらに攻撃を放って来た。
「次から、次へと……」
「待ってください! 私たちは味方です! 少なくともあなたを害するつもりはありません!」
「……?」
「急いでください。ここに竜種がやってきます。そのほかにもサーヴァントが」
「……なるほど、だからこそ俺が召喚され、そして襲撃を受けたわけか」
「急いでくれ。時間がないんだ」
「……わかった」
「手を貸します」
「すまない……頼む」
竜殺しを助け出し、マリーたちと合流し、逃げようとしたとき、そこにそれはいた。ワイバーンなどとはくらべものになどなるはずがない、竜種。
その上に黒ジャンヌが乗っている。何事かを言った瞬間、こちらに襲い掛かってきた。
「突撃してくる」
「駄目だ、下がれマリア!」
「わたしが!」
「何を言っているんだ、マシュ!」
あんなもの一人で防げるわけないだろう!
「ならば私と!」
「――!」
「焼き払いなさい、ファヴニール!」
「
「仮想宝具、展開します――」
「
二人の宝具とファヴニールの一撃がぶつかり合う。凄まじいエネルギーの奔流。直撃していないというのに、その灼熱に蒸発してしまいそうだった。
「くぅうううぅ――」
「こ、これでは――」
「――いいや、十分だ」
二人の防御が崩れる、その直前に竜殺しが立ち上がっていた。
「――久しぶりだな。
立ち上がった竜殺しにファヴニールが怯えるように慄いた。
「あのサーヴァント、まさか――!?」
「蒼天の空に、我が名を聞け!! 我が真名はジークフリート!! 汝をかつて打ち倒した者なり!!」
蒼天に真名が轟く。
その名こそ、竜殺し――ジークフリート。
胸元と背中が大きく開いた鎧に、灰の双眸が邪竜を睨み付けている。
その手には、大剣――。
世界が震えている。
これより放つは竜殺しの一撃。
黄昏の剣気の先駆け。渦巻く魔力に、あらゆる竜種が怯える。
これこそが、竜を殺した呪いの大剣の力。
「
その一撃に、ファヴニールが上空へと退散する。
「……く……はあ、はあ……すまないが、これで限界、だ」
いいや、十分だった。
「逃げよう!」
わき目もふらず逃亡する。
「先ほどの極大生体反応は確認できない。だが、まだ追跡は止まっていない、急ぐんだ!」
解っている。言われなくても、急いでいる。心臓が爆発しそうなほど、必死に走っている。
「先輩、馬がほしいです」
「ごめんなさい、一人乗りで……!」
「旅には慣れてるけど、こんな旅は初めてだ!」
「ああ、そうだろうな。こりゃあ、ただの撤退戦だからな!」
「マスター、遅れないでください」
「で、も、――が――」
足が、もう限界だった。息ができない、死ぬ。
「こうなったら、もう――!」
「待ってください。前方に何か見えます、あれは……フランス軍です!」
彼らはワイバーンに襲われているようだった。
「救出に向かわなくては!」
どのみち、こちらにも向かって来ている。やるしかない――!
「ああ、もう、やってやるよ!!!」
「はい! 毒を食らわば皿までです!」
フランス軍を襲っているワイバーンへと襲い掛かる。さらにゾンビまで現れだしたが、こうなればいくらでも相手してやる。
過剰に分泌された脳内物質による高揚感に任せて、戦う。
本命は今、まさにやってきた。咆哮を天へと轟かせる狂戦士と、処刑人。サーヴァント。それが現れた瞬間、戦うという意気が萎えていくのを感じる。
いかに強気に振る舞ったところで、根底にある恐怖は覆ることはない。だが、それでも――戦わなければならないのだ。
「……野郎……!」
「あらあら、まあまあ!」
アマデウスとマリーが処刑人を見て声を上げる。何か因縁があるのだろう。あのセイバーと同じように。処刑人の言動もそれを肯定する。
「ああ、まったく。生前と変わらず、今回もマリアを処刑するつもりとは……シャルル=アンリ・サンソン。君は、もう少しまともだと思っていたのだけれど、どうやら本気でいかれていたらしい」
「はは。人間として最低品位の男に僕と彼女の関係を語られるのは不愉快だよ、アマデウス。
君は生き物を、人間を汚物だと断言する。まずそこから相容れない。人間は聖なるものだ。尊いものだ」
人間とは尊い。
「マリー。君と同じ名を持つものは、特に」
マリー=アンヌ・シャルロット・コルデー・ダルモン。サンソンが処刑した女もまた。マリー・アントワネットもまた。
最後の最後までなぜあのように愛らしく毅然としていられるのか信じられない。だからこそ、美しいのだと、サンソンは人間を定義する。
「だからこそ――相容れない。アマデウス。おまえと、僕は」
人間の尊さ。マリー・アントワネットの尊さを理解しない者、アマデウスを彼は否定する。
「Arrrrrrrrrrrr」
狂戦士はまっすぐにマシュへ向かってきた。
「マシュ!」
「くっ――なんて一撃……! マスター、下がってください……! このバーサーカー、今までのどのサーヴァントよりもまっすぐで――怖い、です……!」
それだけではない。ワイバーンも空を埋め尽くさん勢いでこちらに向かってきている。ここでサーヴァントの相手をしていればフランス軍は壊滅するだろう。
「っ……! 私はフランス軍を助けに行きます!」
ジャンヌが駆けていく。それを追いかける余裕はない。
サーヴァントは二騎。こちらも必死にならなければならない。特にバーサーカーが強敵だった。その力はすさまじく、何より、ただの木の棒を振るっているはずなのに、ありえない威力でその攻撃を叩き込んでくるのだ。
「女ばっか、追っかけてんじゃねえよ狂戦士!」
杖で地面を突いて刻まれたルーンによる爆炎が、狂戦士を包み込み爆ぜる。
「Arrrrrrrrrrrr!!!」
だが、狂戦士は止まらない。その名にふさわしい狂躁で、暴走を続ける。
「く、あっ!」
「マシュ!」
戦場が広い。
ワイバーンが多い。
何をすれば良い。
何から優先させればいい。
フランス兵か。だが、目の前の処刑人と狂戦士を放っては置けない。
なら、この二騎のサーヴァントを優先するか。それが今の状態だ。ワイバーンの援護もあって、数の上で勝っているというのに、攻めきれない。
「集中出来りゃあ、すぐに落としてやるってのによ!」
「ああ、本当、クソ野郎に集中させてくれないかな!」
「させるものですか――」
カーミラがワイバーンに命じている。こちらへの牽制は忘れずに、一番弱い兵士たちを狙っている。それをジャンヌ一人が防いでいるが、息も絶え絶えだ。
フランス兵は、彼女を助けない。逃げもしない。ジャンヌを竜の魔女だと思っているから。
「ねえ、どんな気分なのかしら。必死に守るフランス兵に、そんな風に思われて」
「――そう、ですね……普通なら、憤るのかもしれません。絶望に縋ってしまうのかもしれません」
けれど――けれど。
「生憎と、私は、楽天的でして。彼らは私を敵と憎み、立ち上がるだけの気力がある。思ってしまうのですよ」
――それは、それでいいのだと。
「……正気、貴女?」
正気とは思えないが、彼女は正気だった。だからこそ、彼女は何よりも眩く輝くのだろう。
だが、それがどうしたのだ。もはやそれは無意味だ。
「ワイバーン!」
「くっ――」
絶対の窮地。ジャンヌが死ぬ。その瞬間に――。
「砲兵隊、
砲兵隊の砲撃がワイバーンを吹き飛ばす。
「なにが――」
見ればフランス兵がワイバーンに砲撃を喰らわせている。予想外の攻撃にカーミラが踏鞴を踏む。
「今だ!」
その好機を逃すことなく、ジャンヌは駆ける。カーミラが迎撃するも遅い。
「ぐ――」
辛うじて防いだが、ルーラーの膂力に吹き飛ばされる。
「撤退するわ。ランスロット! サンソン!」
撤退するサーヴァントたち。
だが――
「A――urrrrrrrrrr」
バーサーカーは止まらない。
「く――なぜ私を!」
バーサーカーを残してサンソンとカーミラは撤退した。もう付き合うこともないということらしい。
「今だ……」
好機だ。サーヴァントが一騎。こちらが全力ならば倒せる。
「倒すぞ!」
「はい!」
サーヴァントが一騎ならば、こちらもやれる。
そう確信したがゆえに。
「アマデウス!」
「やれやれ、人使いが荒いね」
まずはアマデウスの宝具によって、狂戦士の動きを鈍らせる。
「クー・フーリン!」
「応!」
空間に固定したルーンにより、バーサーカーの動きを制限する。必然、こちらに向かってくる。うごける場所はこちらにしかない。
「マシュ!」
「はい!」
迎撃するのはマシュ。バーサーカーの一撃を盾で受け止める。凄まじい衝撃に砂塵が舞う。
「くぅ、あああああ!!」
マシュは一歩も引かず、ランスロットを抑え込む。その瞬間に、
「ジャンヌ!!」
とどめの一撃をジャンヌが放つ。横合いからの不意打ち。騎士道とは程遠いが、相手はバーサーカー。騎士道を説く相手ではない。
ルーラーの膂力による一撃が入る。横合いから殴られ流れたバーサーカーの体。そこにさらに体勢を整えたマシュの一撃が叩き込まれる。
無防備にマシュの一撃を喰らったバーサーカー。
「駄目押しだ――喰らっとけ」
地面に刻まれたルーンが火を吹いたと同時に、巨大な木でできた腕がバーサーカーを掴み、握りつぶした。
「あーさー……王よ、私、を……」
バーサーカーが消滅するその瞬間、狂戦士は一つの言葉を残した。
アーサー。
その名は、確か――。
「アーサー、あなたの主は、彼のアーサー王だったのですか……」
「――わかりました。彼がジャンヌさんを狙ったのは……きっと、ジャンヌさんがアーサー王に似ているからですよ。顔かたちではなく、魂が――ジャンヌさん、行きましょう」
もうここにはいられない。フランス兵も集まってきている。これ以上は、ジャンヌに危険が及ぶ可能性がある。
「お待ちを! ジャンヌ――あなたは、竜の魔女ではない正真正銘の――!」
ジルの言葉がジャンヌへと投げかけられる。
「良いの?」
「ええ。私が返答をすれば、ジルの立場が危うくなりますから」
――何より、かつてともに戦った人々に憎まれるのは堪える。
彼女はそう言って、足早にこの場を遠ざかっていく。僕らもそれに続いた。
行きついたのは、打ち捨てられた砦だった。
「うん、生体反応はない。敵はいないみたいだ」
「ここで休憩にしましょう」
「じゃあ、オレは魔除けのルーンを刻んでくる」
砦に入り、クー・フーリンがルーンを刻んで安全を確保する。これで落ち着くことが可能だ。落ち着いてジークフリートの傷を診る。
マリーさんの宝具は、傷を治すことが可能だがこの傷には効かないようだった。それは傷というより呪いの類なのだという。
比較的早い段階に召喚された彼は、街が襲われていたのを見て助けに行った。だが、サーヴァント複数に襲われては、彼でもどうにもならずにやられてしまう。
その時にマルタに、匿われて僕らが来るまで待っていたのだという。
「傷は、治せないの? 呪いをどうにかすれば――」
「その件なのですが――」
ジークフリートには、複数の呪いがかかっている。生きているのが不思議なくらいの呪い。聖人であるジャンヌは呪いの解除が可能だが、複数の呪いを解除するにはもう一人の聖人が必要なのだという。
「そうなると、今度は聖人を探す必要がありますね、先輩」
「そうだな……」
聖人。そう簡単に見つかるだろうか。聖女マルタがいたが、彼女は竜の魔女の手勢であった。もう既にこちらで倒してしまったのだから、頼ることはできない。
そもそも聖人が召喚されているのかもわからない。
「それは大丈夫と思う。聖杯を持っているのが竜の魔女であるジャンヌならば、その反動によって、聖人が召喚されているということはありうる。
聖女マルタも召喚されていたのなら、もう一人聖人が召喚されてもおかしくはない」
「みんな、何か知ってるかな?」
「俺にとっては、君たちが初めて出会うサーヴァントだ」
ジークフリートに心当たりはないとのことだった。だとすれば、マリーさんやアマデウスが知っているか知らないかだろう。
「うーん、わたしは知らないわ。アマデウスは知っていて?」
「僕も君と同じさ。知らない」
そうなると、手探りの状態で探さなければならないのか。しかし、手分けして探すにしても、ここは戦場。危険だ。
「マスター、どうしましょう」
「…………手分けしよう」
フランス領は現在半分以下だ。敵の領域にいるのなら探しても意味はないために、そこは除外できるはずだ。ジークフリートが襲われたのだから、敵の領域にいれば襲われている。
だから、探すべきは今のフランス領。それなら、まだ何とかなるはずだ。
「では、どう手分けしましょう」
「くじ引きをしましょう!」
「え?」
「こういう時はくじ引きでしょう! さあ、アマデウス作って!」
「君は、くじが引きたいだけだろうに。それでいいかい?」
ほかにいい案が浮かばないし、それでいいだろう。誰も反対がないようなので、そのままくじ引きを行う。
「私がマリーと、ですか」
「アマデウス、そちらはお願いね」
「そっちは本当に二人でいいの?」
こっちは、マシュ、クー・フーリン、ジークフリートにアマデウス。こちらの数の方が多い。
「ジークフリートさんは満足に動けません。そこに1人カバーに入るとするなら、これで戦力は同じです。何よりそちらにいるマスターを守ることを考えるとこれが良いと思われます」
「正直言って、いま君と離れるのは不安以外の何物でもないのだけれど。くじの結果に意を唱える方が悪いことになりそうだ。君の宝具は逃走にも使えるからね……それから、マリア……いや、なんでもない。道中気を付けるように」
「あら、なあんだ。わたし、てっきりまたプロポーズされるのかと思ってドキドキしてしまったわ」
「プロポーズ!?」
「ひゅー」
「――まて、待て待て、なぜ、その話をいまする!」
「え、お二人は、そういうご関係で」
「あれ、マシュ知らないのかい?」
ドクターが解説する。どうやら、アマデウスは六歳の頃に、マリーさんにプロポーズをしたのだという。
なんでも、マリーが転んだ時に、アマデウスが助けてそのままプロポーズをしたというのだ。
「後世にまで伝わっているなんて……悪夢だ……」
「だって、あまりにも素敵にときめいたもの! みんなに広めてしまったわ!」
「君のせいか!」
マリーさん、凄いな。
僕だったら、後世にそんなものが広まるとか恥ずかしくて死んでしまいたくなるに違いない。
「なんて、魔性の女なんだ」
「ふふ、仕方ないじゃない。だって、わたし恋に生きた女だもの! フランスに恋をして、フランスを愛した愚かな王妃だもの」
だからこそ、フランスに殺された。フランスの人々を愛さずに、国そのものを愛してしまったから。
「それは違う。まったく、ああ、まったく。なんて勘違いだ。君がフランスに恋をしていただあ? そんなわけないだろう。フランスにじゃない、フランスが、君に恋をしていたんだ」
「――……うん、ありがとう、モーツァルト。ふふ、本当。人間って、難しいわ。――それじゃあね、アマデウス。帰ったらあなたのピアノをを聞かせてね」
ジャンヌにカルデアの通信機を渡して、僕らは別れる。
マリーさんたちが出発し、こちらも出発しようと思ったのだが、アマデウスが彼女らの方を見ている。
「ついて行きたいのなら、良いけど」
「そんなつもりはないさ。なにより、すでに彼女への想いはないからね。ただ、彼女は僕の運命にとって……特別な分岐だっただけさ」
「分岐?」
「ああ、君の分岐が、マシュであるのなら、僕の分岐は、マリアなのさ。普通の人生を送るか、そうじゃないか。その分岐。それが彼女だった。ただ、それだけのことだよ。
何があろうとも、僕という男は、こうなる。何があってもね。君たちのいう人理定礎と同じことさ。ただ――そんな僕の運命を変えるのは、やっぱり彼女なのさ」
「それは、やっぱりマリーさんを愛しているということなのでは?」
「? 何を当たり前のことを言っているんだい。その通りさ。ただ、恋をしていないだけだよ」
「……わかりません。前にアマデウスさんは言いました。人間は汚いと。そんな貴方の言い分では、マリーさんも例外なく汚いものだと思うのですが……」
「え? 汚いもの、大好きだけど? 音楽は美しいものだ。人間は汚いものだ。そんなものカテゴリの違いだけだろう」
「え……え?」
マシュはわからないという顔をする。
「だって、人間は美しいものしか愛さない、と……」
「美しいものしか愛せないんじゃないよ。人間は――美しいものだって愛せるって話だよ」
マシュは理解できないという。その違いが難しいと。
僕にもそうだ。けれど、マシュよりはわかると思う。人間は、確かに美しいものが好きだ。そういうものを愛する。けれど、それが全てじゃないんだ。
恐ろしいのに、こんなところにいる僕も、たぶんそれは同じで。
「こいつは、言葉で伝わるものじゃあないからなぁ。でも、いつかわかるとも。彼と旅をするのなら。彼はそういうことに関しては、理想的な先輩だからね」
「はい、理想的な先輩ということには同意です」
――その信頼が重い。
けれど、君がそう言うのなら、僕はそういう風になろう。
「さあ、行こう」
――何かがひび割れる音がしていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ジャンヌさんたちは、もう到着するようです。わたしたちも頑張りましょう」
ティエールに到着する直前に、定時連絡があった。ジャンヌたちはもう街につく様だった。街の様子を見るに崩壊している様子はない。
「ドクター?」
「うん、二騎のサーヴァントの気配がある。早速――」
その時、凄まじい騒音と炎が上がった。
「ああ、嫌な騒音だ。行きたくない」
「行くしかない……」
街に行くと確かに、二騎のサーヴァントがいた。いたのだが――。
「喧嘩、してる……」
何やらひどく低レベルな言い合いが行われていた。角にマイク持った女の子と、着物の女の子。言い合いを聞く限り、あまりにも低レベルで言っていることが意味不明過ぎて、竜の魔女の仲間じゃないことだけは確かだった。
だって、生娘だとかの言い合いで、戦いそうになっているサーヴァントが世界を滅ぼすサーヴァントだとか、思いたくない。
そんなサーヴァントばかりだったら、僕がこんなに苦労しなくて済む。
「聖人じゃないよね」
「そうだったら、僕の怒りの日だよ」
「ああ、ありゃあ、聖人じゃねえ。どうするよ、マスター。どうやら敵でもねえようだぜ?」
「……とりあえず、話しかけてみよう」
甚だ話しかけたくはないが、
「あ、あのー」
「なに、
「わたくし、いま、忙しいのです。一昨日に来てください、ほんと」
――あ、駄目だこれ、話聞かないタイプだ。
今も、こちらを無視して言い合いを続けている。
「…………二人とも、やめるんだ」
「あん?」
「何か仰いまして?」
「あ、あの、マスターの言う通り、まずは落ち着いてお話を――」
「引っ込んでなさいよ、邪魔よ田舎子リス」
「無謀と勇気は違いますわよ、猪武者ですか?」
――今、マシュを馬鹿にしたな、こいつら。
「喧嘩するだけの爬虫類よりはマシだ」
「ま、マスター!? 怒っていませんか、マスター!?」
「おい、クー・フーリン。こいつら潰せ」
「あーあー、やっちまった。知らねえぞ、オレは命令されただけだからな。誰にでもあるこれだけはって、逆鱗に触れやがって」
「カッチーン、と来たわ!」
「ええ、まずはあなたから――」
二人が向かってくる。
「クー・フーリン、右前方、アンサズ」
「あいよ」
突撃してくるだけの二人に炎のルーンを食らわせて分断。
「片方にウィッカーマン。アマデウス、そっちのマイク持ってる方を拘束」
ウィッカーマンの右腕で和服の方を拘束し、アマデウスの魔術による音の波状攻撃で脳を揺らして潰す。ただの一瞬で、二体のサーヴァントを無力化した。
「おー、怖い怖い」
「怒りで潜在能力が開花してるよ……怒らせたら駄目なタイプだな、彼は」
「ま、マスター!?」
「や、やられました……。きゅぅ……」
「や、やるじゃないの……きょ、今日はこのくらいにしておいてあげるわ……」
「さて、話を聞こうか」
ぼこぼこに――といったら語弊があるが、倒したら落ち着いた。
「なによ……」
「負け蛇、敗蛇に追撃する気ですか……」
「君たち、他にサーヴァントを見たコトはないか?」
「頭おかしくなったサーヴァントは見たけど? コイツみたいに」
「一緒にしないでいただけますか。わたくしは、言語をきちんと理解できるバーサーカーです」
何を言っているんだろうこいつら。気が遠くなりそうになった。サーヴァントは恐ろしいという気も、この二人に関しては、どっか吹っ飛んでいった。
「ああ、近所の猫の喧嘩を思い出すな」
あの時はどうやったっけ、たしか――。
「って、いきなり顎を触ろうとするとか、何してんのよ!?」
「へ、へんたいですか!?」
「え、いや、こうやったら大人しくなったし」
「それ、猫よね!?」
「一緒にしないでくださいまし!」
ともかく、見たことはないようだ。骨折り損のくたびれ儲けか。
「外れか」
「エリザベートはともかくですね。わたくしを外れとは不遜にも程がありませんか?」
「聖人以外に用はない」
「むむ、すぐさま言い返すとは……ですが、聖人ですか。わたくし、実はひとり心当たりがあります」
「本当か!」
「ええ、エリザベートと出会う前に。真名はゲオルギウス。こちらでは有名な聖人なのでしょう?」
ゲオルギウス、聖ジョージともよばれる聖人だとドクターは言った。文句なしの聖人だと。彼ならばジークフリートの呪いを解くことができるだろう。
「どこに行ったか分かる?」
「わたくしと逆方向にへ。西側へ向かいました」
そうなるとジャンヌたちの方だ。
「マシュ」
「はい」
ジャンヌたちへと連絡する。
「どうやら、あちらでもサーヴァントを探知できたようです」
「よかった」
これでジークフリートの呪いが解けるだろう。
合流するために、西側へと向かう。
その途中で、ワイバーン襲撃の報告を聞いた――。