Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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魔法少女紀行 ~プリズマ・コーズ~ 5

 激戦の末、メディア・リリィを倒した。回復ばかりと侮るなかれ、相手は神代の魔術師だ。それだけでも十分脅威だった。

 

「きゃ――――!」

「くう、やはり回復だけじゃダメだったか! まあ、わかっていたことだがな! ハハハ! ところで、そこの魅力的な魔法少女たち! 私のアルゴー船に乗ってみる気はないかい?」

「危ないイアソン様!」

 

 イアソンが燃やされた! 気遣うようなセリフを吐きつつ的確に頭を狙っていた!

 

「こうなれば禁断の力を――」

「それはやめた方が良いと思う」

 

 禁断の力。それはリリィではなくなるということ。それだけはやめておいた方が良いと思うのだ。メディアからリリィが抜けるということは、もう少し大人になるという事である。

 おそらくは、もう少し、いろいろと裏切られた頃とかになるはずだと思われるので、魔法少女ではなくなることは確実だ。魔法熟女とか笑えません。

 

 魔法少女は二十歳を越えたら多分駄目だと思うの個人的に。少女と呼べる年齢って二十歳よりも下だと思うんだ、個人的に。

 ドクターにいったらおそらく戦争だから言わないけれど。

 

「そうだ。そっちの使い魔(マスター)のいう通りだ。間違いなくダメージを受けるのはおまえ自身だ! 悪いコトは言わない、それならオレが形容しがたい柱っぽいものになったほうが百倍マシ、ドゥフ」

 

 最後まで言い終わる前に衝撃を受けてイアソンが吹っ飛ばされた。ダメージは受けない、素敵なオトナの女性に成長していると語るメディア・リリィ。

 だが、そうはならない。伝承は、残酷だ――。

 

 ただ、積極的に止めることもあるまい。なぜならば、相手はきっと自滅するから。観察した結果が、心眼が、直感が、自滅すると告げている。

 

「いえ、止めましょう先輩! これ以上悲しみを増やしては事態が収まりません!」

「自滅すれば、消えるからそれで宝石を獲れば一番早いよネ!」

「信長さん!」

「マシュマロサーヴァントはうるさいのう」

「――もういい加減にして―!」

 

 その時、イリヤの怒声が響き渡った。もう戦うことはここまで、これ以上無駄なことをしても意味がない。それに国を壊しに来たわけではない。ミユを助けに来たのだと彼女は大声で叫ぶ。

 

「で、ですが……魔法少女は戦うものですし……モデラー魂に火が入りましたし……」

 

 モデラー魂に火が入ったってどういうこっちゃ

 

「イリヤさんをかたどりして大量生産、新商品として我が国の秋の商戦の目玉にする計画が……」

 

 思いっきり私欲で戦ってるじゃないか……。国を壊したくないからというのもあるけど、おそらくそっちの方が強いよ、サイコだよ。

 

「出会って数分でそこまで綿密な計画を立てないでください! サイコですかメディアさんは!」

 

 言ってしまった。さすが思ったことはズバッというね。

 

「それは先輩もだと思います」

「そうですね。マスターさん、結構厳しいこと言います」

「呵々。お主結構突拍子もないことも言うわ、エゲつないことも言うわじゃしな。似た者同士じゃろ」

「怯えながらも、言うことは言う。そこがマスターの美点なのだと私も最近理解してきました」

「おう、大将は正直者だからな、ゴールデンだぜ」

「なんでしょう、この私の疎外感。やっぱり、私も召喚された――コフッ」

 

 そんな風に思われてたんですか、オレって。まあ、でも、言わなければいけないと思ったら勝手に口から出ているのだ。その後で後悔するまでがオレだ。

 それでいい。それがいいんだと思う。何より、獅子王は言ってくれた、オレの思うようにすればいいと。エドモンは言った、どのようなオレでも肯定してくれると。

 

 ならば、それでいい。何を言っても、後悔しても、それでも信じてくれる人がいるんだから。

 

「でも、そうだね。言わないと。オレたちはまだこの世界については何も知らない。宝石だって、本当はどんなものかも知らない。でも、もう戦う必要はない。うちの魔法少女が、そう言ってる」

「うん! だって同じ魔法少女だもの、もう戦いたくない。それに、メディアさんが何のために国を作ったのか知らないけど、何か大切なものがあって、そのために戦ってきたってわかるもの!」

 

 そうきっと彼女だって何か大切な者の為に戦ってきたはずなのだと、そうイリヤが言って――。

 

「………………」

 

 すごくメディア・リリィの反応が怪しい。

 

「はは。持ち上げているところわるいが、こいつは大切なもののためになんて戦っていないぞ。なんとなくで戦い続けてきたのがメディアだからな」

「イアソンさま!?」

 

 ぶっちゃけるイアソン。メディア・リリィの静止すら彼は聞きはしない。

 

 彼女が国を作ったの。それは彼への負い目から。

 宝石を守り続けた。それは魔法少女が怖かったから。

 静かに暮らしたいだけ。それはそうしていれば醜い魔女にならないから。

 

 何もかもがふわふわと浮いている。真面目になるのは曰く、モデラーの時だけ。

 

「それは……そうですけど……籠城しろといったのはイアソンさまで……」

「そりゃそうだ。おまえは自分の国を出たら魔女になる。そういう運命だ。だから籠城だ。おまえは、魔女になればエコーの仲間入りだからな」

 

 ――エコー?

 

 新しい単語だ。エコー。残響? 聞く限りどうにもいい言葉ではないようだが……。

 

「だが、その心配もこれで終わりだ。お嬢さん、こいつがほしいんだろう持っていけ」

 

 そういってイアソンは、イリヤに宝石を投げ渡す。

 

「……!! い、いいんですか……!? だって、これがないと……」

「いいんだよ細かいことは。おまえさんたちに勝てればオレの勝ちだ。しかし、勝てないようならオレの負け。私は分かり切っているとおり、ひねくれものでね。石がほしいというヤツには絶対に譲らない。だが、要らないと言いやがった善人(バカ)には嫌がっても押し付けるのさ」

 

 どのみち、女王メイヴが本気で動き出したのならば、この国など即座に飲み込まれてしまうだろう。ゆえに、その前に、パスしてしまって全部被害をかぶってもらうのだと彼は言う。

 それはひねくれてはいるが、彼なりのイリヤへの気遣いのようにも思えた。

 

「良いのか?」

「良くはない。おまえは、良いのか? 渡せば消えるという石を人にやるんだぞ? だが、慣れている。過去の栄光にひたりながら消えるのは慣れている。何より重要なのは私のメディアが魔女にならないことだ。アレは、うん、良くないからな。夢破れたとしても、幸せな少女のまま、消え去ればいい」

 

 自分は、故郷に帰る前に見知らぬ国に立ち寄って生涯を終えたものと考えるとすっぱりと彼はいった。

 

「……わかりました。イアソンさまがそう仰るのなら、宝石は譲ります。その代わり、私は何も教えません。……語れば悲しいことを思い出してしまうから」

「メディアさん……あなたもここで消えてしまうんですか?」

「はい。でも私には希望はなくても、未練がありますからすぐには消えません。えーと、作りかけの模型があと二十八万七千個ありますから――」

 

 あ、これ消える気ない奴だ。

 

「一日三個の計算でも二百五十年はかかりますね! ファイト、メディア!」

 

 絶対に消える気ないですよね。その未練。

 

「なに、それがこいつだ。それよりもだ――異邦のマスター」

 

 イアソンがこちらに向き直る。いいや、オレにしか聞えないように、オレを引っ張ってくる。そのまなざしは何よりも真剣な者だった。

 

「おまえは私と同じになるなよ英雄を率いる者。私もまた数多くの英雄を率い、旅をした。だが、その果ては過去を懐かしみ、その残骸に潰された。なに、私としては、それなりによくやったつもりだったのだが、愛していたものを捨てた結果がこれだ。

 そんな悲惨な結末、おまえもごめんだろう? くれぐれも手を離さないことだな。いや、余計なお世話か。せいぜい、愛想をつかされないようにすることだな」

「イアソン……」

「なに、先達からの、ただの一言だ。必要ないと思っているからこそ、告げている。私はひねくれものだからな」

「肝に銘じるよ」

 

 そうしてオレたちは大海原と竜の国を出立する。

 

 船が出発すると、オレたちはドクターに連絡をとっていた。イリヤたちはこちらにはいない。船尾の方でルビーと話している。いろいろと思うことがあろうのだろう。彼女は優しいから。

 

「――なるほど。それで宝石を手に入れたんだね?」

「はい。この世界のことは、自分たちで調べなさいということでした」

「なるほど。聞いた限りじゃ、王女メディアはすべてを知ったうえで沈黙を守ったんだね。それはイリヤちゃんへの当てつけなのか、思いやりなのか……なんにせよ怪我がなくてよかったよ」

 

 そうだね、と返答して、次に何かあれば連絡をすることを告げて通信を終了した。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 やってきたのは暗い雰囲気の国だった。何もいない。誰もいない。ここには誰も。石畳を歩く、マシュたちの足音、息遣い以外に音はなく。

 ロンドンの町並みを思わせる通りが続いている。石造りの街。国。死せる書架の国。だが、かつてのロンドンのように活気はない。かつてのロンドンもまた活気があったとは言えないが、それでも未だ、生者の空気があそこにはあった。

 

 だが、此処には何もない。ここには命の輝きは何一つ。ここにあるのは、そう全て、死に絶えたあとの残響――。

 これまでと大きく異なっているのは大きさとひっそりとした静けさ。ここを作った魔法少女は何を想っていたのだろうか。

 

 いいや、何を想っているのだろうか。

 

 ――わからない。

 

 感じられるものはなにもない。何一つ。他の国に入れば出てきた魔法少女の名残すらもありはしない。

 

「うぅ、気味が悪いよぉ」

「ですが、どこか厳かな感じもします。ベディヴィエールさん、何かわかりますか?」

「申し訳ありませんリリィ様、特には何も」

 

 そう何も。何一つここにはないのだと言わんばかりに。

 

「ただ――あちらをご覧ください」

 

 ベディヴィエールが指し示した方には巨大な黒い壁が見える。緩やかに湾曲したドーム状の壁。死せる書架の国に隣接した領域。カルデアの探査すらも通らせない未知の領域だ。

 

「なんだろう……あれ……?」

「さー、なんでしょうねー。それよりもイリヤさん」

「なにルビー?」

「前を見た方が良いかと」

「って、きゃああぁぁ――!! お、お化けー!?」

 

 目の前いっぱいに視界を占有する幽霊(ゴースト)にイリヤは悲鳴を上げた。

 

「下がって――!」

 

 マシュがかばうように前へ。

 

「イリヤさんは、ゴースト系の敵性体を見るのは初めてですか?」

 

 見るからに初めての様子で涙目である。

 

「ひぃっ……マ、マシュさ~ん」

 

 ひしっと彼女の後ろに隠れるイリヤ。

 

「そもそもわしとか、そこなリリィとか、清姫とかも幽霊みたいなもんなんじゃが」

「そうですよー、英霊だって幽霊みたいなものじゃないですかー」

「あんな見た目、初めてなんだもーん!」

 

 しかし、幽霊は襲ってこない。あのゴーストはどこかへ行こうとしているようだった。

 

「どういたしましょうか、ますたぁ? ここで燃やす事も可能ですが」

「相手は一体だし、迂回してやり過ごそう」

 

 襲ってこないのならば何もしない。下手に触って仲間でも呼ばれたら大変だ。

 

「了解です、先輩」

 

 何もしないでいるとゴーストは黒い壁の方へ行ってしまった。ただ徘徊していただけのようだ。

 

「はぁ、こわかった~。でも、ありがとうマシュさん、お化けさんを傷つけないでくれて」

「あのゴースト何か気になるの?」

「なんだか、とても哀しそうな気がして……」

 

 哀しそう……か。

 

 何にせよ、とにかく進むしかない。

 

 石畳を進む。廃墟群の中心部までやってきたが、やはり誰もいない。静寂という名の大音量に耳が痛くなりそうになるほど。

 だが、やはり誰もいない。カルデアの探査にも何も引っかかることはない。

 

「どうしたものかな。宝石の光も消えたし」

「そうだ! わたし、ちょっと空を飛んで上空から周囲の様子を見てきます! 行ってきまーす」

 

 と彼女が転身して空へ上がる瞬間に目を塞がれた。というか抱きしめられた。もにゅんと、こうもにゅんと。

 

「ますたぁは見てはいけません」

 

 どうやら清姫に抱きしめられているらしい。これはこれで、と思うが、心外である。あのような女の子のスカートの中を見て欲情などしない。

 

「ですが、わたくしとあまり歳は変わりませんし」

「…………」

「きゃぁー!」

 

 ――ナイスタイミング!

 

 どう答えたらいいものか言葉に詰まっていたらイリヤの悲鳴。ゴーストたちに絡まれているようだった。

 

「ノッブ!」

「おう任せておけい。一匹たりとも外さんし、あの幼子には当てん」

「マシュは、こっちのガード。壁を抜けてきてるから」

「了解です!」

「清姫とリリィでそこらのやつを倒して」

「お任せください!」

「はい、ますたぁ」

 

 襲ってきたゴーストたちを倒しながらイリヤと合流する。意外なことにゴーストたちは手強い。

 

「しかも、おかわりがふよふよ来てるしぃー!」

「――ずいぶんと騒がしいのね」

 

 すると無人のはずの廃墟の中から一人の少女が出てくる。彼女もオレは知っている。エレナ・ブラヴァツキー。通称ブラヴァツキー夫人。

 アメリカにてともに戦ったサーヴァント。おそらくは魔法少女。彼女がきた瞬間、ゴーストたちは自然と去っていった。

 

「こんな魔力の枯れた荒地を訪れる魔法少女がまだいたなんて……」

「この国の魔法少女さん、ですか!?」

「ええ……その1人よ。あら、なるほど……ごめんなさい。他の子たちが、手荒く出迎えてしまったようね」

 

 ――ほかの子たち?

 

 それはあのゴーストをけしかけた魔法少女がいるということか? いいや、そんな雰囲気ではない。それならば彼女が出てきたと同時に出てきてもおかしくはない。

 それに、彼女の言葉はまるで、あのゴーストたちが魔法少女とでも言わんばかりの言い方のように思えた。

 

「――お怪我は? 治療の術はご入用?」

「いえ、とても強敵でしたが、幸い負傷は軽微です」

「そう、それなら良かった」

「間違っていたら悪いんだけど、もしかして、あのゴーストたちは……」

「あら、賢い使い魔ね。そうよ。ええ、あなたの想像通り」

 

 ――ここは、魔法少女たちの墓場よ。

 

 彼女の言葉が、暗い街に響いた――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 ――胸が……苦しい……

 

 感じたのは苦しみだった。胸が、苦しい。息苦しさとも違う、ただ、胸が、痛む。

 夢を見ている。誰かの、夢。誰かと、誰かの。昔の、夢。

 それは、ひとつの結末(おわり)

 

「ミラー! ミラー……! あなただったなんて……そんなっ……どうして……」

「なに……言ってるの……みんなを幸せにする魔法少女……が……あなたの……夢……でしょう……? だから、あたしは、こうなる運命だった……あなたが泣いたら……だめでしょう?」

「でも、ミラー! あなたがいなかったら……魔法少女なんて……あたしっ……」

 

 それは、ひとりの少女の、死の瞬間であるとわかった。悲しくて、ただ悲しくて。でも、死にかけの誰かはただ満足そうに笑うのだ。

 ひとりにしないでと泣く彼女に向かって。

 

 ――これはそう、彼女の夢、とても哀しい、彼女の夢……。

 

 




よくよく考えたら多くの英雄を従えたという点でイアソンはぐだ男の先達でもあるんだなぁと思った。
失敗したら過去にひたりながらぐだ男も死ぬのかもしれないとか思った。

オリジナルサーヴァント第四弾があるのでよろしければコメントなどしてもらえると嬉しいです。




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