それで、各家々を回ってみたのだが――戦果ZEROであった。皆のところも同じであったのだが、どうにもおかしいことが一つ。
なしの礫だったのだが、どうにも祭りをやりたがっている風ではあるのだ。つまり、何かまだ一押しが足りない。
まあ、一押しを遮っているのはまず間違いなく、ピラミッドの女王だろう。彼女がハロウィンを禁止しているからこそ、踏ん切りがつかないのだ。
「ねえ、
とりあえずは満場一致で、
「格好」
「勇者なのに-!」
だった。そんなあからさまな痴女みたいなビキニアーマーを着たとちくるった為政者よりは、ピラミッドの女王様の方が幾分もマシなのだろう。
エリちゃんも素材はいいのだから、普通に着飾れば可愛いはずなのに、どうしてこう、ズレるのだろうか。
「というわけで、まずはエリちゃんをまともな恰好にするところから始める?」
「あ、それなら、お姉さん頑張っちゃうよ?」
「息子の為です。母も協力しましょう」
「デザインは、どうしようか」
「それなら、アイドルっぽくー」
却下。為政者がアイドルっぽいかっこうなのもそれはそれで問題なのだ。
「シックなドレスが良いのではないのでしょうか?」
「……はい、それいいと、想います」
「確かに。普段と違う落ち着いた服っていうのは逆にありかも」
勇者のビキニアーマーとかいうトチ狂った格好を見せられた後に、シックなドレス姿となればそのギャップで人気アップもありえるんじゃなかろうか。
「また、おまえたちか。ハロウィンは禁止だと」
「また来たのね! ――あ、そうだわ! ねえ、ちょっとそこの!
「どう思うって……露出はほどほどにしないと、斬られたとき痛いぞ?」
「センス、ゼロね」
いや、その騎士の人はいい人だ。普通の人なら痴女っていってもおかしくない格好なのに、それにはあえて触れずにエリちゃんを心配して見せるのはさすが騎士だと感心した。
などと思っていると、
「にゃんとおおおおおおおお!?」
何やら、茨木ちゃんの方で何か起きたらしい。見ると、どこに隠し持っていたのか、ケーキが真っ二つに潰れている。
同時にどういう訳か、空から襲来するトリスタン。なに普通に飛んできてんだこいつ……。
「…………ああ、悲しい……街を橙色に染めるのは、女王の本意でないことがひどく苦しい…………それはそれとして、そこの麗しい女性二人……私は、トリスタン。元円卓の騎士、現在女王の騎士。どうか、一晩、私と――」
いきなり口説き始めた―!? しかも、ブーディカさんと頼光さん、アイリさんを。
「んー、ごめんねぇ、お姉ちゃんには大事な人がいるから、君の御願いはいけないかな。大丈夫、きっと君にもいい人ができるから、あたしみたいなお姉さんよりもいい人がね。だから、その人のためにも、そんな風な言葉は摂っておいた方がいいよ」
「あらあら、私? 私、そんなこと言われたの初めてよ。でも、なんでかしら、それを受けてはいけない気がするの。カルデアに来てから夢に見る男の人に悪いって思うのよ」
ブーディカさんは、ぴんと、トリスタンの額を指で小突く。まるで、め、と叱るように。
あ、そうか、円卓相手だから、彼女にとっては遠い親戚みたいな感じなのか。うん、完全に親戚のおば――お姉さんだからね。
アイリさんは、きっぱりと断る。どこかにいる誰かをまるで見るように。カルデアはすべての可能性の中にあるゆえに、きっと可能性を見ているのだろう。
しかし、トリスタン卿、なんだか、雰囲気が以前と違う――ああ、そうか。あの時出会ったのは、反転した姿。それならば、きっとこれが彼の本当の……本当の姿でいいんだろうか。
ダビデと同じ匂いがするよ。人妻好きっていう匂いがするよ……。
「卿は失敗したか、では、私が――」
「お父さん、何黒い鎧になってるんですか。というか、今何をしようとしてたんですか」
「―――」
なんでバレた!? って感じで驚いているな、あのランスロット……。そりゃバレる。あいにくと第四次聖杯戦争の冬木で、オレたちはランスロットに出会っているのだ。
あの黒い鎧姿は見慣れたものである。だから、わかるし、マシュに言わせればたとえ宝具を使われていてもこの
だから、何をしても遅いのだよ、ランスロット卿。
「ランスロット卿……」
「………………」
なんというか、この空気をどうしよう。
「子イヌ、なんとかしなさいよ」
仕方ない――いや。
「エリちゃんがなんとかして」
「え? なんでよ。
「ここはエリちゃんの城下町だからね。オレが何かするわけにもいかないでしょ。それとも、できない? それなら、オレがなんとか考えるけど――」
「ううん、やるわ、やるって決めたもの! 全員にこれをかぶせなさい子イヌ!」
パンプキンヘッド。
「了解、女王様」
というわけで、ランスロットとトリスタンを含めたすべての騎士にパンプキンヘッドをかぶせる。
「では、エジプト魔術で外れないようにして……」
「それはやめようニトクリス可哀想だから」
ともかく、そうやって騎士たちもハロウィン仕様になると、城下町の人々もおずおずと出てきて街がハロウィン仕様になっていく。
「うんうん、これで良し。さて、ランスロットとトリスタンはこれからどうする? どうにも、エリちゃんを試してた見たいだけど」
「…………悲しい……」
「……まあ、いろいろとある。しかし、やはりキミには勝てんな」
「貴方の場合、勝てないのはマシュなんじゃ」
「うぐ……」
ともあれ、完全に縛り上げてフェイルノートもアロンダイトも没収したから暴れることはできまい。というか、暴れたら、マシュの打撃が飛んでいくだろうから動くに動けないだろう。
それに、パンプキンヘッド取れないしね。この二人だけエジプト魔術でくっつけてるから逃げても無駄。
「さあ、行くわよ、子イヌ! ライブ――いいえ、このハロウィンをみんなで楽しむために女王のところへ!」
今度は全員が、おー、と声を合わせる。
道中のパンプキンを回収しながら、オレたちは再び、城門へと戻ってきた――。
「……その、ええと……トリック・オア・トリート! おじ様!」
「祭りの音が聞こえるな……気づいたのか、それとも気づかされたのか。気づいたのであれば、貴様にも幾ばくかの見どころはあろう。気づかされたのであれば、貴様とともにある者が、貴様を思いやったのであろう――裁決は結果のみを見る。民が満たされたのであれば、この先に進む資格がある」
「おじ様……!」
「だが、この姿の
その中の一つ。彼にとって、英霊となった彼にとって、決して見逃せない罪がある。
そして、彼は、それに対して償いの場を与えない。死をもって償えとも言わぬ。
「……!」
王たる彼は、鷹揚にして苦悩する人間であるが、武人である彼は、一切の邪悪を赦さない。償いなどさせぬ、赦しむせぬ。
楽になど、させぬ。
「不義不徳、民を玩弄し、無知であることを当然と考えた殺人鬼よ。貴様の罪は、百年たっても覚めぬ悪夢、貴様の悪は、歴史に刻まれし罪科である」
ゆえに還れ、暗闇に。貴様がいるべき場所へ還れ。
「では――徹頭徹尾、皆殺しである」
ドラクルの槍が来る――竜の子の槍が来る。
串刺しの王。
彼こそが、串刺し公。
かつて、最強の帝国、オスマン帝国すらも恐れさせた槍衾が来る――。
「今度は、負けない――」
もう見た。一度、貴方の戦いをオレは視た。
ならば、もう負けない。
一度視た技は二度は通じないとは言わない。けれど、最初のようにはやられない。リターンマッチだ。
「――ぬ」
彼の用兵に食らいつけ。
彼の動きを読め。
エリちゃんの為に――未来を視ろ――。
発動する魔術礼装。
最大出力で演算される勝利への筋道。
ただ一直線に、そこを駆け抜けるために指示を出す。口で足りないのならば目で、それでも足りないのならば全身で、あらゆる全て血が沸騰するほどの高揚と、代価の中で、勝利へと駒を進める。
相手の攻撃はこちらには届かず、こちらの攻撃は何よりも効果的に相手へと届く。
――視ろ、視ろ、視ろ。
一秒先の生存を、二秒先の拮抗を、三秒先の優勢を、四秒先の勝利を、五秒先の未来を。
「良き、導き手がいるのか――敗れるとはな……」
ヴラド公を制す。
「不徳の極みは、吾の方であったか」
「あ、あの……おじ様?」
「貴様に、おじ様などと呼ばれる筋合いはない。そう呼ぶべきは王である吾であろう」
サーヴァントの側面とは、別人に等しい場合もある。
「でも、それでも……その、おじさまは、おじ様だし……
「そうだ。貴様は罪を犯した。世界は貴様のあの罪を数えぬだろう」
それはきっと彼だけが知っている罪。彼だけが覚えている罪。それはきっとありえざるどこかの
いや、いいや。あるいは、それはもうなかったことになったものなのかもしれないが――。
だが、彼は忘れていない。彼はおぼえている。他の誰でもない彼だからこそと言わんばかりに。
赦さぬ。そう言って彼は消えた。
「どっちが、正しいんだろうか……」
「どっちもだろうさ。どっちも正しくて、どっちも悪い。そして、そんなものは関係ない。世界ってのは、存続に有益なものだけを採用する」
罪深く、恥を知らず。それでもなお、とにかく償いをしようと顔を上げたエリちゃん。
一切の償いを認めず、ただ粛清を求めたヴラド公。
どちらも世界にとっては同じ罪なのだ。
そして、人理は、悪だろうと、なんだろうと、人理を継続させるために有用であれば、使う。そうでなければ、どのような正義であろうとも、不許可にする。
召喚されたのなら、鬼であれ、なんであれ、人理の継続を妨げるものではないということ。
「……うん、行こうか、エリちゃん。エリちゃんがやらかすのなんていつものことだし」
「ちょ、いつもじゃないわよ!?」
「それでも、前に進むって決めたのなら、オレはエリちゃんを応援するし、どこへだってついて行ってあげるよ。だから、行こう」
「――子イヌ……ええ、行きましょう、女王との決戦よ!」
城門を通り、城へと入場する。
「ん?」
何かどこかで感じたことのある気配があったような気が――。
「先輩? どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもない。行こう」
ここまで来ればもう敵はなく、玉座へと辿りつくのはすぐだった。しかし、ピラミッドが突っ込んでいるというのに、あまり壊れていない。
まあ、壊れていたら面倒だが、それならそれでいい。玉座の間には女王がいた。予想通りのクレオパトラ女王が。
「むぅぅぅ、まさか本当にたどり着くとは! 妾の対策が甘かったとでもいうのですかっ! いえ、落ち着くのよ、落ち着きなさい妾。この程度のこと想定済み。失敗はだれにでもあるもの。妾とて例外ではない。むしろ美しい女王にのみうっかりミスは許される。逆説的に、うっかりミスこそ女王の証ッッ!」
何を言っているんだろうか、この女性は……。
「あのー」
「――!? な、入っているのなら、入っていると言いなさいこのブタ! 驚いたじゃないですかよく来ました!」
「……まあいいや。うん。久しぶりですね」
「ええ、久しぶりです。相変わらず不健康極まりない豚ですね。そのような貧相な姿で妾の前に立とうとは無礼千万。少しは見てくれがよくなるように、食事を用意してあるので、むせび泣きながら食らいなさい」
相変わらずいい人だなぁ……この人。
「相変わらずいい人ですね先輩」
「そうだね、マシュ」
「良いですか? しかし、ああ、やっぱり……」
クレオパトラさんは、こちらの陣営を見てやっぱりと納得していた。
「やっぱり貴方方の仲間になっていましたね。本当に、厄介な男です。次から次へと仲間を増やしてやってくる。オジマンディアス様のようなカリスマもないというのに」
「いやー、ファラオの中のファラオと比べられるとオレなんてそこらへんのありも同じだし……」
「いえ、ますたぁはありなどではありません。ええ、わたくしの王子様です」
「………………」
「先輩が真っ赤です! 先輩、どうぞ手ぬぐいです。良く冷えてます」
「ありがとうマシュ」
不意打ちやめてほしい。
「ともあれ、普通に退いてはくれないですよね」
「当然です。そこの未熟者に任せておくよりも妾の方が、ずっと良い統治が出来ます」
「だそうですが、エリちゃん?」
「ぐ、それは確かにそう。でも――成功させるって決めたもの。だから、
「というわけで、エリちゃんの一騎討ち。それでいい?」
全員が頷いてくれる。全員でかかればそれこそ楽に終わるだろうけれど、これはエリちゃんの戦いだし、最後まで見届けるさ。
「行くわ!」
エリちゃんとクレオパトラの戦いの火ぶたが切って落とされる。
一進一退、どちらも譲らずに戦いを繰り広げる。霊基の差、格の差から言えばエリちゃんの方が不利。でも――。
「まあ、エリちゃんが勝つでしょ」
「……どうしてでしょう?」
「ん? 静謐ちゃんはエリちゃんが負けるって?」
「……客観的に見ればあちらの女王の方が強いです」
「まあ、うんそうだろうね……でも、まあ、勝つでしょ。エリちゃんが勝つって言ったし。オレはそれを信じてる。だから、エリちゃんの勝ちさ」
「ええ、その通りよ――!
どんな話をしてそんな結論になったのかはエリちゃんのみが知ることだけど、エリちゃんの宝具が直撃し、クレオパトラは床に膝を付けた。
「……まさか、
さて、あちらは勝負がついたし、
「今回の説明でもしてもらいましょうかね――オジマンディアス王」
飾りつけをみんながしている間に、彼と話す。
「フッ……気が付いていたか」
「なんとなくね」
この城に入ったときから、どこかで感じたコトのある気配を感じていたのだ。それにクレオパトラがあの方とか言ったから、十中八九いるかなと。
「それで、今回はどういう目的で?」
「クレオパトラの最後は知っているな?」
クレオパトラの最後。
ローマの将軍であった夫、アントニウスと対立していたアウグストゥスとの間で起きたアクティウムの海戦、それに敗れたアントニウスが死んだのちに、後を追うように自殺した。
プトレマイオス朝はすぐに滅び、国は消えた。
「ゆえに、この女は願いを持つことを忌避し、今の今までサーヴァントとしての召喚を拒み続けた。こやつは個人的な願いを持っている。聖杯戦争に参加しなければ叶えられない願いだ。だがな、それはファラオたるものの願いではない。市井にすらありふれている、他愛のない願いよ」
国を滅ぼしたファラオがそのような願いなど持ってはならないと彼女は思っているのだ。
「だが、いい加減、そんなことに苦しむのも煩わしかろう。ゆえに余が機会を与えたのだ。ハロウィンの間だけ、このさかさまとなったピラミッドにて、滞りなく女王クレオパトラとして執政せよとな」
「なるほど」
「そして、
「いやいや、アナタは馬鹿ですか」
「な!?」
いや、うん、馬鹿だろう。オレだって、エリちゃんみたいな状態なのに、この人はいったいなにを言っているのやら。
「両方持ってていいじゃん。オレだって、世界最後のマスターとしての立場と個人的な願望持ってるし」
世界を救うことと、マシュを救うっていう個人的な願いがある。
「だから、アナタだけが悩む必要はない」
楽しそうにあそこでかざりつけしているエリちゃんだってそういうさ。
「だから、変わりに言うよ。あなたはあなたらしくしていい。我儘になっていい。自分を押し込めるなよ。自分らしくさ。だって、人間は、どうやったって自分以外にはなれないのだから」
それはオレも同じこと。人は誰かの理想にはなれない。
どうやってもなれるのは自分だけ。
オレはそうエドモンに教えてもらった。
自分らしく行くことがどんなに大切なのかを教えてもらった。
「だから、クレオパトラらしくしていればいい。そして、夢があるのなら、諦めるなよ。待て、しかして希望せよ、だ。受け売りだけどね」
「…………そうですね。そう在ろうとしていたはずなのに、いつの間にかファラオとしての側面しか見せられないようになっていたのですね。ですが、それももうやめにします。
「子イヌー! クレオなんとかー! なにサボってんのよ! あんたらも飾りつけ手伝いなさいよー!」
「今行くよー――さあ」
「ええ――」
楽しいハロウィンの夜はこれからだ――。
なお、その後、エリちゃんライブによる死屍累々となったのは、言うまでもない――。
あと、マシュの服がとてつもなく、デンジャラスだった――。
どうしてランスロットも同じものを着ていたのかはわからないが、というかあんな汚物を思い出したくはないので忘れることにして、マシュが最高だった。
いつもよりちょっとぷにぷにそうだったのがいい。最近フォウさんがお団子持って行ってたけど、それのおかげか。グッジョブ。
頼光さんやブーディカさんも着ていた。汚物は知らん。
とにかく、デンジャラスだった。
もう、ゴールしてもいいよね。そう思うくらいに。
第二次ハロウィン終了。
次回は、クリスマスと思ったか違う!
贋作? 否。
カルデアボーイズコレクションだ!
サンタスパムちゃんは、フォウマ完了レベマまでもうちょい。
うたかたはレベル10に。次は聖者かな。
ボックスは八箱目くらい。20はいきたい。
あとフレンドを四人募集。
私とフレンドになっても良いという方は、メッセージでユーザー名、ID、聖杯転臨鯖、サポート編成を送ってください。
名前が面白い方、聖杯転臨鯖が面白い方、イベント参加率高い方を優先して私が選びます。
これは条件ではなく選考基準です。
誰にでもチャンスはあります。私が良いと思った方にはメッセージでお返事してから申請致します。
私のユーザー名はテイクです。
あとは、私のカルデア
星5あげときます。
剣:沖田、アルテラ、アルトリア
弓:イシュタル(宝具レベル2)、ギル、オリオン
術:孔明、イリヤ、玉藻
殺:ジャック、酒呑、クレオパトラ
狂:ヴラド公
裁:天草、ジャンヌ
聖杯:100レベエレナ、90レベタマモキャット
よろしくお願いしまーす。