Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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神聖円卓領域 キャメロット 30

「君の名は――君に力を預けてくれている英霊の名はギャラハッド。円卓の騎士のひとりにして。ただひとり聖杯探索を成功した聖なる騎士だよ」

「円卓の騎士、ギャラハッド――」

「マシュ!?」

 

 まるで力が抜けたようにへたり込んでしまうマシュ。慌てて駆け寄る。

 

「大丈夫!?」

「は、はい……腰から力が抜けて、つい座り込んでしまいました……でも、痛いとかではないんです。ただ、嬉しくて」

 

 ――あの時、わたしたちを助け、信じてくれた人の名を知ることができて、とてもうれしい。

 

 彼女はそう言ったのだ笑って。

 

「マスター……わたしは、その名前に恥じないように、戦えていたでしょうか……?」

「ああ。ああ! オレの最高のサーヴァントだ!」

「とても嬉しいです、先輩。その言葉が、とても――」

「さて、真名伝達による宝具覚醒の如何は、あとでだ。まずは種明かしだとも。カルデアはどのようにして英霊召喚を安定させたのか。それは英霊を集めるものがあったから。かつて多くの英雄たちが集った席。円卓と呼ばれた誓いの儀式。カルデアはその聖遺物を加工し、召喚の触媒として、融合素体の肉体に埋め込んだ」

 

 それがマシュの盾。盾のように見えるが盾ではない。それは円卓なのだ。まさしくラウンドシールド。彼女こそが多くの英霊を集める下地だったのだ。

 彼女の盾こそ円卓を核にして作り上げた、聖なるラウンドシールド。

 

「さて、では次だが、ヘルメスの調子が悪くてね。あと一度だけしか検索できそうにない。未解決事件をこっそり検索したのがあだとなったか」

「おい!?」

「だが、安心したまえ。あと一度はしっかり機能する」

 

 ゆえに最後の問いの答えを検索する。聖槍ロンゴミニアド。その情報について。

 ロンゴミニアド。ベディヴィエール曰く、最果ての塔だということだが。

 そして検索の結果、聖槍は二つある。一つはこの世界を貫いている巨大な塔であり、聖槍の在り方がカタチになったもの。

 二つ。それが獅子王の持つ槍。塔が地上に落とした影のようなもの。塔の能力、権能をそのまま使える個人兵装。

 

 どちらにせよ規格外なものということに変わりはない。問題はなぜ塔が星に刺さっているか。それは世界を星に縫い付けている楔だ。

 それがなければ世界は剥がれて維持できない。

 

 そして、獅子王は聖槍を塔として使うつもりなのだという。五百人の魂を収納し、保存する。聖都こそが聖槍の外殻。

 聖都は理想都市などではない。理想の人間のサンプルとして閉じ込めておくための場所。いわば、標本の仮置き場。ショーウィンドウの中で人間の価値を証明するための保管庫だ。

 

「馬鹿な……! そんなおぞましい所業、もはや人間のものではない……!」

 

 ――人間じゃないんだろうな……。

 

 おそらく最初に見た瞬間に感じた通り。人間ではないのだろう。だが、獅子王の善し悪しはさておいて、民を守護するという意味では間違いではないのだ。

 しかし、それではすまない。最果ての塔ができるということはそこは世界の果てとなるのだ。ゆえに塔の外の世界は滅び去る。

 自国以外はすべて見捨てた、切り捨てたのだ。

 

「地上に戻ろう」

 

 ゆえにもはや一刻の猶予はない。すぐさま戻り、山の翁と合流し、聖都に押し入り、獅子王の真意を確かめるのだ。

 地上に戻る道すがらホームズはいくつか言い残していった。幻霊。なぜ、2016年が起点であり、そこから過去にさかのぼったのか。

 魔術王にはそこまで待たねばならない理由があったのだと。その必要があったからこそ、人理を焼却し絶滅させたのだ。

 

 3000年ほどの時間を。未来を見通す千里眼がもし2016年よりも先の未来を映さなかったとしたら?

 そんな謎を彼は残していった。

 

 そして、地上に出たはいいが、

 

「しつこいなぁ、まったく」

 

 待ち構えているランスロット。

 

「すでに包囲は完了している。大人しく縛につけ。こちらもこれ以上時間をかけることはできん。抵抗するのなら、誰であれ容赦なく斬り捨てる」

「本気のようですね。下がっていてください。円卓の騎士の不始末は、円卓の騎士がケリをつける」

「そのまえに最後の確認をしたい」

 

 聖槍の話だ。円卓の騎士は王を信じている。だが、聖槍の正体を知っているとは限らないのだ。ゆえに、話したら何か変わる可能性がある。

 

「わかりました――ランスロット卿! 戦う前にひとつ問います! 貴方は、聖槍の正体を、獅子王の目的を知っていますか!?」

「……なに?」

 

 食いついた!

 

「聖都は理想都市ではない。あれは最果ての塔。理想の人間を集め、収容する檻であり、それが成った時、この大地はすべて消滅する! 獅子王の行いは人の領域を超えたものだと!」

「…………まさか」

 

 ランスロット卿が剣を降ろす。円卓の騎士ですら聖槍の事実は知らされてはいなかった――。

 

「ぬん!」

 

 その瞬間、ランスロットが下げた剣を振るった。

 

「ベディ!」

「まさか、卿がそこまで知っているとはな。この者たちも同様という訳か……ますます逃がすわけにはいかん。いたずらに恐怖をまき散らすことになる」

「――――」

 

 知ってて、知っててそれでも獅子王に従っていたのか……。

 

「くどい! 我ら円卓に王への不忠はない、といったはずだ!」

 

 聖槍が完成し、最果ての塔が開かれる。

 それが円卓を召喚した獅子王が宣言したこと。

 その時に、彼らは誓った。この時代すべての人間の敵となると。

 王の行いに、人ならざる意思を感じてもなお、従う。それが騎士ゆえに。

 

「サー・ランスロット……やはり貴方は……」

「話はここまでだ。話したいのならば王の御前でするが良い!」

 

 ベディヴィエールへとランスロットが剣を振るう!

 

「た――――あっっっっ!!」

 

 それを防ぐのはマシュの盾。

 

「お――こー―り――ま――し――た――っ!!!」

「なに!?」

「マシュ!?」

 

 マシュが、あのマシュが、怒ってる!?

 

「この気配……君は、まさか!?」

「完全に怒り心頭です! わたしの中にはもういませんが、きっと彼もそうだと思います! ですので代弁させていただきます!」

 

 大きく息を吸ってたたきつけるはただ一言。

 

「サー・ランスロット! いい加減にしてください!」

「い、いいかげんにしてください……? まさか、私は叱られているのか……!?」

「いいえ、憤慨しているのです! それでもアーサー王が最も敬愛した騎士なのですか!? 王に疑いがあるのなら糾す! 王に間違いがあるのならこれと戦う! それが貴方の騎士道(こころ)のはず。それが貴方にだけに託された役割でしょう……!」

 

 そう告げるマシュにランスロットがうろたえている。

 それを見て、

 

「そうです。いいことを言います。さすがギャラハッドが選んだ娘です」

 

 サンタさんが上機嫌でアホ毛を揺らしていた。

 

「待て。待つんだ。待ちなさい! 親を親とも思わない口ぶり、片目を隠す髪……君は、もしや――!」

「もはや言葉は不要です、サー・ランスロット! 改めて、貴方に決闘を申し込みます!」

「マシュ――!?」

「ご安心を、マスター! わたしは決して、あの人には負けませんっ! この盾が、この鎧が、この胸が、そう叫んでいるのです! だって、だって――!」

 

 その時、マシュの姿が変わる。それをオレは知っている。霊基再臨。限界を突破した霊基が新たな形を成す。腰には剣を、鎧はさらに力強く――!

 

 その姿はまさしく彼の騎士の姿――!

 

「わたしはマシュ・キリエライト、与えられた英霊の真名()はギャラハッド! この霊基(からだ)にかけて、今こそ円卓の不浄を断ちましょう――!」

 

 マシュが駆ける。盾を構えて、ランスロットへと。

 

 これは決闘。ゆえに誰ひとりとして手出しは無用。

 

「ヤアアア――!!!」

 

 振るわれる盾の一撃。それを動揺していながらも受けられたのは鍛え上げた武練によるものだろう。だが、その一撃は何よりも重く、それは肉体にも精神(こころ)にも響く。

 

「くぅ……! この、肉体より骨格に響く重撃は、まさに……!」

 

 マシュがランスロットを圧倒していた。

 マシュが今まで以上に強く霊基を意識して覚醒しているというのもあるだろうが、何よりもランスロットの剣技が見る影もない。

 

 動揺は深く、反射で受けているが、そんなものではマシュを止められない。骨格に響くような重撃が何度も繰り出されている。

 押されるのはランスロットの方だった。

 

「目が覚めましたか、ランスロット卿! まだわからないというのなら、次はお城をぶつけます!」

「そこまで!?」

 

 放たれる重撃、重撃、重撃。

 目が覚めたか、それとも足りないか!

 

 と猛々しく放たれる一撃一撃に音を上げたのはランスロットだった。いや、折れたというべきか。彼ならば逆転する方法などいくらでもあっただろう。

 精神を立て直し、マシュの攻撃をいなし反撃することだってできたはずだ。やろうと思えば、この場にいる全員を行動不能にすることなど容易いはずだ。

 

「…………いや、君の言う通りだ、マシュ」

 

 だが、彼は折れたのだ。己の芯にまで響く一撃を受け続けさせられて、彼女の重撃(ことば)を受け続けて彼は、折れた。

 元より気がついていながら気が付いていないふりをしていたのだから当然だろう。

 

「円卓の騎士と戦い、敗れたのだ。もはや、私は王の騎士を名乗れまい。私の愚かさが晴れたわけではないが――君たちと戦う理由は、私にはなくなった」

「ようやく素直になったのね。ランスロット、どう見ても嫌々戦ってるんだもの……でも、あれだけ頑固な人が今回はあっさり負けを認めたわね。どうしてかしら」

 

 ――そりゃあ、ねぇ。

 

「三蔵ちゃん、ギャラハッドはね。ランスロットの子。つまり親子なんだよ」

「うそ!? 親子なの、あの2人!?」

「正確にはランスロットとマシュに力を預けてくれた英霊が、だけどね」

 

 ギャラハッド。彼は、ランスロットとペレス王の娘エレインという女性との間に生まれた子供である。ただ、そのやり方がちょっと問題ではあった。

 エレインは魔法によってランスロットを騙して結婚したのだ。その果てに、ギャラハッドを産むが、当然のように正気を取り戻したランスロットはエレインを捨てた。子供のギャラハッドは修道院に預けられて育てられた。

 

 マーリンに父であるランスロットを凌ぐ武勇を身につけ、聖杯を発見すると予言され、大人になった彼はアーサー王に引き合わされ、様々な試練を経てアーサー王から「世界で最も偉大な騎士」と称され、円卓の騎士に加えられ、聖杯探索の任務を与えられる。

 そして、遂に聖杯を見つけたガラハッドは最も穢れの無い騎士として神々のもとに召されることになった。それがギャラハッドという英霊についてオレが知る全て。

 

 だから、ランスロットも負けを認めざるを得ないのだ。なにせ、息子、まあ、今は娘になってしまっているのだが、にああまで痛烈に色々と言われてしまったらもう負けを認めるしかないのが父というものだ。

 

「いえ、先輩、ノーです」

「え?」

「父に見えたのは子供の頃だけ。そうギャラハッド氏の霊基は証言したがっています」

「…………」

 

 仕方ないとはいえ、それをマシュの口から聞かされるのはダメージがでかいな……。

 

「親子仲は良くなかったはずです、そうですよね、お父さん!」

「ガハッ――」

 

 あ、なんか血を吐いた。結構なダメージなんだろうなぁ。

 

「い、いや、私は、うまくやっていきたかったのだが……すまない、その呼び方は、心臓に悪い。心の準備ができていないとショック死しかねない」

 

 大の大人が赤面しているさまなぞこちらから見たらもう相当にヤバイのだが。これが円卓最強の騎士かぁ……。

 

「…………」

 

 どうしてそこで顔を背けるのかなサンタさん。

 

「(複雑な家庭環境でしたからね……まさか英霊になって念願の呼び方をされるとは……)」

 

 ――あ、念願だったんだ。

 

「ふむ。もはや殺気も戦意もなにもないな。ランスロット殿はもう戦う意志はなかろう。さて、マスターよ、どうする?」

 

 ランスロットを捕らえて聖都に入るか。山の民に預けるか。

 

「……」

 

 色々と思うことは多い。だが、力になってくれる英霊は多い方が良い。なにせ、おそらく、今のアーサー王は、人ではないのだから。

 

「よし味方になってもらおう」

「それは……ふふ。そうですね。その通りです。私では言いづらいことをあっさりと言ってくれました」

「じゃあ、僕に任せて」

「ダビデ?」

 

 ダビデがサンタさんを引き連れて、そしてランスロットと三人で岩陰へ。

 

「なにいいいいいいいい!?」

 

 カポッっという音とともに響く叫び声。そして、何食わぬ顔で戻ってくる三人。

 

「マスター、このランスロット。命ある限り、貴方と我らが騎士王の剣となろう」

「――ダビデ殿は一体何を言ったのでしょう」

 

 そのあまりの変わりように驚くベディヴィエール。そりゃアーサー王がこちらにいるのだから、こっちにつくよね。変わり身するよね。

 

「味方となった以上、案内したい場所がある。来てもらえないだろうか」

 

 そうして半日ほどランスロットの部隊のひとたちに乗せてもらってたどり着いた場所はキャンプいや、もはや村だった。山の民、砂漠の民、聖地の人までもがそこにはいた。

 ランスロットが匿い避難させていた難民たちだ。

 

「聖抜に選ばれた人々は聖都へ。選ばれなかった人々をどうしろとは何も命じられていないからな」

 

 また、王命に背いて放浪する騎士も少なくはなく、彼らにも居場所が必要だったのだ。ゆえにこの難民の村を作った。

 まったく素直じゃないというか真面目というか。

 

「立派な反逆罪じゃん。さあ、マシュ、感想をどうぞ」

「ごく潰し! 顔に似合わずやりますね、お父さん!」

「だから、その呼び方はやめなさいと……」

 

 でもまんざらじゃなさそうですね、お父さん!

 

「おやおや。騒がしいと思えば、やっと到着かい? いやはや、ずいぶんと待たされた!」

「――――」

 

 その時、声が聞こえてきた。もう二度と聞くことはないと思っていた声が――。

 万能なりし女の声が――。

 

「ナァイスリアクション! 元気にしてたかい! まずは再会を祝して乾杯、いっとく?」

「な――」

「な?」

「なにが、乾杯だこらぁあ!!」

 

 気が付けばオレは拳を振りぬいていた――。

 

 




ごく潰しの全盛期終了。

てなかわけでみんなのアイドルダ・ヴィンチちゃんの復帰だ! いやー、あの時のうれしさはもう忘れられない。
あまりのうれしさに殴りたくなったくらいだからね!

さて、今回で99話。いやはや長くやってきたものだとしみじみ思いまする。
次回は百話。感動的なダ・ヴィンチちゃんとの再会からだゾー。
そして、百話記念のギャグ時空も用意しているので待て、しかして希望せよ――。

なにも考えずに記念話書いてるので、ツッコミどころやら矛盾やら多くなってるけど知らぬ存ぜぬ。
いわばカニファン時空だとか、ソフマップ特典ドラマCD時空だとか、イベント時空だとか、FGOアンソロ時空だとか、ちびちゅき時空だとかそんな感じのものだと思っておいてもらえれば幸いですです。

出てくるキャラは私のお気に入りからネタキャラなどだ。
マシュは双子だ。種田マシュと高橋マシュという苗字違いの同じ名前というごく潰しのおかげで超複雑な家庭環境なのだ。
相変わらずきよひーはストーカーしてるし、エドモンは大正義親友ポジだ。ナイチンゲールも仲の良い親友ポジダゾ
ダビデ? あれはクズだ。
ブーディカはぐだ男のお母さん役。お父さんはジキル博士。ペットにはタマモキャットを配置した最強の我が家。

とまあいろいろと何かしている感じなのでお楽しみに?

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