Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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魔法少女紀行 ~プリズマ・コーズ~ 4

 茨木を倒すとやはりステッキになった。

 

「どうやら、今度は清姫さんと相性が良いようですねー」

「まあ、わたくしですか。ではでは」

 

 これでまた戦力が増えた。この調子でいくに限るが――。

 

「ワイバーンの群れに加えて、目の前に、なんだか船が見えるな」

 

 茨木を下し船を進めていると飛竜の群れが襲って来た。まるで何かを守るようにこちらを攻撃してくるワイバーンの群れを突破していると一隻の船が目の前に現れた。

 その船の上には魔法少女らしき人影が見える。何やら言い争っているのか、時折雷のようなものが落ちて、使い魔らしき金髪の誰かが燃え盛っているのが見えていた。

 

「ああ、ますたぁが、わたくしの頭の上にぃ~きゅぅ~」

 

 どこかで見たような二人組に見える。あのオケアノスで、出会った二人組。アルゴー船にてあの海を駆けていた2人のようであった。

 メディア・リリィとイアソン。若き神代の魔術師と英雄を束ねし者。どうやら彼女らがこの国の支配者であるのは明白だった。

 

 ワイバーンの守りは彼女らを守るように展開しているし、何より竜牙兵を満載に積んでいるらしい船が突っ込んでくる。

 しかも、なんというかあの衝角(ラム)からは嫌な予感しかしないというか、禍々しい気配を直感する。偶然の遭遇なのになんという歓待だろうか。

 

 ――泣けてくる。

 

 だが、そうも言っていられない。あのままこちらに突っ込ませるのは明らかにまずい。あのガレー船の吶喊を成功させるわけにはいかない。

 

「というわけで、清姫、よろしく」

「はい! わたくし清姫ちゃんは、もうそれはもう! ますたぁの期待にまるっとお応えします!!」

 

 龍へと転身し吶喊してくるガレー船を燃やし尽くす。魔法少女となった彼女ならば、この程度は余裕でこなす。

 

「ちょ!? なんてことを!!」

 

 そして、燃やしたら燃やしたで何やら敵が乗り込んできた。メディア・リリィとデフォルメされたイアソン。

 

「あんなもの幾らでも作れるだろう。今は、敵に集中しろ」

「ぅう、わかりました――はじめまして、見知らぬ異世界の方々。私はメディア――愛と癒しの魔法少女メディカル☆メディアと申します。どうか、よしなに」

「…………!! ルビー、もしかしてあのひと」

 

 何やらイリヤはメディア・リリィに対して何か気が付いたようだ。

 

「おおー。ちょーっと違いますけど、清楚いやらしいあのスリットはまさにキャスターさん!」

「うんうん、そうそう!」

 

 ルビー曰く、イリヤにとっての最初の強敵であった存在らしい。おそらくはリリィが抜けたバージョンなのだと思われる。

 セイバー・リリィと同じようだ。

 

「あの時はごめんなさいっ! わたしイリヤです! イリヤスフィール!」

 

 いや、ここで謝っても意味がないような……。

 

「イリヤさんは、彼女と面識が?」

「はい、一方的な面識なんですけど……でもあのイケメンさんっぽい人形はダレだろ……?」

「……? 私たち、知り合いでしたの? そんな――そうとは知らず、手荒な真似をしてしまいました。ごめんなさい、桃色の方」

 

 なんだろうこのふわっとした展開。いいのだろうか。そんなんで。寧ろ、よくその理論が通じたなというか、謝ったというか。

 ともかく昔のことは全部忘れるということで杖を収めてくれる。ワイバーンたちも引いて、ひとまずは安全となったようだった。

 

「助かりましたね、先輩。あとは魔法少女らしく話し合いで解決できる流れとみました!」

 

 マトモな話し合いができるといいなぁ……。

 

「話し合いですか? それは大変すばらしいことです。ただ話し合うだけで相手の命を奪えるのなら、それに越したことはないのですから。そうやってアナタたちは宝石を手に入れたのでしょう? 魔法少女(もちぬし)の血に濡れた宝石を――」

「え?」

「――!」

 

 いったい、どの国の魔法少女を殺したのかしら?

 

 続いた彼女の言葉に、イリヤが、マシュが、清姫が、リリィが呆ける。今、彼女は何を言ったのかとわけがわからないというように。

 

「やっぱりのう」

「ノッブ、わかってないのに意味深なこという癖直した方がいいですよ?」

「なんじゃと人斬り!? わかってないはずがないわ!」

「ち、違うよ!? わたしたちは殺し合いなんてしていない。この宝石はナーサリーちゃんから譲ってもらったの」

「――そう。よくわかりました。貴方方はナーサリー・ライムの国から来たのですね。そして、今度は私の宝石を獲りに来た。ふふ――なんてお転婆な方でしょう。それが本当はどういうことかも知らないというのに」

 

 メディア・リリィは微笑みを絶やさない。笑っている。嗤っている。わらっている。

 オレたちの武勇伝を称えたいと城にすら招く。

 道すがら武勇伝などを話して、彼女たちの城へと招き入れられる。あまりにもあっけなく。

 

「これ、絶対罠だよ。何かあるよ」

「じゃろうなぁ。敵を自分の城に招くんじゃぞ。あからさま過ぎるわ。それに灰くさい」

「灰?」

「そこはルビーちゃんが説明しまっしょう! 壁のいたるところから、ブタになれ石灰でもまき散らしてるっぽいんですよね」

 

 明らかにヤバイ罠だった。さすがは神代の魔術師といったところか。魔術の規模がこちらの数倍上だ。

 

「うそでしょぉ!?」

「本当ですよー」

「あらあら、気が付いてしまいましたか。ええ、本当ですよ。もうすぐ皆さんは子ブタに早変わり――なんです、イアソン様? はあ、話してみろと?」

 

 おや、何かしらの変わり身があったようだ。

 

「イアソン様は、今日はとても紳士的です。騙し討ち計画はやめて、話してみろとおっしゃっていますので」

「展開が急すぎる!? まあ、でももともとそのつもりだったから、いくらでもお話しできるけど――」

「では、私が貴方方に持ち掛けるのは取引です。まず、私は平穏に暮らしたいだけです。あなたがたに干渉するつもりはありません。この国の中でなければあのようなこともしないでしょう」

 

 干渉しないから、そちらも干渉するなということ。どれほど彼女を信じることができるかはわからないが、こちらも積極的に争うことはないので、問題はない。

 だが、宝石はどうするのか。宝石。トモイの石。彼女はそれを渡す気がない。いいや、おそらくは、渡せないのではないかと思うのだ。

 

 彼女は言う。このトモイの石が海原の国を支え、彼女自身に力を授けていると。つまるところ核なのだろうと思われる。

 魔法少女だけの力では国を作ることはできない。宝石があって初めて魔法少女は国を統べる女王となるのだということ。宝石がなくなれば国を維持できないのではないかと思われた。

 

 彼女はさらに語る。この世界のあらましを。かつていた魔法少女について。宝石をめぐり、争い奪い合いをした。その果てで、数多くの魔法少女たちを倒して、手に入れたのだと彼女は言った。

 そして、それを奪われるということは、死に等しいことであると。

 

 ゆえに、互いに干渉しない。宝石をあげることはできないから、奪うことはしない。ほしいものはそれで代用すればいいと彼女は言う。

 友だちがほしいのならば、友だちの国を作ればいいのだと彼女は言うのだ。それは、彼女の価値観からすれば正しいのだろう。

 

 だが――。

 

「――そんなの、違います」

 

 イリヤは認めない。

 彼女は友だちがほしいのではなく、友達といたいのだから。

 

「一緒に学校に行って、一緒に笑って、時にはケンカして離れ離れになって、でもすぐに会いたくて仕方がなくなる。そんな、自分と同じくらい大切な誰かと、わたしは出会うことができたんです。だから――」

 

 今は、それ以外のものなんて要りません。

 

 そうイリヤは言った。

 メディア・リリィと比べて貪欲で、わがままな目的だと彼女は言うけれど、そんなことはない。

 なぜなら、彼女の願いはきっと誰もが願うことであるから。イリヤだけが特別、貪欲ということはなく、我がままというわけではない。

 

 だって、オレもまた、そうなのだから。

 オレ自身と同じくらい大切な人にオレもまた、出会うことができた。だから、オレも同じなのだ。

 

「だから、ごめんなさい。そして、お願いします! わたしは、わたしの友達を助けるために来ました!」

 

 彼女は言い切った。自らの願いを。宝石が目的ではない。宝石の意味も解らない。

 

「――」

 

 メディア・リリィは何を思ったのだろうか。

 

「……残酷なようですが、イリヤさん。あなたはもうこの世界から逃れることはできません。友達を助けるどころか、あなたにも出口はない。あなたが魔法少女である限り」

 

 いや。いいや、違う。それすら甘いのだと彼女は言った。もはや逃れる意思すら持つことはできないのだ。そういう絶望の場所であると彼女は言った。

 

 そして、こう言ったのだ、友だちの為にしか奇蹟を起こせなかったのだ、と。

 予言する。彼女は言う。最後にその宝石に頼るだろうと。

 

「――最後に、この宝石に、頼る?」

「その美遊さんという方のことはあきらめて。お人形(おともだち)の造り方ならば、喜んで教えましょう?」

 

 それが手向けなのだと彼女は続ける。

 宝石を譲り、消えてしまったナーサリーライムへの手向けであると。

 

「――え? まって、それはどういう――」

 

 消えた? ナーサリー・ライムが? 信じられないといった風なイリヤ。

 

「宝石は、私たちの願いの寄る辺であり、私たちをまだ生かしておく最後の明かり……それを手放したナーサリー・ライムは、存在が拡散し、速やかに消滅するでしょう。ですが、あなたがたが悔やむことはありません。それが彼女自身の選択なのですから」

 

 それに、あのメイヴが黙っていないだろう。消滅する前に滅ぼされるか、消滅したあとに滅ぼされるか。どちらになるかはわからないが放っておくわけがない。

 

「……っ……そんな……ごめんなさい……わたし、知らなくて……ごめんなさい……ナーサリーちゃんっ……でも……わたし! どうしても……ミユを助けなきゃいけないの!」

 

 強情だった。そのイリヤの強情さにメディア・リリィは呆れたようだった。自らに溜まったものを吐き出しながら、イアソンを起こす。

 さあ、今こそ告げろと文句を言ってやれと言わんばかりに本性をさらけ出して。

 

 だが――。

 

「はっはー! 確かにこれはメディアが苦手なタイプだ。先が見えなくても走る。あてがなくても頑張る。自分がボロボロになっても何とかする!そのクセ、ご褒美に何がほしいかすら考えない! まるでおまえだメディア、神殿にいた頃のおまえだメディア、オレについてくる前のおまえさメディア! そりゃあ本性もさらけ出す! おまえの怒りは憎しみじゃあない。嘆きからくる義憤の炎だ」

 

 イアソンはそれはもうここまでしゃべってこなかった分をしゃべるとでも言わんばかりにしゃべり倒す。

 

「まさか、今更、わたしももう少し頑張っていればよかったのに、なんて憐憫にひたったわけでもあるまいに!」

「い、いえ――そんなこと! 私はこの国の女王! どうやっても国王になれなかったアナタのために国を作って落ち着いた女神ヘカテの姫巫女ですもの!」

「ああ、そうさ、それがいい、それでいい。自分すら殺せなかったおまえにはそれでいい。となれば、あとは自らの業に従う時だ!」

 

 やるか、すごくやるか、ものすごくやるか。

 実行あるのみ。

 

「そうだ。まずは――竜牙兵軍団(スパルトイ・ファミリー)の、ぼうけんセイレーン島ジオラマがまだ中途半端もいいところじゃないか!?」

 

 いや、何を言ってんだオマエは!?

 

「はい、イアソンさま!」

 

 それでいいの!?

 

「いいのさ――アイツに火をつけるにはこれが一番だからな」

 

 そう言ったイアソンの声は何よりも冷たく、何よりも軽薄に、何よりも――強さがあった。

 

「不可侵条約なんぞもうなんの役にも立たん! メイヴが来る前に宝石が転がり込むとはまさに僥倖。これは戦う意志がないあいつにやってきた最後の選択だ。

 回復しか取り柄がない? 馬鹿を言うなよ愚民ども。私は高く評価するとも! そうだろう、可愛いメディア。戦闘において死なないことがどれだけ暴力的か、また私に見せてくれ!」

「はい! ありがとうございます。やります! メディアはやりますよ!」

 

 戦うしかない。

 

「行くぞ――」

 

 だが、問題などありはしない。かつての彼女の戦いをオレは視ている。その経験を想起する――。その経験を現在を見て補完する――。

 そうすれば――。

 

「問題ない――」

「問題ないって、またこんな展開になっちゃってるんだよー!? 魔法少女って話し合いで仲良くなるんじゃないのー!?」

 

 昨今の魔法少女たちは話し合いで仲良くなった事例ってほとんどないような……。

 

「あっはっは。それはご自分の胸に手を当ててよくお考えくださいねー☆」

 

 どうやら、彼女もその例にはもれてないみたいだし。

 

「やりたくないのならおさがり下さい。わたくしがおりますゆえ」

「清姫さん……いえ、やるだけやってみます!」

 

 メディア・リリィとの闘いを開始する――。

 




エクステラメインをクリアしたので更新再開です。

いやー、アルテラが尊かったです。サブをやりながらツチノコアルトリアを捕まえに行きます。

明日は復刻クリスマスですねぇ。ガチャも引くことはないですし、呼符で一回くらい引いて終わりです。
七章に向けて配布鯖たちを育成しなければ。

活動報告の方にオリジナルサーヴァント第三弾があるので良ければコメントしてくださるとうれしいです。

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