Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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神聖円卓領域 キャメロット 28

 村は救われた。だが、その被害は大きく、何よりアーラシュが逝った。また、ひとり仲間が死んだ。オレは何もできなかった。無力だった。

 三蔵ちゃんなどわんわんと泣いている。オレも泣きたいが、泣いている暇はないのだ。そう時間がない。時間がないとわかってしまう。

 

 円卓の騎士はもはや残りは二人。そうなればあちらも本気で来る。急がなければならない。だから、今は、涙を拭いて。

 

「行こう、アトラス院に……」

 

 それ以外に道はない。

 オレたちは軍備を整えるといったハサンたちと別れて砂漠へと向かう。砂漠へ向かい野営中だった、オレが先の戦闘指揮の代償に気が付いたのは。山でとれた魔獣を捌いた焼肉だったり、藤太の山の幸なんかを食べた時だった。

 

「……味のないガムみたいだ……」

「先輩? どうかしましたかな、何か料理に問題でも?」

「な、なんでもない、いやー、おいしいなー」

「?」

 

 味が感じられなかった。何を食べても何を口に入れても、舌は何も感じてはくれない。全て同じ。味のしないガムを噛んでいるがごとく。

 両親の記憶の次は、味覚だった。何も感じない。大量の塩を舐めればようやく塩っぽさを感じられる。完全には破壊されていないが、もはや味は感じられない。

 

 ――泣きたくなった。

 

 もはや料理を楽しむなんてことができないのだから。けれど、泣いている暇などない。もはやこの世界に猶予はないのだから。

 泣くのは全部終わってからだ。そうじゃないと、今まで、やってきたこと全てが無駄になってしまう。オレが、記憶を、味覚を失った意味がなくなってしまう。

 

 それだけはごめんだった。そんなことになったらもう耐えられない。だから、進んだ。前に。何かにとりつかれたように。

 

 そうして、砂漠に来た。砂漠は相も変わらずものすごい風によって砂嵐が吹き荒れている。近くにきているはずだが、目安となる建物もなにもない。

 影も形もないとはこのことだった。本当にここに在るのか心配になってくるが、ベディヴィエール曰く、距離も方角もともに間違いはないとこのこと。

 

 旅の方向感覚だけは円卓一で負けないという彼を信じて砂漠を突き進む。百貌のハサンが伝えてきた情報をもとに進む。

 そこには英霊がいるらしいが、一体誰なのだろうか。

 

「いや、まあ、それはそれとして……」

 

 背後を見る。慌てて何かが隠れるが、砂漠に隠れられる場所などあまりないので隠れられていない。見た目は粛清騎士。それも相当に小柄な。

 何やらぶかぶかの鎧を誰かが着ているかのよう。いや、中身はわかっている。東の村を出る時からこっそりついてきていたし、何よりパス(・・)がつながっているのだからわからないはずがないのだ。

 

 一応、何やら魔術的なものでオレ以外気が付いていないらしい。でも、パスがつながってるからオレは存在を感じられるし、そこにいるのもわかる。

 というか魔術をかけたらしい誰かが意図的にオレにだけ気が付かせるようにしてるらしいのだ。そんな気配を魔術の術式に感じ取った。

 

「…………ちょっと休憩しない? 疲れちゃってさ」

「それはいけません。休憩にしましょう」

 

 ちょうどよく大きな竜の骨があったのでそこで休憩をとることにする。ついてきている鎧も止まる。骨の陰に。あそこから見えない位置は――。

 

「ちょっとトイレ――」

 

 といってそこに向かう。

 砂嵐のおかげでオレの隠形でもかなりのものになる。おかげで、こっそりと後ろに近づくことができて、その兜をとることができた。

 

 ――カポ……。

 

「ん? あ――」

「…………なにしてるの、サンタさん?」

 

 持ち上げた兜に鎧の中から手が出てきて、かぽっと嵌る。

 

「はて、サンタとはだれのことでしょう。私は、通りすがりの騎士です。ルキウスです」

「ローマ皇帝なんだすごいねー。ってんなわけあるかい! 二度目だよ!」

 

 それに、兜からアホ毛が出てる。隠せてない。

 

 もう一回兜をとって後ろに回す。

 

「ちょ、返して――」

 

 それからトドメとしてにこっと笑って令呪を見せる。

 

「ぐ――卑怯ですよマスター」

「強情なのが悪い。それより何んで隠れてるの? さっさと出てくればいいじゃん」

「……き」

「き?」

「気まずいじゃないですか。今更、のこのこ出てきて、それもこんな反転して普通に戻ってみたりなんてして……なによりマスターの危機に、力を振るえなかった、私なんて……だから、出るのはその、あの、さすがの私も恥ずかしいですし、しかも騎士だというのにマーリンにこんな格好にさせられてますし、だから、隠れて力を貸そうと思いまして……」

 

 え、なに、この人そんなこと気にしてたの? だから、あんなにバレバレなのに気が付かれてない気になってたの? なにこの可愛い生き物。

 そもそも誰も気にしないのに。アメリカでもエリちゃん歌ってたし、クー・フーリンなんて敵だったし。少しくらい遅れたところでいつものことと流しそうな気がする。

 

 というか性格変わってる。たぶんアホ毛のせいだな。

 

「誰も責めないと思うよ。だって、こうしてきてくれたんだしね」

「しかし、それでは騎士として――」

「はいはい。それはいいから」

「良くありません! いいですかマスター、貴方は無茶をしすぎなのです。だいたい――」

「はいはい。それよりもオレは来てくれたことがうれしいよ。本当に――嬉しいよ」

 

 ああ、よかった。今回は敵じゃないのだと安堵する。

 

「――マスターは卑怯です……そんな顔をされては怒るに怒れないではないですか。しかし、隠れていたのにも事情があります。私はこの顔を見せるわけないはいかないのです」

「どうして?」

「そこまでは。しかし、マーリンが言ったのならば相応の理由があるのでしょう。何より、サー・ベディヴィエールには私の顔は見せない方が良いと私の直感が言っています。なによりあの腕は――」

「…………わかった。じゃあ、離反した粛清騎士ってところで手をうとう……でも本当にいいの?」

「はい、ありがとうございますマスター。――いいのですよ。彼はおそらくは、私が知っている彼とはまた別なのでしょうから。本当に、まったく、卿という人は……」

「…………」

 

 場の空気にちょっと耐えられず鎧の中身を見る。調整したらしいが粛正騎士らしさを出すためにぶかぶかの鎧の中に入っているサンタさん。いや、今はサンタじゃないし、アルトリア? まあ、アルトリアの姿は、何故かジャージなのだ。

 ジャージに帽子。惜しげもなくさらされた太ももがまぶしい。いくらぶかぶかとは言えど鎧の中にあってそこまで視認できてしまうのは観察眼の熟練度が上がったからかな。

 

 いや、単に目ざとくなっただけか。

 

「さーって、じゃあ行こうか」

「ちょ、待ってください。まだ心の準備が」

「はいはい、行こうねー」

 

 というわけで、粛清騎士(仮)を引っ張っていく。

 

「おーい、こんなの捕まえたー」

「先輩――! 離れてください先輩、危険です!」

「ああ、大丈夫大丈夫」

 

 皆が身構えるが、問題ないから事情を説明する。

 

「離反者……本当でしょうか」

「……まあ、いいんじゃない? それよりもあたし、さっさとこんな砂漠抜けたいんだけど」

「いや、三蔵よ、お主さすがに、それは楽観的すぎるぞ」

「ふぅん……いいんじゃない? 戦力になるだろうしね。僕としては大歓迎さ」

「ダビデ王が大歓迎とは……そういうこと。うん、僕としてもついてきてもらえるのなら一緒に来てもらった方が良いかな。ね、ジェロニモ」

「そうだな。戦力はひとりでもほしいところだ」

 

 あ、これ気が付かれてるわ。三蔵ちゃんを筆頭に気が付かれてるわ、これ。気が付いてないのは藤太とエリちゃんと金時くらいだな。藤太は仕方ないにしても、エリちゃんと金時は気が付いてもいいような気がするが、まあ、普通はわからないし。

 とりあえずこれで謎の騎士(サンタ)さんがついてくることになった。

 

 そういうわけで新しく一向に加わった粛清騎士のかっこうをした青くなったサンタさんを加えて砂漠を歩いてると目的の場所付近についた。

 

「スフィンクスがいるね」

「一頭ならともかくかなりの数です。さすがに突破するのは難しいかと」

「ほかの侵入経路を探すしかないか。ドクターのバックアップがあれば探れるんだけどなぁ」

「――待て、馬の足音だ」

 

 藤太が捉えたそれは粛清騎士たちのそれ。

 

「どうやら追手のようだ。残る円卓は一人。ランスロットだろうねぇ。さて、マスター、どうする?」

「私が道を切り開きます」

「下がっていなさい。貴方の力は、必要な時に使うべきだ。サー・ベディヴィエール。貴方が折れぬ限り振るえる刃なれど、使うべき時に振るえねば意味をなさない。ここは私の力を見せる時でしょう」

「――――」

 

 その言葉、静かながら有無を言わせぬ其れ。反論しようと思えばできたが、ベディヴィエールはできなかった。まるで彼の王の言葉のように聞こえて――。

 そう言って前に出るのは粛清騎士の格好をしたサンタさん。両の手に何かを持っているようであるが、判然としない。

 

「ようやくだ。ようやく対面の機会を得た――。失態を晒したが今ここでそれをぬぐおう。円卓、遊撃騎士ランスロット。王の命によりその身柄を拘束する。降伏か、死か、己が信念にて選ぶが良い」

 

 現れるランスロット。

 

「――マスター。わたし……あの人を、よく知っているような気が……」

「ああ……だろうね……」

「フォウ、フォーウ」

「降伏するつもりはありません。ですが戦いの前に問いただしたい事がある。サー・ランスロット。卿はいかなる理由で、今の王に仕えているのかと」

「――これは幻か、幻術か? ベディヴィエール……ベディヴィエール卿なのか!?」

 

 ランスロットはベディヴィエールを見て驚いた。ここにいるはずがないと。

 

 それはすべての円卓に言えた。彼が円卓から離反したにしては反応が過剰すぎるのだ。もしかしてほかに理由があるのだろうか。

 

「幻であろうとも私の問いかけは変わらない。なぜ、今の王に仕える」

 

 語れるのか。あの光を、人々の村を焼き滅ぼすような光を、アーサー王の所業だと語れるのかとベディヴィエールは問う。

 確かに村一つを犠牲にして蛮族を滅ぼそうとしたときもあった。だが、それですら王にとっては苦渋の決断であったはずなのだ。

 

 だが、あの諸行はなんだ。焼くことに躊躇いもない。それどころか人々を選抜し、それ以外を殺している。それが慈悲だと。

 それが本当にアーサー王のやっていることなのかと、言えるのか。

 

「――総員、戦闘準備。これより叛逆者たちを拘束する」

 

 しかし、ランスロットは答えない。ただ答えず戦闘態勢へと移行する。

 

「だが――断じて、あれが王の所業などと語れるものか。私が剣を預けた者は騎士王だ、獅子王ではない」

 

 だが、それは関係のないことだ。任務には。

 

 そういう彼はまるで自分に言い聞かせているようにも見えた。

 

「そうか。サー・ランスロット」

 

 なんだかとてもうれしそうなサンタさん。

 

「相変わらず真面目すぎる」

「まったくです。わからずやです。なんでかわかりませんが、わかります!」

「ええ、王様が間違ってるって認めているのに戦うとか、これはもう説法ものね!」

「本当本当。王様が間違ってたら正さないとね」

「じゃあ、全裸、そこに直れ正してやる」

「だから全裸じゃないよ!? それに間違ってないし僕!」

「ダ八戒だものね。仕方ないわ」

「お師匠さんまで!?」

 

 ともかく戦闘開始だ。

 

「ランスロットはサンタさんに任せる!」

「わかりました、押さえましょう。行きますよ、ベディヴィエール卿!」

「は、はい!?」

 

 困惑しながらもサンタさんとともにランスロットに向かっていく。

 

「あの、マスター」

「マシュも行きたいならいいよ。なんか行きたそうだし」

「……はい、ですが、どうしてかわからないのです。どうして行きたいのか。ただ、霊基(からだ)が行けと言っているんです。あの騎士を殴ってこいと」

「……まあ、うん。あ、とりあえず行ってこようか。うん」

 

 三人ならばランスロットを押さえられる。あとは粛清騎士をやる。

 

「式は、チャンスがあれば斬って。金時はそのまま突撃。ダビデは援護!」

『応!』

 

 粛清騎士の動きは読みやすい。性能が均一ということもあって本当に読みやすい。ここまで戦ってきた経験が全て蓄積されて今、花開いているかのように。

 

「式、そこで前にナイフ出しておいて」

 

 指示を出せばまるで引き寄せられるように粛清騎士がナイフに突き刺さり絶命する。

 

「だが、駄目か」

 

 囲まれている。それだけではないが、ランスロットが巧すぎる。

 

 サンタさん、ベディヴィエール、マシュを相手にして、いまだに有効な攻撃がないというのがおかしい。確かに防戦一方であるが、三人いてそれもその一人はアーサー王だというのに傷を負わせられないのだ。

 確かにサンタさんは鎧を着て動きずらいだろうし、ベディヴィエールがいるから本気が出せないのもわかる。だが、それにしたってサーヴァント三騎を相手に互角の戦いを演じているのだ。

 

「でたらめ過ぎるな。なんて剣技だ――あれが円卓最強の騎士か」

 

 藤太がそういう。

 

 そう剣技だ。ギフトの恩恵など些細なもの。観察眼が捉えた真実は、ただ一つに尽きた。

 

 剣技。

 

 そう剣技だ。ただ一つの剣技。練り上げられたそれが、あらゆる全てを超越しているのである。宝具の強さなど二の次。

 全ては彼の剣技によって成し遂げられているのである。

 

 巧みに相手の位置取りを誘導し、剣技にてあらゆる攻撃を防ぎ、そして、それを攻撃に転じている。何も相手を殺すのは自分ではないということ。

 自らは攻撃せず、あらゆる攻撃を防ぎ、誘導して三人の連携を崩し、邪魔をさせてその隙に――。

 

「く――」

 

 反撃に転じる。そして、三人が仕留めきれずにいれば、こちらもまた包囲が完了している。

 

「さすがは、サー・ランスロットというべきか」

 

 剣技だけならばアーサー王をはるかに超えている。

 

「く、ここは撤退しましょう。非常に無念ですが!」

「無駄だ。もはや包囲は完成している。これより私も攻撃に移らせてもらう――」

 

 まずい――。

 

 ここにきて心眼が叫ぶ。アレに攻撃に移らせてはいけない。たとえどれほどの数の差があろうとも、超えてくる。単純に力などいらない。

 卓越した剣技の前には、あらゆる攻撃は無意味と化す。たとえ、魔術であろうともアロンダイトならば切り裂ける。隙が見当たらない。

 

「これが最強の騎士か――」

「さあ、大人しく――」

 

 ランスロットが捕縛に動く、その瞬間。

 

「何をしているのですか愚か者ども! ここを太陽王オジマンディアスの領地と知っての狼藉か!」

「な――」

「なんですか――――!?」

 

 天空に巨大なニトクリスが生じる。あれは幻術か何かだろう。

 

「我が名はニトクリス! 太陽王にこのアトラス院を任されたファラオなり! 我を畏れよ! 我を崇めよ! さすれば命だけは助けよう!」

 

 威厳に満ち溢れた姿。ああ、なるほど彼女こそがこの地を守護するファラオなのだろう。以前であったポンコツという印象はなく、あるのはただファラオに感じる畏敬のみ。

 

「――つまり具体的に言うと、立ち去るか降伏なさい! 見てわかる通り、私はとても強いのですから!」

 

 この一言がなければ本当に畏敬のみだったなぁ……。

 

 まあどこかしまらないのは彼女らしいからいいや。まったく無茶しちゃって。派手な登場なのに人の良さがにじみ出てしまっている。

 本当にファラオに向いていない。だからこそオジマンディアスよりも古いファラオだというのに彼に従っているんだろうなと思う。

 

 ただ、それでいいのだろう。彼女はそれで。だって、そのおかげで逃げられる。粛清騎士たちはニトクリスの登場に一様に動揺している。

 

「いまだ!」

「はい、スフィンクスの群れに突貫します!」

「ありがとうニトクリス―!」

「礼を言う暇があるなら逃げなさい! まったく世話のやける……!」

 

 ああ、なんていい人なんだろう。あとで叱られなければいいけど。

 

「ともかく、行くぞ!」

 

 スフィンクスを突破して、オレたちは落とし穴の罠にはまってしまった――。

 




ごく潰し再登場。なお、最強の円卓を演出したかったので、マシュ、ベディヴィエール、粛清騎士のコスプレして更にジャージと帽子なアサシンのコスプレしてアホ毛生やしたサンタさん(二刀流)の三人を相手にしても傷一つ負わせられないレベルの剣技を持っているということにしました。
更にまだ余裕があり攻撃に転じる事もできるというなんかすさまじい剣技持ちになりました。
イイヨネ、最強の円卓なんだから、最強っぽく演出してやってもいいよね。剣技だけならアルトリア以上だし。

というわけで次回アトラス院。
マシュ、己の真名を知る――。

では、次回もよろしくお願いします。

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