Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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神聖円卓領域 キャメロット 36

 真名、開帳――今ここに一人の騎士が災厄の席に立つ――!!

 

「其は全ての疵、全ての怨恨を癒す我らが故郷――顕現せよ、いまは遙か(ロォォォド・)理想の城(キャメロット)!」

 

 白亜の城が展開される。これこそまさに、白亜の城キャメロット。かつて多くの騎士たちが集った、円卓のおかれし我らが故郷――。

 

「――――」

 

 ああ、それはなんと美しいのだろう。白亜の城が顕現し、ロンゴミニアドの一撃を受け止めている。

 

「面白い――その細腕で、白亜の城をどこまで支えられる!」

「くっ……つうぅうう……ま、け、ません! わたしは、ひとりでここに立っているのでは、ないのですから!!」

 

 ひとりではない。ここに来るまでに散っていった仲間たちの想いがあって、何よりも

 

「マスターが、いるのです!」

「ええ、そうです。貴女はひとりではありません。ですが、もっと肩の力を抜いて」

「ベディヴィエール?」

 

 彼はゆっくりとマシュに向かって歩いて行っている。言葉には助言を乗せて。

 

「――待て」

「待つんだ。キミの、その体は――」

 

 静止を振り切り、彼はマシュのところまで行った。

 

「力まないで、サー・キリエライト。その盾は決して崩れない。貴女の心が乱れぬ限り」

「ベディヴィエールさん……? あ……はい、こ、こうですか?」

「そうです。たいへん筋がよろしい。いいですか。忘れないでください。白亜の城は持ち主の心によって変化する。曇り、汚れがあれば綻びを生み、荒波に壊される。けれど、その心に一点の迷いもなければ、正門は決して崩れない」

 

 マシュ・キリエライトという騎士は、敵を倒す騎士ではない。

 その善き心を示すために、円卓に選ばれた騎士なのだ。

 

「……何者だ。見たところ、貴様も騎士のようだが――」

「っ、知らないはずがありません! この方はベディヴィエール卿! 円卓の騎士です!」

 

 しかし、ベディヴィエールのことがわからない獅子王。

 

「……そうでしょうとも。ですが、これを見ればその記憶も薄れましょう」

 

 ――剣を摂れ、銀色の腕(スイッチオン・アガートラム)

 

 銀腕が裁きの光を断ち切る。

 いいや、その光は銀なんてものではなく――。

 

「黄金……」

「――今の、輝きは――、知ってる……それを、私は知っている――」

 

 それは当然だろう。だって、あの輝きは――。

 

「ベディ……」

「そんな顔をしないで下さい。ここまで来れたのは貴方のおかげなのですから。しかしやはり気が付いていたのですね。貴方はすごい人だ」

「違う……オレは……貴方の方が」

「いいえ、貴方はとても凄い方だ。私などよりもずっと強く、正しい選択を選び続けた」

 

 体が崩れていくベディヴィエール。それも当然だった。だって彼は。

 

 ――人間なのだから。

 

「でも、どうして……」

 

 いいや、わかってる。その銀腕は、エクスカリバー。かつて彼が返還したはずの剣。いいや、彼が持っているということは、返還はされなかったのだ。

 

「まさか――貴卿、は」

「……そう。私は罪を犯しました」

 

 三度目ですら彼は聖剣の返還が出来なかったのだ。

 

「そうして森に戻った時、王の姿は消えていた」

 

 王はその時、死ぬこともできなくなり、こうして亡者どもの王、ワイルドハントとなっていたのだ。

 

「私は、ずっと貴方を探し続けました。この罪を贖うために」

「馬鹿な、それが本当だとしたら1500年だぞ!? 1500年近く、アーサー王を探し続けたというのか!? 人間がそんなに生き続けられるはずがない! エクスカリバーは所有者の成長を止める! だが、それは肉体の話だ! 精神は不老にはならない! そんな長い間――ひとりで? 贖罪の旅を続けて来たのか、キミは!?」

 

 ドクターの叫びがこだまする。

 

「そんな惨い話があってたまるか! 残酷にも程がある!」

「ありがとう、ドクター・ロマン。ですが、それほど辛いものではありませんでしたよ。それにこうして最後の機会を与えられました」

「ベディヴィエール……」

「さあ、今こそ、私はここに罪を贖おう。獅子王、聖槍の化身よ。私は円卓の騎士ベディヴィエール。善なる者として、悪である貴方を討つ者だ――」

 

 獅子王がベディヴィエールを円卓に導こうとする。だが、それすらも振り払い。ベディヴィエールは剣を持つのだ。

 

「マスター、どうか、聖剣を手に取ってください。聖剣は善なる心を持つ者の手で、あるべき者の手に渡るもの。――私では、もうその資格がないのです」

「いいや!」

 

 オレはベディヴィエールの手をとって、ともに聖剣を手にする。

 

「行こう、一緒に。今度はちゃんと返せるように」

「――はい!」

 

 獅子王の一撃を、マシュが防ぎ、槍の一撃という壁を式の刀が切り裂く。呪腕のハサンが己のみを盾にしてくれて、オレとベディヴィエールはともにエクスカリバーを振るっていた。

 

「馬鹿な――私が、英霊如きに、押されている……いや、おまえたちは英霊ですらない。ただの人間が……私に迫るのか? 土塊となってもはやマスターの力に頼るばかりの手足で、なお。なぜだ――」

「それは、あの日の貴方の笑顔を、今も覚えているからですアーサー王。さあ――我が王よ、今こそ、この剣をお返しします」

「うん」

 

 最後の一振りを、間違えないように真名を結んで――。

 

「「エクス――カリバー」」

「ぐ――」

 

 それは小さな傷しか穿たない。だが、それでいいのだ。確かに返還はなったのだから。

 

「円卓の騎士を代表してお礼を――あの時代に、ひとり我らの星となってくださり、ありがとうございます――」

「――そう、か。ようやく思い出した……」

 

 あの森を、あの丘を。最後まで、アーサー王を気遣っていた、泣き腫れた騎士の顔を。

 

「そうか――そなたは幾星霜、その悔いを晴らすために彷徨い続けたのか」

 

 ゆえに、賛辞を贈ろう。

 

「……見事だ。我が最後にして最高の、忠節の騎士よ――誇るが良いベディヴィエール。貴卿は確かに、王の命を果たしたのだ」

 

 ベディヴィエールは最後に笑っていたのだと思う。全てをやり遂げて。形すら残らずに、彼は消えた。

 それと同時に聖槍は砕け散る。それにより特異点は崩壊していく。時代を呑み込もうとしていた重力変動は消滅し、全ては救われた。

 

 そして、オレたちは急速に修復されていく人理の中でカルデアへと強制返還されようとしていた。

 

「ふむ。最後に一つ言っておくか。異邦のマスター。一つだけ、言っておこう。魔術王ソロモン。その居城となる神殿は、正しい時間には存在しない。魔術王の座標を示すものは第七の聖杯のみ。あの聖杯のみ、魔術王が自ら過去に送ったものだ」

 

 それはソロモンよりも古い時代に七つ目の特異点があるということ。

 そして、七つ目の聖杯こそが魔術王の絶対の自信。それが復元されぬ限り、人理焼却は行われるということ。

 

「――ありがとう獅子王。またどこかで会えたら、ハグをしてくれ」

「フッ、考えておこう。さっさと帰るが良い。そして、お前は、おまえの善いと思う道を行け。それがおそらく――」

 

 ――いい結果につながる。

 

 最後に見たのは笑みを浮かべた王の姿だった。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 すとんと、首が落ちた――。

 

「…………」

 

 呪腕のハサンが差し出した首は落ちた。

 

 初代山の翁の手で。

 

「…………」

 

 それがハサンの定めゆえに――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「オジマンディアス様、ニトクリス様、妾もすぐに参ります」

「おー、おまえさんも今帰りかい?」

 

 クレオパトラと藤太もまた消えかけている。

 

「ええ、我が主は、太陽王オジマンディアス様。多少の猶予をいただいておりましたが、それもここまで。ですが、なんとか勝利できたようですね」

「おー、本当、ようやったな。まったく、ま、次会えたら飯をたらふく食わせてやるとするか」

「低俗なブタにはちょうど良いでしょう。あのような不健康なブタにはたらふく食わせてやりなさい。ぞれが慈悲というものです」

「あんた、面倒くさいのう」

 

 ともかく此度は勝った。次はどうなるかはわからないが、その時は、また味方であればよいなと思うのだ。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 気が付くと、マシュの顔があった。

 

「! 先輩も目を覚ましました! 全員無事帰還です!」

「帰って、これたのか……」

「はい、この通り、大事なく。さきほど人理定礎の修復も確認されました」

「そっか」

 

 第六グランドオーダーは、完了した。

 

「疲れたー」

「はい、お疲れ様ですますたぁ」

「うわぁ!?」

 

 あまりに久しぶりだったので驚いて飛び上がってしまった。

 

「んもう、ますたぁったら、あんなに熱い口づけまでしたというのに」

「せ・ん・ぱ・い?」

「あ、いえ……」

「あはは。いつも通りだねー」

「ブーディカさん」

「うん、お疲れ。今回はまったく役に立てなくてごめんね」

「そういうことはないよ。おかげで助かったし」

「よーし、それじゃあ、いっぱいご飯作ってあげよう。せめてね」

「……うん。ありがとう」

 

 名誉すらもない。報酬もない。けれど、確かに記憶はあるのだ。あの特異点であったことはすべて、オレの中にある。だから、それでいい。

 

「――聖杯の保管完了だ。そして朗報だよ。第七の特異点が見つかった。紀元前2600年。古代メソポタミアに特異点はある、と観測された。だが、今はゆっくりと休んでほしい。丁度良い、レイシフト先もあるからね。ちょっとした休暇を過ごしてくると良い。なにせ紀元前へのレイシフト証明は莫大な時間がかかるからね。だから、ちょっとした休暇を堪能してくると良い」

「海、か」

 

 海、水着……ひと夏のアバンチュール。

 

「よーし、行こう!」

「ともかく、今はゆっくりと休んでくれ。海の準備はしておくから。ああそれとグッドニュースだ。召喚可能霊基一覧に新しい枠が生まれた。もともと英霊としての功績がなかった彼だけど、今回の功績が人理に認められたのかな、それとも獅子王の粋な計らいなのか。いろいろと観測が広がってね、いろいろな可能性が見つかった。そして、君の帰還とともに新しく二名召喚された――」

「セイバー、ベディヴィエール。此よりは貴方のサーヴァントとなりましょう。それが、我が王の御為になるものと信じて」

「はじめましてマスター。まだ半人前の剣士なので、セイバー・リリィとお呼びください。これから、末永くよろしくお願いします」

「ようこそ――カルデアへ」

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「ぐ、ぁぁぁ――」

 

 歯の隙間から声が洩れ号泣する。涙が溢れだして止まらない。

 ひとりになって、オレは、ただ泣いていた。

 

 失ったものの大きさを知って。

 

 記憶と味覚、多少の感覚を、未来視もどきの代償に失った。

 

「あ、ぁああ――」

 

 泣いた。泣いて、泣いて、泣き腫らして。泣き続けた。

 涙が枯れて止まるまで、ずっと、ずっと。

 

 今まで泣けなかった分も全部、今ここで吐き出してしまうように。

 

 それでも心の中はまったく軽くならず、失ったものの大きさを、自分のやったことの大きさがいつまでもいつまでも心に残り続けた。

 

 それでも立ち止まることは許されない。

 

「オレ、は……世界を……」

 

 救わないといけないから――。

 




というわけで六章終了です。ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回からはイベントになります。
まずは夏イベで休暇です(休めるとは言っていない)。

夏イベやって、プリヤイベやって、セイバーウォーズやって、贋作やってといろいろとやっていこうと思っています。
目標は七章までにイベントを消化することですが、無理な気がする。

頑張ります。
ただとりあえず少し休んで色々と考えてからやろうと思うので、しばらくはお休みですね。

では、また次回。

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