「それじゃあ、木で作ろっか」
味覚が破壊されているために、味気ないバーベキューではあったがそれを乗り切って、木で家をつくることにしたことを告げる。
「まあ、わたくしての提案を採用してくださり、ありがとうございますますたぁ!」
「むむ、残念です。ですが、やるからには頑張ります!」
「おやおや、いいと思ったんだけどなー煉瓦」
「とりあえず夜になる前にさっさと作っちゃおうよ」
「ふむ、それもそうだ。では各人作業に入るとしよう」
木を切り倒す係、それを加工する係、組み立てる係と分かれて作業をする。オレは指示出し係で、それぞれに指示を出しながら、適切に組み立てていく。
道具はダ・ヴィンチちゃん製の特別なのこぎりやらで楽に切れる優れものだったり、とにかく便利道具だの揃えられていたので苦労することなく木の家は出来上がった。
壁を作り、屋根、床があるというだけの雑魚寝部屋みたいな感じではあるが、新築の木造住宅の匂いは懐かしさとともに落ち着きを与えてくれる。
「うん、完成ー!」
確認を終えて全員に言う。サーヴァントだけあって疲れているというやつはいなくて、よっしゃ遊ぶかと海へ繰り出す連中もいた。
各々、いろいろと楽しむ気らしい。クー・フーリンと金時、ジキル博士は釣りに出掛けて行ったし、サンタさんはサーフィンでかっこよく技を決めていたりして、リリィがそれに対してきらきらと賞賛を送っているようだった。
ベディはそれを見ている。なんだか保護者みたいだ。式とノッブはスイカっぽい果実を見つけてきてすいか割りをしている。式は目隠ししても見えているかのように正確にやるし、ノッブはもう当たらない場合は適当に火縄銃を出して自ら引っ張ってすいか割りに参加させていたマシュに叱られていた。
ジェロニモ、スカサハ師匠、ブーディカさん、ダ・ヴィンチちゃんは木陰で日焼けをしている。なんというか、ヤバイ光景だ。エリちゃんはダビデをこき使ってライブステージ作り。大変そうだなー。
オレは家の中で休憩。屋根があるって素晴らしい。解放感もあって、大きな窓からは海が一望できる。風が入ってとても涼しいのも高ポイント。
風が入る度に香る木の匂いというのはやっぱり落ち着くのだ。
「で――なぜ清姫は、膝枕をしているのでしょう」
「なぜとは、異なことを。もちろんお慕い申し上げているからに決まっています。お休みになるのなら、やはり柔らかな枕が必要でしょう? それにこのような素敵な家を作ってくださったのですから」
「んー、別に清姫の為っていうわけでもなくて、オレの為だけどね。やっぱり石とかよりは、木がいいかなって。膝枕はありがたいけど」
皆みたいに遊びに行かなくていいのかとも思うだけだが。
「わたくしは、ますたぁとこうしているのが一番楽しいですから」
「そっか……それにしてもいい家ができたよね」
「はい。少し手狭ですが、木材の匂いが感じられてとても良いと思います」
「まあ、のちのち大きくしていく楽しみがある方が良いよね。そう思うと木で良かったかも」
「ますたぁの選んだものなら何でも素晴らしいと思います」
それはないだろうと思う。特に煉瓦とか煉瓦作るところからだし。
「いいえ、素晴らしいと思います。わたくしはただ木で作ればいいと提案しただけですのに、こんなにも素敵なお家が出来上がるのですから。ますたぁが選べばきっとどんなものでも素敵になると思います。それもますたぁがとてもすてきだからです」
「……」
そうもはっきりと言われてしまうとなんだか照れくさい。ぽりぽりと鼻の頭をかく。
「……そうです。耳掃除などいかがでしょう」
「耳かきなんてあったっけ?」
「わたくしの舌」
「却下」
一瞬、ちろりとと伸びた舌でされるのを想像してぞわりとしたけれど、それはなしだ。なぜかというと、水着だと隠せないからだ、男の生理現象が。
今この状況だって、頭の下の生足の感覚や見上げた先にある着物で隠されていない発育の良い胸とかを必死に見ないように半目になっているのだから。
「冗談です。ますたぁのものなら耳垢でもなんでもわたくしにとっては何よりも素敵なものですから構いませんけど。実は廃材を利用して作ってみたのです」
「へぇ、結構意外、そういうことできるんだ」
「見様見真似ですが。どうです?」
耳かきは結構きれいに出来ていた。
「ん、いいと思うよ。せっかくだしお願いするよ」
いつもならあまりそういうことはしなけれど、夏だからということもあって、お願いしてみることにした。
「はい。では、行きますね」
頬が太ももに押し付けられることになる。顔の半分で感じられる太ももの感覚と匂いがヤバイが、それ以上に耳かきをされるという感覚がむずがゆく心地よい。
誰かに耳掃除をしてもらうのはいつぶりだろうか。もうずっと昔のような気がする。
それも忘れてしまった、誰かの記憶。きっともうそれは取り戻せない失われたもの。両親のそれ。少しだけ泣きそうになった。
「どうかなさいましたか、ますたぁ。痛かったでしょうか……?」
「……いや、なんでもない。大丈夫、気持ちいいから続けて」
「はい、綺麗にいたしますね――それにしてもふふ」
「どうしたの?」
「いえ、こういうことを殿方にするのが実は夢だったのです。それが叶って、とても幸せで」
「……そっか」
オレも清姫がこういう風になるなんて知らなかったよ。安珍に向けるそれじゃなくて、君がオレに向けるそれ。それはとてもうれしく思うのだ。
「では反対を……ますたぁ?」
「……ん、あ、ああ……」
なんだか、眠くなってきてしまった。
「どうぞこのままお休みくださいな」
「そう? じゃあ、ありがたく……」
「では子守歌でも、きつねの――」
清姫の子守歌を聞きながら、少しだけ耳かきをされながら眠る。久しぶりに静かに眠れそうな気がした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「せーんぱい!」
マシュに呼ばれて、浜に出ると夕日が丁度沈むころだった。
「おー、綺麗だ」
「はい、とてもきれいなベストショットです。記念に皆さんで写真をとろうという話になりまして」
「カメラは?」
「ふっふっふ。ダ・ヴィンチちゃんにかかればカメラ程度木でつくれてしまうのさ! 万能を舐めちゃいけないよ」
――木製のカメラだと!? いや、どういう仕組みなの、それ。
いくら万能だからってやっていいことと悪いことがあるんだからね!
なんて、まあ、いいとして記念写真はいいかもしれない。こうしてみんなで遊んだっていうそういうのは残せるのなら残していきたいと思うから。
「先輩はやはり真ん中です」
「では、隣をわたくしとマシュが囲みます」
「おーおー、モテモテだねぇ、じゃあオレは――」
「どこへ行く愛弟子。無論、わしの隣だろう? ん?」
「いやオレはー」
「ベディヴィエールさん! お隣いいですか!」
「ええ、もちろん」
「あ、サンタさん! サンタさんもお隣で!」
みんなでわちゃわちゃしながら撮影会。とても素晴らしい写真が撮れた。
「ドクターも来れればよかったんだけどね」
「なに、ロマニはここら辺に個別写真をつけるよ」
風邪で休んだ小学生かな?
「それに今頃は、ロマニも奴も十分休んでいるだろうさ。それよりもみんなが寝静まった頃、ちょっといいかい?」
「? いいけど?」
「よし、期待しておきたまえ君にとっておきのプレゼントをしてあげるとも」
プレゼント? なんだろう。
「先輩! ベディヴィエールさんが釣った大物を捌くの手伝ってください」
「今行くよー」
考えるのはあと。今は夕食の準備に取り掛かる。味を感じないことに気が重くなるが、努めて明るく。これは自分でやったことなのだからと言い聞かせながら、笑って準備をする。
夕食も楽しく過ごして、明日も早いからと寝静まるのも早い。皆が寝静まった頃、言われた通り、家から出る。
「おお、すごいな」
しぜんの光がない月明りだけの浜辺。神秘的であり、何よりも星空がとても明るかった。これほどまでの星空をオレは見たコトがない。
特異点ではいつも余裕がなくて、あまり星空まで見ることができなかった。今は見ることができる。それが当たり前のことなのにただ嬉しかった。
「よーし、マスターちゃんと来たね」
「ダ・ヴィンチちゃんと、スカサハ師匠も。いったい何をするんです?」
「君の味覚、それを取り戻す」
「――――」
脳の機能自体が破壊されているからそれは不可能だといったのはドクターだ。どれほど脳医学が発達しようとも失われた、破壊された機能を元に戻すことはできないと。
「確かに普通では無理じゃな。だが、お主は幸いなことにこれだけの英霊とパスをつなげたマスターだ。その絆があればどうにかできないこともない」
「ほ、ほんとう、に?」
「ああ、このダ・ヴィンチちゃんの万能の名に賭けて、君の味覚を取り戻して見せるとも。それに夏のせっかくの休暇だ、味気ないのは悲しいだろう。キミの負担は少しでも軽減したいからね。まあ、それもこのスカサハがいないとできなかったわけだけど」
「なに、弟子から話を聞いた。私は、私にできることをする。ただそれだけだ。それにいろいろと借りもある」
それでいったいどうやって治すかだが。根本的に治療というのは不可能。ゆえに裏技的なものを使う。
「英霊とつながっているパス。それを少しばかりいじくってな、味覚を少しずつもらうというわけだ」
「記憶に関しては無理だけど、味覚は万人に共通して存在しているものだからね。ちょっとずつ本人に影響が出ない程度にもらって君に植え付ける。まあ、そんな感じだ」
つまりは味覚の移植みたいなもの。サーヴァントとマスターは視覚の共有などが可能。夢でその記憶を見ることもある。
ならばそれを応用して味覚を少しだけ分けてもらうということ。ただしそれには双方の同意が必要だ。
「そこはキミのサーヴァントたちだ。女連中にはキミの性格上知られたくないだろうからね、男連中に声をかけてまわったわけだが、さすがはキミだ。ダ・ヴィンチちゃんも羨むくらいの人望だよ」
「おう、オレたち全員、マスターに味覚をくれてやる。ったく、無茶するやつだと思ってはいたが、相変わらず無茶しすぎだマスター。もうちょいオレらを頼れ」
クー・フーリン……。
「水臭いぜ大将、ゴールデンどうにかしてやるぜ」
ゴールデン……。
「そうそう、君の負債は僕の負債も同然なんだから、どんと背負わせてくれいいんだ。君一人で背負う必要なんてないんだよ」
ダビデ……。
「君の双肩には確かに世界の命運がかかっている。でも、僕たちにもそれは同じだ。だから、ひとりで頑張らないで僕にも――俺にもいろいろいいやがれっての糞マスター!」
ジキル博士にハイドまで……。
「そうともマスター。彼方の世界では、君と私のような絆を「刎頸の交わり」と言うらしい。君の為なら、私は喜び戦場へと旅立つ。この程度、造作もない」
ジェロニモ……。
「私は新参ですが、貴方には大きな借りがあると、この銀腕が言っています。未熟な我が身が役に立つのならばどんなことにも協力します」
ベディヴィエール……。
「みんな、ありがとう――」
「泣くな若人なんてのは無理だろうけど、さあ、時間はないし、あまり騒いでいると耳ざとい誰かに見つかりそうだ。さっそく施術を始めよう」
「では、行くぞマスター。ちょいと魔術回路に干渉するがなに、多少痛いだけだ」
「いだだだだ!?」
痛いどころじゃない、激痛なんですけど!?
「ふむ、まあ、初回はこの程度だろう」
それも数秒で終わった。
「これで取り戻せた、の……?」
「いいや、まだじゃ」
「何事もこつこつとした積み重ねが大事なのさ。マスター。気持ちはわかるが焦っても仕方ない。徐々に徐々にだ」
「……そうか……でも」
味をまた、感じられるようになるのならこんなにうれしいことはない。
「さあ、明日も早いし、寝るとしようじゃないか!」
といわけで今日はもう寝る。与えられた痛みのおかげでストンとオレは眠りに落ちた――。
「………………」
そして、起きたらなぜか女性陣の抱き枕にされていた……。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「……水源が必要だと思うんだ」
「確かに先輩のいう通りですね。川は在りますが、汲みに行くのは大変ですし」
それに面倒だ。ゆえに何やら地下水脈やらは結構豊富らしいので、決まった場所に水源を作るということで井戸でも掘ったらどうかと思ったわけだ。
「井戸ですか。ならば滑車付きの井戸などどうでしょうか。簡単な機構ですし、よく見ていたので私でも作れると思いますので」
ベディヴィエールが提案したのは滑車によって桶をおとして汲むタイプの井戸。確かに中世とかによくあった井戸だし、ベディヴィエールも良く使っていたのだろう。
「ポンプ式にしたらどうだ? 面倒だって話ならポンプにした方が楽だろ」
式が提案したのは手押しポンプ式の井戸だ。確かにあれは楽だ。水を桶に入れて滑車で持ち上げるのは意外に力も必要だ。
しかし、手押しポンプの井戸ならその問題はなくなる。誰でも簡単に水を汲めるというのは大きな利点だろう。手押しポンプの方もダ・ヴィンチちゃんがどうにかしてくれるらしい。鉄もここでは採掘できるらしく、ルーン魔術の炎などで加工すればチョチョイのチョイだとか。
「ふむ、ならば究極に面倒をなくしてやろう」
「スカサハ師匠?」
「水のルーンを桶に刻む」
すると桶から水が溢れだすようになる。確かに面倒じゃないが、無精過ぎない? 大丈夫?
「まあ、決めるのはお主だマスター。良いと思うものを決めるが良い」
――さて、どうするかな。
アンケート結果は木でした! そういうわけで清姫とのシーンをやりました。膝枕耳かきとかなにそれ羨ましい。
しかも水着だよ。え、なにそれどんなプレイなの?
とかまあいろいろありますが、味覚もまた戻る可能性ということで適当に英霊をあれだけ使役してるからといい理由で。あとはもう万能師匠にお願いです。
さて、次のアンケートは、水源について。
滑車の井戸、手押しポンプの井戸、ルーンで水を出るようにする
この三つからお答えください。
アンケートは変わらずアンケートのところにコメントください。
ではよろしくお願いします。
正直、女子との絡み書いてるより男性陣との友情とか書いてる方が筆が進んだ。