Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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魔法少女紀行 ~プリズマ・コーズ~ 8

「ぶちかませイリヤ!」

「はい――!」

「きゃあ――! この私があんなピンク色に――!」

 

 メイヴとの決戦は厳しいものになった。あふれ出す使い魔。強力な守護獣。メイヴ本人も強力だった。今回は魔法少女たちにはメイヴの相手を任せ、守護獣はこちらも守護獣で相手をした。

 

「人斬り、お主の犠牲は忘れんぞ」

「死んでませんからね!?」

「なんじゃ、生きておったのか。わしの星5計画の為に亡き者になっておれはよいものを」

「何を企んでるんですかなに!」

 

 兎も角どうにかこうにか勝利した。

 

「やれやれ、まったく柄にもないことをするからだ。同じ魔法少女の末路に同情したオマエの負けだよ」

「くっ、バッカじゃないの……!? いくらクーちゃんでも、そのセリフは許せないわ…………!」

 

 そう言っても少しの間が肯定してしまっている。

 

「はあ? 基本オレはテメエの敵だぞ? 敵同士でつるみ合ってるのがオレたちの契約(かんけい)じゃねえか」

「そ、それはそうだけど、クーちゃんにはいつも愛憎入りまじっているけど! でも、基本的にはラブのが強かったの! だってトゲトゲがかっこいいんだもの!」

「はいはい。趣味悪いなテメエ」

「――まったく。私は、私が救われて、私が満足して、私が可愛くて私が一番偉いの。女王だもの。行き場のない魔法少女を集めていたのは結果論。軍団は私の為の私の軍団なんだから」

 

 ただ、これ以上の戦闘はもうないだろう。それに勝手に自分でいろいろと自爆してるし。

 

「――――」

「なによ、不思議なものを見るような目をして」

「いえ……その。いまのメイヴさんの言葉が、意外だったので……」

「そうじゃの、お主、存外立派な女王じゃのう」

「はい、とても立派な王様です。私も頑張らないといけませんね!」

「はあ? なんですって?」

 

 だって、彼女は言っただろう。私がって。私だけがではなく、私がと言ったのだ彼女は。

 

「言葉にはしなけれど、メイヴさんは消えていった魔法少女たちを、仲間として認めていたんですね」

 

 本当。これには敵わない。

 

「――城が揺れている!?」

 

 城が揺れている。城が崩れるのだろう。

 

「おう、今のでトドメだな。最後まで追い打ちありがとうよ、お嬢ちゃん」

「え……!?」

「いまのでメイヴの心が折れた。城が崩れ出したのがその証拠だ。なあ、メイヴ。オマエ、自分の甘さを自覚して、今、自分で自分を殺したな?」

「……ごめんなさい。でも、こんな私はクーちゃんに相応しくないから……死んで出直してくるわ」

 

 ――なんでそうなる!

 

「そうもなるわ。だって、私は、邪悪で、放蕩で、悪逆な、魔法少女ですもの。クーちゃん、待っていてね。貴方に相応しい魔法少女になって戻ってくるから」

「知るか。……だが、その時は、また返り討ちにしてやるよ」

「…………ふふ。そうよね。そういう関係よね、私たち――ねえ、そこ異邦の守護獣(マスター)。早く行きなさい、そこの頭まで桃色で幸せそうな魔法少女を連れて、さっさとね。そして、貴方のくだらない世界を救いなさいよ。どんなになっても、進むって決めたのでしょう」

「…………先輩! もう城が持ちません!」

「く、脱出するぞ!」

「え、でも、メイヴさんも――」

 

 いいや。いや、無理だ。彼女は無理なのだと、この観察眼が告げている。直感する――彼女はもう、助からない。無理をしたツケを支払うことになる。

 それはオレも経験しているがゆえにわかるのだ。直感するのだ。彼女はほかの世界に干渉した。それがどういうことなのかもわからないし、その結果何が起こるのかもわからないが――確実に言える、代償のない力なんてものはまやかしなのだ。

 

 特に平行世界に干渉するような力が代償なしで行使するできるなどありえないだろう。いかに強大な魔力があろうとも願いの宝石があろうとも。

 オレが、無理をして未来を掴めば、その代償に感覚が、記憶が消えていくのと同じように、彼女もまた何かを行ったその代償を受けるのだ。

 

 それを奪うことは侮辱だ。もし、オレがメイヴの立場ならば、絶対にそれだけは奪わせない。あとで後悔することもある。実際にした。

 あとで、なんでと悔やむこともある。実際に悔やんだ。泣いた。だが、それでも――オレは他人にこの代償を背負わせることなんてしない。

 

 オレがその時、選んだ結果なのだ。弱いオレでも、あとでどんなに後悔しても、泣いたって良い、自分の選択だけは、何があろうとも責任をとりたいとそう思うのだ。

 

「マシュ!」

「――っ、はい!」

 

 だから、マシュがイリヤの手を引く。メイヴを助けようとする彼女を引きずってオレたちは城を脱出した。それと同時に城は崩壊し、宝石がマシュの手の中にあった。

 

「宝石が……」

「………………そう。メイヴは亡霊になったのね。なら、いずれ、あたしの書斎で逢えるでしょう。……彼女が本好きだったためしなんて、無いけれど」

 

 エレナはそう言ってほのかに笑みを作りながら、メイヴを想うのだった。

 そして、宝石が今ここにそろった。ファースト・レディの城まで、行ける。

 

 レディの領域は、寒々しかった。時間が凍り付いたかのようであり、その中にそびえたつ孤高の城。それはサファイアが言うにはまた変化しているのだという。

 エレナ曰く、この世界の全ての魔力がファースト・レディの下に集まっているという。

 

 敵は強大で確実に待ち構えている。だが、カルデアも支援してくれるのならば、あとはもう行くだけ。具体的な解決策も、この世界の成り立ちも、ダ・ヴィンチちゃんが解き明かした。

 なんとかなる。奇蹟は待つものじゃなくて、起こすものだ。

 

 ゆえにオレたちは進んだ。空を埋め尽くすほどのレディの使い魔を乗り越えて進む。だが、敵の数があまりにも多く、オレたちは徐々に徐々に追い詰められていく。

 

「数が良い。ここで戦っていても消耗するだけ。だが、空を飛べるイリヤだけなら、このまま行けるか?」

「名案です! イリヤさんだけなら、このままパパーっと?」

「そんなこと……っ、できるわけないでしょーっ!」

 

 ですよね、わかってた。だったらますます、どうにかする方法を考えないと。対軍に対してはノッブでどうにかできるか、それ以上に敵の数が多い。

 カリバーンでは薙ぎ払い切れず、清姫でもそれはまだ足りない。そもそも、増えていくたびに宝具を連発していては息切れする。

 

 ならば速攻。ここで誰かが足止めをしていて、その隙にファースト・レディを倒す。

 

「…………あなた、あたしを頼らないのね」

「エレナ? そりゃ頼りたいけど、戦いたくないって言っている人を戦わせられないよ」

「……優しいのね、本当に。驚かされてばかりよ。イリヤが、あれほどの気概を見せている。魔法少女のまがい物だとみくびっていたのは訂正するわ」

 

 彼女は俯いていた顔を上げた。

 

「伝統、経験、知識……そんな魔術の奥義からはかけ離れた力を隠していると、改めて気づかされた」

 

 ゆえに、

 

「来臨――セラピスの知恵よ!!」

 

 彼女はその身にコートを羽織り、閉じていた書を開く。放たれる魔法が――あらゆる敵性体を燃やし尽くす。

 

「その姿は――」

「かっこいい!」

「あたしは元々かっこいいのよ。低血圧なだけなんだから。さあ、行きなさい。レディの元へ。ここはあたしがなんとかしてあげる」

「――ああ、無事で」

「ええ、貴方もね。機会があれば、あたしの物語を教えてあげる」

 

 それは彼女にとって最上級の言葉であった。

 

「エレナさん……」

「行くよ、イリヤ。彼女がくれた時間を無駄にはできない」

「でも――」

「では、私が残ります」

「リリィ?」

「私は、ステッキを持っていませんので、魔法少女の相手が出来ません。だから、ここで時間稼ぎです」

「……わかった。ありがとう――ベディ」

「はい、お任せを。ですが、時間稼ぎではなく、別に全てを倒してしまっても構わないのでしょう?」

「ああ、やっちゃってくれ!」

 

 エレナとリリィを残して、オレたちは先へと進む。

 

「さあ、行きましょうエレナさん」

「ええそうね――」

「フッ、よき友と出会えたようではないか」

「アル、呼んだつもりないんだけど――よくってよ! 海にレムリア! 空にハイアラキ! ――そして、地にはこのあたし!」

「選定の剣よ、力を! 邪悪を断て! ――」

 

 爆裂と閃光を背に、オレたちはレディの居城へと急いだ。そして――玉座にいたのは、紅い外套を身にまとう、少女だった。

 

「え……」

「あーあー、まったくこんなところまで来ちゃうんだから、イリヤは――」

「どうして――どうしてここにいるの……クロ!!」

 

 クロ。それはいつか、イリヤが双子同然の存在と言った女の子の名前。確かに、肌の色やら髪の色やら瞳の色やら多少の違いはあれど、本当にイリヤにそっくりだった。

 だが、それならおかしいだろう。ルビーもサファイアもその存在に気が付かないのはおかしい。

 

「ハァ……まったく派手にやってくれて。痛覚共有しているこっちの身にもなってほしいわ」

 

 それは再会と呼ぶには、あまりにも普通で、それはまるで――。

 イリヤとは対照的に彼女はどこまでも冷めているように見えた。オレは彼女のことを知らない。だが、なんだ、この嫌な気配は。

 嫌な予感がしていた。ここにあって逆に、変な魔力を感じないことが、逆にいやな予感を掻き立てる。美遊を捉えていることもそう。

 

 それに、彼女はイリヤとの会話の中で言った、ずっとここにいたと、初めから(・・・・)

 

「先輩?」

「ちょっと、待って、今は動かないで」

「ふぅん、なんだ、そっちの守護獣は鋭いのね」

「え? ……クロ?」

「美遊をどうして解放しない? 友だちなんだろう?」

「せっかく、わたしのものになったんだもの。どうして解放する必要があるのかしら。いつもイリヤに独り占めされて癪だったのよね」

 

 それは自然体のように思えた。イリヤたちの反応からもだいたいが自然体。レディに乗っ取られているわけではないと彼女たちは言う。

 その中で、オレは一つの考えに到達していた。ずっとここにいた。初めから。それがいつかはわからないが、美遊を攫ったのは最近だ。

 イリヤがきたのも今。

 

 では、彼女は――。

 

「……君は、最初から、いたのか、この世界に、ひとりで」

「ええ、そうよ。急いで同調したのが悪かったのかしらね。気が付いたらこの世界にいた、ひとりでね」

 

 ずっと前にここに来たと彼女は言った。

 それこそ四つの国ができる前。魔法少女たちが戦っているときに。気配を殺しているだけでも魔力は消耗していく。

 彼女にとってそれは死活問題だったらしい。そのまま消えてしまうのだと彼女は言った。

 

 ――心細かった。

 

 そう彼女はいったのだ。その時、彼女は出会った。ファースト・レディに。

 

「出会ったのか、ファースト・レディに」

「そうよー」

「……な、なんで、勝手なことしたのー!」

「わたしを置いて鏡面界に行こうとする方が悪い!」

「だって、リンさんたちに急かされて仕方がなかったんだもの!」

 

 だが、彼女は来てしまった。その結果、彼女はレディに出会った。彼女からあふれる気配があった。レディのそれ。まがまがしい黒いそれ。

 

「レディはわたしに言ったわ。あけすけに、ろっ骨を抜けるナイフみたいに」

 

 ――あなたの存在意義はなんなの? 

 

 ――イリヤの付属品なの?

 

 ――手なづけられ、牙を抜かれたヤマネコね。

 

 そう言われたのだと彼女は言う。

 

「そんなこと!」

「ええ、はいはい。わかってる。あなたが否定するのは。だってイリヤだもの」

「だけど、わたしにはそのつもりはもうとうない。どこかで、あなたを第一に考えていた――と気が付かされたわ。あなたの為なら、ミユとだって仲良くもするわ。だってわたし自身の為だもの。それが当然よね」

「クロ……」

 

 湧きあがていく異なる雰囲気。魔法少女力が跳ね上がり、見るからに、こちらに対して敵意を感じる。だからこそ、言わなければならないと思った。

 彼女もまた、耐えている人だから。

 

「……卑屈さと信頼は違うんだよ、クロエ」

 

 世界は不条理だ。思い通りになんてならないし、理想通りになんてなれやしない。

 そのおかげで、手痛いしっぺ返しを食らって、何度も苦しんだ。

 

「わかってるわよ! 不条理さが世界の本質だってことは!」

「いいや、わかってない!」

 

 わかっていない。世界は理不尽で、不条理で、思い通りになんて全然ならなくて、成長したって力のないままだ。叶えたい願いはどうしたって手が届かない場所にある。

 

「何がわかるのよ、あなたに、わたしの」

「なにも、なにもわからない。だが、オレは、君を肯定したい」

「――――」

「キミは、キミだろう?」

 

 イリヤの付属品なんていうなよ。イリヤの為だなんていうなよ。

 自分の願いを届かせたい? なら言えよ。行動で示すなんて馬鹿なことしてないでさ。

 

 行動で示せるのは、何もない。言わないとわからない。

 

 それは全部、僕が経験したことだから――。

 

「なら、キミはキミだ。紛れもない、クロエというただ一人の人間だろう? なら、言えよどうしたいのか。それを聞いてくれる家族が、ここにいるだろう」

 

 オレにはもはやそれを聞いてくれる家族は、いないのだから――。

 

「バカバカしい――」

 

 彼女が武器を投影する。白と黒の剣を。

 

「――クロ!」

 

 彼女は戦闘モードに入る。

 

「イリヤ?」

「うん、お兄さんたちは手を出さないでほしいの」

 

 姉妹喧嘩に手を出すほど無粋じゃないよ。

 

 だから存分にやると良い。

 

「ありがとう――クロ!」

「来なさいイリヤ!」

 

 全力の魔法少女の戦い(姉妹喧嘩)が始まった――。




さて、残すところあと一話かな。その後は、ZEROイベに行きます。
ZEROは孔明いないからなぁ、ぐだ男と愉快な七騎のサーヴァントたちがそれぞれの陣営を強襲するシステムで。

七章までの間は特異点に全員は連れて行かないということに。
魔法少女にカルデアに介入されたので、その対策がちゃんとできるのが七章開始時点ということにして、それまでは予備選力を残すという感じで特定に入るサーヴァントを制限する方向にします。

特にZEROはほら、蹂躙しちゃうからね。数の暴力で。
そして、かぼちゃ村はエリちゃんのライブと聞いて全員逃げた。
そんな感じにします。

そして、ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィは、どうしよう……

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