Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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Fate/Accel Zero Order 2

「話――だと?」

 

 どこからともなく声がする。それはディルムッドのマスターの声。二世の言葉に、反応したようだ。

 

「ふむ、どうやら只者ではないようだな。だが――なぜ私がランサーのマスターだと気が付いた」

「ケイネス卿、我々は御身の支援にはせ参じた者です。故あって名は秘さざるを得ないのですが、ここはひとまずレディ・ライネスの名代とだけ申し上げておきます」

「ライネス……我が姪の? いったいどういうことだ?」

「それを話すには、少々この場ではいささか不用心でしょう。ですが、これだけは信じてもらいたい。我々は、御身を勝利させんとここに集ったのです。聖杯戦争の予備システムに介入し、御身の助けとなる七騎のサーヴァントも用意いたしました。しかし、こちらも準備がある、明日の22時に冬木ニュータワー最上階のスイートをお訪ねいたします」

 

 よくもまあ、こう不測の事態だろうにぺらぺらと舌が回るというか、いつの間にかこちらも協力させられる流れだ。

 ただ、これ以外に情報源もないのだ。明らかに、通常の特異点とはことなり様々な勢力がある様子。少なくとも、アーサー王とこちらのアーチボルト? という陣営があるし、百貌のハサンもいる。

 

 こうも入り乱れているとなると何が正しく、何が間違っているのかも判断が付かない。となれば、ともかく情報。ここで起きている事態を知る必要がある。

 

 その間に、二世とディルムッドのマスターと話は付いたのだろう。こちらの実力を見せる必要はなく、先ほどスカサハがディルムッド相手に見せたものとしていろいろと苦心して処理しているようだ。

 

「……このまま、ついて行っていいものか」

「なんじゃ、不安か? なに同盟相手に裏切られることなど慣れておるから問題なしじゃ」

「ノッブがいうと説得力が段違いだよ。ドクター?」

「うん、今は、どうしようもない。どうにも、こちらが知っている歴史とその特異点はいろいろと食い違っているみたいだしね」

「なに、任せよ。なにかあれば私が本気を出すさ」

 

 スカサハ師匠がそう言ってくれるのなら安心だ。

 

「話はついた。移動するぞ」

「ちゃんと説明してくれるんだろうな?」

「ああ、おまえたちを野放しにすると確実に面倒な事態を引き起こしかねん。私が止めなければ、先ほどランサーとセイバーと戦っていれば倒していただろう。それでは困るのでな。ならば、こちらに足りない戦力として使うのが一番効率的だ」

「なるほど……」

 

 というわけで、二世に連れられて移動したのは駅前の喫茶店だ。スタバとかそういう奴。久しぶりの喫茶店にオレはなつかしさを感じていた。

 人も多い。そのことが、こんなにも懐かしいとは思わなかった。そして、それだけ、オレが遠いところに来てしまったのだなと気が付いた。

 

 あの時、ラーメン屋の店主に教えられたままにカルデアに行って、マシュと出会って、特異点を旅して。そんなことになるって言ってもあの時のオレはきっと信じないだろうなぁ。

 

「せ、先輩! ここがあの有名なスタバというものなのですか!?」

「あー、そっかマシュは初めてだっけ」

「はい、ヒトの営みというのは初めてで、そのそんな状況というわけではないのですが、とても楽しく」

 

 そうだろうねぇ。移動中も自動販売機ではしゃいでたし。夜の繁華街とはいえちょっとおかしな子扱いされて生暖かい視線を受けてたし。

 それはまだましな方で面倒なのはスカサハ師匠だった。ものすごい美人なのだ。ちょっと声をかけようと思うような奴らもいたわけで、その都度いろいろと面倒くさいことに発展したりとここに来るまでに時間を使ってしまった。

 

「すごいですよ、金時さん! こんなにも――」

「おお、こいつはゴールデンだぜ!」

「うはは、みよ、このノッブスペシャルを!」

「あんまはしゃぐなよ」

 

 ……楽しそうだなぁ……。うん、楽しいのだろう。とりあえず、金時がいれば誰もが認める眼鏡美少女であるマシュにも、女子高生の格好してるノッブにも誰も寄ってこないだろうからね。

 グラサンつけたライダースーツの筋骨隆々といえる男になんて誰も喧嘩売らないだろうし、そんなのと一緒にいる可愛い女子とお近づきになりたい男は今の日本にはいるまい。

 というわけで、あちらは、もう少し楽しんでもらうとして、こちらは話をしよう。式がいるんだし、大変なことにはなるまい。

 

「説明してもよろしいかな」

「ええ」

「さて、では何から話したものか。まず、私の知識は、君たちカルデア側とはおそらく異なっている」

「そうだね。ドクターもそう言っていたね、マスター。本来なら、この時間軸に聖杯戦争は起きているはずがないと」

「それも致し方あるまい。人理定礎が焼却されたのだ。おおもととなる土台がなくなり、すべてが宙づり状態であれば、その観測の領域もまた、様々な可能性が入り乱れたものになるのも当然といえる」

 

 この手の話は、オレには難しすぎる。魔術なんて素人だし、今だって魔術礼装にある簡単なものしか使えないし。

 まあ、ジキル博士とスカサハ師匠が理解してるっぽいのに二人に任せるとしよう。その辺は適材適所だ。オレが考えるべきは、ここでどうするか。

 

 大まかな情勢を理解し、どう動くのかを判断することだ。そのために必要なことは聞き流さないようにしながら、二世の話を聞く。

 

「まずは差異のすり合わせといきたいが、聖杯戦争については知っているな?」

「それはまあ。たしか2004年に開催されたって聞いてる。それ以前にはなかったとも」

「ふむ、なるほど……私の知るところ、冬木の聖杯戦争は都合五回開催されている」

「五回も!?」

「このような大規模儀式を五回か……なんとも人間とは豪気じゃのう」

 

 そんなに驚くようなことなのでしょうか。グランドオーダーを都合六回くらい超えて来た身としては、七人のマスターと七騎のサーヴァントが戦うだけの聖杯戦争が五回開催されたとところで、それほどと思わないんですが。

 

「サーヴァントの方が理解して、マスターが理解していないでどうする。まあ、十数のサーヴァントを従えるマスターの言葉としては、確かに、一人一騎で七騎が戦うだけの聖杯戦争など、驚くほどでもないか――ともかく、この特異点はおまえたちが知る歴史ではなく、私の知る歴史で動いている。もっとも、私がキャスターとして召喚された時点で、乖離し始めているがな」

 

 だが、それでも大筋は解る彼は言う。

 ここはオレたちが特異点Fと呼ぶ2004年の聖杯戦争ではなく、その十年前、第四次聖杯戦争のものだという。

 

「この特異点の成り立ちは不明だが、やるべきことは聖杯の破壊だ」

「回収ではなく?」

「そうだ。冬木で五回も聖杯戦争が繰り返された理由はわかるか?」

「…………五回も? それだけ聖杯がほしかったとか?」

 

 一個じゃ足りないから五回もやって五個も聖杯を作ったとか。もしかしたら、ソロモンが置いている聖杯は冬木で作られていた……?

 

「何やら愉快なことを考えているようだが、違う。そもそも聖杯などというものをそんなに集めてどうするんだ」

 

 聖杯転臨(ゲームで必要)とか?

 

 なんか変な電波を受信したが、オレの持ってる知識で考えるなら、人理焼却の為の特異点を作るためとか。

 

「そんなものをどうして一地方都市の魔術師たちがやらなければならないんだ」

「それもそうか……」

「繰り返されたのは単純だ。聖杯がただの一度も具現化しなかったが故だ」

 

 聖杯戦争をやって聖杯が一度も具現しなかった? だから、五回も繰り返した? どういうこと? 聖杯を回収して保存している身からしたらよくわからない。

 

「それについては、知る必要はない。事実として受け止めておくと良い。事実、五回も聖杯戦争が行われたのがその証拠になる。開催した者たちは、聖杯さえ降臨すればよいのだからな。

 ただ、此処の聖杯は少々厄介なことになっている。この儀式は三度目以降、とある事故のせいで、儀式とはいいがたい代物に変質している」

 

 変質。どうやらのっぴきならない事態のようだ。

 

「結論から言おう。この聖杯は回収しては、いけない。この冬木に存在する聖杯は、実現してはいけない聖杯だ」

 

 つまりは、毒だと彼は言った。

 

 願望器という触れ込みで、参加者を惑わしておきながら、その実体は世界を滅ぼす大量殺戮兵器だったのだから。

 

「? それが驚くようなことかな」

 

 聖杯ってそういうものな気が。人理焼却に使われてるし、魔神柱なんてものを生み出すし、聖杯ってろくなものじゃないよね。

 円卓にはギフトを与える要因になり、オジマンディアスとはそのおかげでいろいろと大変な目に遭ったし、何度も何度も強敵を呼び出すわ。ノッブ曰く爆弾にもなるらしいし。

 

 聖杯って、オレたちにとって害悪でしかないな……。唯一良かったことはチビノブという至高のぷにぷにを生み出してくれたことだろう。あれはいいものだ……。

 だから、今更、その程度のことで何を驚く必要があるのだろう。

 

「ええい、世界観が違いすぎて会話がしにくい。こちらの世界では、聖杯は文字通り万能の願望器で大量殺戮兵器であるほうがおかしいのだ。そして、ここからが肝になる。この戦いはサーヴァントが脱落されるにつれ、その大量殺戮兵器による大災害のカウントダウンが進む」

「なるほど、先ほどセイバーを倒すなと言ったのは」

「ああそういうことだ」

 

 ああ、うん。確かにこれは事情を知らないと普通に襲ってきたら倒してしまいそうだ。つまりオレたちは知れず破滅のカウントダウンを進めるところだったということ。

 

「危ない危ない……」

「しかし、姑息な罠もあったものだ。万能の願望器にひかれてやってきてみればその実、大災害への引き金を引かされるとは」

「ここに召喚されたサーヴァントが一定数まで生贄になった時点で、この世すべての悪(アンリマユ)が起動する」

 

 アンリマユ。ゾロアスター教に登場する悪神。善悪二元論のゾロアスター教において、最高善とする神アフラ・マズダーに対抗する絶対悪とされている。

 

「まさか、そんなものが?」

「冗談のようだが」

「神ならば殺してしまえばよかろう」

「それが出来れば私が多大な労力をかけて大聖杯を解体することなんてなかっただろう」

「ふむ、悪神ときたか、うむ……」

「師匠自重して」

「む、なんだ、儂とて分別はある。悪神とやらならば、私を殺せるやもしれぬなどとは思ってもおらぬし、久方ぶりに、血沸き肉躍る戦ができると思ってなどおらぬ。おらぬからな」

 

 ともかく、二世曰く地球破壊爆弾ともいえるものらしい。人類史を破壊するには十分すぎるもの。そんなものをこんなところで出してしまったら、どれほどの被害がでるかわかったものではないのは確実だ。

 なら、そんなことにはさせない。

 

「話を続けてもいいかな。――ともかく、この儀式を完遂させるわけにはいかないことは理解できたはずだ」

「それが本当の話ならね」

 

 嘘をついているようには見えないが、相手はあの諸葛孔明なのだ。ロード・エルメロイ二世とも名乗っているが、あの諸葛孔明の疑似サーヴァント。

 容易に信用してよいものかはきちんと判断しなければならない。

 

「用心深いことはいいことだ。こちらとしても味方が有能な方がいい。証拠は後々提示するが、こうするとしよう――」

 

 彼は彼が持っていたスーツケースからこっそりと何かを取り出して見せる。それは腕だった。令呪が見える。

 

「それは……?」

「この世界に現界する上での私のマスターだ。殺人鬼だから、こうやって簀巻きにしてスーツケースに入れてある。ともかくだ、令呪を使い、私が君たちに危害を加えないと命令させる、それならば信用できるだろう?」

 

 令呪で確かに命令されれば安心だ。

 

「まだだよマスター。そちらのマスターが簀巻きにされているのなら、その強制力も完璧には信用できない。ここは誓約(ギアス)を立てておいてもらおう」

「用心深いな、ミスター・ジキル。だが、それでそちらが私を信用するのならば良かろう」

 

 ギアスを用い、令呪も用いて、二世はこちらに危害を精神面、物理面、策略面、あらゆる面でこちらに危害を加えることができないようにした。

 更に嘘もついていないこともその過程で判明させたので、今までの話に嘘はないとわかった。ならば信用しよう。

 

「さて、信用されたとことで、ここからが本題になる。聖杯戦争では五回とも聖杯は降臨しなかった。だが――ここは特異点化し、カルデアから君たちが来たとあっては話は別となる」

 

 聖杯がすでにある。それがおかしい。聖杯がすでに出現してしまっているのならば、街は既に火の海になっていなければおかしいのだ。

 だが、一見したところで何の異常も起きていない。

 

「つまり、そちらで感知された聖杯は、アンリマユに汚染された冬木の大聖杯とはまた別の代物だろう。私の記憶でも、四度目の聖杯戦争はまだ序盤も序盤だ。戦局が大きく動くのは、今夜が契機だった。

 私の経験上、大聖杯が限定的ながらも稼働を始めるのは、七人のうち五人目のサーヴァントが敗退した後だ」

「裏を返せば、最低でも三体のサーヴァントを顕在のまま戦線離脱させればいいってことか」

 

 そうすれば儀式はうやむやになり、その器だけを確保することができる。セイバーを残したのはそのためか。

 

「そうだ。最終的に和解するにしても、まずは和解に応じる余地のない相手を積極的に排除させてもらうのがいいだろう。まず今回の聖杯戦争の参加者のうち、どう転んでも救いようのないのはキャスターとアーチャーだった。だが、キャスターは私の出現で事前に潰した、ゆえに、アーチャーのみに的を絞ることができる」

 

 はっきりいってまともに意思疎通できる相手ではないと二世は言った。それ、バーサーカーじゃないんだよね? 意思疎通ができないアーチャーとはいったい……。

 

「金ぴかの王様だよ」

「金ぴかの、王様?」

 

 ますますわからない。うちの王様たちは、凄い話のよくわかる人たちだし。いや、サンタと人妻好きとか、戦闘狂みたいなとこともある人だとかだけど、話は分かるし、従ってくれるし。

 

「ともかくだ、他のサーヴァントと交戦状態になる前に、アーチャーにはお引き取り願いたい。加えてアサシンだ」

「ああ、百貌のハサンね」

「その様子だと交戦したか。アサシンはマスターがアーチャを擁する陣営と結託している。アーチャーと敵対する上では彼らも避けては通れないだろう。敵対しているのならマークされている。

 次にバーサーカーだが……なにせ狂化している以上、これはマスター次第、というほかない。令呪を温存し、サーヴァントを十全に制御できる状態のうちにマスターを懐柔できるかどうかが鍵だ」

 

 令呪を使ってもいつの間にかベッドとか背後に潜んでいるバーサーカーがいるから信用ならないけどネ。とは言わないでおこう。

 今はとてもいい子だし。そういえば、いつもは呼ばれなくてもついてくる彼女が、今日はおとなしかった。というか、管制室にもいなかったけれど、どうしたんだろう。

 

 今の冬木は冬だから、背中が寂しいというかなんというか……。

 

「第四次のバーサーカーの召喚者は心身ともに危うい状態の人物だったとのちの調査で判明している。私も会ったことはないのだがね。ともかくバーサーカーについては保留だ。よって、消去法での最終的な保護対象はセイバー、ランサー、ライダーの三人ということになる」

「つまりあとはライダー陣営だけか」

「…………」

 

 どうしてそこで黙るんでしょうか。

 

「ともかくじゃ、ならば悠長にしていられんじゃろうて」

「そうだね。まずはサークルをどこかに設置し補給を受けつつ今後の作戦を立てよう」

 

 その後、まさかサークルの設置の為だけにいろいろとめちゃくちゃをやることになるとは予想外だったが。

 しかし一晩でどうにかなるわけもなく、万全の状態でことに当たるためにもと、良い時間で切り上げホテルで睡眠をとることに。

 

 金は、二世がいつの間にか用意してた。

 

「さて――」

 

 安いビジネスホテルの一室。オレは、彼女の部屋に向かった――。

 

 




書いてて気が付いたAZOはぐだ男の物語じゃないんだな、これ二世の物語なんだわ。
というわけで、ぐだ男がわりと蚊帳の外だったりしてるが、仕方ない、これ物語上の構造なんですわ。

そんなことよりクリスマスイベが楽しみ過ぎてやばいです。

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