Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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神聖円卓領域 キャメロット 27

「――っ」

 

 意識の断絶からの回復はいつも痛みを伴う。その痛みは、何かを失った心の痛みなのかもしれない。記憶に穴はなく、されど何かが失われた感覚だけがある。

 それを手繰ろうとするが、もはや自らの手の中にその残滓すら掴むことはない。何を失ったのか、それはおのずとわかるだろう。

 

「弟子が起きたわ! 起きたわよー!!」

 

 三蔵ちゃんの言葉に、皆が安堵を漏らす。目を開くと皆がいる。どうやらオレは藤太に背負われて下山しているらしい。

 オレを心配する言葉や小言、泣きやらお叱りのお言葉に答えているうちにすっかり夜遅く、帰りは下りだからか村の明かりが見えているようだった。

 

「なん……だ?」

 

 その時、何かがおかしいと感じだ。村を見下ろす藤太の上だからだろうかとも思うがそういう違和感ではない。観察眼が叫ぶ、地形が違う――。

 まるで山の頂点がそこだけ斬り取られたかのような――。

 

 同時に匂いが混じる。凄まじい腐臭。いや、血の匂いが風に乗ってこちらに届く。

 

「っ! 藤太!」

「応! しっかりとつかまっておれよ!」

 

 村が襲われているのかもしれない。

 

「先行いたします!」

 

 呪腕が先へと進む。先導は静謐に任せ彼は先へ。それに続くのはジェロニモ、三蔵ちゃん、マシュも続かせてオレは藤太とともに山を下りる。

 村の入り口で見たのはおびただしい数の死体。死体、死体。粛清騎士の。

 

「これは」

 

 切り口が鮮やかなもの、叩き潰されたもの、矢で射られたもの、ナイフで斬られ、そののちに力技でねじ伏せられたようなものまである。

 これは残したダビデたちがやったものだろう。村人の死体は一つもない。彼らは村を守ったということがわかる。だが、まだ戦闘は終わっていないのだろう。

 

 剣戟と矢鳴りが響いている。村の広場に出ると先に行ったマシュたちが立ち尽くしていた。

 

「マシュ、いったい何が――」

 

 聞こうとしてオレは口を閉じた。もはや言葉など不要だとわかったからだ。

 

 そこで繰り広げられている戦はまさしく、超常のそれだった。人のみでは到底介入など不可能。並みのサーヴァントですらその矢の雨、剣光の前に割って入ることなど不可能。

 もとよりこれは二人の戦。叛逆の騎士モードレッドとアーラシュ・カマンガーの。だれひとりとして介入などできるものではなかった。

 

「今こそ、誓いを果たそうってな! なにせ時間がない。テメエらがトリスタンのヤロウをぶっ殺してくれたおかげでな!」

「そりゃ、襲ってきたからな。それに、こっちの王様も相当腹に据えかねていたらしくてな。だからこんな時間に仇討ちに来たってか。部下も引き連れず」

 

 言葉を交わしながら剣を振るい矢を射る。

 

「ハッ、そんなわけねぇ。言っただろ、時間がねえんだ。テメエに勝ち逃げされるなんざ、御免だからな、テメエらが消える前に勝負をつけに来たんだよ! 足止めのついでにな!」

 

 山を切り取る剣光が一振り一振り事に放たれる。クラレントの一撃はその聖剣の輝きは、一振り事に上昇していく。それはもはや臨界を越えてあふれ出すが如く。

 されどその一撃、ただのひとつもアーラシュには当たることはない。山をも削り取る威力を持った矢がクラレントと激突し、その全てを逸らしていく。

 

 それだけではない。ただ逸らすだけではなく。避難場所などこちらに被害を出さないように徹底的に逸らしてしまう。

 

「だあ、うぜええ!」

 

 それすらも力任せに突破しようとするのがモードレッドだった。彼女の剣技は今や見る影もない。限界が近い。暴走はメルトダウンだ。ゆえに、無理を強いているのは当然のこと。

 霊基には今も致命的な亀裂が走っているのがわかる。だというのにまだ彼女は出力を上げていく。これでは足りないのだと言わんばかりに出力を上げていく。

 

「ねえ、助けないの!」

 

 三蔵ちゃんが言う。

 

「そりゃ無粋ってもんだろ」

 

 藤太がそう答えた。

 

「でも――」

「信じて待て。あのアーラシュ殿だぞ」

「でも、嫌な予感がするのよ。なんかこう、頭の上がぞぞぞって――」

 

 三蔵ちゃんの予感をよそに戦は続く。

 

「そりゃ、戦だからな。相手の嫌がることをとことんしたやつが勝つのは当然だろう」

 

 空を埋め尽くすほどの万の矢がモードレッドへと降り注ぐ。快音の弓なりは鳴りやまない。降り注ぐ矢の密度は今もなお増していく。

 怖ろしいのはそれが宝具ではないという事。女神アールマティの加護を受けた彼は伝説的な弓矢の製作者でもある逸話から弓矢作成スキルを持ち、瞬時に魔力から矢を生成することができる。

 

 ゆえにこれはただのスキル。宝具並みの威力を持った矢が万も降り注ぐのだ。さしもモードレッドも此処までかと思われるたが――。

 

「しゃらくせえ!」

 

 やることはただ一つ突破あるのみ。元よりその身にできることは暴走の二文字のみ。臨界点を突破して悲鳴を上げる自らの霊基すら顧みず、放たれる剣光は天へと立ち上り降り注ぐ矢の雨を切り裂く。

 

「しかし、何をそんなに焦ってんだ。そんな力技じゃ勝てるもんも勝てないだろうに」

「わかっていってんだろテメエ」

「そうか――やっぱりそうなんだな。ひどい親もいたもんだ。自分の息子を囮にして全部ふっとばすつもりかよ。王の裁きってやつで」

 

 その言葉に誰もが驚愕する。あのクレーターを作り上げた一撃が村に降り注ぐのだ。逃げなければと思うがその瞬間にドクターが絶望を告げる。

 

「直上、魔力観測地3000000オーバー!」

 

 最高級宝具火力が1000から3000。もはや比較するのも馬鹿らしいほどの魔力数値と熱量が直上に生じていた。もはや何もかもが遅く全てが消し炭になる。

 

「ジキル博士、村の人たちは!」

「洞窟に避難させてある。だが――」

 

 全員を避難させる時間などありはしない。

 

「いや、無理だ」

「ダビデ?」

「まったくひどいね。こっちがやっとこさ、それこそクー・フーリンの犠牲でやっと1人の円卓を倒したらすぐにモードレッド。そして、次はこれだ。勝てば勝つほど面倒なことになっていくのはどうしてなんだろうねぇ」

「僕たちだけなら逃げられる」

「そんなことできるはずがないだろ」

「いうと思ったぜ」

 

 その時、頭に衝撃を受けてオレの意識は闇に沈んだ。

 

「式さん!?」

「気絶させただけだ。どうせ騒がれるだろうからな。ほれ、あとは金時に連れてってもらえ」

「ですが!?」

 

 あれを迎撃するには星を砕くほどの一撃が必要になる。そんな一撃を放てるサーヴァントなど今ここにはいない。サンタオルタがいたのならば話はまた違っただろうが、今彼女はここにはいない。

 

「ならば、私が!」

 

 ベディヴィエールがその銀腕を使おうとする。なるほど確かに、神霊を模した右腕ならばあの一撃すらも切り裂くことができるだろう。

 だが――。

 

「やめとけやめとけ」

 

 静止するのは今まさに戦っている最中のアーラシュだった。

 

「あと一回でお仕舞だ。なんで、その腕を使う相手は、最後の一人と決めておけ」

「ですが!」

「なに、安心しろ。俺がなんとかしてやるさ。全滅なんてのはそこで気絶させられてるマスターにゃ似合わん。洞窟に下がっておいてくれ。俺のただ一度の本気ってやつを見せてやるよ」

 

 その言葉の意味を理解できたのは何人いただろうか。悟ったのは、総じて武人と王と、死を視る女と暗殺者に騎士だった。

 

「下がるよ!」

 

 一斉に動き出した。ここでは邪魔をすると。嫌だという三蔵を藤太が抱え、皆が走った。己の無力を噛みしめながら。

 

「アーラシュ殿!」

「悪いなベディヴィエール卿。アンタにさんざんいろいろと言ってきたが、俺も同じ部類だったってわけだ」

 

 強さに貪欲ではない英霊の最後なんざこういうものだ。ただ誰かのために、そう決して自分のためではなく誰かのために彼らは散るのだ。

 

「なあ、ベディヴィエール卿。アンタはとっくの昔に休むべきだったんだ。こんなところに来る前に、そんな(モン)を持ち出す前に。残っていたはずの最後の幸福すら切り捨ててな」

「おいこら、勝手に話してんじゃねえぞ!」

「オマエもだよオマエも。いい加減駄々こねるんじゃない」

 

 すでにアーラシュの目は天上に向いている。モードレッドを見ていない。だが、山を砕く矢の一撃を正確に叩き込んでいた。

 吹き飛ばされて、家屋をいくつも突き破り村の端へと消えるモードレッド。

 

「う、ぐ――消える、ものか――オレを終わらせるのは、アーサー王、だけ――」

 

 その言葉に呼応するように聖剣が輝きを増していく。もはや限界など知らぬ、消滅しようが関係ないとばかりに放たれる叛逆の一撃。

 だが、しかし。

 

「そこまでだモードレッド卿。もういい休め――」

 

 誰かの声が、響いて――。

 

「――な、ち――」

 

 光がモードレッドを呑み込んだ。それは黄金のように輝く光であった――。

 

 そして、一人になったアーラシュは天を見上げていた。静かに、気負いなく、まっすぐに天を見て、降り注ぐ星の輝きを目にしていた。

 それはいつか見た、朝焼けのように輝いて、何よりも力強く、まさしく星のようにあらゆる全てを消滅させるようであり、全てを照らす光でもあった。

 

「ま、やらせるわけにはいかないんでね」

 

 ただ一本の矢をつがえる。極限の一射。そう絶技を放つべく、己の中にある全てをただ一点に出し切っていく。

 

「―――陽のいと聖なる主よ。あらゆる叡智、尊厳、力をあたえたもう輝きの主よ」

 

 それは宣誓。

 これより自らは人のみを外れた技を為す。ただし、絶対に一度きり。例外はない。

 使えば死ぬ。

 

「我が心を、我が考えを、我が成しうることをご照覧あれ」

 

 それは平和の為、それは誰かの為。

 決して自らの為ではなく、我がなすことはただ人のために。

 

「さあ、月と星を創りしものよ。我が行い、我が最期、我が成しうる聖なる献身(スプンタ・アールマティ)を見よ」

 

 請い願うのではない。ただ己の所業を見よと告げる。

 

 この渾身の一射を放ちし後に彼の強靭なる五体は即座に砕け散る。

 

 ゆえにただ一度の本気。だが、それでいいのだ。人の身を外れた大いなる御業を為すのだから。

 その身が代償ならば安いものだろう。これで希望を次につなげることができるのだ。それは何よりも素晴らしいことではないかと思うのだ。

 

 悔いはない。いつの時代でも、どこでも、己のやるべきことは何一つ変わらないのだ。

 

「――流星一条(ステラ)!」

 

 言葉に乗せて引き絞り、ただ放つ。厳かに。ただ真名を告げる。

 かつて大地を割った流星の如き一撃の名を、今、告げる。

 

 それは静かな一射だった。弓なりすらも遠く、ただ遠く。

 

 あらゆる全てを超越した一撃が放たれた。

 音もなく飛翔する。そして、その一撃は天上より降り注ぐ一撃を崩し、空を覆う雲の天蓋すらも引き裂いて星々のベールの輝きを露わにする。

 

 星々よ、神々よ見よ。これが我が献身と言わんばかりに。

 

 星を落とす一撃は数多く有れど、その一撃は決して他に類を見ないだろう。

 

 そして、アーラシュ・カマンガーは笑いながらこの世を去った。

 それは安堵か、それとも別の何かか。彼の千里眼は最後に何を見たのだろうか。

 それはだれもわからない。彼以外にはわかるものなどいやしないだろう。だが、晴れやかな笑顔で去っていった彼に悔いなどないだろう。

 

「見事ですアーラシュ・カマンガー」

 

 声が響く。青き騎士王の声が。

 

「貴方の献身、マスターに代わり私が見届けた」

 

 天上の熱量はもはや影も形もない。

 ただ消し飛ばしたのだ。それこそまさに星を砕く一撃に他ならない。

 

 その献身は、二国ではなく、世界を救ったのだ――。




トリスタンが死んだのでモードレッドを呼び戻したと同時にアルトニウム補給が終了したサンタさんが登場。
なお、アルトニウム補給により青くなってますが、いろいろと問題があるのですぐにジャージと帽子を入手してきたマーリンによりかぶせられてアサシンになる模様。


次回は、ついに奴が登場だ。

あと感想で言われたので考えたぐだ男の戦術六拍ここにも載せておきます。
意思想像(相手を想い)、工程想起(記録を参照し)、行動視認(現在の動きを見て)、経験補完(足りないもの想像し)、情報更新(相手の全てを手に入れて)、完全予測(未来を掴み取る)

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