「米食べたいし釜戸にしよう」
やはり日本人なら米を食べたいし、釜戸を作ればいろいろと作れる。量は大鍋には劣るが、色々とできることが多いのはいいことだ。
「選んでくださりありがとうございますますたぁ」
「ブーディカさんはごめんね」
「ん、いいよ。マスターが選んだんだから文句はないし」
「えー、なんかすごいのがよかったわ」
オレとしてはエリちゃんに料理をしてほしくないので、最初からその選択肢はないです。ごめんね、エリちゃん、味覚がなくてもオレの観察眼、心眼、直感が全力でそれだけは回避しろと告げているんだ。
「さて、それじゃあ、必要な粘土を集める係と枠を作る係にわかれようか」
男衆の中でも力のあるやつらは全員粘土集めに、ジキル博士とかベディとか器用なのは枠づくりに取り掛かる。
「そういうわけで、良質な粘土がほしいんだけど、どこにあるかな師匠」
「ふむ、粘土か、ならば少々遠くはあるが、あの山のあたりがよかろう」
「ありがとう」
スカサハ師匠に粘土の場所を聞いて、粘土を掘りに行く。結構大きなかまどを作るらしいので、多めにとった方が良いだろうと言っていると。
「よし、せっかくだ、誰が一番多く集められるか競争にしようぜ」
男が集まるとみんな考えることは一緒であり、クー・フーリンの提案によって、女性陣が呆れる程の温度差で勝負が始まった。
審判はオレ。なぜか、スカサハ師匠も参加していた。
「いっぱい集まったねぇ」
粘土を集めて戻ると、枠も丁度出来上がったようで、今度は全員で、粘土、土、切ったわらに水を加えて練っていく。
十分に練れたら型に入れて固めていく。そこに登場したルーンによって、即座に固まりさらに壊れにくい釜戸の完成。釜などはダ・ヴィンチちゃんとマシュが作ってくれていたので、すぐにでも使用可能。
「では、おいしいご飯を炊いてみせますね、ますたぁ」
はじめちょろちょろなかぱっぱ、赤子ないてもふたとるな。
魔法の呪文を唱えればおいしいお米の出来上がり。
香り立つとお米の匂いは芳しく何よりも真っ白に立ったごはんそれだけでもおいしそうだった。
「おおー、おいしそう」
「では、握っていきますねますたぁ」
「おっしゃ、ゴールデンおむすびを作ってやるぜ」
炊きあがったごはん。みんなでおにぎりを握る。
「ますたぁ」
握っていると清姫が隣にやってきた。
「ん? なに?」
「凄いですね、皆さんでおにぎりを握る。こんな機会があるなんて思ってもみませんでした」
クー・フーリンとスカサハ師匠がこぞっておにぎりを握っている。どちらが多く握れるかで勝負でもしているのだろうか。
ベディが二人の王様の為におにぎりを笑顔で楽しそうに握っている。なお、握られたおにぎりは握られた端からサンタさんが食べており、リリィはそれをだめですよー、と止めていてとても大騒ぎ。
エリちゃんは握るだけなのに、なぜか赤くなっているのが恐ろしいんですが。いったい何があって赤くなっているのでしょうかオレは知りたくないです。
ノッブは、爆弾おにぎり。とても大きなおにぎりを量産している。中に何か詰めていたが、分厚いごはんの層の中に沈んでおり、中に何があるのかは食べてからのお楽しみ。
ブーディカさんはとてもマトモなおにぎりだ。初めて握っているらしいのだが、すぐにコツをつかんでマシュと一緒に楽し気に作っている。
ダビデは、なんか余計なことをしている。形がおっぱいだったり、よくわからないクオリティをたたき出して式にぶっ壊されて叫んでいた。
ジェロニモは初めてで不格好だが、これは面白いなと興味津々の様子でおにぎりを握っていた。ジキル博士は、小ぶりの丸型のおにぎりを作っていた、中に何を入れるのかを検討しているらしい。
そんな比較的まともな雰囲気の隣で、金時はゴールデンに輝くおにぎりを作っていた。いつの間にか作っていたのかカレー味とのこと。カレーのいい匂いがするがきっと食べる時が大変だろうなと思う。
ダ・ヴィンチちゃんは、なんだろう。おにぎりでモナリザ? を描いている。いや、何してんのこの人?
「なんというか、みんな個性的だなぁ」
「ふふ、わたくしも負けていられませんわ」
みんな楽しそうにおにぎりを握る。握ったら食べる。
「んー、美味しい」
微かではあるが、味が感じられるのがうれしい。おいしいとわかるのがとても素晴らしいことだなんて知らなかった。
「ますたぁ、誰のが美味しいですか?」
「んー、好みで言ったら清姫のかな」
なんというかとても懐かしい味がした。微かであるが、それを感じることができた。それと純粋に本当に好みのど真ん中なのだ。
「まぁ! ありがとうございます。ますたぁの好みに合わせて作りましたから」
彼女の料理は全部オレの好みに合わせて作ってある。おにぎりだけじゃなくて、付け合わせに作っていた味噌汁だってそう。
全部オレの好みに合わされている。今では、それだけ思われているのだと実感できるので、嬉しいやらなんやらだ。
「むぅ、やっぱり清姫かー。ちょっと悔しいなぁ」
「ブーディカさんのもおいしかったよ」
「ありがと。今度は負けないかな」
「ふふ、ますたぁの好みなら全て把握していますもの、負けませんわ」
「わ、わたしも先輩の為に頑張ります!」
「ではトナカイ、一番まずいのはどれだ。はむはむはむ。うむ、おかわりだベディヴィエール卿」
「はい我が王、リリィ様もどうですか?」
「はい、お願いします」
ここで、それを聞くのかサンタさん! てかリリィたちもめっちゃ食べてるし。
だが、問いには答えろとのサンタさんの視線。とりあえず、無言で、眼を逸らす。テーブルの上には唯一食べられず残っている赤いおにぎりっぽいナニカ。これを食べた瞬間どうなってしまうのか想像もしたくない一品である。
紛れもないエリちゃんの作品である。なんというかもうこれどうしようと思っているのだ。次は
「…………」
だから、眼を逸らしているわけで。
「よーし、じゃあ、遊びにいくかァー」
「ちょ、子イヌ、どこ行くの!? まだ
「戦略的撤退!」
砂浜を猛ダッシュで海へと逃げる。逃げるが勝ち。海へ飛び込んで泳いで逃げた。
その後、式によりダビデが犠牲になったそうな――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
夜の恒例となった味覚の治療も進み、それなりに味が戻ってきた。
「さあて、寝るか……ん?」
ふと、もう寝るかと寝床に入ると、ごそごそと音がする。どうやらマシュが抜け出していくらしい。トイレだろうか?
いいや、そんな気配ではない。ではなんだろう? 疑問に思って、ついて行ってみる。
「…………」
一人星空を見上げている。いや、海を見ているのか。
「マシュ?」
「先輩? どうかなさいましたか?」
「それはこっちのセリフ。マシュこそこんな夜中にどうしたの?」
「いえ、すこし、星空や夜の海をみようと思いまして」
「そうなんだ。じゃあ、オレも見ようかな」
そう言ってオレはマシュの隣に座る。互いの体温すら感じられそうなほどに近い距離に座った、座ってしまった。
近すぎた、ちょっとヤバイかもしれないと思ったがそれでもなんとか平静に勤めながら、マシュと会話を続ける。
「綺麗だね」
星空もマシュもとてもきれいだ。
「はい、このような場所に招待してくださったスカサハさんに感謝です」
「こうやってゆっくり星を見られてよかったと思うよ」
第六グランドオーダーでは何度も死にかけた。もうだめじゃないかとかそんな風に思ったことも多かったけれど、またこうしてゆっくりとできるのが嬉しい。
「……はい。先輩とこうして星を見ることができて、嬉しいです」
「……ねえ、マシュ。どうして、星を見に来たの?」
「…………」
「…………」
無言。何かを考えるような雰囲気、そして意を決したようにマシュは言う。
「実は、この時間に1人になれば先輩が来てくれるのではないか、そう思って。実際先輩は来てくれました」
「なんで?」
「……先輩。釣り勝負のお話を覚えていますか?」
「なんでもひとつ命令を下せる権利のこと?」
「はい、それをここで使ってもいいでしょうか」
なんだろうか。こんな時間にと変なことを想像してしまうが、マシュから感じる雰囲気は真剣そのものだ。
「いいよ」
「ありがとうございます。では――先輩、何か隠し事をしていませんか? しているのなら、わたしに、話してほしいです」
驚いた。まさか、マシュにそう言われるとは思ってもいなかった。彼女にだけは知られないようにしていたから。
でも、そうか。
「……それがお願いでいいの?」
「はい」
「……わかった」
オレは言った。彼女に記憶を失ったこと、味覚を破壊されたことを話した。マシュはオレを責めることなく黙って聞いていてくれた。
マシュが話したのは最後まで話し終えた時だった。その時マシュが浮かべていた表情は、やっぱりといった納得のそれ。つまり、彼女は気が付いていたということで。
「……やっぱり、無理していたんですね」
「気が付いて、いたんだ……」
「いえ、なんとなくです。なんとなく、先輩の様子がいつもと違いましたので、もしかして何かあったのではないかと思っていました」
「後輩には敵わないな」
「はい、わたしは先輩の自慢の後輩ですから。ですが、少しだけ悲しいです」
マシュは言った、話してくれなかったことが悲しいと。
「心配をかけたくなかったんだ」
「はい、先輩はそういう方です。わたしたちを心配させないように、ずっと気遣ってくださいます。それがいいところで、きっと駄目なところなんだと思います」
気遣いすぎだとマシュに言われてしまった。もっと心配をかけてほしいと彼女は言った。マスターとサーヴァント、唯一無二の主従関係なのだから。
もっと頼られたい、もっと支えたい。もっともっと。
「真名もわかり、宝具も解放できるようになりました。ですから、もっと頼ってほしいです、先輩。遠慮なんてしないでください」
「遠慮なんて――」
「してます。なんでもひとりで抱え込もうとしてます。先輩の悪い癖です。わたしは先輩の騎士として、先輩の駄目なところは改善することにしました」
「厳しそうだなぁ」
「まずは、話してほしいです。ちゃんと聞きます。もうあの時のような思いはしたくないです。だから、辛いことも、悲しいことも、苦しいことも、嬉しいことも、楽しいことも、全部、全部、先輩と共有したいです」
それはズルい、まるで告白みたいだ。そんなことを言われたら、断ることができない。
「……うん、負けた。わかったよ、マシュには言うよ」
「いえ、わたしだけでなく皆さんにも言ってください。皆さん、先輩の力になりたくて仕方ないんですから」
「なんというか、怒られそうだなぁ……」
「しっかりと怒られてください、先輩」
「泣きそう」
「泣いたら私が慰めてあげます」
「わかった、絶対泣く――はは」
「あはは――」
マシュと二人、こんな話をするだなんて思ってもいなかった。
でも、とても心が軽くなった。
――ありがとう、マシュ。
やっぱりマシュは最高のサーヴァントだと思うのだ――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
水を浴びて汚れを落とす。川の水を使っての水浴びをしながら思う。
「……そろそろ、風呂がほしいな」
「確かに。衛生面から考えても入浴施設は必要だね」
「あとで提案してみよう」
水浴びを終えてみんなに風呂を作らないかと提案する。
「良いですね。サーヴァント、デミ・サーヴァントと言えど、レディですから、この問題は何よりも優先すべきです」
女性サーヴァントから大絶賛で受け入れられた。みんなほしかったんだ。なら早く言えばよかったな。しかし、それならば、いいんだな? 本気を出しても良いんだな?」
「ますたぁが、かつてないほど本気の目を!」
「ならば、わしに任せよ!」
ノッブが名乗りを上げる。裸マントは相変わらず裸のはずなのに、なぜか大事なところが見えない。なぜだ! どんなにかがんでも、どんなアングルから見てもまるで見えない。
「蒸し風呂じゃ!」
「蒸し風呂?」
「うむ、サウナ風呂と言ったらわかりやすいかの。わしの時代はそれが主流じゃったからな。風呂といえば蒸し風呂よ」
「へえ、そうなんだ。最初から湯船とかあったわけじゃないんだ」
「ま、そりゃなぁ。昔は水を沸かすってだけで大変だったからなぁ。しかも、平安貴族なんてのは、ほとんど風呂に入らなかったって話だ」
「ちょっとおまちくださいまし金時様? それではまるで平安貴族が風呂嫌いのようではありませんか。違いますからねますたぁ」
清姫曰く、平安貴族は神事の関わりで風呂に入れる日が決まっていたのだとか。大抵は禊の時にしか入れなかったりと色々と大変だったらしい。
平安時代も蒸し風呂とかそんな感じのは合ったようで、平民は結構入っていたらしい。
「清姫は?」
「………………」
「清姫?」
「ますたぁは意地悪です」
――ついね、つい。
「ちょっと癪だけど、あたしはローマ式のお風呂が良いと思うよマスター」
ブーディカさんからローマ式を薦められるとは。
「是非! マスター是非にそれにするんだ!」
「ちょ、ちかいちかい、どうしたんだ、ダビデ!」
「ローマ式の浴場だよ!?」
「だからなにが――」
混浴か! 大きな湯船とかよりも、確かに混浴があった!!
「なるほど、確かにローマ式ならそうしないとね」
「風呂か。水浴びで良かろう」
ダビデとそんな話をしていると普通に今のままでよかろうという男らしいな師匠。それだけでは問題だというからこういう話になっているのですが。
其れじゃまずいからシャワーということにしておこう。うん、きっと聞き間違いだうん。
「そも風呂を作るためにはまず水源がいるだろう。井戸からとるわけにもいくまい」
「なら、水路を作るか」
同時に作ってしまえば早いだろう。
「おう、なら木で作ろうぜ、水車なんてゴールデンかっこいいと思うぜ!」
うむ、木なら確かにお手軽だし、水車の動く音は好きだ。粉ひき小屋とか作ったら麺類も作れるのではないか?
「木など脆弱、トナカイ、ここは石だ。石の水路を作れ」
石か、確かに丈夫だな。
「それならパイプでいいだろ」
「また、式はそんな投げやりな」
「いいんじゃないかいパイプ。ダ・ヴィンチちゃんに任せてもらえばこの島に上下水道を作って見せようとも」
「それはやりすぎ」
ともかく、水路と風呂、どうするかな。
「マスターが良いと思うものにしましょう。このセイバーリリィ、マスターを全力で支持します!」
というわけで、今回のアンケートは水路と風呂
水路は
木と石とパイプ
風呂は
蒸し風呂とローマ式とシャワー
の中からひとつずつお選びください。
次回はお風呂回だ。蒸し風呂とローマ式は混浴じゃぞ?
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