Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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二代目はオルタちゃん ~2016クリスマス~
二代目はオルタちゃん ~2016クリスマス~ 1


 ざあざあと、波の音が聞こえる。

 ごうごうと、風の音が聞こえる。

 

 世界に広がる、青が見えた。

 飛沫を上げる、白が見えた。

 

 それは、感動だった。

 それは、願いだった。

 

 その感動を見た。

 最後に得た感動を見た。

 

 だが、彼はそれを知らない(・・・・・・・・・)

 

 だから、生まれた彼女には、何もない。

 

 生まれてしまったものは、記憶され、記録され、世界に刻みつけられる。

 生まれてしまったがゆえに、確かに望まれたがゆえに。

 

 その果てに、生じた幻想は、あまりにも脆く、あまりにも儚く。

 

「フン、リリィ(それ)が、貴様の頑張った結果とやらか」

 

 神ならざる人に生み出されたものが、それでもナニカに至ろうとした結果は、自らを更に削ぎ落として、リリィ(かたち)になるのがやっとだった。

 

 それはあまりにも不安定。

 彼女は足りぬものを補完しようとして、役割(サンタ)を選んでしまった。

 

「助ける義理はない。だが、トナカイ(マスター)には、力が必要だ。直感が次の特異点の危険性を叫んでいる。私の経験上、この手の直感は当たるからな」

 

 ゆえに、彼女を救うべく、人類最後のマスターに託すのだ――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 朝起きると、プレゼントが置かれていたことがないだろうか。クリスマスの日、用意した靴下の中にプレゼントが入っているということを経験したことは、おそらく誰でもあるのではないだろうか。

 少なくとも、靴下ではなくとも、プレゼントが枕元や、部屋の中に置かれていたことはあるだろうと思う。

 

 ただ、それは子供の頃限定の話のはずだ。クリスマスを祝ってもらえるのは子供だけ。聖夜の夜にサンタクロースからプレゼントをもらえるのは子供だけ。

 そうそのはず。そのはずなのだが――。

 

「なぁに、これぇ」

 

 大きな箱がある。目を覚ましたらこれが置いてあった。部屋の中に。誰の仕業? 清姫? ベッドの下を確認したらそこにいた。

 妙にベッドが温かかったのは清姫が下から温めてくれているからだが、そうじゃないとすると残りは二人。エリちゃんかサンタさんだ。

 

 エリちゃんはこの前ハロウィンがあったから、違うだろう。それに時期的には、サンタさんの時期だ。そうサンタオルタが活動を始める時期だ。

 クリスマスの時期だ――。つまりこれは早いクリスマスプレゼントということか? 包装を見る限り確かにそれっぽいが、こんなにでかいのはどういうわけなのか。

 

 とりあえず、あけるべきか、開けざるべきか……。

 

「よし、開けよう」

 

 好奇心には勝てない。それに、危ないものならドクターが警告しているだろうし、何もないなら問題ないということで。

 開けると――幼女がいた。

 

 即座にしめた。

 

「え? え?」

 

 開ける。

 

 しめる。

 

 見間違いではない幼女がいた。ロリがいた。リリィがいた。眠っていたが、どうにもジャンヌ・ダルクに似た、いや、正確には、去年のクリスマスに会ったジャンヌ・オルタに似ているような子供が中にいた。

 

「ん、ん~、ふぁ、あ、おはようございます、トナカイさん(マスター)

「お、おはよう?」

「ふむ、ちゃんと届いていたな、トナカイ(マスター)

 

 どうしようこれと思っていたら、サンタさんがやってきた。

 

「サンタさん、これはいったいどういうこと?」

「どうもこうもなく、二代目サンタさんだ。今年は彼女に譲ったのだ」

「譲った? サンタさんが?」

 

 うそでしょ? 譲るとは思えないんだけど――と、そこで察したいろいろと理由があるのだろう。

 とりあえず、どうして召喚されたのかはまたいつもの如く、何かが起きたということらしいのだが、去年のクリスマスの時に言っていた通りのことが起きたらしい。

 どうにもジャンヌ・オルタは必死に頑張ったらしいのである。だが、どうにも、それでも現界するにあたって通常通りの現界ができなかったようで、リリィになってしまったという。

 

「じゃあ、名前とクラスは?」

「ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ・ランサーです!」

 

 長い――。

 こうも長いとちょっと悪戯心がむくむくとなってしまうのは仕方のないことであろう。子供に長い名前、これはもうもう一度というほかない。

 

「もう一度、アレグロで」

「も、もう一度ですか? アレグロ……えっと、早め、ですよね。わかりました。ジャンヌダルクサンタオルタリリィサンタ! あれ、何か違いますね、ええっとサンタジャンヌオルタダルクリリィ! ええと、ええと……ジャンタジャンタリリィンサー! あれ? あれ、あれ?」

 

 ――かわいいんじゃが……

 

「この子うちで飼っていい?」

「そこまでにしておけよトナカイ」

「はい、すみません。で、サンタジャンヌが、次のサンタ?」

「ああ、そうだ」

「……何か事情があるんだね?」

「そういうことだ。とりあえず、このままだとそこの二代目は消えるかもしれぬ」

「……は?」

 

 消える? それって消滅?

 

「だから、貴様が何とかしろ」

「え、って――」

 

 サンタさんはそれだけ言って部屋を出ていった。追いかけようとしたら――

 

「さあ、行きましょう、トナカイさん!」

 

 ジャンヌに手をひかれる。

 

「いや、ちょ、早くない?」

 

 それに、クリスマスはまだ先だ。

 

「何を言っているんですか。よく言うでしょう? (サンタ)は急げと!」

 

 というわけでサンタさんのラムレイ二号に乗り出発。

 仕方ない、まだ何も事情は呑み込めていないが、このままだと彼女が消えてしまうというのなら、それは本当なのだろう。

 他ならぬサンタさんの言葉だ。彼女は、この手のことで嘘だけはつかない。だから、きっとそれは本当のことなのだ。

 

 だから、彼女が消えないようにするためにどうにかする必要がある。出発する前に、いろいろとみんなと話し合った。

 マシュ以外は全員事情がわかっているらしい。特にダ・ヴィンチちゃん。彼女のおかげで、サンタジャンヌの状態がよくわかった。

 そのために何をすればいいのかもはっきりした。なら、あとはやるだけだ。

 

「先輩、どうでしょうか?」

「大丈夫。今回はマシュがオペレーターなんだ」

「はい、しっかりとサポートさせていただきます」

 

 こういうのも新鮮だなぁ。それにみんなからもいろいろと準備にいっぱい貰ったし。

 

 兄貴からは防寒のルーン、スカサハ師匠からは身体強化のルーンをそれぞれトナカイスーツに刻んでもらったおかげで温かいし、どれだけ歩いても疲れない。

 ブーディカさんと清姫からは道中のごはんと安全のお守り。前の時はそのままだったけど、今回は温かいご飯が保温パックに入っている。これもまたスカサハ師匠のルーンが刻まれているので、開けるまで温度は下がらない。

 

 お守りの方はなんかズモモモモってしているので、中身は視ないようにしています。なんかもう怖いくらいに思念が込められている気がする。

 サンタさんからはサンタの袋とこのソリであるラムレイ二号。本当どうやってとんでいるんだろう。モルガンジェットじゃなかったことに驚きである。エンジンあるし。

 

 ジェロニモとジキル博士からは、短遠距離秘匿念話通信が可能な精霊携帯とかいうスマホっぽい通信機を貰った。

 今年のクリスマスも一筋縄ではいかない。これは必須アイテムだ。

 

 ベディヴィエール卿からは快適寝袋やその他、野宿セット。必要になるかはわらないが、用心は必要だということで非常持ち出し袋的な感じで受け取った。ありがたく使わせてもらう

 金時は、ゴールデンな暇つぶし道具。移動中の暇をつぶせる、素敵な絵本、金太郎と雷神ほっかいろ。バチバチしたらあったまるという仕様らしい。

 

 式からは、ま、気を付けてなというお言葉をいただいて、両儀式からは、頑張ってねというお言葉をいただいた。

 エリちゃんからは、オレの為に収録したCDとプレイヤー。聞いてみたら、オレの為ということもあってとても素晴らしい歌だった。もしそうじゃなかったら、棄てているところだ。

 

 ダビデからは、いろいろと役に立つからと杖を貰って、ノッブからは持っていけいと魔力で勝手に弾を生成して延々と撃てるらしい火縄銃。

 正直、どうしようかと思っているが、まあ、持っているだけならただなので、ソリの中に置いてくことにする。

 

 とまあ、なにからなにまでいたわりつくせりな、みんなからの贈り物を貰ってオレたちはいつものように、出発した。相変わらず空をかっとぶソリの原理は不明である。

 さて――はじめよう、理想()人間(オレ)になったように、彼女を彼女にしよう――。

 

「トナカイさん、トナカイさん」

「何、ジャンヌ?」

「賢者の贈り物、という物語がありますよね」

 

 ――賢者の贈り物。

 たしか、貧しい夫妻が相手にクリスマスプレゼントを買うお金を工面しようとする話だったか。

 妻の方は確か、夫が大切にしている形見の懐中時計を吊るす鎖を買うために、自慢の髪をバッサリと切り落とし、髪の毛を売る商人に売ってしまう。

 一方で、その夫は、妻が欲しがっていた鼈甲の櫛を買うために、自慢の懐中時計を質に入れて金を工面していた。

 

 そういう行き違いの話。一見して、愚かしい何の意味もないような物語に思えるが、これは愛の物語なのだ。

 

 妻にとって夫が自慢の懐中時計を質に入れてまで手に入れた櫛は、髪を切り落としてしまったから無駄なものだ。

 夫にとっても、妻が髪を切り落として手に入れた懐中時計をつるす鎖は、その懐中時計を質にいれてしまい、無駄なものになってしまっている。

 

 一見して、行き違いを嘆くことになるのだろうが、違う。

 

 夫は、妻が高価な鼈甲の櫛が欲しいと思いながら、高価だからとあきらめていることを、ちゃんと知っていたのだ。

 妻は、夫が形見の懐中時計を大切に思いながら、鎖のないことを惨めに思っていることを、ちゃんと知っていた。

 

 この二人は、お互いの欲しい物をちゃんと理解し把握していたということ。本当に愛し合っていなければ、理解し合っていなければ、相手の一番望んでいるものなんて、わかるはずがない。

 だからこそ、この夫婦は愚かではなく、誰よりも賢明であり、愛はあらゆるものよりも重く価値がある。

 

 そういうことを教えてくれる物語だったはずだ。というのも、オレの両親がこれと同じことをしていたらしいのだ。だから、似たエピソードのこの物語はよく読み聞かせられていた。

 顔も思い出せない両親だが、そういうことをしていたという記憶だけはまだある。だから、この話は結構好きなのだが――。

 

「私が思うに、あれの感激はその一瞬でしかありません」

「あれ? そうかなぁ」

「はい。髪は伸びますが、親の形見である時計が取り戻されることはもうない。あの様子では、旦那さんが新しい時計を買うことも当分ないでしょう。奥さんの方は、櫛を使うたびに罪悪感が募り、旦那さんは櫛を見るたびに被害者的な感情に苛まれる」

「それは考え過ぎだと思うけど」

「いえ、いいえ! 志が尊くとも、やはりあの贈り物は賢者のそれではなく、愚者のそれなのです」

「そっか」

「む、わかっていないみたいですね。駄目ですよトナカイさん。貴方はサンタのトナカイさんなのですから」

 

 ああ、うん、ごめんねと言いながら、思う。愚者のそれ、か。君にはそう思えるのか。

 

「ふんふんふーん、ふんふんふーん、ふんふんふん、ふふーん♪」

 

 楽しく歌いながらソリを動かす君。二代目サンタ。ジャンヌ・ダルク・オルタ・リリィ。君には、賢者ではなく、愚かに思えるのか。

 

「…………」

「どうかしましたかトナカイさん?」

「……いいや、綺麗な歌声だと思ってね」

「きれっ……ト、トナカイさんはなかなか見る目がありますね!」

 

 とっさに出た誤魔化しだったけど、歌声がきれいなのは本当だから、嘘ではない。

 

「という訳で、最初のリクエストは、け、き、……けーさんです」

「荊軻だね」

「わ、わかってます! 去年のリクエストは切れ味の良い短刀で、貰ったものは優雅なおじ様だったそうですが……優雅なおじ様って何ですか?」

「気にしてはいけない」

 

 とりあえず、背中からぐわーっと刺される系のおじ様らしいことは確かだが、そんなことジャンヌに教えても仕方ない。

 

「ともかくです。けーかさんのプレゼントとしてはふさわしくありません」

「でも、本人がほしいって言っているんだし」

「いいえ、やはりプレゼントはふさわしいものをあげるべきなのです。相応しいプレゼントを持ってきましたので、さっそく洞窟に向かいましょう!」

 

 ソリを洞窟へと向けるサンタジャンヌ。

 荊軻のところに向かうまでの間に、オレは行動を開始した。サンタジャンヌはソリの操縦に忙しい。ゆえに、オレは、まず、通信機を使用する。

 この通信機には、秘匿念話通信のほかにサーヴァントの探知機能が内蔵されている。そして、探知したサーヴァントにコールして向こうが承諾してくれた場合、通信が可能になるのである。

 

 きわめて秘匿性が高く、ジェロニモ、ジキル博士、ダ・ヴィンチちゃん、スカサハ師匠によりサンタジャンヌにだけは絶対にバレないようになっている。

 暗躍し放題というわけだ。

 

 まず、オレが知るべきは、ジャンヌのこと。そして、それを一番よく知っているのは本人だが、生憎と本人の反応はない。

 代わりにあったのは。

 

 ――マリー・アントワネット。

 

 かつてオルレアンでジャンヌ・ダルクと最も仲良くなった女性。彼女ならば何か知っているかもしれない。

 オレは、彼女へと通信を繋げた。

 




というわけで、クリスマスイベ開始。
多少遅くなりそうですが、頑張ります。

配布縛りな為に、いろいろと展開や登場キャラが変わります。
残念ながら、レオニダスとハサン先生に出番はありません。
レオニダスの代わりはダビデが、ハサン先生の代わりは金時が務めるようです。

そして、久しぶりのマリー様の登場ですよー。


活動報告でもいいましたが、
感想で、贋作やらないとクリスマスとの繋がりが、とか、贋作無視するのか、的なことを言われて、正直萎えてます。

ちゃんと考えてます。
設定も考えてます。
なにより、クリスマス後に贋作やったらジャンヌ・オルタ関連で愉悦出来るので贋作はあとです。

なので、言いたくはないのですが、今後、関連で贋作について言及はやめて下さい。

これは私の物語です。
どうやるも私が決めます。

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