「ぐ――ここは普通感動の再会でハグとかじゃないのかい!? 期待してたんだ……ぞ……」
「な、なに、が、ハグ、だ、ばかやろう……心配かけやがって……」
ああもう無理。耐えられるはずもない。恥も外聞もなく、オレは泣きじゃくっていた。ああ、もうみっともない、格好悪い。だけど無理だ仕方がないだろう。
だって、ああもうなんだ、これ。わけがわからず、オレは涙を流していた。そりゃもう嬉しいからに決まっているが、もういろいろとあってわけがわからない。
色々と言いたいことも文句もあるのに、今はもう涙しか出てこない。なんだ、これオレはこんなにも涙もろい人間だっただろうか。
いや、うん、見栄を張らないで客観的にみると結構涙もろい人間のような気がするが、こればっかりはもうどうしようもないくらいだ。
だって、ダ・ヴィンチちゃんだもの。本物の。
「あー、うん、ごめん。心配かけたね。まさか、ここまで大泣きされるとは、さすがのダ・ヴィンチちゃんでも予想外だ。サーヴァントとの別れなんてしょっちゅうだろうに」
「それとこれとは、話が、別!」
「あ、良かった。ようやく繋がったよ。砂漠地帯から戻ってきたようだねって……なんで泣いてるんだい!? 何かつらいことでもあったのかい!? ほら、辛かったらボクにもっと言っていいんだっていつも言っているだろう。さあ、今度はどうしたんだい。言って――ダ・ヴィンチちゃん? アレェ……おかしいなぁー。なんかダ・ヴィンチちゃんの姿が見えるぞぅ――って、ええええ!? ダ・ヴィンチちゃん!? あんなにきれいに爆散しておいて生きていたというのかぁぁぁあああああああ!?」
ドクターも心底驚いているようだった。
「……なんてね」
いや、そうでもないのか。
「まあ、それぐらいは許容範囲さ。だって、あの天才がそう簡単にくたばるならもっと前にくたばっているだろうからね」
それは新手の照れ隠しというやつでしょうか。
「やだこの人キモい。男の強がりは可愛くないぞ? 三十代独身男とか特に。マスターくらいならまだまだ可愛らしいもんさ。ただ、その泣き顔はいただけないね。私はね、ほら、なんだかんだいって君の笑顔が好きなのさ。ほらほら、これで顔を拭いて。まったくみんなの前だというのにお姉さんが見てないと駄目なのかい?」
「……割と……」
「やだこの子素直」
「それよりもだレオナルド。どうやって生き延びたんだい? その杖が爆発したんだろ?」
それはオレも知りたい。どうやって助かったのだろうか。オレの観察眼でもアレでは助からないと思っていたのだ。
それでも何とか生きているはずだってずっと思い続けていたけど。
「ああそこは私も予想外の展開だった。私だって杖を頭上に放り投げて、せめて即死はさけようとしたんだが……まさか、敵の先頭を走っていた騎士が突進してきて、あろうことか私を庇ったなんて話、信じるかい?」
全員が一斉にランスロットを見た。オレはそれからその部下に目を向けると、うんうんと頷いていた。
――ああ、苦労してるんですね。
なんてのがよくわかったというか、ランスロットらしいというかだ。ただマシュなどは何やらランスロットの評価が上方修正された様子。
ただ、全員に見つめられたランスロットが漏らした一言というのが、
「いやぁ……。遠目にみても美女だったので、とっさに……」
これだったものだから。
「――何を言っているんですか?」
一気に氷点下まで落ち込んだ。ランスロットらしいとはベディヴィエールの言だが、それにしたって敵を、それも美女だからと助けるとは本当に美女と見れば見境なしか。
「うんうん。僕だって美女だったら助けてるね。僕は助ける。絶対に助けるよ」
「ダビデは黙ってて」
とりあえず、ダビデと同じ、女にだらしないやつだこれ。
「ギャラハッドの気持ちわかるなぁ……」
「そうそうギャラハッドって。マシュと融合した英霊の真名がわかったのかい!?」
「ああうん、アトラス院でね。ついでに聖槍の正体も。あとで送るよ」
「ほう、聖槍の正体! それは面白そうだ! というか、これまでの経緯を知りたいな。私はここから動けなかったのでね。なんだかいろいろと減ったり増えたりしているみたいだ。聞かせておくれ。まあ、君たちの活躍はそこの彼から聞いていたのだけどね」
そう言ってダ・ヴィンチちゃんが指し示した先にいたのはあのムスリム商人だった。
「おまえは!?」
「はは。久しぶりだな。元気そうでなによりだぜ」
「このセルハン氏は、私たちとは別方向に逃げた難民たちを指揮して逃走させた、一流の盗賊だ」
そして、その後これ以上面倒見切れない、と難民たちをここに押し付けていたらしい。なんというかいい人なのか悪い人なのかわからない。
その上、荒野の情勢まで探っていたという。本当、すごい人たちだな。
「こっちにはいい迷惑だぜ。褒められたところで得になりゃしねえ。だが、ダ・ヴィンチ女史の知恵には代えられない。荒野において女史の技術は最高級の商品だ。水源を見つけて井戸を掘るまで一日とか、救いの女神かってんだよ、まったく」
「はは。ダ・ヴィンチちゃんらしいや。うん、救いの女神には間違いないかな。とりあえず話すよ。全部ね」
オレはダ・ヴィンチちゃんと別れてからのことを話した。何があったのかを。何をしたのかを。オレがどんな無茶をしたのかは話さなかったけれど、きっと彼女は気がついていたんだと思う。
聡明なダ・ヴィンチちゃんが、気が付かないわけなどないのだ。けれど、それを指摘してくることはなかった。それはとてもありがたい。それを言われてしまったらきっと、止められてしまうから。
話し終えると、ダ・ヴィンチちゃんは話を反芻してから、
「なるほど。聖抜は人間の選定。属性でいうところの秩序・善の人間を聖都キャメロットに集めて、ロンゴミニアドに吸収、そうしてどのような隔絶空間にあっても存在し続けられる宇宙コロニーのようなものにすると。いやはや、凄まじい。確かにそれならば魔術王による人理焼却にも耐えられる。それが獅子王の目的だったんだね」
そうすれば少なくとも、人間は絶滅しない。だからこそ、円卓の騎士もその理念に従った。
「だが――獅子王の理念は間違っている」
「そうね。獅子王の理念は間違っているわ。人々から選択の余地を奪うのは良くないことよ」
そのために円卓は己を殺しているのだ。それを受け入れるために、己を殺して、殺してもはや戻れない。戻ることすら己に許さないだろう。彼らはそういう騎士なのだから。
だからこそ解せぬとランスロットは言った。騎士たちは王を信じている。昔の王を。だが、どうして王は変わったのかわからないと。
獅子王は円卓を召喚したその時から、獅子王であったという。乱心したと背く騎士もいたが、乱心する理由などどこもないのだ。
「――乱心じゃないさ。正気どころか、理性すら、今のアーサー王にはないだろうからね」
「だろうね」
「マスター?」
「やっぱり君も気が付いていたか。というか、止めたのにその一端に手を伸ばしたな?」
「まあ、直接見たわけじゃないからだいぶかかったけど。たぶん、アレは神霊なんだろ、ダ・ヴィンチちゃん」
「そうだとも。彼女はもう
地に生きる伝説ではなく、天に座す伝説になってしまった。
つまり神となったのだ。
ゆえにその視点はもはや人間を超越した。人間は価値あるものだとわかっても、人命に価値などないとした。まさに神の視点。
人間という種に価値を持ち、個人の人命に全くと言っていいほどの価値を見出せない。
つまるところ、特異点に現れたのはアーサー王という英霊ではなかったという話だ。神霊だったというだけの話。
ゆえに問題は、どうしてそんなことになったのかだ。特異点にいた時から最初から神霊だったとするならば、彼女が神霊になった起点がどこかにあるはずなのだ。
「――ベディヴィエール……」
「――! …………なんでしょう……」
「いや、あれ、なんで……」
オレはなぜベディヴィエールの名を呼んだ? 起点を考えて、ベディヴィエールの名を呟いたのならオレは、彼が起点だと思っている?
ならなぜだ? この直感の出所はなんだ。オレは、彼の銀腕に何を――視たのだったか――。
「――っ」
ありえない。そうだとしたら、彼はいったいどれほどの――。
「獅子王だとかもう悠長なことを言っている時間はないよ! もし獅子王の聖槍が完成してしまったら、ソロモンを倒して人理焼却をなかったことにしても、人類史はメチャクチャになる! なんとしても獅子王を止めないと」
「だが――」
獅子王に勝つためには、戦力が足りない。兵力差が大きく、正門にはガウェイン。そして、何よりも裁きの光がある。アーラシュの一撃で止めたそれを撃たれてしまえばこちらは対抗できない。
それに対抗できる宝具が必要だ。しかし、それをやるにはコスト面でも損だ。何より被害が大きいし、サンタさんはガウェインの相手をしてもらう。
初代山の翁にやらせたら呪腕さんが殺される。そんなことさせるか。何より、オレは初代山の翁が嫌いだ! 何がハサンを殺すハサンだこのヤロウ。呪腕さんはやらせんぞ。
「――というわけで太陽王のところに行こう」
「何がというわけか、まっったくわからないけど、相変わらず君の脳内はおかしいなはっはっは」
「先輩は太陽王に協力を要請すると!?」
誰もが無理だろー。という空気。
「いやいや、なんで? だって獅子王の槍が完成したらエジプト領も消えるんだよ? あの王様ならそんなもの認めないでしょ」
「確かに、マスターのいう通りだ」
「ランスロット卿、それはどういうことかなぁ?」
「なに、奴は思ったよりも単純だということだ。条件を示せば取引にも応じる。何より奴は勝算のある方につく。それは為政者として当然のことだろう」
ゆえに単純だ。こちらにともに戦うに値するだけの
何より円卓の騎士最強のランスロットがいる。ギフト持ちの騎士が味方なのだ。心強いなどというものではない。それにサンタさんも来てくれた。三蔵ちゃんも、藤太もいる。
勝つのだ。清姫やブーディカさん、ノッブ、兄貴の為にも。今度こそ、勝つのだ。なにをしても――。
「…………」
砂漠をオジマンディアスの大神殿目指して進む。砂嵐は激しく、多くの魔物なんかとも遭遇したが、それでも何とかその目前までたどり着いた。
明日にはオジマンディアスのもとに着く。
「……どうしたんだい、眠れないのかい?」
キャンプ。天幕から出るとダ・ヴィンチちゃんがいた。
「……うん」
「そっか。じゃあ、少し話していくかい? みんな睡眠中だ。時間をつぶすにはちょうどいいだろう?」
となりをぽんぽんと叩きながら座るようにダ・ヴィンチちゃんが言ってくる。眠れないのは本当で、話し相手になってくれるというのならありがたい。
隣に座る。そういえば、ダ・ヴィンチちゃんの隣に座るだなんて、久しぶりというかなかなかないなと思う。こうやって特異点に来るのも今回が初めてだ。
「マスター。隠し事しているだろう。みんなにも、そして、ロマンに対してもだ」
「…………」
「沈黙は肯定だよ。本当に隠したいのなら笑って、そんなものないと一蹴してやらないといけない。昔の君なら、そうやっていたんだろうけどね。いやはや成長するとはいいものだね」
「こんなの成長って言える……? 弱くなってるよ、それだと」
「成長だとも。少なくとも、君は君自身を隠すことはなくなったということさ。私たちを信用してくれて、全部託すこともできるようになったのなら、それは成長と言わずしてどうするんだい」
――頑張った男の子は褒めてあげないといけないだろう?
そう言って、いい子いい子と頭を撫でてくる。それが優しいから。
「なんだよ……柄にもないことして……」
「君には母親が必要だからね。まだキミくらいの年なら親の庇護が必要だし、そういう役目のブーディカが、今はいないんだ。だったら私が代わりというわけさ。だから、私はキミを叱らないといけない。まったくなんて馬鹿者なんだってね」
「…………」
「君は普通の人間だ。私たちのような英雄じゃあない。ただの人間だ。私みたいに何かの天才というわけでもないし、英雄を英雄足らしめる秀でた才能や武器を持っているというわけでもない。普通の人間だ。そして、歴史を動かす、歴史を綴る大多数の人間の一人だ」
だから、馬鹿者なんだとダ・ヴィンチちゃんはオレを叱る。そんな普通の人間が英霊に勝てないのは当たり前で、いかに強大な英霊を相手にしたからって、自分を犠牲にして先読み指示だしなんて誰も求めていないのにやってしまうのは馬鹿のすることだ。
犠牲が嫌なのはわかる。でも、サーヴァントなんてそんな存在だ。一時の戦力。そう割り切って犠牲ありきで、将棋やチェスを打てばいい。自己犠牲で英霊に並び立つようや武器を作らなくていい。
特異点をこえて鍛えてきた観察眼、心眼、直感は、人間の中でも上位のレベルだ。それで十分。マスターとしては破格の性格と能力となっている。
成長は確かだ。無理をして亀裂を刻む必要もない。無理をしなくていい、英霊をうまく従えて、時に命令をすればいい。それだけでも十分英霊たちは力を発揮してくれるだろう。
「でも――」
「でも、君は割り切れないんだろうね。そういうところは美徳だ。だから、多くの英霊がキミに付き従い、慈しみ、力になってくれる。でも、だからって、キミがそんなことをして私たちが悲しまないと思っているのかい? 私だって悲しいぞぅ。味覚を失ったなんて知れたら清姫とブーディカ。うちの料理サーヴァントたちが泣いちゃうぞぅー」
「…………ごめん」
「うん。素直に謝れるのは大変よろしい。悪いことをしてるって自覚してるからだ。でも、キミはどうせピンチになったら使ってしまうんだろうね。そんなわけだからダ・ヴィンチちゃんは作りました」
ぱんぱかぱーんと胸の谷間から取り出したるは眼鏡だった。ダ・ヴィンチちゃんが持っているものとお揃い。手渡されたそれはダ・ヴィンチちゃんの体温で生暖かい。
「なにそれ」
「ふっふっふ。君の状態を確信してから作った礼装だとも。君の記憶障害に味覚の破壊は脳への過負荷が原因だ。過負荷の原因は情報量と処理量だ。だから、それを軽減するための礼装だ。まあ、いわば補助脳といったところかな。本当ならフルフェイス型にしたいところだけど、それじゃあ大きすぎるからね。ちょっと小さくしてみた」
かけてみるとあまり変わらないように見える度の入っていない伊達眼鏡だ。だが、かけた瞬間に様々な情報が表示された。
温度、湿度、光量、その他さまざまなもろもろの観測データなどだ。
「それは君が集めた莫大な情報量を制限し、勝手に処理してくれる優れもののアイテムだ。結果だけを出力して君の脳に出力してくれる。どうだい? 大分処理が軽くなるだろう?
キミの戦術六拍、
「……ありがとう。てか、戦術六拍?」
「なに、本当ならそれも渡したくないんだけどね。なにせ、負担軽減とかしたらキミますます使っちゃいそうだし。ああ、君の技術に名がないのは不便だろうからまあ呼び名的なそれをつけさせてもらったわけだよ。弓道の射法八節と似たようなものさ。まあ、二つ足りないが人の身ならそれで十分」
戦術六拍。
それはオレの未来視もどきの工程だ。無意識に行っているそれをダ・ヴィンチちゃんは見てもいないのに想像して礼装まで作ってくれる。
なんだ、女神かやっぱり。
「そして、ロマニのことだ。聞かせておくれ。何が気になっているんだい」
「実は……」
ドクターのことを話す。2004年の聖杯戦争について。前所長とドクターが参加していたこと。それを隠していることとかアトラス院で知った事実を。
「それは知らなかったな。私がカルデアに召喚されたのは2012年のことだ。前所長との面識はわずかしかない。その年の暮れにマリスビリーはなくなったからね。ロマニと前所長の関係はよく知らない。マシュの英霊を召喚したのが2010年。その時にマシュの容態が悪化して前所長がロマニに助けを求めたらしい。ロマニはその時に英霊憑依実験を知り自分の愚かさを嘆いたそうだよ」
カルデアに何年もいたのに、そんなセクションがあることにすら気が付いていなかった。だから、自分の愚かさを嘆いた。どうして気が付かなかったのか。
それはダ・ヴィンチちゃんも同じことだという。呆れて、怒った。カルデアになんて召喚されなければよかったとすら思ったらしい。
だがダ・ヴィンチちゃんはこうしてカルデアに残った。それはなぜなのだろう。
そう問えば。
「学術的興味があったからね」
そんな答えが返ったきた。
「英霊召喚なんて本来は絶無の可能性。なら行ってみたいと思うのが人情じゃないか。でもね、それだけじゃないんだ。一番の理由はロマニさ」
「ドクター?」
「ああそうだとも。君と同じ人種さ奴はね。一目でわかったよ。ああ、いろいろと無理してる人間だなって」
「無理? 隠し事じゃなくて?」
ダ・ヴィンチちゃんは頷いた。
「ロマニはただの人間だ。魔術師じゃない。キミと同じ、一喜一憂しながら困難に立ち向かう、ね」
ダ・ヴィンチちゃんはいった。ドクターは人並み以上の才能を持っているが、人を凌駕するほどの天才じゃないと。
「キミと同じなのさ。そんな人間が、人類を背負おうと必死になっていた。ロマニ自身、どうしてそうしなくちゃいけないのか理由がわからないままにね」
ドクターはそれを言葉にしなかった。ますますオレと同じだとダ・ヴィンチちゃんは怒ったような、呆れたような、拗ねたように言った。
あのテンパり具合は相当だったと思い出しながらいう。
「じゃあ、ダ・ヴィンチちゃんは」
「そうさ。ロマニを見捨てられなかったのさ」
「じゃあドクターは……善人?」
「どちらでもなく、どちらでもある。キミだってどちらかに規定することはできない。だって、それが人間だからね」
善であり、悪でもある。矛盾を抱えた生き物。それが人間というものだろうとダ・ヴィンチちゃんはいう。だからこそ面白いし、見捨てることができないのだとも。
「……そうだね。でも一つだけ言っておこうかな。ロマニはね、一つだけ切り札を持っているんだ」
「切り札?」
「そう。キミが怪しんでいる通り、ロマニは隠し事をしている。大なり小なり隠し事はあるものだけど、まあ、それは聖杯のようなものだ」
「聖杯!?」
「そうさ。彼は一度だけ、願いを叶える手段を隠し持っている。本人は怖がって、考えようともしないけどね」
「どうして?」
願いを叶える手段があるのならば、この状況だってなんとかできたのではないのかと思う。それが怖いから考えないようにする。
「もしかして、ドクターに何か影響があるの?」
「ご明察だ。それを使えば彼は消える。だから使えない」
「死ぬってこと?」
「――そうだね。それぐらい単純な話ならいいんだが」
死ぬことが単純で、そうじゃないくらい複雑な何かがあるのか消えるということは。
それは残念ながらわからない。でも、そうだとしたら、ドクターを信じていいのだろうか。そんなものを持っているのに隠しているのは、まあ、いいけど、いろいろと不明な点が多い。
どうしてそんなものを持っているのかとか。ドクターは味方なのか。
「ただ、これだけは言えるさ。ともかく、ドクター・ロマンの過去は謎だが、彼自身に裏はない。彼は最後までキミの味方だ」
「――――」
そんなオレの考えなんて、まったくあほらしいくらいにダ・ヴィンチちゃんはオレの言ってほしいことをいとも簡単に言ってくれた。
「それだけは私が、万能の天才の称号にかけて保証する」
「――――ありがとう」
「うわ、なんだいまた泣いちゃってさあ。そんなにロマンを信じたかったのかい? やれやれ、アイツもここまで慕われてるとは。でもそういうのは言わない方がいいぞぅ。だって、すぐ調子に乗るからね豆腐メンタルのくせに。ほどほどにしておいてくれよ。自信失くしたら私たちの生存率にも影響が出るし、逆に調子に乗りすぎてもやらかすからね」
それから笑ってまったくもうと言いながら、涙を拭いてくれる。
「でもまあ、お礼を言うのは私の方かな。さて、そろそろ眠りたまえ。明日はオジマンディアス王との交渉だ」
「…………だったら」
「ん、なんだい?」
「膝枕、してください……」
「…………」
一瞬何を言われたのだろうときょとんとしたダ・ヴィンチちゃんは非常にレアで、良いものを視れた。心の最重要マシュフォルダの隣に保存しておこう。
ともかくドクターを信じていいと言われたとき、無性に膝枕してほしいと思ったのだ。仕方ない、こればかりは仕方ない。
だって、想ってしまったんだよ。なんか、すごいお母さんっぽいなって。もう両親の記憶はないのに、たぶんオレの母親はこんな人物だったんだろうなって、想ってしまったから。
「――やれやれ、今日のキミは甘えん坊さんだ。いいとも。さあ、存分に、私の
彼女の膝を借りて、子守歌を聞きながら、オレは眠りにつく。
「ひとりになると――」
子守歌は、それはどこかで聞いた、誰かの色彩の歌――。
私はね、ロマンが最後まで君の味方だってダ・ヴィンチちゃんに言われたときな、本当に膝枕したいって思ったんじゃ。
だから膝枕させた。悔いはない。とりあえず子守歌は色彩子守歌バージョン。
そして、ついに百話。そのうち記念話上げますよ。
とりあえずなるべくキャラ出していく方針なので、一人一人の出番が少ないがもう仕方ない。何文字書いても全員出せる気がしないので、いいところで終わらせます。
台詞とか全員分書けねえわ……。
まあ、カオスさだけでも楽しめればいいかなと開き直ってます。
まあ、期待せずにただのこぼれ話のギャグ話ですし。なるべくキャラ出したいなと思ったけどなかなか難しいです、でもそれでもいっぱいキャラ出そうと頑張ってる形跡だけ見てください。
今日の、12時くらいに記念話あげます。