Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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魔法少女紀行 ~プリズマ・コーズ~ 6

 墓守人にして、司書たるエレナについて彼女の書斎へ向かう。そこはまさに書庫とでもいえるようなほどであった。古めかしい本が壁一面にある。

 ただ、それだけではないような、そんな気配や雰囲気。観察眼が何かを捉えたが、情報が足りない。

 

「はぁーすごぉい、古めかしい本が壁一面に……あ、ライオンのお人形さんだ」

 

 どこかで見たような人形ですね。具体的には、そう大統王とか名乗ってそうな。

 

「それは、あたしの元パートナーだけど……言葉を発しなくなってから、もうずいぶん経つわ」

「ええっ……!? パートナー?」

 

 イリヤとエレナが話している。その傍らでオレはドクターと話していた。

 

「異様?」

「ああ、そうだよ。どうりで探査が内部に通らないはずだよ。その部屋の書架にある書物は、全部が魔導書だ」

「……っ……これら、すべてが……ですか!?」

「ええ、そうよ」

 

 こちらの話を聞いていたのか、エレナが肯定する。

 この廃墟は死せる書架の国。そう呼ばれるようになって久しく、その理由は、この書物の全てが、外にいる亡霊の全てが、かつて魔法少女であった者たちのなれの果てであるから。

 

 ゆえにこの国は死せる書架の国。書物という名の、この世界に落とされた不幸な少女たちの墓標。彼女たちが亡霊(エコー)彷徨う国。

 

 エコー、それはイアソンからも聞いた言葉。

 

「へえ、あなたたち顔に似合わず冒険家なのね。あそこは物騒だったでしょう?」

 

 確かに物騒だった。

 

「ここは大丈夫よ。みんなおとなしいから」

 

 それでも襲い掛かってきたといえば、道連れの仲間がほしかったのか、現役時代のように好敵手(ライバル)と魔術を交えたかったのかもしれない。

 そうエレナはいう。彼女が襲われないのは、客人をもてなす役割を負っているからだと。その象徴に宝石を所持しているから。

 

 ――ならば固有結界の所有者なのか?

 

「いいえ。いいえ、違うわ。あたしじゃない」

 

 この世界を作った魔法少女は、ファースト・レディと呼ばれている。亡霊たちがそう囁くのだと彼女は言う。

 この世界の中心たる黒い壁の向こう側。閉鎖空間の中にいると言われている。

 

 中の様子を知る者はいない。

 ――どのような魔法でもあの壁は破壊できないから。

 

「あれ、じゃあ、メイヴさんは?」

「メイヴは魔法少女の一人よ。とても強大な」

 

 それでもファースト・レディではない。

 

「でも、不思議ね。イリヤ、あなたはどうしてかメイヴに拘っているように見えるわ。まさか、アレを倒してしまっても構わんのだろうとでもいうつもりじゃないわよね」

「ち、違います!」

 

 イリヤは説明する。美遊がメイヴにさらわれたことを。

 しかし、エレナは首をかしげる、不思議そうに。そんなことがあるのかというように。

 

 なぜならば、メイヴは宝石以外、興味はないから。

 

「もしかして、レディの異変がメイヴにまで影響を?」

「――思案中申し訳ないが、ボクからも一つ尋ねさせてほしい。先ほど、この部屋の道中で君は言っていた平行世界からの通信だと。その口ぶりだと、キミは平行世界についてかなり正確に知覚しているように見える」

「ええ、もちろん。それは当然よ。神智学の知識も助けになっているけれど、あたしたち魔法少女はもともと様々な平行世界からこの場所に招かれたのだから――」

 

 それは様々な理由で、魔法少女ではいられなくなったからだと彼女はいった。

 

 ここに来るしかなかった。

 ほかに行き場所はなかった。

 けれど。そう、けれど、この世界なら魔法少女であることを続けられる。

 

 それは、魔法少女であることを諦めきれなかった少女たちの夢の国。自らが必要とされる魔法少女であることができる楽園。執着により訪れることが許される終着の地。

 

「なぜ、イリヤたちやマシュがこの世界に?」

「それはあたしにもわからない。ファースト・レディに聞いてくださる? ただ――残酷なことを言うようだけど、そうやって自分の立場を認められない子たちが外で暴れている亡霊になるのよ」

 

 誰だって捨てられたくはないから。誰だって必要とされたいから。誰だって、いつまでも、夢のように力を振るえる魔法少女でありたいと願うのだ。

 

「あ、あの……先輩」

「なにマシュ?」

「先ほど、わたしもひとくくりにされたのですが」

「え?」

「え? あの、わたしは魔法少女ではないような……?」

「それはないわね。だって、そうでしょう? 肉食酒乱(ビースト)系魔法少女ふかふか☆マシュさん?」

「デミ魔法少女です! ――ではなく! デミ・サーヴァントです!」

「――ともかく、あたしの話は終わりよ。宝石がほしいのでしょう? よくってよ。どうぞ、お持ちになって」

 

 話が終わると、彼女はそう言って宝石を差し出してくる。ヴリルと名付けた宝石を。

 

「で、ですが、それではあなたが亡霊に襲われてしまうのでは?」

「リリィよ、こやつは諦めておるようだの。どうせ、遅かれ早かれメイヴが来るじゃろうしな」

「ええ、そうよ。そこのノッブの言う通り。それにあたしはもう魔法少女じゃないし、ただの墓守。石の力には拘らないわ」

「そんな……っ」

「躊躇う必要はないわ。あなたも同じ運命をたどるのだから」

 

 いずれ世界に棄てられる日が来るのだ。望みが失われる日が来るのだ。

 ゆえに、一つだけ彼女は教えてくれた。美遊・エーデルフェルトについて。彼女を攫ったのはメイヴではなく、ファースト・レディだということを。

 

 それは推測ではあった。だが、彼女は言う。ファースト・レディが壁の向こう側にて何をしていたのかを彼女は語る。

 それは、世界の観察。自らの使い魔をほかの魔法少女のものに紛れ込ませて。

 

 だが、すべてではない。真相はおそらくメイヴに聞くのが良いだろう。

 

「ありがとう。ミユのことが一番知りたかったの。でも宝石までは要りません」

「黒い壁の向こう側に行くためには、すべての宝石を合わせた力が必要だとしても?」

「えっ……すべての……って……」

 

 それは、すべての国、すべての魔法少女から宝石を奪わなければいけないということ。そして、宝石を奪っただけ、魔法少女がこの世界から消えるということ。

 

 その代償を経て、願いを叶える宝石はその力を発露させる。願いを叶える想いの結晶はどこかの世界にすら届き得るのだと彼女は言った。

 全ては集めて見なければわからない話だが事実であるだろう。ダ・ヴィンチちゃんが解析した結果、この宝石にはそれだけの力がある。

 

 全てを集めれば聖杯クラスの奇蹟すらも引き起こせるだろうというらしい。ただひとつだけでもやりようによっては世界を超えることもなんとかなる。

 ダ・ヴィンチちゃんならばひとつでもあれば余裕だという。無論、それは彼女が万能であるからだ。

 

「ただ、話に聞く限りは、アレですね。ファースト・レディという方の使い魔は黒い壁を通行可能ということですね」

「あ、そうです! 使い魔さんを捕まえて中に連れて行ってもらいましょうよ」

「リリィ、それは多分、無理じゃろ」

 

 ファースト・レディだって他人に使い魔を奪われるようなヘマはしないだろう。

 

「それじゃあ、それじゃあ、魔法少女たちをレディがわざと戦わせているも同然じゃない……! そんな……そんなひどいこと止めさせなくちゃ! でもどうしたら……?」

「同感です……わたしたちはそれを望まずとも、その戦いに加担させられてしまいました」

「あなたたちはこの世界のルールに抵抗するつもり? 使い魔(マスター)の方がよっぽど現実が見えているみたいよ?」

「先輩?」

「お兄さん?」

「…………」

 

 固有結界とは心象風景の具現化。それはつまるところ、自らのルールを世界に流れ出させているに等しい。この世界のルールはファースト・レディが敷いたもの。

 それは絶対だ。この世界に於いて、固有結界の所有者とはそういう存在なのだ。

 

「わかったのなら、諦めて――」

「でも、諦めない」

 

 人が定めたルールなんて御免だし、目の前で誰かが不幸になるのなんて見たくない。

 

「エレナ。きみだってなれの果てじゃないだろう。まだ、まだ亡霊にはなっていない。前に歩くことができる足がある。伸ばせる右手があるのなら――まだ終わっていない」

「……いきなり、何を言うの……」

「そうです! お兄さんの言う通り、まだ終わってなんかないです!」

「はい、先輩の仰る通り。まだきっとできることがあるはずです」

「やめて――!」

 

 それは彼女の心からの叫びだったのだろう。本棚の魔導書が一斉に震えだす。

 

「この子たちが、運命を前に、指をくわえたまま何もしなかったとでも思っているの?」

 

 ――思わない。

 

 ああ、そんなこと断じて思わない。きっとオレたちが想像もできないような苦難があったのだろう。運命に立ち向かうための覚悟だってあったはずだ。

 でも、そうじゃない。

 

「――待て、しかして希望せよ」

「なに……を……」

「どのような困難を前にしても、おまえは、ここでまだ耐えているじゃないか。いつか来る希望を信じていたんだろう。いつか来る夜明けを待ち望んでいたんだろう」

 

 オレたちは何もわからない。けれど、

 

「イリヤ?」

「うん! わたしはあきらめない! 全部自分でやってみるまで、誰かの絶望をそのまま受け入れたりできない!」

「だから、オレは何度でも君にこう言おう――待て、しかして希望せよ」

 

 いつだって希望はあるのだ。だってそうだろう。現に――。

 

「エレナ、君は、イリヤに希望を繋ぐために、ここにいてくれたんだ」

「……っ……(アル)のような気休めを……。あなたたちに――あなた如きに、、あたしの物語の何がわかるの!?」

「わからないさ。オレには何一つ。でも、だから、君にこういうんだ。待て――しかして希望せよって」

 

 それはいつか救われると信じた男の言葉だから。それはいつか救われた男の言葉だから。それはいつか勝利した男の言葉だから。

 

 待て、しかして希望せよ。

 

 エレナ・ブラヴァツキー。君は待った。だから、今希望が来た。ならば、手を伸ばせ。

 

「おまえはまだ諦めていないはずだ。なら! その右手を伸ばせ!」

「ふざけ、ふざけないで! あたしがどれだけ――! もう疲れたの! 終わりにしたいの! さっさとあたしの宝石を持っていけばいい! そうでなければ――」

 

 ――ここで、あたしがあなたたちを永遠に眠らせてあげる!

 

「ルビー!」

「アイアイサー!」

「マシュ!」

「はい、先輩!」

 

 変身する。言っても聞かないやつには、魔法で殴る(話し合い)しかない!

 

「あなたたちの具体性のない、虫のいい望み、希望なんて妄想の域を出ないと知りなさいな!」

 

 魔導書が飛翔する――。彼女の魔術が放たれる。

 

 それでも――。

 

「オレは知っているんだ――」

 

 ゆえに、君の勝ちはない。エレナ・ブラヴァツキー。そっちが手を伸ばさないなら、こっちから掴んでやる!!

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「………………」

 

 むすっっとしたエレナを引き連れて廃墟を歩く。すっかりふてくされてクールさが台無しである。

 

「ですがどうしましょう先輩、このまま宝石を譲り受けてエレナさんを危険にさらすわけにもいきませんし」

「え、何か困ることあった? 一緒に行けばいいじゃん」

「それ! そうしよう! それがいいです!」

「――はあ?」

「一緒に来るように」

「……わ、わかったわよ! 先に剣を向けたのはあたしよ。おとなしく従えばいいのでしょう! ええ!」

 

 やけっぱち気味だしなんか八つ当たりっぽいけど、まあいいだろう。彼女が付いてきてくれるのは心強いし、なにより――。

 

「やったぁああ、エレナさん!」

 

 イリヤがとても嬉しそうだ。抱き着いてるし。

 

「良かったな、大将一件落着だ!」

「ええ、やはり見事な采配ですマスター」

「コフッ……うぅ、なんで、ここにきて……あれですか、書架がほこりっぽかったのが……こふっぅ」

 

 ともかく、これで三つ目の宝石がそろった。ならばあと一つだ。メイヴが持つ宝石を手に入れる。

 

「あ、でもその前に、その……できればナーサリーちゃんの様子を見に行きたいなって……」

「気になるの?」

「うん、どうしても……」

「わかったじゃあ、行こう」

 

 時間はあまりないだろうが、それくらいはいいはずだ。何よりイリヤには万全で戦ってもらいたい。だから、メイヴのところに行く前にいったん寄り道をする。

 中立地帯をメイヴについて話をしながら進んでいたら――。

 

「アレはメイヴの使い魔じゃ!?」

「ドクター?」

「警戒はしていたよ!? こっちだって驚いてるんだ!」

「ともかく戦闘準備」

「あたしは戦わないわ」

「構わない。安全なところに」

 

 わかっている。エレナはメイヴに直接敵対する気がない。それでいい。

 

「行くぞ、突破する!」

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 マシュたちが戦闘を開始した。その瞬間だったカルデアに警報が鳴り響く。

 

「な、なんだいこれ!?」

「んー、これはあれだ、なんか侵入者だ!」

「落ち着きすぎじゃないダ・ヴィンチちゃん!?」

「もはや驚きすぎて逆に落ち着いちゃったくらいだよ! これは敵襲だ。魔術王じゃない。驚いた。レイラインを辿って、敵性体を放り込んできたみたいだ」

「嘘だろ!? だってここは――」

「時代から切り離された領域じゃが、魔法少女とやらが持つ宝石とやらはそれすらも越える力を持っているようじゃ」

「ふん、問題なかろう。トナカイがいなくとも私たちで対処する」

 

 管制室にすでに待機中だったサーヴァントたちが集まっている。ジキル博士とジェロニモがどこに襲撃を受けたのかを把握して作戦を練り合っていた。

 

「襲撃は二か所。幸いなことに無人区画であったシミュレーション区画の廃棄スペースとエリザベート君の秘密キッチンだ」

「え? ちょっ、ちょっと待ってよ!? (アタシ)のキッチンに敵!?」

「ああ、幸いしたな。もしほかの場所ならば大変な事態だった」

「ちょっと、何良かったみたいな空気なのよ! (アタシ)の大事なキッチンが襲撃されたのよ!?」

 

 そんなものは壊された方が良いと満場一致だったがそれはおくびにも出さずにブリーフィングを続ける。

 

「スカサハ殿とサンタ殿をリーダーとしてチームを二つに分けるとしよう。力任せのサンタ殿はシミュレーション区画、スカサハ殿はエリザベートのキッチンだ」

「任せるが良い」

「心得た」

 

 適切に戦力を振り分け、対処する。それでも足りないと感じるのはやはりマスターがいないからであろう。彼の存在は大きいのだと、再確認した。

 

「よし、これでいい」

 

 兎も角、通信閉鎖から敵の襲撃をやり過ごし、マシュたちに連絡を取る。

 

「本来なら戻ってほしいんだけどね」

 

 しかし、それはできない。

 

「マスターのことだ、テコでも戻らないさ。そこらへんはほら、私たちがサポートしないとねロマニ」

「だよねー、はあ。まったく」

 

 その後、五分間の通信閉鎖から回復させて結論を聞いてみれば、想像通り。作戦は続行。このまま事態を解決する。

 

「という訳だ、ジキル博士、ジェロニモ、何かあったらまた頼むよ」

 

 カルデア存亡の危機だが、なに、あの時だって大丈夫だったんだ。今回も大丈夫さ――。

 




クリスマス復刻イベ始まりましたねー。
ゆったり頑張りつつですね。
七章までもう少し頑張らないと。

へたしたらネロ祭とかはさようならするけど、是非もないよネ!

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