「ぐ、ぬぅ、効いたわ。芯に響くよい一撃だ盾の娘よ」
軍勢をつぶしたら、固有結界も解除された。こちらの勝利といえるだろう。
「うむ、余の負けだな。まさか負けるとは思ってもおらんかったぞ。だが、良い采配であった異邦のマスターよ」
「そっちもゴールデンを踏み台にして向かってきた時はどうしようかと思った」
正直、もれるかと思いました。いや、ちょっと漏れたかも? それくらい怖かった。巨漢が向かってくるのは怖い。それも空から。
怖すぎるわ。もしもの時に伏せておいたクロまで出さなけばいけないのかとひやひやしたよ。
「うむ、それで、勝者に従うが敗者の定めよ。この首、好きにすると良い――が、ものは相談なのだがな? そこな娘が出す武器はいくらでも出せるのか?」
「クロの投影?」
「おおう、そうだ。そやつが作った武器、どうにもあのアーチャーの宝具も混じておったろう。相談というのはだな、余の王の軍勢にその娘が作った武器で武装させてはどうかという話だ。間違いなく最強の兵団が出来上がる」
「ほほう……」
それはそれでいいかもしれない。あのアーチャーギルガメッシュの宝具はクロ曰く、すべての原典だっていうし、それをあれだけの軍勢に武装させることが出来ればかなりの戦力だ。
それは――実に、ロマンがあると思う。
「なあにを言っているますか、おまえはー!?」
「負けたのだから、建設的な提案をして余の価値をあげておるのだ。敗軍の将ゆえな。なに、諦めてはおらぬ。いずれ再戦の機会を待つ。そのために、まずは余の軍勢の強化よ」
「なんというか、すごいですね、先輩……」
いやはや本当――。
「く、抜かれた! 気をつけろマスター!」
「む――」
二世の声が響くと同時にアイリスフィールの背後に、サーヴァントが現れる――。
「クロ!」
「わかってる!!」
転移により、背後に移動、斬撃――サーヴァントはそれを躱す。逃がさない――取り囲む。
「…………」
「二世?」
「我が陣に引っかかった。見たこともないサーヴァントだ。この時代にはいない者。おそらく、この特異点発生の鍵だ」
「…………」
狙いはアイリスフィールか。
「やらせないわよ!」
「――――イレギュラーのサーヴァントが多いな。ここは撤退を――」
「逃がすものか。そういうおまえもイレギュラーだろう。マスターは、いや……待て、なるほど、そういうこともありうるのか。であれば、おまえは、マスターなきサーヴァントだな?」
「嘘でしょう!?」
なんだかアイリスフィールとかセイバーが驚いているけど、マスターなきサーヴァント? 特異点では、普通だな! むしろマスターがないだけ自由に動きまくりで大変なんだよ。
聖杯は七騎のサーヴァントしか呼べないから、彼は完全にイレギュラー。となると、確実にこの世界に対して呼ばれてきた存在なんだろうなぁ。
それがアイリスフィールを狙う。ということは、直感と心眼が囁く。もしかして、彼女がこの特異点発生の原因を握ってる?
発想が飛躍しすぎなきがするけれど、大抵特異点に召喚されるサーヴァントは、特異点化の原因を狙うか、この特異点の中で世界を償却しようとする。
あのサーヴァントがどちらかはわからないけれど、どちらにせよ、狙われるということはこのアイリスフィールさんが、特異点化させた原因か、あるいはそれを解決するための鍵かのどちらかということになるはず。
今までの経験上だとそう。だとしたら、もしかしたら彼女には本来の、二世が経験したという第四次聖杯戦争との大きな差異があるのかもしれない。
「二世」
「なんだ、この世な時に」
「アイリスフィールさんって、マスターじゃないんだよね?」
「そうだ。彼女はセイバーのマスターを偽り、本物のマスターを隠していた」
「じゃあ、確認してくる――アイリスフィールさん、令呪見せて?」
「え、あ、これ?」
確認。
「令呪だと!?」
「二世が驚くってことは、これが一番大きな差異ってことでいいのかな?」
「……そうか、それならば、頷ける。そうか、早すぎるのか。本来なら完成まで、あと10年は費やすはずだったアインツベルン家の究極にして至高のホムンクルス。そうか、とすれば、この時代、この聖杯戦争において、聖杯は降臨する――」
十年というアドバンテージは大きいと二世は言う。アインツベルンは姑息なゲリラ戦ではなく、正攻法に勝算を見出すことができたからだ。
そして、カルデアが検知したのはアイリスフィールの魔術回路。完成度はもはや疑似聖杯と言っても差し支えのないものと化しているのだという。
「――何を、言っているの……?」
「これはもはや勝ったも同然だ。そして、その勝利がもたらすものは……世界の介入を行わせるに足るものだ」
「聖杯が……?」
「そうだ、これは告白するつもりなどなかったが、開示する。冬木の聖杯の完成は世界を滅ぼす」
「いったい、どういうこと?」
「いいだろう、すべてを開示する。そちらのサーヴァントも良いな。おまえが世界を救う方法を提示してやろう。それも徹底して完遂できる方法をな」
「……それは、このホムンクルスを破壊するよりも確実で容易な方法なのか?」
「まぁ、まったくもって容易ではない。が、そこは逆に問わせてもらおうか英霊よ。おまえは容易でさえあれば手段を選ばないのか? このアイリスフィールをぜひともその手で殺してみたい、と?」
英霊は止まる。そして、わからないと、考えもしなかったと答えた。それ以外に選択肢などないとでも思っていたように。彼は観念していたのだ。
だが、彼は別の手段がとれるのならば、それを探ってみたいと思うと口にした。
「なるほど――抑止力による英霊か。覚えておけ、マスター、アレが世界と契約した者の姿だ。おまえは、そんな風にはなるなよ。良いものでは見る限りなさそうだからな」
「…………」
「さて、では大聖杯に向かうとするが、その前にだ、バーサーカーのマスターとの契約を果たす」
イスカンダルと金時がバーサーカーのマスターの屋敷に突撃。何やら虫を轢き潰しまくり、そこにいた女の子を助け出した。
その過程で、なんかおじいさんみたいなのを徹底的にスカサハ師匠が刺し穿っていたような気がするが気のせいだろう。スカサハ師匠がそんなことするはずもないし。
「うぐ、きつい……」
「先輩、大丈夫ですか?」
バーサーカーのマスターは虫の息で、これ以上サーヴァントの契約をさせるわけにもいかず大聖杯がある場所に向かう前に、こちらで引き継ぐ羽目になったのだが、
「これ、やっぱり、きっつい」
シータに魔力供給していた時もそうだけど、それ以上。なにこれバーサーカーだからってこんなに魔力食うのか。カルデアのサポートってやっぱり偉大だと再認識だ。
「大丈夫?」
「なんとか。それより話を進めて」
「そう――それで、大聖杯が反英雄に汚染されているのは本当なの?」
「百聞は一見に如かず、だ。何よりもまずは実物を見てもらうのが一番早い」
とりあえず、あちらの話はあちらに任せるとして――。
「なに?」
ウェイバーがさっきから、こちらと話したそうにしている。何か用だろうか。
「いや――」
「ほれ坊主、さっさと言わんか。聞けるのはおそらく今だけだ。いろいろと聞いておいて損はあるまい」
「……おまえに言われなくてもわかってるわい! ――僕には、いろいろとわけがわからないことが多いんだけど、これだけはわかる、あんたは、そうなんかとんでもないことに関わってるんだよな」
「まあ」
成り行きで人類最後のマスターという奴になり、いくつもの特異点を修正してきた。言葉にすればそれだけで、内容にすれば、それだけに済まない。
よく、まだ無事に生きているものだと思う。ああ、全然無事じゃなかった、片腕が義手になって、心も壊されたっけ。
本当、マシュがいなかったら、やめてるなとっくの昔に。
「怖くないのかよ、そんな風になって、サーヴァントをたくさん従えて」
「怖いよ。怖いさ」
「じゃあ、なんで」
「それでも誰かがやらないといけないことだからというか、オレにしかできないことだからっていうのと、何よりマシュがいるから」
「女の為にやってるのか!?」
「いやいや、坊主、それがなかなか侮れんのだ。というよりだ、英雄なんてものはせいぜいそんなものだ。余とて、
そこまで大層なものじゃないけれど、まあ、そういうこと。
「怖いし、やめたくなる時もある。けれど、マシュがいるから、みんながいるから、オレは前に進めるんだ」
「……なんだよそれ」
「まあ、ウェイバーにもいつかわかると思うよ」
誰かを好きになって、それが男か、女かはわからないけれど、その人がいるから、その人に追いつきたいから、その人と肩を並べたいから、その人の隣に立ちたいから、そんな誰かに聞かれたらくだらないと言われるような願いを掲げて、前に進む、そんな風になれると思う。
「――む、ほう、どうやらアサシンめ、ここきて集まっておるようだぞ」
「最後の決戦でも挑むのかな?」
「うむ、ここは余に任せてもらおう」
イスカンダルに任せたら安心だな。
「じゃあ、任せるよ。それでいいウェイバー?」
「なんで僕に聞くんだよ」
「ウェイバーはライダーのマスターでしょ。なら、指示を出すのはウェイバーだ」
「――わかった。ライダー、アサシンを倒せ」
「うむ、了解したマスター、では少々行ってくる」
しばらくのちに、アサシンを倒したイスカンダルが戻ってきた。暗殺者なのに真正面から挑んできたとかいう意味不明状態だったらしい。
その間に、こちらは大聖杯の前へとやってきた。特異点Fでセイバーと戦った場所だ。
「どうかね、ここまで来れば歴然だろう」
「中身を検めるまでもなく、内に潜む邪悪の気配がひしひしと伝わってくる」
「うむ、これはなるほど、悪神とはそういうことか。これはまた私の望む者ではないらしい」
「これはうかつに壊して良いのかのう」
敗退したサーヴァントは、アーチャーとアサシンのみ。まだアンリマユの覚醒には至っていない。
「ゆえに、中身があふれ出たとしても、今はまだ、指向性のない曖昧な呪いの塊だ。ここにそろった戦力だけで充分に対処できる」
「セイバー、お願いできる」
「――ええ、このようなもの断じて私の望む聖杯ではない」
彼女の聖剣ならば大聖杯を吹っ飛ばせるだろう。あとはそこからあふれ出したものに対処する。それでいい。
「では――」
聖剣が放たれ、光の柱とともに全てが吹き飛んでいく。あふれ出したものをそれぞれが対処することで、被害は最小限に抑えられた。
「これで、もう二度と聖杯戦争はできまい」
「世界の危機は去った、ということか」
「どうだ、抑止力の英霊、彼女を殺さずともよかっただろう」
「…………」
「あ、みんな……」
冬木の聖杯に呼ばれていたサーヴァントが消えていく。英霊の座に帰るのだろう。
「彼らは冬木の聖杯に呼ばれていたから――」
「消えるのか……ライダー」
「うむ、なんとも、此度の遠征は散々だわい。だが、うむ、面白くはあった。世界制覇は次の機会を待つとしよう。それまで、男で磨いておけよウェイバー」
「――最後まで余計なお世話だ!」
「ああ、それとだ、そこのしかめっ面の軍師」
「……私か」
「ああ、そうよ。今度はお主とも本気で戦ってみたいものだ。どうにも、そういう気がしてならん。お主をそうまでした男というのには興味があるのでな」
「――まったく、あなたという人は」
「ではな、異邦のマスター、今度会う時は、味方でもよいがやはり敵が良い。また、戦おうではないか!」
本当、最後の最後まで気持ちよく去っていったものだ。
「では、我が主、これにて」
「ああ、戦いなどほとんどなかったのはすまないとは思うがね」
「それには不満がありますが、最後まで主の下で戦えたのです、此度はこれで満足しましょう。それに、どういうわけか、この結末は非常にマシだと何かが叫んでいるのです。では――」
ディルムッドもまた去っていく。
「お疲れさまでした……というほとでもありませんでしたね。ほとんど何もしていないようなものですが、望ましい結末で良かったと思います。では、お別れです。皆さん」
アーサー王も暁に去っていく。
「ふむ、次は私か」
そういえば二世も冬木の聖杯を使ってきていたんだっけ。
「満足だった?」
「ああ、最悪は避けることができた。あの時の心残りもな。ウェイバー・ベルベット、せいぜい腕を磨くことだな」
「なんだと! ――でも、わかったよ」
「ではな。今度も味方であると良いが、こればかりは私でもわからん。我が計略が必要となったら呼べ、そちらに行くことができるかは運しだいだが、なるべく努力はしよう」
その時は、頼むとしよう。
冬木のサーヴァントは全員が英霊の座へと帰った。
「これで、解決で、よろしいのでしょうか」
「そうだね」
「いや、まだだよマスター。そこの聖杯になり得たかもしれないという可能性の存在だった、ミス・アイリスフィールの身の振り方をどうするかを決めないと」
「そちらの博士の言う通りね。聖杯戦争が無意味になった今、私は存在価値そのものを失ったも同然だもの」
そもそもこの手で大聖杯を破壊してしまった手前帰るに帰れないだろうし。
「ねえねえ、お兄ちゃん」
「なに、クロ?」
「わたしたちの目的って、特異点に出現した聖杯の回収も含まれてるのよね」
「そうだけど――ってまさか?」
彼女をカルデアで保護するってこと?
「うん、それはいいかもだ」
「ドクター、大丈夫なの?」
「彼女が極めて聖杯に近いからこそできる荒業ともいえるけどね。放置したら放置したで、大変なことになるかもしれないし、ボクらの庇護下に入ってもらえるのなら、それに越したことはない」
「……寄る辺のない身にとっては、またとないお誘いね。ええ、それならば是非。この身は、貴方方の手にゆだねます。どうかよろしく、違う世界のマスターさん」
「よろしくお願いします」
「鼻の下伸びてるわよ、お兄ちゃん」
「伸びてない伸びてない――」
こうして此度の特異点は解消した。
だが、この時、オレはまだ知らなかったのだ、カルデアでお留守番をしている彼女が、懲りずにまた、アレの準備をしているということに――。
というわけでゼロイベ終了。正直、孔明の物語だから、ぐだ男のやることがないというね。
次回は、カボチャ村。
残念ながらイバラキンは出ない。カルデアにいないからネ。無課金カルデアだから仕方ないネ。
代わりにアイリさんとブーディカ姉ちゃんがでる予定。
そして、ライコー、静謐はおやすみ、我様が火山地帯で待ち受ける!
ぐだ男に危機が迫る時、現れる赤い褐色ロリ!
「足止めするのは構わないんだけど、別にあの金ぴかたおしちゃってもいいのよね!」
「たわけ! それはフラグだと言ったのだ!」
とかで紅茶出てきてもいいんじゃないかなぁー。
まあ、予定は未定ですが。