Fate/Last Master   作:三代目盲打ちテイク

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神聖円卓領域 キャメロット 22

 振るわれる剣、槍。粛清騎士がその身が出せる最大速度で突っ込んでくる。対してこちらが擁する手札は多くない。何より今回は潜入ということで、直接的に前に立てるのがマシュしかいない。

 だが、それでいい。それでも、やるしかないのだ。なにも問題はない。マシュと二人なら。どんな苦難であろうとも乗り切って見せる。そう誓った。

 

 ゆえに、冴えわたる彼女の武技にマスターたる自身の心眼。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理が、ここに最大展開される。

 同時に、直感が指し示す勝利への道筋をたどる。最適を感じ取り、それを戦闘論理が指示として駆動させる。

 

 それらすべてを支える観察眼が粛清騎士を見抜いていく。この粛清騎士、それぞれ個別の性格と人格があるが、その技能は画一化されている。

 全てが同じ。剣なら同じ剣術。槍なら同じ槍術。そこに混じる術理に個人差というものはなく、まるで大量生産品の如し。

 だが、だからこそ読める。ここまで繰り広げてきた粛清騎士との戦いを思い出し、相手の攻撃を先読みする。

 

 ――マシュ!

 

 マシュにはアイコンタクトで通じる指示。彼女が攻撃を引き付ける。数多の刃が、槍が彼女を穿とうとするが、どこに放たれるかをオレが指示し、彼女は的確にそれをさばいていく。

 ただ一人、殺到する粛清騎士を押しとどめる彼女の姿は、まさに城だ。その考えに至ったとき、観察眼に合わせて直感が感じ取る。

 

 それは、まるで、あの白亜の城の如き守り。

 

「――っ! お師さん、呪腕、式、藤太!!」

 

 呪腕と式が穿つ。藤太にマシュに至らんとする剣槍弓を叩き落させる。敵の攻撃がどこに来るか、何を狙っているのか。全体を俯瞰し、最善を選択し続ける。脳が内側から圧迫されるような痛みを感じる。

 無茶から数日もたっていないのだ。未だ、本調子には程遠い。だが、痛みのおかげか、観察眼は冴えわたり、心眼はあらゆる選択肢を網羅し、直感は、可能性の糸を紡ぎ続ける。

 

 ここは死地ではない。断じて、そんなものではない。こんなところで、こんな場所で、死ぬことなんてできない。憔悴した静謐のハサンの肩を抱きながら、オレは視る。

 視る。視る。視る――。

 

「粛清騎士、撃破しました! ですが――」

 

 現れる。現れ続ける増援。

 

「敵性反応、さらに増加……! 次々に地下に粛清騎士たちがやってきている!」

 

 戦闘を続けても数で負ける。逃げ道を探すのが常道だが、逃げ道などありはしない。

 

「これは――詰められたか、アグラヴェイン……!」

「当然だ」

 

 何を言っているのかとアグラヴェインは、言葉を紡ぐ。

 

「私はほかの円卓とは違う。華やかさなど求めない。ただ目的を果たす。諸君らはこれで終わりだ。ありきたりな結末なのは、私も残念だよ」

「アグラヴェイン、いえ。アッくん。なんとなくだけど、今はそう呼ばせてもらうわ」

 

 なぜ、なんとなくでそう呼べるんだろう。不思議だ。粛清騎士の間でも三蔵ちゃんの傲岸不遜な物言いにざわめきが生じる。

 一瞬、すべての時が止まったかのように停滞する。

 

「よい。おまえたちはしばし下がれ」

 

 アグラヴェインは怒ることなく、粛清騎士を下がらせた。好機とみるわけにはいかない。一歩でも動いたら再び粛清騎士を差し向けるだろう。

 何より彼もまた、円卓の騎士なのだ。

 

「玄奘三蔵。おまえと対話する気はない。これまでも、これからもだ。だが、私はおまえの見識の深さを評価している。小娘としての視点ではあるが、さぞ多くの国を見て来たのだろう。その一点において、おまえの話には耳を傾ける価値がある」

「何が小娘よ。あたしとあんまり歳違わないでしょ、アッくん」

 

 精神年齢だと小娘といってもいいともいます!

 

「…………一度だけ機会を与えよう。こちらに戻る機会をな。おまえは聖都の暮らしを見た。山の民の暮らしも見た。そして、エジプト領、オジマンディアスの国も見てきたのだろう。そのうえで、今一度問おう。おまえの目から見て、獅子王は間違っているかね?」

「…………」

 

 当たり前だという言葉はない。ただ三蔵ちゃんは、押し黙る。誰もが怪訝そうに彼女を見る。

 だが、わかってしまった。獅子王はきっと間違っていないのだ。王としてやっていることはおそらく間違っていないのだ。

 三蔵ちゃんの心の機微は嫌というほどわかりやすい。彼女と旅をした数か月は短いようでとても長い。その間、彼女とすごした一番弟子に師匠の気持ちがわからないはずがなかった。

 

 彼女は獅子王が間違っているとは思えないのだ。

 

「そうだ」

 

 それをアグラヴェインは肯定する。

 

「おまえならわかるはずだ。聖都こそが真実。聖都こそが理想だと。どの勢力であれ、その思想は同じものだ。我々は生存への道を模索しているに過ぎない」

 

 ――自らの国の民を擁する。

 

「あのオジマンディアスでさえそこは変わらない。だが、彼らの方針では何も変えられない。世界と、時代とともに滅びるだけだ。聖都の暮らしを思い出せ。誰もが満ちたり、平等であり、磨き合い、尊び合う」

 

 それは多分、理想的なのだろう。でも――。

 

「かつて、騎士王がブリテンに夢見た理想都市が、聖都では実現している。それにおまえは背を向けた。それ自体が私への侮辱であるが――騎士王……いや、獅子王陛下はおまえの思慮深さを良しとした。よって、これが最後の呼びかけだ。聖都に戻り、円卓に座れ三蔵。ガレスの空席、おまえであれば埋められよう」

「……そうね。実のところ、あたし、ずっと迷ってた」

 

 思わず愕然とした。三蔵ちゃんなら、きっと味方してくれると思ったから。

 

「獅子王と太陽王。そして、山の民たち。どっちに味方したものかなって。はじめっからノリ気じゃなかったんだ。御仏の声も聞こえなかったし。御仏が沈黙しているということは、あたしが口を出すのは余計なお世話ということ。御仏は放っておけと、ずっとあたしに言っていた。でも――」

 

 チラっとこちらを見る三蔵ちゃん。

 

「うん。今はもう放っておけない。どんなに獅子王の聖都が素晴らしくても、貴方たち円卓のやり方はおかしいってわかるから! それに弟子のあんな顔見て、放っておくとかできないし」

 

 三蔵ちゃんは、こちらに味方すると言ってくれた。

 

「はい。聖都が理想都市であったとしても! 人々を選抜し、選ばれなかった者を手にかける非道は許されません!」

「非道ではない。結論だ。聖都に選ばれなかった者はこの荒野で死に絶える。それだけであればまだいい。だが、選ばれなかった者はいずれ聖都を恨み、妬むだろう。聖都を盤石にするため、その禍根は断つ。これは獅子王の慈悲でもある。我々ははじめから強制はしていない。聖都の聖抜を受けるのは難民たちの自由意思だ。そして、戦いを行うのは、聖都を敵から守るため。山の民が聖都を諦めるのであれば我々も戦いはしない」

「そう。じゃあ、なんで世界の果てがあるの?」

「――なに?」

「あたしは砂漠の向こう側に行ってきたわ。そこでアレを見た。だから戻ってきた。アグラヴェイン。知っても泣きださないから答えて。貴方、何をしようとしているの? 獅子王は本当に正気なの? 彼女、もうとっくに人間の心もなくなって、英霊でもなくなってるんじゃないの!?」

 

 三蔵ちゃんが砂漠の向こう側で何を見て来たのか。それはわからない。けれど、獅子王のことはわかる。ダ・ヴィンチちゃんに止められて全てを視たわけではないが、彼女の言うことはおそらく的を射ているだろう。

 あれはきっと、もはや人間の心など持ち合わせてはいないだろう。英霊というくくりすらも跳び越えているだろう。アレはおそらく、そういうものなのだ。

 

 もう一度獅子王に相対すれば、わかるだろう。そもそも、その時点ではきっともうわかっているはずなのだ。獅子王という存在の正体を。

 おそらくは、アレは――。

 

「……自らの足で、あの砂漠を越えたのか。確かに私は貴女を侮っていたようだ」

 

 交渉は静かに決裂した。

 粛清は再開される。

 

「ちょっと、質問に答えなさいよ――! つーか、そんなコトじゃ本気出すわよ、あたし! 御仏パンチでそんなヘナチョコ騎士、おせんべいみたいにペシャンコなんだから!」

 

 じゃあ、やってくださいよー最初からぁ!

 

 なんて、言ったらてへっとか言いそうなので、とりあえず言わない方向で。怒ったらたぶんいじけるし、そんな力があるなら頑張ってもらうとしよう。

 

「それはどうかな?」

「へ?」

「私の粛清騎士は少し手を加えてあってな。先ほどの者たちとは違う」

 

 それはかつて宮廷において逆上し、多くの同胞を切り殺し、逃走した愚か者がいた。アグラヴェインの粛清騎士は、その男を参考にして強化されているという。

 浅ましき狂いし猟犬の剣。だが、叛逆者には相応。狂った剣の猛攻が来る。

 

「くそ――」

 

 それは初めて見るもの。もしも天才であったのならば初見のものでも過去の経験を参照し、補強しながら対応できるだろうが、オレにそのような芸当はできない。

 まずは視ることを必要とする。そこから派生し、全ての対応を考えるのだ。才のない身が恨めしいが、それでもやるしかないのだから。

 

「マシュ、もう少し耐えてくれ!」

「は、い――!!」

 

 それでも長くは持ちこたえられないだろう。藤太の弓の援護のおかげで今は何とかなるが、このまま消耗戦を続けていてはどうにもならない。

 ならば本丸だ。指揮官を叩く。それが有用。なぜならばアグラヴェインはギフトを持っていないから。

 

「当然だろう。ギフトとは獅子王との契約。獅子王のサーヴァントになるようなもの。そんなものを受けてしまえば。いざという時に困るだろう。王に対して、何もできなくなるだろう……?」

 

 ならばそれが光明になると思ったが、それすらもアグラヴェインが叩き潰す。

 

「阿呆め。私を殺したところで、この粛清騎士が止まるはずもないだろう。おまえたちはどうあってもここで全滅する。私が出る、とはそういうことだ。なに、死の運命が早まっただけだ。じき聖槍は最終段階に入る。そうなれば、この時代は例外なく――……、これは!」

 

 何に気が付いたのかアグラヴェインが撤退する。それと同時に倒れる粛清騎士。オレは視た。充満する何かを感じた。

 

「これは、毒!」

 

 いつの間にか自分の手の中に静謐のハサンがいないことにようやく気が付いた。その間に、彼女は舞い踊り、この空間を毒で満たしたのだ。

 

「私は静謐のハサン・サッバーハ・夜に咲く毒の華。我が舞踏は風に毒を乗せ、敵を暗殺する――。本来であれば風上で使うものですが、密閉された地下施設であればこの通り……」

 

 誰もが毒気にやられて死の舞踏を踊る。

 

「ふふ。皆さんが粛清騎士を止めてくれていたからこそ出来た戦法です。感謝、いたします。……そして、おまたせしました。私、お役に立てたでしょうか」

「もちろん」

「…………と、とにかく静謐さんのおかげでピンチは切り抜けられましたが……先輩、近いです。静謐さん、背中にピッタリくっついています」

「ああ、いいよ。大丈夫」

 

 ――むしろ、落ち着く?

 

 なんというか、落ち着くのだ。その理由は、多分清姫がいないから。いつもオレの背後や隣にいてその熱を伝えてくれる彼女がいない。

 そんなところに静謐ちゃんが入った。落ち着かないわけがなかった。彼女の熱量は、清姫とはまた違う熱量ではあったけれど、そこに在ることが大事だった。

 

 違うけれど、同じぬくもりに、オレはただ、落ち着いて。

 けれど、同時に心が痛む。ああ、やっぱり清姫はオレの中でも大きな存在だったんだなと実感できて。いいや、清姫だけじゃない。

 みんなだ。みんな、オレの中ではもうかけがえのない存在で。だから、想う。会いたいと思うのだ。

 

「おお、これは失礼。失礼マシュ殿。私ともあろうものが、髑髏の如き節穴でした。これ静謐の、離れぬか。触れても死なない人間が珍しい、というのはわかるが、その方は我らの客人にして恩人だ。あまり迷惑をかけぬように」

「いいですよ。呪腕さん。寧ろ、ちょっとだけ落ち着くんで」

「……はい。しっかりとお世話させていただきますね」

 

 ぴったりと背中に感じる誰かの感触に、オレはただ、安らぎを感じていた。

 

 その間、三蔵ちゃんは入口の方を見ていた。アグラヴェインが逃げたのを確認しているのだろう。毒を察してわき目もふらず地上に走った。

 部下は全員気絶。こうなるとおそらくはもう襲ってこないだろう。あの男はそういう男だ。勝ち目のない戦に挑むような男ではない。

 

「静謐ちゃん。そろそろ動いて大丈夫かな?」

「……はい。踊りをやめたので、毒も薄まってきました。息を吸うと少し痺れますが、もう大丈夫です」

「なら急いで地上に出よう」

 

 百貌のハサンも残してきている。オレたちは急いで地上へと向かった。




ぐだ男君、粛清騎士戦いまくったのでなんとかなりました。相変わらず強いですけどね。
しかし、いかに強かろうとも相手の動きを先読みし、打点をズラせば防御は楽になりますし、トータの矢が攻撃を叩き落すのでイヤー実にイイパーティーとなっております。
まあ、次に来る絶望の為に上げただけなんですが。

そして、モチベーション維持のために、感想やら評価やらまっております!

さて、ついに来ました今年のハロウィン。あのドスケベ公、そろそろ礼装ください。メイドもまだ集めてないんですよ。二枚目凸したいんです。
まあ、最悪諦めるからいいんですけどね。せめてドスケベだけは限凸させたいんだよなぁ。まあ、二枚目持つ意義はうすいんですが。

クレオパトラか。声優さん次第かなぁ。もしこれが、悠木さんとか植田さんだった場合。引かざるを得ない。あとドスケベマシュは引かねばならぬ。
その理由、わかるであろう。皆の衆。

というわけで、全力なのだな。

次回風呂回とかやれたらいいなぁ。
あと、活動報告でアンケートとかやってます。

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