Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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魔法少女紀行 ~プリズマ・コーズ~ 9

 二人の戦いは一進一退だった。

 

「やっぱり、イリヤとじゃ決定的な勝負はつかないか」

 

 お互いがお互いであるがゆえに、決着がつかないのだ。

 

「だいたい、痛覚共有をごまかすのも……限度が……」

「クロ……!? どうしたの? その身体は……っ……!」

 

 彼女の瞳が怪しく輝く。

 

「――決まっているでしょう彼女(レディ)よ。レディは、ミユだけじゃなく、あなたまでほしいのね。わたしよりも欲張りだなんて……」

「な……なにを言っているのクロ……!?」

「クロさん。ミユさんを攫ったのはレディの意思、そうなんですね」

「……さあ、それは……どうかな……」

「クロ? ……クロ!?」

「……ううっ……待って、まだ……やめ……て……!」

 

 クロエからあふれ出す異質な気配。それは、おそらくファースト・レディのもの。彼女の影が言葉を紡ぐ。

 

 ――約束通り……あなたとイリヤの決着まで待ったわ――クロエ。

 ――あなたは乗り物(からだ)としては申し分ない。けれど、イリヤの瞬発力(こころ)までは及ばないようね。

 

 姿が変わる、声が変わる。クロエという少女から、ファースト・レディと呼ばれる魔法少女へと転じる。

 

「おまえが、ファースト・レディか」

「そう――はじめまして。私がレディ。最初の魔法少女(ファースト・レディ)。自己紹介しましょうか? 人懐こくて礼儀正しい、魔法少女らしくね」

 

 彼女は告げる。

 

「私は――」

 

 魔界に生まれ、人間界で育った、魔法使いの娘。正体を隠して人のために戦った魔法少女。その、なれの果て。

 彼女はそのために故郷を失い、やがて人間からも、魔界の同胞たちからすらも忘れ去られた。

 

 もう誰も彼女を知る者はいない。

 もう誰も彼女の名前を呼ぶことはない。

 

 けれど。けれど、彼女はそれでも人間や、同胞を、恨みはしなかったのだ。恨んでもいいはずだった。恨んで当然のはずだろう。

 だが、彼女は憎むことも恨むこともせず、決して魔女には堕ちなかった。魔法少女であり続けた。

 

 彼女の望みは、ただ一つ。ただ、少女たちの願いを叶え続けること。

 魔法少女たちの魔法である、愛と希望を、世界に振りまくこと。

 

 その願いが亡霊たちを引き寄せたのだこの固有結界に。その尊い願いが。

 

 おそらくは彼女もまた、クロエが来なければ亡霊と変わらなかったのだろう。

 そして、願いは変わった。美遊がいれば、叶う。できるのだと彼女は言った。亡霊をもう一度、残響となった彼女たちを受肉させることができると。

 

 虚ろな結界などでは断じてない。本当の世界に手を伸ばして。

 

 世界は無限に枝分かれしていく。そこには無限の危機がある。倒すべき、敵がいる。

 魔法少女を必要としてくれる不幸な人たちがいる。

 

「そのための魔法少女の軍団(プリズマ・コーズ)

 

 それは魔法少女の為の軍団でもある。平行世界のどこまでも果ての果てまでも、願いを届かせて、魔法少女たちに希望を、永遠に必要とされる場所を与えるのだ。

 それが彼女の願い。だが――。

 

「それは……メイヴと同じ、ううん、違う……メイヴよりもっと……」

「ああ、業が深い」

 

 完全に手段と目的が逆転している。いっそ見事といえるほどに。

 

「イリヤ……あなたはわたしのたった一つの譲れない願いをつぶしてしまうのね。この世界での魔法少女へのふるまいを見て、よくわかった。そんなことはさせない。もうすぐ美遊を、私の中に取り込んでしまえる。美遊はしぶとい。しかも私の中のクロエがいまだに同化に抵抗している。本当に素直じゃない。でも、それも時間の問題」

「レディさん。あなたの魔法少女を信じたい気持ち、伝わります。だけどこれだけは言える――。ミユを犠牲にして、叶えていい願いなんてない! ミユだけじゃない! クロだって、クロはわたしの大切な半分なんだから!」

 

 そう。そうだとも。

 

「そうだ。そんな身勝手な願いはかなわない。一人よがりなそんな願いじゃ誰も救えない」

「……それは、私が亡霊だから? もう誰の心にも響かない、ただの残響に過ぎないから?」

「いいや違うよ。誰かの為を想う願いなら、誰かと想わないと嘘だ。一人だけの理想は、一人よがりでしかない。どんなにそれが素晴らしい願いでも、理想でも、ただひとりだけで完結していたら、誰も救えないんだ」

 

 ただ一人で理想になろうとして、ただひとりで進んでいる気になって、ただひとりで、つぶれた憐れな見本がこのオレだ。

 

「レディ、君が言っているのはそういうことなんだ」

「ふふふふ。あなたも、私を過去のものにしたいのね。私はこんなに世界を救えるのに。女王にだってなれるのに」

「それじゃあ、呪いじゃないか」

「そうだよ。お兄さんの言う通りだよ! わたしたちは……魔法少女は! 中途半端で、理不尽なトラブルに巻き込まれてばかりで、それでもきっといいことが――あれ、いいことあったかな」

「ちょっとイリヤさん? ここはズバっというところですよ?」

「あっ、そ、そうだよ。いいことはいっぱいあったよ! わたしはミユに会えた。大好きなミユに。クロっていう生意気ですごく頼もしい妹もできた。ルビーやサファイア、リンさんやルヴィアさん、最初はちょっとどうかと思ったけど……本気で、自分を全部差し出してもいいって思える大切な仲間が出来た。それが、一番の宝物でしょう?」

 

 レディは静かに言った。自分にも仲間がいると。

 しかし、彼女の仲間は世界に棄てられた。

 

「異邦の守護獣(マスター)。あなたはどう? 忘れられてもいいと思うのかしら。世界を救ったら、あなたはどうするの? 今が一番つらくて、苦しくて、逃げ出したくて――でも、生きているでしょう? 世界を救ってしまった瞬間に――あなたは死ぬのよ?」

 

 続けてレディはマシュを見る。

 

「マシュ・キリエライト。あなたは? マスターとの願いは永遠に残る? 本当に……? 彼が、あなたの前から去っていくことに耐えられる? 永遠に彼の傍にいられるのなら、あなたはその希望に縋るでしょう?」

「それが?」

 

 まずはオレが答える。

 忘れられることには慣れている。特異点を巡る戦いなんてものはそういうものだから。記録には残らない。でも、オレの記憶の中に、心に残っている。

 だから、忘れられてもいい。オレの中に確かに残るものがあるのだから、忘れられても良いんだ。魔法少女は特にそうだろう。

 

 だって、そうだろう? 魔法少女が要らないということは、世界が平和ということなんだから。誰も泣かなくて済む。誰も苦しまなくて済む。誰も逃げなくて済むんだから。

 それにつらくても、苦しくても、前に進める。だって、マシュがいる。みんながいる。エドモン・ダンテスが、婦長が、みんなが、オレに勇気をくれた。

 

 だから、オレは何があっても、前に進める。

 

「……はい、そうですね。マスター。記録には残らなくても、わたしの中にはちゃんと残っています。それに、レディ。それは決して、希望ではありません。それに――」

「ああ、絶対に、オレはマシュから離れない。最後の瞬間まで、ともに歩き続けるとそう誓った」

 

 大丈夫。何があろうともマシュ。愛おしい後輩。オレのデミ・サーヴァント。ふかふかの、マシュ・キリエライト。

 たとえ君のことを忘れてしまっても、きっと君の下に戻る。それは既に証明されているんだ。

 

 シャトー・ディフ。偽りならざる監獄塔にて、オレはそれを証明した。全てを忘れたあの時、それでも前に進んだのだ。

 紛れもない、彼女の為に。

 

「……っ、嘘よ、そんなのありえない――」

「イリ……ヤ……」

「ミユ!」

「美遊様!」

「レディを……クロを……助けてあげて……レディの言葉は……偽りの言葉……決して叶わない、願いを、心の底に隠している……お願い……泣いている彼女の手を握って……イリヤが……わたしにしてくれたように……」

「うんっ……もう少しだけ待って、ミユ!」

「あと、その……こうして、ずっとクロと一緒だと……気まずいっていうか……何を話したらいいのか、わからなくて……沈黙が割と……痛い……」

 

 ――へ?

 

「へっ?」

「――ちょっ、なんですって!! 人が必死に抵抗しているのにッ!!」

 

 あまりのことに本人が出てきちゃったよ……。

 

「わたしだってめちゃめちゃ気を遣ってるんだからね! 直接わたしに言えばいいじゃない、なんて面倒くさいの!」

「い、いけません、クロさん! 美遊さんに憎しみを向けたら……」

「ああ、しまった……! もうっイリヤ、なんとかしなさい!」

 

 そのおかげで、レディとクロエが同調してしまった、完全に。これで相手は全力。オレたちが倒されてしまえば、美遊は心の支えを失う。

 

「負けられないのはいつも通りだな。行くぞ、マシュ、清姫、ノッブ!」

「はい、先輩!」

「燃やし尽くします」

「呵々、良いぞ、わしにまかせい」

「イリヤ――」

「うんっ! 絶対に勝つよ。ミユだって、戦ってる。なら、わたしも頑張る。カレイドの魔法少女は二人で一つなんだから!」

 

 レディへと挑む。

 オレたちの全力を彼女へとぶつける。

 

「――行くぞ」

 

 相手を想い、先ほどの戦いを思い起こし――全てを見通せ――。

 

 発動する魔術礼装。

 最大出力で演算される勝利への筋道。

 

 ただ一直線に、そこを駆け抜けるために指示を出す。口で足りないのならば目で、それでも足りないのならば全身で、あらゆる全て血が沸騰するほどの高揚と、代価の中で、勝利へと駒を進める。 

 守護獣である今、その負担は今、軽減されている。だからもっと先へ、もっと先を視る。

 

 イリヤに、マシュに、清姫に、ノッブに、先を示す――。

 

 それだけで、相手の攻撃はこちらには届かず、こちらの攻撃は何よりも効果的に相手へと届く。

 

 ――視ろ、視ろ、視ろ。

 

 一秒先の生存を、二秒先の拮抗を、三秒先の優勢を、四秒先の勝利を、五秒先の未来を。

 

「ならば――山を抜き、水を割り、なお墜ちることなきその両翼――鶴翼三連(かくよくさんれん)!」

 

 それはとある英霊の躱せない絶技。その応用。

 枝葉を辿り、掌握するはその技術の根源――。

 オレは、それを幻視する。

 投影された互いを引き寄せあう剣の檻と、彼女が行う転移の魔術による背後からの強襲を。

 

「マシュ――」

 

 言葉は一つでいい。

 

「はい、先輩!」

 

 ただそれだけで、放たれる攻撃をマシュは防ぎきる。

 

「っ――!?」

「イリヤ――」

「うんっ――最大放射《ファイア》!!」

「く、あああああああ――――」

 

 攻撃した瞬間のその隙に最大魔力を込めた攻撃を喰らい、レディの気配が消える。

 

「……ううっ……」

「相手の力をそぎ切った……よね? いま、あなたはレディ……? それとも……クロ……なの?」

「ふむふむー? どうやらクロさん優勢のようですよー?」

 

 憑依していたレディの反応が消えている。

 

「え、それは、ちょっとまって、レディさん! 聞こえるクロ!? お願い! もうちょっとこらえて!」

 

 また、なんて無茶を言っているんだろうかこの子は。

 

「あのねぇ……また勝手なこと……きっついなもう……」

 

 あちらが耐えている間に、こちらは美遊を助ける。拘束礼装は無力化されている。

 

「マシュ、美遊を頼んだ」

「はい」

 

 その間に、オレはイリヤの下へ。

 

「イリヤ、君が伝えたいことを言うと良い」

「わたしが!?」

「ああ」

 

 それがきっといいことに繋がる。なるほど、これがあの獅子王とか、婦長とか、エドモンの気持ちなわけだ。なんというか、まあ、そういうことなんだろうという妙な納得がある。

 彼女ならば大丈夫だろう。そんな、なんとも言えない奇妙な納得が。

 

「わかりました――レディさん……わ、わたしね……いつも目の前のことでせいいっぱいで、世界を救おうなんて考えたコトもなくて……ううん。正直に言うと、自分と関係ないことだからって遠くのことは考えないようにしてた。でも、もしもレディさんと同じ立場になったら……人に頼られて、振るうのが義務になってしまうくらい途方もない大きな力を手に入れてしまったら……」

 

 ふと、なんだか既視感を感じた。

 世界を救う。

 義務になってしまうくらいに大きな力を手に入れてしまった。

 

 ――なんだ、それはまるで。

 

「オレじゃないか……」

 

 そうか。彼女はある意味で、オレなのか。

 

 なんだかふとそう思った。

 世界を救ってくれ。世界を救ってくれ。

 そう人に頼られて、マスターというあまたの強大な力(サーヴァント)を操る存在になった。

 

 それは、まるでいつかのオレのようで。

 

「その時、自分に何が出来て、誰を選ぶのか……わたしにはまだ……わからない、です」

「…………そう」

「でも……わたしの大切な友達や家族が危ない目にあうことがあれば、わたしは魔法をためらいなく使う。わたしは、みんなの笑顔を護るために、魔法を……使うよ?」

「…………それで、あなた自身が泣くことになっても……?」

 

 イリヤは頷いた。

 

「イリヤ……私はあなたが羨ましい。……けれど、同時に、愚かだとも思う。まるで過去の私を見ているようだから。私は救えなかった……私の大切な友達を……」

 

 そうだ。彼女は、マシュを護れなかったオレなのかもしれないと、そう漠然と思う。

 だからこそ、予感する。

 彼女は世界と友人を天秤にかけて、世界を選んだ。

 

 ある意味で、オレもまたその選択を強いられる可能性がある。

 マシュを救うか、世界を救うか。

 オレもまた、きっと彼女のように、どちらかを選ぶ時が来るのかもしれない。

 

「私は、一番の親友だった、彼女を……救うことが、できなかった……」

「…………」

「……友達が……犠牲に? もしかして、その友達も一緒に魔法少女を?」

「……いいえ。いいえ、違う。彼女は魔法少女であることを拒絶した。世界の敵となって、人々を絶望させた」

 

 そして、彼女は、友達をその手で止めたのだ。止めるしかなかったのだ。

 

「もう二度と、彼女と会えない。ごめんなさいって……言えなかった……!」

「……っ……」

「それはどうかしらね」

 

 そこに声が響く。それはエレナの声。リリィもまた、無事にここにたどり着いていた。

 

「無事だったんだ」

「ええ、まあ。あなたが置いて行ってくれたこの子のおかげよ」

「―――」

 

 リリィはどうやら疲れて眠ってしまったようだ。それだけ頑張ったということなのだろう。ベディが頑張って持ち上げているが、きつそうだ。

 ノッブが仕方ないと抱え上げる。

 

「とりあえず、ここは結界が強すぎるわ。あの子が入れない。美遊も無事だったのなら、レディを連れて、一旦外に出ましょう」

 

 エレナに言われるがままに外にでると、そこにいたのは亡霊(エコー)だった。それは、黒壁の付近で出会ったあの徘徊していた亡霊。

 

「危なっかしく城へ向かっていたのを拾ってきたのよ。もしかしてファースト・レディ――あなたこの子をご存じなのではなくて?」

「………………」

「………………!!」

 

 エコーは確かにすごく怒っているような感じだ。だが、その声は響かない。その怒りは響かない。その想いは響かない。

 残響に紛れて、その言葉は響かない――。

 

「ルビー、なんとかできない?」

「それならおまかせです! ルビーちゃん特製の霊媒(イタコ)ポーションをどうぞ! えいっ!」

 

 イリヤに怪しげな薬が注射される。そうするといともたやすく、エコーを憑依させた。相変わらずデタラメに高機能な魔術礼装だ、オレもほしい。

 ああ、でもルビーのようにしゃべるのはいいかな。うるさそうだし。もっとおしとやかなステッキだったら、ほしいけどルビーはないな。うん、ないない。

 

「オットー、手が滑って、ちょーっとヤバゲなお薬を注射しちゃいそーですよー!」

「ちょ、たんまたんま!」

 

 そんなふざけている間に、レディとエコーは話をしていた。

 

「この……おばか!!」

 

 まずは罵倒からはじまった。それどころか殴った。

 

「……っぅ……いきなり殴られたぁ……なにをするの……!」

 

 それでも聞かずイリヤの中に入った幽霊は彼女を殴り続けている。

 

「イリヤに憑依したのは、誰なんだろう」

「……わたし、知っているかもしれません」

「美遊?」

「もし、夢で見た彼女なら……」

 

 しかし見た目的にはイリヤとクロエが殴り合っているというアレな光景。

 

「おばかだから、おばかっていったのよ!」

「………………その口癖……まさか……ミラー? あなたなの!? あなたも亡霊としてここに……!?」

「ええ……いけない? 短期間だけど私も魔法少女を務めた。だから資格はある。そして、今のあなたはファースト・レディ、最初の魔法少女、そうね?」

 

 美遊はその言葉を聞いて確信したらしい。

 

「やっぱり、ミラーさん? あなたがレディの大切なお友達……ですか?」

「そうよ――美遊」

 

 彼女はレディに敵として討たれた元魔法少女。

 

「レディ……あなたは一人の魔法少女として頑張ったわ。誰もが幸せになるように、自分のすべてを世界に差し出して。でも、あなたが頑張れば頑張るほど、人々からは逆に笑顔が消えていった。あなたは彼らの強欲と不満にただ翻弄されて、ぼろぼろに疲れ切って、笑いながら泣いていた」

 

 だから――だから彼女は世界を見限ったのか。

 友だちが泣いている。だから、世界ではなくて、友達を選んだのか。

 

 ――ミラー。

 

「……ずっとここにいたの? わたしが、気づけなかったの……?」

「ええ。私は今でも、おぼろげな亡霊だわ。こうしてイリヤの体を借りなければ、意識もはっきりと保てない。でも、ずっとあなたの存在は感じていた。この世界はあなたの後悔そのものだから」

 

 だから祈った。

 だから願った。

 ――安らぎを。

 

 黒壁の向こうにいる愛しい彼女に、その心に安らぎが訪れますように。

 

 ――そうか。

 

 クロエを呼んだのは彼女か。ずっと願っていたから。ずっとずっと。

 彼女の願いが、もたらした――希望だ

 

 ずっと待って、耐えて、祈って、願って、それでもあきらめなかった彼女にもたらされた希望(クロエ)

 それはきっとこの時の為に――。

 

「…………っ……固有結界が崩壊を始めたわ」

 

 レディが消えかけている。このままでは固有結界が消滅してしまう。

 

「イリヤ、クロエ、美遊……あなたたちを固有結界の崩壊に巻き込んでしまってごめんなさい」

「…………っ……何か、まだ方法が! いえ、わたしは、わたしはどうまっても――でも」

「レディ、あなたの固有結界をあたしが受け継いでは駄目かしら」

「そんなことが!?」

「お生憎だけど、あたしは本気よ。この世界は、傷ついた魔法少女を受け入れる場所として必要だわ。だから、あたしに、あなたの望みをもう一度やりなおさせてほしいのよ」

「…………エレナ。知恵と神秘の魔法少女。ええ……それが、あなたの心からの願いなら。わたしは……あなたの願いを叶えるわ!」

「感謝を。ファースト・レディ。今度はうまくやるわ」

 

 それを最後に、レディもミラーも、互いに魔力が衰え消えていく。

 

「――聞いて、レディ。あなたは世界に棄てられ忘れられた。そして手ひどく裏切られたと感じている。魔法少女は、魔女ではに。ましてや女王でもない。奇蹟に見返りを求めない。自分の為に魔法を使うこともしない。ただ見知らぬ誰かのた前に、胸の底から沸き起こる気持ちを呪文に乗せて唱える」

 

 そうでなければ、叶わぬ願いは呪いへと変わってしまう。

 届かない思いが、世界のはざまに拭き溜まって煉獄となる。

 

「わたしは……まだ、ミラー……あなたに……」

「ううん。レディ。いいの。いいのよ。だって――」

 

 もう充分、唱えた。のどがかれてしまった、声が出なくなるまで、その胸の底に湧きあがる気持ちが、もうなくなるまで。

 ただ唱えたのだ。

 

 魔法の本のページはもうない。これ以上先には唱える呪文はない。

 

 でも心配はいらない。

 

「だってそうでしょう? 世界の危機はいつだってなくならない。でも、その時は、わたしたちじゃない、新しい魔法少女が――イリヤのような素敵な魔法少女が生まれてくる」

 

 だから、もういいのだと彼女は言う。

 

 イリヤたち新しい魔法少女は未熟かもしれない。頼りないかもしれない。でも、それだけ、その掌には未来があるのだ。

 かつて、自分たちがそうであったように。

 

 二人は笑顔で、消えていった。エレナの手には新しい宝石が。クロエとイリヤは恋人つなぎで両手を握っている。あの二人のままに。

 

 ともあれ、これで解決だ。何やらイリヤや美遊、クロエがもめているが、とても楽しそうだからいいだろう。

 あとは帰るだけだ。それもまた問題はないらしい。宝石を一人一つ持って、他人の為に願えばいい。

 

 イリヤが美遊を、美遊がクロエを、クロエがイリヤをそれぞれ帰還できるように願えばいい。

 

「エレナさんは、このまま?」

「ええ、レディを引き継いで頑張るわ」

「ふむ。君が頑張るとか努力するとかいったらそれはもう、一生を捧げるという決意に等しい」

「そっか。うん――大丈夫なんだね?」

「ええ、大丈夫よ。まったく優しいのね。大丈夫よ。ええ、大丈夫。アルもついているしね」

「直流エターナル。私に任せておけばいい」

 

 いつかはきっと破たんする世界かもしれない。それでもきっとそれまで彼女たちは前向きに生きていくのだろう。

 その後もきっと、前向きに、どこかの世界で生き続けるのかもしれない。

 

「それじゃあね。マシュ。立派な魔法少女になるのよ」

「デミ・サーヴァントです!」

「あはは――うん。お兄さん、マシュさん、清姫さん、金時さん、ノッブさん、沖田さん、リリィさん、ベディさん。お兄さんたちはとってもやさしいから。だから、話すのが怖かったんだけど……お兄さんたちは、ずっと自分たちの世界を背負って戦ってたんだね――真剣に。命がけで。それがロマニ先生とのやりとりとかで、なんとなくわかってしまって」

「…………」

「わたしなんかより、はるかに大きな使命を背負っていても、それでも、ミユを、クロを、わたしたちを助けてくれた」

「気まぐれだよ。単なるね」

「気まぐれでできることじゃないです。お兄さんは、凄い人です」

「――――」

「自分が一番苦しいのに、他の人に手を差し伸べられる。それって、どんな魔法でも起こせない奇蹟だと思います」

「いや、それは――」

 

 みんながいるからだし。エドモンに言われたからだ。オレは、凄くないよ。

 

「いいえ。お兄さんはすごい人です。そして、きっと、お兄さんみたいなにしか、世界は救えないんです……ほら、クロも、何か言うことがあるでしょう?」

「…………迷惑かけてわるかったわ。そっちもなんだかタイヘンそうだけど、気楽にやりなさい」

「そんな言い方はないでしょう!」

「――本当にありがとうございました。わたしには……世界を救う、という命題にどれほど強い意思が必要か……想像もつきません」

 

 想像できない方がいい。というか想像できるんだったら、ちょっと大変だと思う。その年で、そんなに強い意思は持たなくていいと思うんだ。

 

「けれど、わたしたちの為に心を砕いてくれたこと……そのあたたかな思いは、確かに伝わりました。誰かのためにその身を削って戦える……きっと、そんな姿が、人を救ってくれるんだと。この世界を意味あるものにしてくれるてるんだと。そう……思います」

「美遊はもう少しわがままになってもいいかもしれない。オレもだけど、素直な気持ちを前に出すことは悪いことじゃない。というか、うん、オレが言う事じゃないんだけど、ヒトって言われないとわからないからさ」

 

 どんなに以心伝心だろうとも、言葉はそのためにあるのだから。何かを伝えるために、言葉はあるのだから。言葉にしなければ伝わらないこともある。

 

「オレも出来てなくて、怒られまくってるからね。伝えられるなら言葉にした方がいい」

「大丈夫です。今はもう、イリヤやクロがいますから」

「そっか」

 

 オレが心配することじゃなかったな。

 

 そうして、彼女たちは自分たちの世界に還っていく。オレたちもまた、同じく。

 オレたちはカルデアに帰還した。いつも通りドクターが迎えてくれる。姿も元通り。守護獣の時に感じた力はどこかへと消えていた。

 

「カルデアは大丈夫だった?」

「何とかね。今、レオナルドがそこらへんの対応をしているけれど、次のレイシフトには間に合わないだろう。特異点発生の兆しもある。心苦しいけれど、全員で行くのは諦めてほしい」

「いいよ、何人かこっちに残ってもらう」

「ありがとう。さて、マシュは、どうだった?」

「はい。とても貴重な体験をさせていただきました」

「そっか、それは良かった。それじゃあ、落ち着いたところで――そこにいる彼女は?」

 

 ――彼女?

 

 振り返ればそこには――。

 

「――ん?」

 

 クロエがいた――。

 

「なんとなくこっちの任務ってのも面白そうだって思ってたの」

「――それはつまり、こちらの一員になるってことでいいんだね?」

「――はい。望みます。願ってもないわ。イリヤやミユの方には、もう一人のわたしがちゃんと帰還したわ。何の問題もない」

 

 ならば、オレは手を彼女へ差し出す。

 

「ようこそ、カルデアへ」

「ええ、クロエ・フォン・アインツベルンよ。これからよろしくお願いします、マスター…………でも、やっぱりマスターって雰囲気じゃないかな。お兄ちゃんでいい? ――あ、そうだ。ときどき魔力供給の方もよろしくね?」

「だめです!」

 

 なにはともあれ、今回も無事に解決だ――。

 次の特異点もあるらしいけれど、新しい仲間もできたし、大丈夫だろう。

 

「それじゃあ、さっそく――」

 

 なにやら口づけされている――。

 

「ああ、先輩!」

「………………」

「清姫が彫像のように固まった!?」

 

 とりあえず、気絶しておこう――。

 




さあ、次はZEROだ、行くぞこんちくしょーう。

というわけで、サーヴァント制限だ。
連れていくのは、対金ぴか用クロエ、対征服王用ノッブ、対お父さん用マシュ、対ランサー用スカサハ(現代服)、対セイバー用式、対アサシン用二重人格で対抗するためのジキル、 子供を護れ金時マンの七騎だ。

サンタオルタを連れていくと強制的に四次セイバーになるので、今回は居残りだ。
というか、正直そいつらを絡ませると面倒くさいどころの話じゃないのでな。
話数がどんだけあっても足りんわ!

孔明先生は出そうか出さないかすごい迷っているんじゃ。四次キャスターの代わりに召喚されるという案もある。

これだけは確定していることといえば、
ディルが、緒戦でスカサハ師匠とやり合うこと
ノッブ対王の軍勢
金ぴか対バーサーカー&クロエ&マシュ
アゾット! くらいかなー。

正直ZEROは難しすぎる。

zero編構想していたら、孔明いなかったらぐだ男が聖杯の泥に呑まれて発狂死するか、聖杯の泥をキャメロットで防いで、地獄を見て心がひび割れていく展開にしかならなかった。

これは、カンニングマシーンが必須か……。

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