Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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Fate/Accel Zero Order 4

 それから数日後、森の中でバーサーカーのマスターを見つけてこちらに懐柔し、アーチャーを倒そうという話になったのだが――。

 

「すごく、酒盛りです……」

 

 なんで、ノッブとスカサハ師匠も混じってるんでしょうかねぇ。ちゃっかりノッブが日本酒持参してるし。

 

「うむ、飛び入りだが、名のある英霊と見た。それもこの国の者か?」

「そうじゃ。わしこそ、第六天魔王織田信長、尾張の王よ。王の格を比べるのじゃろう。ならば、わしも混ぜい」

「ほう! この国の者とは! 良い良い。名を隠さないのも良いな!」

「スカサハ――影の国の女王だ」

「ケルトの、うむ、ならばこれより聖杯問答を始めようではないか!」

 

 ――聖杯は相応しきものの手に渡る。

 

 その闘争が聖杯戦争。だが、見極めるだけならば、血を流さずとも良い。英霊同士、互いの格に納得がいったのならばそれでおのずと答えは出る。

 

 そうイスカンダルが話し、集まった王様連中はここで格付けを行うらしいのだが、まあ、完全に酒盛りである。酒樽担いでTシャツ姿のライダーが始めた聖杯戦争ならぬ聖杯問答。

 酒杯に己が英霊の格を問うのだという。そのさなかにアーチャーが杯を取り出して、それがべらぼうに美味い酒だったとかいろいろとすごいことになっている。

 

「まずは、己が大望を。自らを捧げるに等しい、聖杯への大望を聞かせてもらおうではないか」

「うむ、わしの望みか。ないのう。わし、本能寺で殺されたが、なに、別段、悔やんでおることもなし」

「ほう、それでは自らの生に満足していると?」

「いいや、満足など程遠いのう。後悔がないというただそれだけじゃ。わしの五十年全部無駄だったのじゃしの。だが――聖杯を使ってまで叶える大望? 阿呆か。聖杯で叶える望みなどいらぬわ。あんなもん爆弾にしかならん。自分でやってこそじゃ」

「うむ! その点は大いに共感を得られるところだ! では、そっちの女王は」

「さて、儂とて、女王というには孤高に過ぎたからな聖杯なぞに掛ける願いは私には無い。……と、言えればいいのだが――今は、そうだのう冷やした杯に酒を注げば、真夏の宴にはふさわしかろうな」

「ふむ、何かしら深い事情がある様子――」

「フン、雑種の望みなど聞く価値もないわ――そもそも」

 

 とりあえず、非常におっかないことこの上ない、奴らの酒盛りほど近づかない方がいいものはないので、マスターはマスターで話し合おう。

 

「あ、あなた、バーサーカーと手を組んだの? いったいどうして?」

「こ、ここで僕らを襲う気なのか?」

「いや、それはないといえばないし、あるといえばあるんだが――まあ、狙いは君たちじゃなくて、あっちの金ぴかだから安心してほしいとだけ」

「安心できるかばかー!」

「あれが、遠坂のサーヴァント――!」

「む、誰の赦しを得て我を見るか、狂犬めが。その不敬、万死に値するぞ」

「おいおい、宴をぶち壊しに来たのなら、我らの敵ではないか?」

「ならぬ。我が法を犯した賊は我が怒りによって裁定する」

 

 そして、どういうわけか、独自理論があるのだろう。アーチャーはバーサーカー――ランスロットと戦うらしい。

 それは王様たちの間でも了解となる。

 

「良し、交渉成立だ。なら、こちらも介入するぞ!」

 

 ――だが、おい冗談だろう――。

 

 オレは叫びだしたくなるのを必死にこらえていた。展開される宝具――アーチャーが打ち出すのは数千を超える宝具だった――。

 そもそも――なんだ、あのサーヴァントは! そう言いたかった。オジマンディアスと同等どころの話じゃないだろアイツ。

 

 通常の英霊の三倍以上の圧力。足が震えるどころか、身体が生存を放棄しそうなほどだ。視界が、歪む。我知らず喘いで、強烈な眩暈が襲う。呼吸困難。眩暈。

 呼吸が、止まる。恐怖で。息を吸っても、吐いても、空気が肺に入って行かない。苦しさを感じる。息をするという生物が普遍的に行う呼吸が止まって、苦しくない生き物はいない。

 

 今までの特異点で培ってきた戦術眼が、断定する。

 あれは、破格のサーヴァントだ。

 

 恐怖に混濁する意識と、歪んだ視界がありとあらゆる全てを呑み込んでいく。

 全てが漆黒に染まりそうになるその刹那――。

 

「しっかりしなさい、このおばか!!」

「――――っ!!」

 

 喉を空気が通る。弾かれるように、身体が跳ねて、酸素が脳に回る。

 

「クロ……」

「察しが良すぎるのも考えものね――任せなさい。わたしがなんとかしてあげるわ」

「――――」

 

 何をやっているんだ、まったくオレは。今まで、あれくらい怖い相手はいただろう。この程度で膝を屈しかけてどうするんだ。

 

「ごめん」

「本当、手のかかるお兄ちゃんね。さあ、指示を頂戴!」

「ああ、あいつを倒すぞ」

 

 まずは見定めろ。

 

「マシュ!」

「はい、お父さんは心配ないでしょうが、だらしないので守ります!」

 

 ランスロットは手にした武器を己の宝具にできる。降り注ぐ宝具の弾幕は彼の武器そのもの。それで切り払い、駄目になれば、新しいのを。

 

「雑種が、我が財に触れるか」

 

 その傲慢、許さぬ。

 

 その言葉の通り、射出数が上がっていく。あのままではいかにランスロットと言えど限界が来る。ゆえに――。

 

「クロ!」

「ええ――」

 

 彼女をぶつける――。

 

 彼女は投影魔術を使える。彼女の核となった英霊がオレは何かはわからない。だが、彼女が言うには、武器を解析し――投影することができる。

 ならばあの降り注ぐ宝具もまた同じであり、同種をぶつけるならば、相殺可能。だが、スピードが追いつかない。

 

 だから半分。ランスロットと半分。それでも足りないのなら。

 

「スカサハ師匠!」

「応とも!!」

 

 朱槍を蹴ればそれは分裂し増えて飛翔する。宝具の打ち合いとなるが、これで担当は三分の一。

 

「もう一つじゃ――」

 

 燃え上がる世界。

 

「固有結界――!?」

 

 神を否定する、神を殺した天魔王のみに許された、心象風景の具現。

 

「神は死ね、役に立つのは肉の袋を持ったものよ――」

 

 三千世界に広がる火縄銃が彼の宝具を打ち落としていく。これで四分の一。

 

「なあ、大将オレっちは?」

「ジキル博士と一緒にオレの守りでよろしく」

 

 アーサー王とイスカンダルもいるから、警戒だけはしておこう。

 

「AAAAAAA――!」

「おのれ! 雑種風情に本気を出さねばならぬとはな!!」

 

 さらに上がる宝具の射出密度。

 

 放たれる投影された剣。ランスロットもまたその絶技で切り払い、危ないものをマシュが防ぐ。もはやオレの指示を出す暇などない。

 

「――――」

「悔しいか」

「二世……」

「己の力のなさは悔しいな。ああ、わかるとも。私もかつては、そこで転がっているサーヴァントのステータスもまともに読み取れないばかたれのようになにもできずに転がっているしかできないほどに無力だった」

「なんだと!? そっちの奴だって、僕と同じで何もできてないじゃないか」

「黙っていろ。ならば言うが、貴様、サーヴァント戦闘において、的確な指示ができるか」

「そ、それは。ライダーは聞かないし」

「だが、こいつはできる」

 

 アーチャーギルガメッシュが、本気を出す前まで、どれを切り払うか、はじくかを全て指示していた。それはもう早口とかじゃなくて念話で思うだけで伝えた。

 だが、もう追いつかない。

 

「――――」

「貴様にはできないだろう。こいつは、貴様の何段も上にいる」

「そんな大層なもんじゃないよ」

 

 経験の差だ。

 

「だが、その経験の差が大きい。悲観することはない。おまえは、最善を選んでいる。この私が保証しよう」

「大軍師のお墨付きか、ありがたいね」

 

「――これで!」

「たわけ、贋作の贋作如きがこの我に傷をつけるなど――」

「でしょうね」

 

 もとより決着をクロが付けられるとは本人も思っていない。

 

「こういう強敵相手ってまあ、上等なんだろうけど――そろそろどうにかした方がいいぞ――」

 

 直死が、死をもたらす――。

 

「おのれッ! なんたる茶番か……ッ!」

 

 ギルガメッシュが消滅。これにより、障害はアサシンのみか。

 

「ハァ……ハァ……見たか……! これで、俺は、時臣に、一矢を……」

「マシュ、バーサーカーを!」

 

 バーサーカーのマスターがもう限界だ。このままだとランスロットが暴走する。どういうわけか狂化している影響なのか、マシュ曰く放っておくとアーサー王に突っ込んでいくらしいのだ。

 

「はい! お父さん、ステイ!」

「――――」

 

 それで止まるランスロットもランスロットだと思うの……。でも、第六特異点だと、止まりそうなだなぁ、というか止まったしなぁ……。

 

「――さて、それでは話をさせてもらおうか」

「うむ、納得のいく説明をしてもらいたいところではあるが。そこなバーサーカーのマスターは大丈夫なのか?」

「ああ、問題ない。魔力を使いすぎただけだ」

「うむ、ならばいいが――まずは、そこのマスターから説明をもらうとしよう」

「オレ?」

「ああ、お主の存在が一番わからん。そこな人間とも英霊ともつかぬ奇妙奇天烈なサーヴァントもそうだが――そやつはどうやら此度の聖杯戦争に招かれておる。ならばこやつもまた聖杯を賭けて戦うに値する者だ。だが――七騎もの英霊を従えているマスター、お主だけが、この聖杯戦争のルールの外にある」

 

 なるほど、言い得ている。ならばこそ、この場を収めるのは二世ではないな。というか二世はなにやら感極まっているんだが、まあともかく、ここは何も知らない方がいい。未来の情報を知っていると、どうしてもそれに頼りがちになる。

 最適解を進むことと最善を目指すことは違うのだ。

 

「まあ、何が何だか状況も何一つわかってはいないんだけど――どうやらこの聖杯戦争、普通に終わらせたら駄目らしいんだと」

「ほう、してそれが真だとして、それはこちらの問題だ。お主たちが介入するのは何のためだ」

「――人類史を世界を救うため。そして、オレの好きな女の子を救うためってのがオレの目的になるかな」

「なるほど、なるほど……うははははは!!」

 

 イスカンダルは豪放磊落に笑った。

 

「なるほど、世界を救うと来て、その次に女もか。うむ、良い。実に良い欲だ。世界だけでも大きいというのに、さらに手を伸ばそうとする。うむ、実に良い大願よ」

「そういうわけで、今回はこっちの軍師殿に従っているわけなんだけど、こちらとしては敵対するなら、倒させてもらうよ。なにせキャスターを倒す必要がないのならもう一枠落とせる」

「うむ、それこそ望むところである。障害は乗り越えてこそ、余の蹂躙制覇よ。しかし、余とて七騎のサーヴァントを余一人で相手をするのはいささか厳しい――」

「――おい、待て、待て!?」

「――であれば、余とて本気にならねばなるまい?」

 

 世界が変わる音を聞いた――。

 

「――――っ!!」

 

 次の瞬間、荒野にいた。蒼天を抱く、果てのない荒野。

 晴れ渡る蒼穹に熱風吹き抜ける広大な荒野と大砂漠。

 

 固有結界――。

 

 そして、彼を先頭に現れる軍勢――。

 

「うそ……あの一騎一騎がサーヴァントですって……!?」

「見よ、我が無双の軍勢を!」

 

 征服王イスカンダルの心象を見るが良い。我らが軍勢に刻まれた心象を見るが良い――。

 

「肉体は滅び、その魂は英霊として『世界』に召し上げられて、それでもなお余に忠義する伝説の勇者たち。

 時空を越えて我が召喚に応じる永遠の朋友たち。

 彼らとの絆こそ我が至宝! 我が王道! イスカンダルたる余が誇る最強宝具――王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)なり!!」

 

 ――恐ろしい以上に、その姿に、その雄姿に、魅了された――。

 

 なるほど、男が男に惚れる瞬間とはこういう瞬間を言うのだろう。熱に浮かされたように。いいや、文字通り、彼が抱いた大願に、大望に、望みに、欲に、夢に――その背が放つ圧倒的な熱が、己の魂を震わせるのだ。

 なるほど、彼こそが王だ。

 

「――――」

 

 セイバーはそれを見て、口を結んでいる。何を想う。円卓の王よ。どうしてそこでそんなに悲しそうな顔をするのかわからない。

 でも、今は、そちらを気にしてもいられない。

 

「ああ、どうしてこうなる! こうならないように――」

「なってしまったものは仕方ない。やるからには勝つよ。あんな男の挑戦を受けたんだ、だったら、買わないと失礼だしね。それに、こんな切り札を出されたってことは、これを使うに値する敵だと認められたってことでしょ?」

「――――まったく、だが、あの軍勢相手だ、勝てるとは限らんぞ」

「生憎、軍勢相手は慣れてる」

 

 ケルトの軍勢より手強いし、怖いが――なんだか、やらなきゃっていう気にさせられる。相手がイスカンダルだからだろう。

 本当に大きな男だと思う。だったらやらないと。

 

「マスターが、いつになくやる気です!」

「なんというか男の子よね、こういうとこ」

「うはは、良いぞ、軍勢を相手にするならば、わしの出番じゃ! なあに寡兵? 関係ないわ。三段打ちの餌食にしてやるわ」

「うむ、久方ぶりの軍勢の相手か――ああ、腕が鳴る。世界を壊す心配もないのならこれほど良い戦場もあるまい」

「ゴールデンにぶっ飛ばしてやるぜ。この砂漠だ、ベアー号をフルスロットルでかっ飛ばしてやんよ」

「それじゃあ、わたしたちはマスターの守りね。あんたら三人でなんか十分そうだし」

 

 そもそも軍勢戦において対軍を持つ彼女らの独壇場だろう。

 

「ああ、それならば、いくらかサーヴァントを借りたい。どうやら、アサシンでもないネズミが入り込んでいる」

「ネズミ? じゃあ、式、ジキル博士、頼んだよ」

 

 何が来ても彼らならば大丈夫だろう。だから、こちらはこちらに集中する。

 

 

「さて、では戦と行こう。異邦のマスターよ。そして、見ておれ余のマスター、おまえが目指すべきは、あのような男であろうさ。諦めずに前に進めるそんな男になるがよい。自らの弱さを呑み込み、前に進め」

「ライダー……――何言ってんだばかやろー! まるであいつに負けるみたいじゃないか!」

「ん? おお、なに、いう事言っておかんとな、ヒトはいつ死ぬかわからん」

「おまえは僕のサーヴァントだろ! なら、勝って当然だ!」

「うむ、ならば勝つとしよう――」

 

 ――王とはッ――誰よりも鮮烈に生き、諸人を魅せる姿を指す言葉!

 ――すべての勇者の羨望を束ね、その道標として立つ者こそが、王。故に――!

 ――王は孤高にあらず。その偉志は、すべての臣民の志の総算たるが故に!

 

 ――然り、然り、然り。

 

 イスカンダルの言葉に軍勢が応える。大地を揺るがす大喝破。

 

「いざ、蹂躙せよ――!!」

 

 騎乗し、疾走するイスカンダル。なんとも、彼が先頭となり、それに続く彼の盟友たち。オレは前に出られない。だが、それでも――。

 

「ノッブ!」

「三千世界に屍を晒すがよい――天魔轟臨! これが魔王の三千世界(さんだんうち)じゃあ!!」

 

 長篠の三段撃ち。三千丁の火縄銃を展開、一斉射撃。戦国最強の騎馬軍団を打ち破った余りにも有名なその逸話から、騎乗スキルを持つ英霊には攻撃力が増加する。

 騎乗スキルを持たない英霊にはただの火縄銃であるがライダー自身はその高い騎乗スキルを持ち合わせているだろう。

 

 それでなくとも――三千丁の火縄銃が休むことなく放たれるのだ。それだけで脅威となる。それでもあれだけの軍勢だ、全てを倒すには足りない。

 三千丁でも足りない英霊の軍勢。恐ろしいことだ。だが――。

 

「右翼に斉射」

 

 軍勢の動きを読み、効果的に射撃すれば寡兵でも倒せるとノッブは言っていた。ゆえに、ここはオレの領分。先頭を征くイスカンダルの騎馬を三段打ちが蹂躙するが、戦車に騎乗してからは効果が薄い。

 ならばこそ、ノッブは部下を処理してもらう。次は――。

 

「スカサハ師匠」

「任せよ――ちょっぴり、本気だ――蹴り穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)

 

 分裂する朱槍が雨のように降り注ぐ。対象の命を奪う死の槍からは逃れることなど不可能。されこそ、数多の勇士が畏れた蹴りボルク。

 そして、目の前に来るイスカンダルを止めるのは、

 

「金時!」

「そんじゃあカッとばそうか! ベアハウリング! ゴールデンドライブ――!」

彼方にこそ栄えあり(ト・フィロティモ)――いざ征かん! 遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)!!」

 

 激突する戦車と二輪車。

 雷気を迸らせる神牛の蹄と車輪による二重の攻撃に加え、雷神ゼウスの顕現である雷撃効果と超加速突撃形態へと変形したゴールデンベアー号による突撃が激突し、界が軋む。

 両者弾かれる、その時――。

 

「オレを踏み台に!?」

「いかに強大なサーヴァントであれど大将をとれば終わりは戦の常道――!」

 

 吹き飛ばされたゴールデンを空中で踏み台にし、こちらに迫るイスカンダル。

 

「ああ、そうだマシュ!!」

「はい!!」

 

 だからこそ――マシュがここにいる――。




じゃんじゃん行きますよー。
アーチャー戦とライダー戦。クリスマスまでにできる限りかたずけておきたいので、頑張ります。

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