Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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魔法少女紀行 ~プリズマ・コーズ~ 3

 魔神柱との激戦、ナーサリー・ライムとの激戦は何とかこちらの勝利で終わった。魔法少女の力なのかナーサリー・ライムはかなり強く、イリヤとノッブ、マシュの三人で戦っても倒すまでいけなかったのだ。

 魔神柱の方は、清姫の頑張りとリリィの攻撃、マスコットたちの陽動によりなんとかなった。こちらはかなりボロボロになった。

 

「あー、楽しかった!」

 

 だというのに、戦っていた相手はぴんぴんしているのだから恐れ入る。それも楽しかっただけで済むのが驚きというかなんというか。

 

「えー? なあに、人さがし? そんなかんたんなこと、さいしょに言ってね?」

 

 いや、言わせてくれなかったんじゃないですか。

 

「言ったよー!! 髪は黒で、ちょっとだけわたしより背が高くて――それで、わたしと同じ魔法少女で……!」

「お待ちください! 美遊さんの外見でしたらば――! イリヤさんの秘蔵コレクションから厳選された写真・動画の数々を上映いたします!」

「え、二人ってそんな関係?」

「待って、そんなの知らない! なんだかイヤなよかんがするからやめてー!? お兄さんもそんなんじゃないからー!?」

 

 まあ、趣味は人それぞれ、だよね。

 

「わかってるわかってるって頷かないでー!?」

 

 そんなやりとりをしていてもナーサリー・ライムは気にした様子なく話を進める。

 

「魔法少女……? あなたのおともだち、魔法少女なの? ………………そう。だったら、わたし、しらない。もう、あきらめたほうが、いいとおもうわ? ざんねん」

「それ、どういう意味?」

「……このせかいはね? 魔法少女たちのあつまるゆかいでようきなパーティーホールなの。あそびつかれちゃったひとから、ひとり、ひとり、じゅんばんにきえていくの」

 

 消える……それはつまり消滅か? そういう決まり? 誰がそんなものを定めたのか。それはおそらくこの固有結界の所有者だろうが――。

 そうだとしても腑に落ちない。何かがおかしい。まだ、何かしらない事実がありそうだ。なによりもこの話は少しばかり根が深そうだと感じた。

 

「んー」

「あの、先輩、その、あまり頭の上で動かれると、その……」

「んー」

「先輩? せんぱーい」

 

 頑張った魔法少女は自分の遊び場を作る。それがおそらく国なのだろう。お菓子の国、大海原と竜の国、死せる書架の国、雪華とハチミツの国。

 少なくともナーサリー・ライムを含めて四人の魔法少女がここにはいるということになる。

 

「そうだわ。これを、あげる。わたしと黒ひつじさんといっしょに遊んでくれたお礼。たのしかった」

 

 そうやって差し出されたのは宝石だった。

 

「ほ、宝石!? こんなにきれいで、大きな、だ、だだだ、ダイヤモンド!?」

「重要アイテムゲットですー! ルビーちゃん的にもなんだか親近感!」

「うわー、綺麗ですね、ベディヴィエールさん!」

「はい、大層良いものなのでしょうね」

 

 はしゃぐ純粋な者たち。

 

「アレ、うったらいくらになるかのう」

「売ったら、アレを買いましょう、アレ!」

「わかっておるわ人斬り。本能寺じゃろ」

「違いますよ!?」

 

 ゲスいものども。

 

「ますたぁこれからどうしましょう。宝石? わたくしますたぁにしか興味ありませんもの」

「オレっちはゴールデンの方がいいしな」

「重要アイテムですし、しっかりと保存しましょう」

 

 興味のない清姫と真面目なマシュ。見事にパーティーが分かれている。

 

「う、受け取れないよ! こんな高価そうな……!」

 

 イリヤに至っては涙目だよ。あんな高いもの見慣れていないという庶民らしさが出ている。いいね、庶民らしさ、本当落ち着く。

 なにせ、周りが英雄ばかりで、規格外ばかりだから、こう、常識人というか、普通の人の反応をみると落ち着く。

 

 ――あれ、この思考って、もうオレがまるで、普通の人じゃないみたいじゃないか?

 ――いや、そもそも人理修復の旅をしているマスターが、普通の人じゃないか……

 

 とっくの昔に普通の人は卒業しちゃっていたということ。一般人がいつの間にか世界を救うマスター。本当、今思えばどうかしてる。

 

「よし、ならばわしが受け取ろう!」

「ノッブは黙っててください!」

「いいの――わたし、魔法少女なのよ? だからね、わたしの大切なきらきら星――その星の宝石が、あなたのお友達をさがすたすけになるかもしれないわ」

「うぅ……どうしよう……」

 

 困ったようにこちらに助けを求めてくる。高価なものは受け取れない。けれど、それが美遊を探すたすけになるかもと聞いて揺らいでいるのだろう。

 

「あとで返しに来ればいいさ、何より真心は受け取らないとね」

「わたしもマスターに同意します。美遊さんを捜索する手がかりになるのでしたら、ここは甘んじてお借りするべきかと」

「う、うん。じゃあ、ここはそうします。きっと返すからね? ナーサリーちゃん?」

「…………」

 

 その言葉にナーサリー・ライムは答えなかった。その笑みは、まるで別れのようで。いいや、きっと別れのものなのだろうと思った。

 宝石、魔法少女が所持していたもの。それは彼女の印象からはかけ離れた高価な宝石だ。それを大事に持っているというイメージをオレはナーサリー・ライムに抱けなかった。

 

 ――きっと、この宝石は何かの核なのだろう。

 

 今までの経験からそう判断する。だが、それをイリヤには告げなかった。正解かどうかもわからない推測だ。それに、どのみち借り受けなければいけないものでもある。

 イリヤにこの事実かどうかもわからない話を告げた場合、おそらく彼女は返しに行こうとするだろう。それでは道を閉ざしてしまう。

 

「……だからって、ナーサリー・ライムが消えるのを良しとするのは……」

「先輩?」

「なんでもない」

 

 どうか、この予測が外れてほしいと思う。

 

「やりましたね、イリヤさん! この調子でどんどん宝石を集めましょう!」

「ちょっとルビー……目的見失ってない? まだ宝石(これ)がどう役に立つかもわかってないんだからね? ――あっ!? 宝石が!」

 

 その時、宝石がまばゆい光を放つ。それはある一定の方向を指し示しているようだった。その方向は、群島の密集する海洋部。おそらくは大海原と竜の国。ナーサリー・ライムが言っていた国の一つ。

 次の目的地。おそらくそこに次の宝石があるのだろう。あるいは、何か別の情報があるのかもしれない。女王メイヴがいるのは雪華とハチミツの国だが、宝石はそちらを指示していない。

 

「なら、そっちに行こう」

「女王メイヴのいる雪華とハチミツの国は目指さないと?」

「ここのものが指し示している以上これに従った方が良いと思う。郷に入っては郷に従えというしね」

「なるほど、そういうものかもしれません」

 

 魔法の国に来た以上は、魔法に従え。

 

「わしは異論なしじゃ」

「私もです。どのみちノッブからは離れられませんからね」

「わたくしはどこまでもますたぁについていきます」

「おう、大将の行くところどこまでも、だ!」

「私も微力ながらついていかせていただきます」

「ええ、マスターのいう事ならば信用できますし」

 

 というわけで大海原と竜の国を目指すことになった――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 暗い。冷たい。ここはなんて寒々しいのか。

 

「……ハァ……ハァ……」

 

 広間に荒い息が響く。それは捕らえられた彼女の声。美遊・エーデルフェルトのあげる苦悶の声。

 ここにはそれだけがある。

 いや。いいや、違う。ここにはもう一つだけ声がある。

 

「――美遊」

 

 彼女のを名を呼ぶ声。

 それは、少女の声。どこかで聞いた、誰かの、声。

 

「ねえ、返事をして美遊――美遊・エーデルフェルト。まだ、私のものになる気はない?」

 

 問いかける声。

 誘惑する声。

 広間に影だけが浮かび上がり、その影は、美遊へと触れる。

 

「……っ……触らないで……この拘束を、解いて……」

「その服喪面紗(ヴォワラ・ドゥイユ)から流れ込んでくる、あなたの魔力は素晴らしいわ。いいえ、魔力だけじゃない。あなたの存在そのものが、最優の器として機能している」

 

 誰かは語る。

 影絵(シルエット)の誰か。

 

 影絵の誰かは、語るのだ。美遊に。

 

 あともう少しで、外の世界へ届きかけたことを。

 あとほんの一歩で、夢を果たすことができるということを。

 

 語る。語って、聞かせる。

 

 けれど、けれど――。

 

「顔も見せないような相手と、交渉なんて……!」

 

 美遊は従わない。

 

「ふふ」

 

 影絵は笑う。

 影絵の少女。レディと呼ばれる、誰かは、笑う。その抵抗が、微笑ましく、ただ笑う。

 それは嘲笑でもある。哄笑でもある。あるいは、そのどちらもであり、そのどちらでもない。

 

 ただの笑み。彼女は笑う。

 

 魔法少女である少女に向かって、ただ笑う。なぜならば――魔法少女である限り、誰もレディには、そう誰も、誰一人として、レディには逆らうことなどできないのだから。

 

「……やめ……む、ぐ……」

 

 そっと、その唇を奪って――。

 

「……っ……唇、噛まれちゃった……ホント、おとなしそうに見えて、気が強いんだから。嫌いじゃないけど。そういうの」

 

 レディと呼ばれる誰かの言葉。それは、どこかで聞いた、誰かの言葉で。

 

「……っ…………? レディ、あなたは……もしかして……?」

「ふふ……」

 

 けれど、その言葉はすぐに消えて、そこにはただ影絵のレディが立っている。

 

「その拘束は、生きている。魔術回路(しんけい)から侵食を続ける術式が、あなたの潜在意識にまで到達するのが先か」

 

 あるいは、大切な、愛しのイリヤスフィールがやってくるのが先か。

 

「――どちらかしら」

 

 どちらでも構わない。いずれでも、何があっても、目的を果たすことができるのだから。

 棄てられた少女たちの夢を、再び――。

 そう、そのために――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 青い空、青い海。大海原は煌いて、イルカたちが楽し気に泳ぎ回っている。大海原を行く帆船。その甲板の上ではしゃぐ少女の姿がある。

 イリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。変身を解いて、時折飛び上がるイルカを見てはしゃぎまわっていた。

 

「わあー、海だー! イルカさんも泳いでるー! ここが誰かの心象世界だなんて、まだ信じれられないなあ」

「はい。本当に。聖杯現象に匹敵する規模です」

 

 もしかしたら、聖杯があるのかもしれない。固有結界にしてはどうにも明らかに規格外にも程がある。ドクターに調べてもらっているが、その手の反応はないのか、あるいは隠されているのか。どちらにせよ何かしらの全うじゃない手段があるはずなのだ。

 まあ、ともかく、ノッブの交渉により何とか船を手に入れて大海原と竜の国に入った。

 

「しかし、あのルビーが操船までできるとは」

「はい。私たちだけで航海はとても無理でしたから。ベディヴィエールさんも操船まではさすがに」

「旅慣れてはいますが、さすがに船には乗りませんでしたから」

 

 などとマシュやリリィからのルビーの評価は割かし高めなのだが。

 

「ルビーがちゃんと役に立っているなんて、意外」

 

 所有者からの評価はこんなもの。いつもどんな態度でどんなことをしているのかうかがい知れるというものである。

 

「いやー、それほどでもー。ってー、ルビーちゃんはいつでもお役立ちですよー! わたしの秘密機能は24式までありますぞ? 比較的万能です」

「万能と聞いちゃ黙っていられないのが私さ!」

 

 ダ・ヴィンチちゃんは出てこないで、話がややこしくなるから。

 

「じゃあ、気持ちのいい航海ついでに食事にしよう」

「いいアイデアですね! お食事、楽しみです」

「先ほどまで船室に入っていらしたのは昼食の準備のためでしたか。言ってくださればよかったのに」

「マシュさんのいう通り。ますたぁは小さくなっていますから、そういうことはわたくしたちが」

「いいのいいの、小さくなったけどあまり変わってないし、なんか頑張ればものも持たずに動かせて、便利だったよ。というわけでイリヤー、ごはんだよー」

「やったあ! 実はお腹ぺこぺこで!」

「麻婆豆腐です」

「あ、(あふ)っ!」

 

 無論、できたてである。美味しくできたと自負しているのだが――。

 

「すごい、この麻婆豆腐! 食べられる! 警戒色じゃないし、ピリっとしてほんのり甘口!」

 

 なんだろう、すごい褒められているのに、この素直に喜べない感じはなんなのだろう。すごく普通に作ったはずなんだけど、それだけでかなり喜ばれているというか安心されているというか。

 

「ああ~、この世にこんな安全な麻婆豆腐があるなんて!」

 

 いったい、彼女は今までどんな麻婆豆腐を食べて来たのだろう。もしかして、アレか? このカルデアに来る前に食べた、ラーメンなのか麻婆豆腐なのかわからない、あの激辛のアレ。

 平行世界にもあるんだ……。しかし、料理の評価じゃないな、これ……。ただ、まあ、泣くほど喜んでくれているみたいだし、いいんだろう……だぶん……。

 

「うむ、ごはんにかけるとまたうまいのう」

「あー、ズルいです、自分だけお米を!」

「わし準備だけは良いからの!」

「私にもくださいよー」

「人斬りの分などないわ!」

 

 わーわー、ぎゃーぎゃー、 騒ぎながら、泣きながらのおかしな昼食会。なんというか、麻婆豆腐だけでこれだけ騒げるのがすごいな本当。

 

「おいひいよお」

 

 なにはともあれ、女の子の幸せそうな顔は見ていて実に素晴らしいものである。

 

「やあ、食事中かい? 食べながらでいいから少し確認したいことがあるんだ」

「なんでしょうドクター」

「イリヤちゃんに確認なんだけど、キミたち魔法少女は、鏡面界へ移動しようとした際にトラブルが起きた、という話だったけれど元の現実世界へと帰還する手段は? もう目処はついているのかい?」

「…………ぜ…………ぜんっ、ぜんっ、考えてなかった……!!」

 

 そんなことだろうとは思っていたけれど、本当に考えてなかったのか。ある意味すごい気がする。

 

「ルビー?」

「そうですねー・イリヤさんや、美遊さんにしても、そこまで高度な術は使えませんねー、もっと厳密に言いますとー、術だけは何とか行使しても戻り先を精密に選択する技術と知識がありませーん」

 

 それじゃどのみち帰還は現状では無理ということか。ルビーもあくまでステッキだからその辺はイリヤ本人次第になる。

 元の世界にはイリヤの家族や友達がいるのだろう。なにか別のことを思い出したのか顔が真っ青になる。

 

「クロのこと忘れてたー!」

「クロ?」

「ああー。タイヘンですねぇー」

 

 ニヤニヤと笑ってそうなルビー。

 

「違うからねー!? アレ、アレだよー!」

「え~、なんですか~? ちゃんと言葉で、そのお口で説明していただけまんせんか~?」

 

 こいつわかってるな。

 

「あんまりいじめてやるなよルビー。とりあえず、クロは、お友達?」

「いえ、あの、双子の妹みたいな女の子で……ちょっと特別な事情があって」

「わかった。複雑みたいだから聞かないけど、早く戻らないと大変なことになるんだね」

「そうなんです……」

 

 いろんな意味で、というのは聞かなかったことにしよう。

 

「最悪ドクターがなんとかしてくれるさ」

「そこで僕に振られてもね。まあ、最悪なんとかしてみるけど、本当の最終手段にしてもらいたいね。結構危ないことなんだ――って、何かがそっちに高速で接近しているぞ! これは――サーヴァント? いや、魔法少女だ!」

「くく……くくク……!」

 

 ワイバーンの背から飛び降り来る影。

 

「何事ー!?」

「吾の領域に入るとはな。だが、良い、待ちかねた敵ダ。無聊のあまり腰掛は捻れ、虎皮の(たふさぎ)は擦り切れるところヨ」

 

 それは鬼。それは茨木童子。

 鬼気を放ち、それは鋭利な笑みをこちらに向けていた。

 

「な、なんて、ボスっぽいオーラ! 何者なの!?」

 

 あー、なんていい反応をするんだろうこの子は。

 ほら、茨木ちゃんがあまりのうれしさにむふっとか言ってるし。

 

「くはッ! しからば聞き置けィ! 鬼と倒れる宿運(さだめ)のもとに鬼と行きたる身上なれバ――その畢命は血塗れずには渡れぬ逆棘の道ヨ!

 三流術者の鬼道陰陽なにするものゾ。飲み干し喰ろうて、この右腕の種火とせン。酔狂と野茨ぞ咲きおおらせ、紅蓮の狂花で、京の都を染めつくそうゾ!

 魔法の童女I☆BA☆RA☆KI推参! くははははははははははハハッ!」

「I☆BA☆RA☆KI……なんて迫力なの、高架下の落書きみたい」

 

 それはすごい迫力と言っていいのだろうか。

 

「もしかして、もうラスボス戦? どうしようお兄さん、心の準備が!?」

「大丈夫大丈夫、たぶんあれはっちゃけてるだけだから」

 

 なんだか涙目だし。あれ、確実に正気じゃないよね。痛々しい見得切りだったし。きっと酒呑にでも言えと言われたんだろうなぁ。

 ともかく、あのキャットと同じだ。ならば倒すのみ。

 

「ノッブ、イリヤ」

「任せい」

「は、はい」

 

 というわけで、茨木戦へ――。

 

 




オリジナルサーヴァント第二弾をあげているので、コメントしてくださるとうれしいです。
友人が作ったサーヴァントも許可を得て載せてます。

さて、魔神柱戦じゃがカットじゃ。そこまでもう労力がないのじゃ。
イベントはもう戦闘カットの方針でサクサク行くぞ。
12月までもう時間がないんじゃ。その上エクステラが来るからね。もう時間がないんじゃ。

というわけでサクサクいきます。

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