Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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二代目はオルタちゃん ~2016クリスマス~ 5

 翌朝。オレたちは雪原を歩いている。

 

「サーヴァント反応です。数は二人!」

 

 マシュの警告と同時に現れるクリスタルな馬車。

 どーんと雪の中に突っ込んで、ド派手に現れるマスクをかぶって剣を手にしたサンタクロース!!

 

「サンタマリー参上よ!」

「ちょ、マリーっ!!!!???」

 

 登場と同時に正体をバラしていくスタイルどうにかならなかったのか! マスクかぶっている意味ないですが! それにしてもサンタ衣装可愛いですね! バラをイメージした、サンタ衣装すごいですね! どっかのラスボス見たいです!

 それはいいとして、デオンがぺこぺこと謝ってくる。それはいいんだが、そのトナカイの衣装なんですか。とてもきわどく思えるんですけど、大丈夫ですか?

 

「サンタマリー!? いったいだれなんですか!」

 

 あ、バレてないっぽい、思いっきり名前言っているけど、バレてないっぽい。

 

「凄まじい妨害(ジャミング)です。セイバーとアサシンのサーヴァントがいることしかわかりません!」

 

 えっと、剣を持ったサンタマリーがセイバーで、トナカイデオンがアサシンなのかー。霊基まで変えて来たよあの二人、いったいどういう手品を使ったのやら。

 というか、悉くオレの想像の斜め上を爆走していかないでくださいよ。

 

「すごいきらきらだー。かいたいする?」

「かいたいしちゃいけません」

「まるで物語の女王様ね!」

 

 あれでも王妃様です。

 

「ヴィヴ・ラ・フランス♪ サンタマリーよ。ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィちゃん。貴女を海にはいかせないわ!」

「何故ですか!?」

「何故? えーっと、デオン、何故だったかしら」

 

 ――そこから!?

 

 なんか、デオンと心の中がハモった気がする。

 

「ええと、本物のサンタはマリーだから、偽物のサンタであるジャンヌには先に行かせないという設定だよ」

「まあ、そうだったわね。じゃあ――本物のサンタが私だからよ!」

 

 大丈夫だろうか、これといろいろと心配になるが、まあ、バレてないようなのでというか、マスクの認識阻害が強すぎて、誰も気が付いていないみたいなので、そのまま行こう。

 あのマスクいったい誰が作ったのだろうか。

 

「本物の、サンタ!?」

「ふふ、そうよ。私が本物」

「いえ、私が本物です!」

「じゃあ、聞くわ。サンタとは何かしら?」

 

 サンタとは何か。

 それにジャンヌは答える。

 願いを叶える者。贈り物を運び、幸せを、幸福を運ぶ者。

 

「私に、できているかは自信がありませんが」

「だったら、私がサンタでも良いじゃない? もしあなたが本当にサンタクロースさんだというのなら、私を倒していきなさい」

 

 マリーが剣を構え、デオンが短刀を構える。

 

「く――、なんだかわかりませんが、本物のサンタは私です!」

「かいたいかいたい」

「もう、ジャック、かいたいはだめってトナカイさんに言われてるでしょ」

 

 サンタジャンヌ、ジャック、ナーサリーがサンタマリーに立ち向かっていく。サンタマリーは剣を扱いなれていないので、問題なし。

 危ない攻撃は、すべてデオンが受け流して、いい感じに敗北の流れにもっていく。そして、すごく演技っぽくマリーが倒れる。

 

 何やら、よくわからない仮面の音楽家が彼女が怪我しないように彼女の緩衝材(クッション)になるために雪の中に滑り込むのが見えたが、気のせいだろう。

 戦っている間中、ほんの少しの傷でも、すかさず治療していった、鼻血塗れの処刑人もみえたようなきがしたけど、気のせいだろう気のせい。

 

「ああ、やられてしまったわ!」

「なんだか、よくわからないうちに自分から倒れてしまいましたけど、勝ちました!」

「ふふ、ならお先に行きなさいな。いつでもサンタであることを忘れちゃだめよ」

「さあ、マリー、帰ろう」

「とっても楽しかったわね、デオン」

 

 危なくて見ていられないよとデオンは内心で思った。

 そして、そんなことよりサンタ衣装可愛いですねとも。

 

 サンソンなど、サンタマリーを見た瞬間、失血死しかかった。

 アマデウスは仮面をアイリさんに貸したあと、どこかへと消えた。今頃どこでなにをしているのか誰にもわからない。

 

 ともあれ、今度の障害もサンタジャンヌは乗り越えた。

 

「大丈夫?」

「大丈夫です。いよいよ海まで、あと少しですね!」

 

 そうして歩き出した瞬間――がしゃんと音がした。

 後ろを振り返ると、それはもうホラーっぽい見た目のオートマタの大軍。

 

「ひっ――」

 

 否応なく、嫌悪感を催させる見た目のそれらは、四肢をついてこちらに迫ってくる。

 ダ・ヴィンチちゃん特製の自動人形。

 カルデアのもろもろを代行する機械。

 

 けれど、けれど、今は、そう障害。オレたちの行く手を阻む。こちらの足を引く、障害。

 

「わ、わわ、私、ああいう無機質なのダメ、です!」

「あれはかいたいできないね」

「そんなこと言っている場合じゃないのよー!」

「逃げろー!」

 

 三人を抱えて、オレは逃げる。

 礼装の効果のおかげで軽く、三人を抱えて、風のように。

 

 走って。走って。

 

 海まで一直線に。

 

 そして、目の前に最後の壁が現れる。

 

「サンタアイランド道場仮面師匠!」

「――」

 

 彼女が魔術を放つ。それだけで、人形たちは爆散したように見える。真相は光学迷彩で一気に隠れて逃げ出しているだけなのだが。

 爆発に紛れて全部消えたように見えるだろう。

 

「ありがとうございます、師匠」

「お礼なんて不要よ。ありがとう、ここまで来てくれて。ダビデ王、サンタマリー、あの人形。障害が多くて困っていたのよ。でも、これでもう障害はないわ」

「な、なにを言っているんです、師匠」

 

 わかっているはずだろう。わかるはずだろう。

 

「あら、言わないとわからないのかしら。サンタの持つ希望。万能の贈り物を掴むその袋を私がもらうのよ」

「な、なんだってー!?」

 

 何やら、雷が背後におちたが、気にしない方向で。

 

「そ、そんな――」

「そもそも、サンタとは孤高にして平等が原則なの。全ての願いを叶え、偏りなくプレゼントを配るのがサンタクロース。聖杯と同じ。本人の意思なんて関係ない。我欲は要らず、サンタクロースという万能の願望器の如き概念でないといけないの」

 

 だというのに――。

 

「貴女は、迷い、惑い、憂い――前に進み続けている。ねえ、サンタなのでしょう? そんなもの、必要ないのよ」

「な――」

「サンタなら割り切りなさい。我欲なんて必要ない。願いを叶えたいと思う事すらも不要よ」

「そ、そんな……」

 

 さて――。

 

「ねえ、ジャック、我欲ってわかる?」

「がよく? わかんない」

「我欲っていうのはね、やりたいって思うことだよ」

「じゃあ、わたしたちは海に行きたいな! っていうのが我欲?」

「そう」

「ジャンヌは、わたしたちと、ナーサリーと海に行きたくないの? わたしたちは、いっしょに行きたいよ?」

「そうね、わたしもジャックとジャンヌと一緒に、海へ行きたいわ!」

 

 問う言葉が雪原に響く。

 風がやむ。

 雪が止まる。

 

 さあ、どう答える。

 答えを待つように全てが、静寂の無音の中へと沈んでいく。

 

 世界がサンタジャンヌの答えを待つように、静まり返る。

 

「わた、私は――と、トナカイさん」

「君が決めるんだ。途中で歩みを止めるというのならば構わない。君が、諦めるというのなら構わない。

 けれど、もし君が、諦めていないのなら――」

 

 そっと手を彼女の前に差し出して、

 

「右手を伸ばせ、前に進め。みんなで一緒に海に行こう」

「そうよ、トナカイさんも一緒に海に行くのが楽しいわ!」

「あ……」

「さあ、どうするの。袋を渡すのかしら。渡さないのかしら」

「――渡しません! イヤです、絶対に渡しません!」

 

 そうだ。そうだとも。君は君の思うままに前に進め。

 

「私は、みんなと一緒に海に行きます!!! トナカイさん!」

「ああ――さあ、行こうサンタ。君とオレは対等で二人でサンタとトナカイだ」

 

 彼女の為に未来を視る――。

 彼女の為に、その先を示す。

 

 彼女を導く。

 かつて、オレが、彼に導かれたように。

 

「――――」

 

 サンタアイランド道場仮面師匠は、サンタジャンヌの攻撃で倒れ、雪の中に消えた。

 

「さあ、海はもうすぐだ」

 

 雪がなくなり、草原が広がる。もうすぐ夕暮れ。すぐに夜になるだろう。

 

「…………」

「たのしみね」

「どんなんだろー」

「泳ぎはできないのかしら。冬だから、やっぱり無理かしら。ねえ、ジャンヌ。……ジャンヌ?」

「あ、いえ、大丈夫です……」

「んー、てつなぐー?」

「……震えているわね。なら、わたしも手を繋いであげるわ!」

「も、もう。あの、トナカイさん……」

「いいよ、いってらっしゃい」

 

 三人が海へと向かって行った。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 ざあざあと、波が音を立てていました。

 ごうごうと、こわい風が吹きすさんでいました。

 

 生きている物がいないのに、生きていると主張するような激しさ。

 

 この世の始まりのように恐ろしいくせに、この世の果てのように美しい風景。

 

 ――海を、見た。

 

 ――自分の運命の最後に至るその時に、海を見た。

 

 その瞬間に、解った。

 

 結局のところ、私は、おちこぼれのサンタだった。

 

「ふわー、これが海? すごいねー、ほんとうに、すごいねー!」

「すごいわね、怖いわね、でも面白いわ! それに、すごく夕焼けが綺麗!」

 

 とても美しい光景の中をはしゃぐ二人のことは、どこかへといって。

 

 ただ、私は――。

 

 ――自分の間違いに、気が付いた。

 

「あ、ああ……あああ……」

 

 涙があふれてくる。とめどなく。

 

 嗚咽が漏れてくる。とめどなく。

 

 滴が頬を伝って、流れ出す。

 

「わた、しは、そうだ、これ、わたし、の」

 

 これが、私の、夢だったんだと。

 

 願いだったんだと、今、ようやく、気が付いた。

 

「わたし、わたし、が、海を、見たかったんだ……!!」

 

 見たかった、見たかった。

 

 ずっと、ずっと。海を見たかった。

 

 記憶も、記録も、何もない。

 

 けれど、心の奥底に残っていたものがあったのだ。

 それが憧れであり、海を見たいという本来の私(ジャンヌ・ダルク)という聖人が置いて行った、願い。

 

「うぁぁぁあああああああああああ……!! あああああああああああ――]

 

 慟哭が波間に消えていく。

 そっと寄り添って、私の謝罪を聞いてくれるジャンヌとナーサリー。

 

「いいのよ。いいの」

「うん、いいんだよ。それで、いいの」

 

 がんばったね。

 何も言わず、そう言ってくれる彼女たち。

 私は、それにまた、大きく泣き出してしまって。

 

「もう、泣いてばっかり。さあ、泣き止んで。うねる波の音を聞きましょう。砕ける波を見つめましょう」

 

 沈む夕日が、海に溶けて消えるまで。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「よかった――気が付いてくれた」

「え。マスター? これはいったいどういう?」

「マシュ、サンタジャンヌはね、あのままじゃ消えてしまうかもしれなかったんだ」

「ええ!?」

「だって、ただでさえ存在しないはずのジャンヌ・オルタが、さらに存在を削って生まれたのが彼女なんだ。不安定も不安定。ジャンヌであって、ジャンヌでない。誰でもない、空っぽ。でも、彼女はそれをなくすためにサンタを望んでしまった。子供がサンタクロースになってはいけないのにね」

 

 サンタクロースとは平等にプレゼントを配る存在だ。我欲なく、平等に。

 だが、それが子供にはできない。子供はプレゼントをもらう側だから。願う側だから。どうしたって、我欲が生まれてしまう。

 

「それじゃあ、彼女はクリスマスが終われば消滅してしまう。だから、彼女の中に何かを持たせる必要があった」

「それが、願い、ですか……」

「そう。願い。想い。強い何かがあれば、全てを失っても、空っぽでも、前に進めるんだよ」

 

 何よりも君への想いがあったから、オレはこうして前に進めているんだから。

 

「まあ、それでも賭けだったんだけどね」

 

 海へ行きたいという願い。それは、削ぎ落して、削ぎ落して、役割を掴むときに、紛れ込んだ一つの欠片だ。

 ある意味奇跡だった。彼女がそれを持っているのかもわからない。

 もっていないかもしれない。

 

 でも、彼女は前に進んだ。オレはその時に確信した。彼女は確かに願いを、何よりも強い想いを持っていると。

 

 だから、みんなで彼女を妨害した。それでもなお、前に進めるのなら、もう確定だったから。あとは自覚させるだけだったから。

 

「そ、それでは、ダビデさんも、マリーさんも!?」

「そうだよー。まあ、半分本気だったけど」

「ふふふ、とても楽しかったわ」

「ダビデは、自重しろよ。マリーはありがとう」

 

 強引だし、博打要素が大きかったけれど、それでもどうにかこうにか、彼女は彼女になれた。

 

「つ、つまり、今までのこと全部、仕組まれたことだったってことですか!?」

「そうさ。いやー、本当、マスターに初めて言われたときは驚いたよ」

「本当ね、さすがのアイリさんも驚いたわ」

 

 あなたはノリノリだったじゃないですか。というか復活しましたか。良かった。随分と本気だったから心配だったんだ。

 

「え? ま、まさか!?」

「そうだよ、このシナリオを考えたのはマスターだ。サンタオルタが、たきつけたらしいんだけどね」

「人聞きの悪い。たきつけたなどと、あれはすべてマスターの意思だ」

「な、なら、なんでわたしには!?」

「マシュには悪いと思ったけど、こういう悪だくみの嘘が下手だから」

「そうよね。マスターは本当、悪だくみが巧いわ」

 

 それ褒められてないよね。

 

「せ、せんぱあああぁぁぁいいいいい――!?」

「ごめん、あとで埋め合わせはするよ」

「そ、そんなのでは誤魔化されません」

「その割には嬉しそうよ、マシュ。ふふ、仲が良いのね。あ、ジャンヌがこっちに来るわ。それじゃあ、みんな帰りましょう!」

 

 全員が一斉に帰っていく。ヴィヴ・ラ・フランスと、バイバイ、と手を振って、あるべき場所へと帰っていく。

 

トナカイさん(マスター)! トナカイさん(マスター)! トナカイさん(マスター)!」

「海は、見れた?」

「はい、私、こうして海にたどり着いてわかりました! 私は、サンタだけど、まだ子供(リリィ)で、未熟で、わがままで、どうしようもなくて――でも、それでも、私は此処にいます。一生懸命、あなたのお役に立ちたいと思います」

「うん。ありがとう」

 

 オレでも、誰かを導けるのだと教えてくれた君。ジャンヌ、ジャンヌ・オルタ・サンタ・リリィ。

 

「君の望みはなんだい?」

「わたし、私の、望みは――ここにいたいです。トナカイさん(マスター)――ううん、マスターの隣に、いたいです。

 クリスマスが、終わっても、春が来ても、夏が来ても、秋が来ても……! あなたの、傍に、いても、いいですか?」

「いったでしょ? オレは君がどんな風になっても、君がどんなものでも、全てを肯定するって。君が、いたいというのなら、ここにいればいい。君がそう望むのなら、君は、ずっと此処にいられる」

 

 他ならぬ君が望むのだから。

 オレが肯定しよう。

 オレは、君のトナカイ(マスター)だから。

 

 世界が君を知らなくても。

 世界が君を認めなくても。

 

 オレが認める。

 

「だから、ここにいていい。君が望むままに、ずっとここにいていい」

「――ありがとうございます! ……好きです、だいすきです、トナカイさん(マスター)!」

 

 それは、とびきりの笑顔で――。

 

 優しい、口づけだった――。

 

「えへへ、恥ずかしいので、ほっぺにです。大人になるまで、待っていてくださいねトナカイさん(マスター)

 




というわけで、クリスマスイベも終了です。
しばらくは七章モードに入りますので、更新はお休みです。
途中経過を活動報告の方に上げていくので、そちらを見てください。

いろんな人から絶望が待ってるとか言われて今からやばいんですが、これ大丈夫? 私、クリアできるかな……。

ともあれ、頑張ります。

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